侑(ゆう)が珍しくスカートを穿(は)いてきている。
「可愛いスカートね、侑」
わたしがそう言った途端、侑のほっぺたに赤みが兆す。一歩後(あと)ずさってしまう侑。
下向き目線。恥じらいながら自分のスカートに目線を伸ばしている感じ。
「なによー。もっと自分のスカートに自信持っても良いじゃないの」
わたしは言うけど、
「こ……こんな所でウダウダしてないで、早く学生会館に行きましょうよ、愛」
と、狼狽(うろた)えながら、侑は。
文学部キャンパス。生協のすぐ横。恥じらっている自分を通行人にあまり見られたくないのかもしれない。キモチは分かる。
でも、根(ね)がイジワルのわたしは、
「こういうスカートが制服の学校に通いたかったわ」
と、侑のチェックのスカートに熱い眼差しを寄せ、コメント。
侑の顔がさらに赤くなり、
「こっこれは制服なんかじゃないわよっ! 私服に決まってるでしょっ!!」
「ホントぉ??」
カンペキに恥じらいモードの侑は、
「あなた……わたしに、女子高校生のコスプレでもさせたいわけ……?」
面白くなってきたわたしは、
「良いアイディアね」
「ほ、ホンキになってきてるんじゃないの」
「否定できない」
「茶番みたいなのは……程々に」
面白さは加速するけど、あんまり追い詰めてもイケないので、
「行きますか。学生会館まで」
と距離を詰めつつ侑に言う。
学生会館目がけて、2人並んで歩く。
侑のスカートの話題を引き延ばし、
「侑は、10回に1回ぐらいの頻度で、スカートを穿いて登校してくるのね」
「……絶対に適当でしょ。10回に1回って」
「適当だったのは否めない」
「愛、あなたは……わたしの実感だと、15回に12回か13回は、スカートを穿いて大学に来てる」
やり返したいキモチの込められた声で言ってくる侑。
でも、明らかに、わたしの方が優勢で、
「どこから出てきたのよ、15っていう数字は」
と、学生会館入り口の間近で敢えて立ち止まって訊く。
「もしかして、大学の講義の回数が15回だから?」
言い足すわたし。
「……そんな感じ」
眼を逸らし気味に言う侑。
わたしは、
「たしかに、スカート穿くコトは多いわ。だけど、今日のあなたみたいに可愛いスカートは、所持していなくって」
「なによ、それ」
「……ウムウム。やっぱし、制服みたいなスカート。上半身のコーディネートを少しいじくれば、高校時代に逆戻り」
「ふ、不埒よ」
「そう? わたし、褒めに褒めてるつもりなんだけど」
「あなたこそ……高校時代の制服を着たら、まだ『通用』すると思うんだけど!?」
「あー」
トボケる余裕は当然あったから、
「そーね。わたし、かわいいし☆」
と、見方によっては本当にどうしようもない発言を、してしまう。
× × ×
「今日の侑、半分だけJKだったのよ」
夕ごはんをあらかた食べ終えて、向かいのアツマくんに言う。
「なんじゃそりゃ。半分JK? 服装が、そんな感じに見えたんか?」
「正解。スカートが限りなくJK的でね。そういう意味で、カラダ半分がJKみたいだったってコト」
少し苦い顔になったアツマくんは、
「不埒な目線は……程々にしとけよ」
「あなたも『不埒』って言うんだ。今日の侑も、『不埒』って言ってた」
彼の顔をさらに苦くさせるのを恐れず、
「なんだか、通じ合ってるみたいね。あなたと侑の2人」
右腕で頬杖をついた彼は、
「『師弟関係だから、そんなに通じ合ってるのかしら?』とか言いたそうだな、おまえ」
「あら。どうしてわたしが言いたいコトを先取りできるの?」
「先取りできるに決まってんだろ」
「根拠を」
「めんどくさいなぁ!」
彼が、こういうリアクションを見せるコトは、予測済み。
「怒っちゃった? 怒っちゃったのなら、謝るわ」
優しくしっとりと、わたしは彼に声をかける。
「……謝んなくたって良い」
「ありがとう、そう言ってくれて。嬉しい」
やや目線をわたしから逸らした。照れ気味だ。漫画やアニメだったら、彼のほっぺたには照れを表す記号のようなモノが付いていそう。
照れる自分を受け容れ切れなかったのか、素早く立ち上がる。そして、自分の夕ごはんのお皿を重ねていく。
「皿、洗う。おまえのも、洗ってやる」
「優しいのね。ぜひ、お願いしたいわ」
わたしの「優しいのね」が効き過ぎたのか、無言でどんどんお皿を流しに運搬していく。
わたしの背後で、優しい彼は、ジャブジャブと食器を洗っていく。
「洗いながらで良いから聴いてちょうだい」とわたし。
「何をだ」とアツマくん。
「侑があなたに期待してるコトが、3つあって」
「侑ちゃんが、期待? 3つも?」
「その1。『リュクサンブール』に行って、店員のあなたにもてなしてほしい」
「そういや、侑ちゃん、おれの店、まだ来てくれたコト無かったな」
「その2。スポーツの指導をしてほしい。具体的には、バッティングセンターで、打撃の技法を教えてほしかったりとか。ランニングだったり筋トレだったりでも良い。近日中に、あなたと運動する時間を作りたい」
「……マジで彼女、おれの身体能力に憧れてるんだな」
「それはそうよ。あなたは、『師匠』であるという自覚をもっと持った方が良いわね」
「自覚、か」
「――で、その3。あの子の将来にとってかなり大事なコトなんだけど。伝えたでしょ? あの子、児童文学の新人賞に応募して、最終候補に残ってるのよ。近日中に結果が発表されるんだけど、賞に選ばれるように、あなたに祈ってほしいそうよ」
「祈ってほしいんか……。おれ、念力とかは使えないけども」
「念力なんて使う必要も無いでしょー。ただ祈るだけで良いのよ。『弟子』の成功を祈らない『師匠』がどこに居るっていうの?」
「まあ、確かにな」
「今、この瞬間から、祈るのよ」
「おまえも祈ってやれよな」
「もちろんよ」
ここで、わたしは、椅子から立ち上がる。
流しに向かい立っているアツマくん。その背中は大きい。
大きいから、触れたくなる。
ためらうコト無く右手を伸ばす。大きな背中に右手のひらをくっつけて、ジワジワジワリと愛情を染み込ませる。それから、手を動かし始めて、愛情に満ち溢れた背中ナデナデを敢行する。
何故か、アツマくんは、
「恥じらいが無さ過ぎるのも……どうかと思うぞ」
とコメント。
「恥じらいって、なーに??」
彼のコメントを意に介すコトも無く、ぐぐっ……とカラダを傾けていき、いちばん好きな背中に顔を引っつける寸前になる。