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【愛の◯◯】意味無き行為を繰り返し

 

風邪で学校を休んでいるような気分だった。与えられた振替休日。全校生徒に平等の休日。羽根を伸ばしに遊びに行っている生徒も多いのだろう。でも、わたしは、外に出る気になれない。うずくまるようにベッドに潜り続けて、現在午前の10時。

両親はとっくに出勤済みだ。わたし1人が家に残された。わたしが小さくなっているわたしの部屋は暗い。照明もつけずにベッドに潜り込んでいる。カーテンを少ししか開けていないから、外光(がいこう)があまり入り込まない。外はたぶん、ようやく秋めいてきて麗(うら)らかに晴れているはずだ。カーテンを開けて光を取り込めば、ベッドが温かくなる。でも、カーテンに歩み寄る気力も湧いてこない。

やがて11時になった。掛け布団の中でゴロゴロしながらスマホをダラダラ見ている自分が嫌になり、乏しい気力を振り絞って身を起こす。着替えるべきか? ……やっぱりやめておこうか。1日この部屋に引きこもるのならば、こんな格好でも不都合は無い。ちゃんとした服にわざわざ着替える必要も無い。

女子がちゃんとした服に着替えるのって、時間がかかるもんね……と自分に言い訳し、服を脱ぐのを放棄する。わたしが今どんな服装なのかは『ご想像』にお任せするとして、勉強机の方角に視線を寄せる。山川出版社の世界史の教科書が机上(きじょう)に置いてある。

意味も無く、勉強机に歩み寄り、意味も無く、世界史教科書を開く。中国史を取り扱ったページだった。清王朝のコトが書かれている。康熙帝雍正帝乾隆帝……有名な3人の皇帝の即位順を確かめる。

やる気が無くて世界史教科書を長時間読めそうに無いので、あっさり閉じてしまう。閉じた水色の教科書に向かって、大きな溜め息をつく。大きい上に、情けない溜め息。

ナヨナヨと椅子に座る。

それから、

「なんでわたし、昨日、あんな行動を……。完全にやらかしてた。やらかしちゃってた。明日、教室に入るのがコワくなってきちゃったよ」

と、舞台上で独白する俳優の如く独白する。

キモチを吐露(とろ)する相手もいないのに独白してしまう。

それほどまでに追い込まれている証(あかし)。

 

文化祭2日目だった昨日。

春園(はるぞの)センパイを見つけた。見つけて、キモチが盛り上がった。盛り上がったから、『センパイ、暇なんですか!?』と勇気を出して言った。勇気が伝わったのか、『おれと一緒に行動したかったり?』とセンパイが言った。高校に入学してから憶えが無いほど赤面しつつ、『お互いに暇なのなら……一緒に楽しんだ方が、楽しいし』と理由になっていない理由を言った。センパイの穏やかな微笑が眼に映った。わたしのキモチがどこまで届いているのかが怖かった。

後夜祭の時のコトは、よく憶えていない。さらに勇気を出して春園センパイをフリーダンスの輪の中に誘った記憶が、ボヤけかかっている。わたし、ダンスは上手く踊れないから、勢い余って転ばないかどうかとか、アクシデントが心配で、どう踊っていたのかとか、そういう記憶にも早くも靄(モヤ)がかかっていて。

 

勉強机から立ち上がれないわたしは、右手をジッと見る。

春園センパイと踊った右手だった。センパイの感触は、残っていた。ジワリジワリと、しみ込むように。浸透し過ぎたら、胸が塞がるほど辛(つら)くなるのに。

 

× × ×

 

フリーダンスで春園センパイと踊るまでは、わたしの『キモチ』に気付いている人間は、わたし以外に居なかったはず。

フリーダンスで春園センパイと踊ってからは、『気付いちゃった』人間が、それなりに出てきてしまっているはず。

だって、2人だけで踊っていたんだから、筒抜けになる人間には簡単に筒抜けになっちゃうんだもの。

スポーツ新聞部の本宮(もとみや)なつきセンパイとか、あの光景を眼にした後、絶対に気付き始めている。彼女は優しいから、オブラートに包んでくれて、ただ見守ってくれるだけだろうけど。

同じくスポーツ新聞部の、ノジマくん&タダカワくんの1年コンビ。どうだろう。1年生ボーイには、2年生女子の心情を把握するのは、まだ難しいのかもしれない。だけど、ノジマくんとタダカワくんのどちらかが、その方面において早熟なのならば、気付かれて、覚(さと)られる。

 

……ここまで考えて、自分自身のコトが嫌になってきたし、他人に対して疑り深くなり続けるのに耐えられなくなった。

頭が痛くて、頭を抱えた。

『頭のズキズキって、確か、カフェインで緩和されるんだよね。だけど、わたし、コーヒーとか、かなり苦手な方なんだよね……』

意味の無い自問自答が、また現れてしまって、本格的にラチがあかなくなってくる。

勉強机の棚に入っていた文庫本をガバァッ、と抜き出した。冒頭50ページしか読んでいない推理小説だった。苦し紛れに文字を眼で追っていく。しかし、すぐに集中力の糸が切れ、フォトリーディング同然の流し読み状態に成り下がってしまう。

「だっ、ダメだ、ダメダメ。読書はダメっ」

大げさにヒトリゴトを発し、叩きつけるように文庫本を机上に置く。

机上から眼を逸らし、猫背になり、項垂(うなだ)れるように床を見る。

『……校内スポーツ新聞。』

ココロの声がする。暴力的な勢いで机の引き出しを開ける。校内スポーツ新聞のバックナンバーが入っている。1部を取り出す。両手で新聞を広げる。

自他の区別無く、記事における誤字を探すコトに没頭し始めてしまう。

いわゆる『プチプチ潰し』みたいな気の紛らわせ方。

『誤字探し』でもって気を紛らわせるなんて……わたしは、貝沢温子(かいざわ あつこ)は、考えうる限り最低最悪の女子高校生だ。

 

 

 

 




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