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【愛の◯◯】小さな長方形のカードのクリスマスプレゼント

 

葉山先輩がスポーツ新聞を読み耽っている。競馬面を読み耽っているとしか思えない。

『こんなに綺麗な手つきでスポーツ新聞を持つ人もなかなかいないわよね……』と感嘆していたら、

「戸部くん」

と、葉山先輩が、彼女の向かいのソファにだらしなく座っているアツマくんに呼びかけて、

「わたしには特技があるの」

「なんじゃいな。どうせロクでもない特技なんだろ」

浅はかにも「ロクでもない」特技だと決めつけるアツマくんを意に介さず、

「過去40年の有馬記念の優勝馬を暗唱できるのよ」

と自らの特技を明かす。

「わぁ〜、センパイは流石ですねえ!!」

わたしのソファの左斜め前に葉山先輩、右斜め前に冴えないアツマくん。

わたしは左斜め前の葉山先輩に向かって前のめりになり、彼女の特技を褒めたてる。

しかし、

「そんなことインプットしていていったい何の得があるのか」

とアツマくんが空気を破壊しようとしてくる……。

最高に面倒くさそうな態度。許されるとでも思ってるの!?

「損得とかじゃないのよっ」

反発するセンパイも不満げだ。

「1990年の有馬記念の勝ち馬を知らない競馬ファンなんて、本当の競馬ファンとは言えないし」とセンパイ。

「おれは競馬ファンじゃないから知らなくても大丈夫だな」とアツマくん。

「ダメよ。今ここで知って」

愚かなアツマくんに厳しい葉山先輩はやはり流石だと思う。

センパイはアツマくんにまっすぐ視線を差し込みながら、

オグリキャップ。90年有馬記念の勝ち馬は、オグリキャップ

「ふーん」

如何にも興味無さげにアツマくんはテーブルに置かれた煎餅(せんべい)に手を伸ばそうとした。

わたしは瞬時に傍らにあった昨日の日付の某一般紙を彼に投げつけた。

 

× × ×

 

「これだから愛は……。物を投げつける悪い癖(クセ)は絶対に直した方がいいと思うぞ」

「イヤよ」

「イヤって。おまえなー」

コトバの代わりにプイッと眼を逸らす。葉山先輩の方に眼を凝らす。センパイはいったんスポーツ紙を置く。

「あなた達は今日も仲良しさんね」

え……。

まさかの「仲良し」認定。

わたしと彼のやり取りが夫婦(めおと)漫才的に思われてる……?

「どーしてあなたが戸惑うのよ、羽田さん」

呆れ気味なセンパイの苦笑。

「あなた達のやり取りがホントに微笑ましいから」

そう言ったかと思うとセンパイはハンドバッグの中を手探りして、

「ひと足早いクリスマスプレゼントをあげるわ」

「クリスマスプレゼントって。葉山、おまえはまさか」

なぜかアツマくんが過敏に反応。眼を向けると彼は完全に前のめり状態だった。

「戸部くんらしからぬ直感の冴え具合ね」

「今日は有馬記念当日。ゆえに、事前に購入した馬券をおれ達にプレゼント……」

センパイは100パーセントの笑顔で、

「嬉しいわ。珍しく直感が冴え渡っていて」

それから彼の手元に長方形の小さなカードのようなモノを差し出すセンパイ。JRA勝馬投票券である。

「……これ、万が一的中したらどーすんの?」

「払い戻しに行くのよ。競馬場かWINSに。邸(ここ)は東京競馬場が近いけど……あなたと羽田さんのマンションからだと、最寄りのWINSは何処(どこ)だったかしらね??」

「たぶんWINS後楽園だったと思います。読売の本拠地に隣接してるからあんまり行きたくないけど」とわたし。

「なんでおまえがそんなこと知っとるんや」とアツマくん。どうしてエセ関西弁を使い始めるの?

「後楽園は気が進まないのね。だったら、汐留はどうかしら?」とセンパイ。

「汐留にキレイなWINSがあるのも知ってます。でも、汐留にしても、日テレの本拠地だし……」

「アホか。日テレまで敵視する必要ねーだろ。憎むのは読売巨人軍だけにしておけよ」

「それもそうね」

素直さを発揮してわたしは、

「なら、来週は汐留デートね。センパイからのプレゼント馬券は絶対当たるんだし」

「『絶対』とか、おまえ……。どこまで葉山を過信しとるねんな」

だからなんなのよ、そのヘンテコ関西弁は。

自覚のないままに関西弁の真似事してるのね。

暖房のよく効いてるリビングなのに、両方の二の腕あたりが冷え冷えとしてきたわ。

お願いだからわたしを冷やさないで。不甲斐ない彼氏であり続けないで。

……彼氏への不満を胸中(きょうちゅう)に炸裂させているわたしであったのだが、左斜め前の葉山先輩がすこぶる楽しそうに笑い声を出したのを見て、困惑し始めてしまう。

「センパイ……。どうしてそんなに愉快げに」

「だってだって、今の恋人同士のやり取り、誰がどう見たって面白過ぎるんだもの」

「こ、根拠」

「あるわけないでしょ、そんなの☆」

「こ、こ、困りますよセンパイっ!!」

「あなたの右拳の握り締め方に困惑の色がよく表れてるわね」

「こ、根拠……」

握り締めた右拳が解(ほど)けなくなるぐらい困ってしまうわたし。

アツマくんが見かねたように、

「堂々巡りみたいになりかけてんぞ、おまえら。こんな茶番を繰り返してたら、有馬記念がゴールしちまうぜ」

「わたし、茶番を演じてるつもりなんか……」

弱々しい声しか出せないわたしを一瞥(いちべつ)したかと思うと、アツマくんはいきなり立ち上がった。

それからわたしを見下ろしてきた。

わたしの弱い胸がキュッと締め付けられていってしまう。

……だけど、すぐに、頭頂部にアツマくんの右手の感触。

意外なほど優しくわたしの頭をナデナデしてきてくれる。

わたしに優しくしてくれながら、

「プレゼント、貰ったんなら、お返しだ」

と言い、

「葉山。おまえへの『お返し』は、おまえの大好物のクリームソーダで良かったよな?」

 

 

 

 




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