まず眼についたのは写真だった。勉強机の上に立ててあった。幼少期の徳山すなみさんと彼女のお祖父さんのツーショットだ。徳山さんは恐らく小学校低学年だ。2人はとても仲睦まじく見える。
「お祖父ちゃんにも挨拶したんでしょ?」
ベッドの上で両脚を前方へと伸ばしている徳山さんが言った。自分の部屋であるが故に気ままにくつろいでいる。
「したよ」
おれは答え、
「『しっかりやるんだぞ』って言われてしまったよ。『こっちとしては長く楽しみたいからな』とも」
「アハハ。お祖父ちゃんらしいわ」
彼女の笑い顔に愛嬌のようなものがあった。今の彼女の笑い方が可愛いと素直に思った。
「濱野(はまの)くん、座りなさいよ。勉強机の前に椅子があるじゃないの」
促されたから従った。勉強机の位置から徳山さんを見据える。やや遠めの距離感。
「もしかしてもっとわたしに近付いてほしいの?」
徳山さんは訊いてくる。
「せっかく初めて交際相手の家に来たんだから、もっと近い距離で居たいって思ってるみたいね」
「いいや……しばらくは、この距離感でいいよ」
しかし、おれのコトバを耳に入れる気が無いかのように、おれの座っている位置に向かって彼女は接近してきた。
ベッドの端までやって来た彼女はなぜか体育座りのような姿勢になった。
そして、おれの顔目がけて斜めの視線を送ってきて、
「お祖父ちゃんのコト、もっと知りたくない?」
× × ×
祖父が孫娘を溺愛し、孫娘も祖父を溺愛するという関係。
気付けばその関係性について孫娘の徳山さんは30分近く語り続けていた。
彼女の部屋に入ったのに、彼女の部屋の細部をまだ満足に見られていない。
彼女から少し視線を逸らすと、部屋の奥の方の隅に漫画単行本らしきものが積まれているのに気が付いた。
「どこ向いてるのよ。わたしの話はまだ終わってないのよ」
怒られてしまったのだが、
「あっちに漫画らしきものが積まれてるのが、気になって」
「なにそれ!? わたしの話を聴かずに、わたしの所有物のことを考えてたってゆーの」
さらに眼を凝らしたおれは、
「……うん。やっぱり、積まれてるのは漫画本だ。少年漫画の単行本もあれば、少女漫画の単行本もある」
非常にトゲトゲしい声で彼女は、
「まさかあなた、わたしが漫画を読むなんて凄く意外だとか思ってる?」
「『凄く』は付かないよ」
彼女は眼つきをトゲトゲしくして、
「読むのが意外だと思ったのは否定しないのね。呆れたわ」
「呆れさせて申し訳ない」
「わたしの好きな集英社の漫画作品ベスト3を発表してもいいんだけど……」
「なぜ、いきなり? 集英社縛りの理由は? きみの漫画の好みが気にならないと言ったら嘘になるけど」
「第3位」
半ば強引に「発表」し始めた彼女は、
「『ルリドラゴン』」
へ、へええ。
「……攻めるんだね。まだ評価が定まってない漫画を持ってきたか。最近は『ふつうの軽音部』に負けてるような印象もあるけど」
「余計な口を挟まないで濱野くん」
「『カグラバチ』って言うのなら、予測の範囲内だったんだが。……そうか、『ルリドラゴン』か、『ルリドラゴン』なのか」
「……ティッシュペーパーの箱を投げつけられたいの!?」