歯応えの無い生徒会長インタビューを終えて歩いていた。会長の伊勢崎(いせさき)くん、もう少しシッカリしてほしい。副会長くんも覇気が足りない。今の生徒会には気合いが足りない。
わたしは中学時代バレーボール部だった。気合いの入れ方ぐらい知っている。元・体育会系として、生徒会に気合いを注入してあげようか……みたいな感情も抱いたりする。結局は気合いを注入する一歩手前で踏みとどまったんだけど。体育会系の価値観の押し付けは良くない。本当に良くない。
モヤモヤしながら人混みの中を歩く。漫画研究部のブースにでも行ってみようかと思う。
不意に、
『あっ! 本宮(もとみや)じゃん。なんでそんな下向いて歩いてんの??』
という声がした。
顔を上げると、眼の前に木内伊織(きうち いおり)くんが居た。何故か絡みの多い同級生男子、なワケだが、
「木内くんこそ、どーして1人で歩いてるの? 文化祭なんだから、横に女の子を連れて歩いてると思ってた」
「あまいなー、もとみやー」
少しムッとするわたしに、
「1年中カノジョが居るワケじゃないんだぜ!?」
と言ってくる木内くん。
ムカつきが呆れるキモチにすぐ変わる。公衆の面前でよくもまぁ、そういうコトを……。
「ところで、本宮は取材か?」
「どう見ても。ほらっ、わたし腕章(わんしょう)付けてるでしょ? 今年から腕章付けるコトにしたんだよ。スポーツ新聞部の手作りの腕章なんだよ」
「へえ。凝ってんな。次はどこに取材?」
「漫画研究部かな」
「エェーッ。漫研なんか行ったってつまんねーよ」
「行かなきゃ分かんないでしょ」
「漫研なんかよりも、おれに取材した方が絶対良いって」
理解できず、
「どーしてそんな突拍子も無いコト言うの!? 木内くんは無所属なんじゃん。幾ら取材対象になりたくても、校内スポーツ新聞の紙面には絶対絶対載せないよ」
「ケチなコト言うなよ本宮」
顔を逸らすわたし。
なのに、
「おれはおまえと違ってケチじゃないから、出店のクレープとか、おごってやっても良いぜ??」
と言ってくるから、脈拍が速くなって、木内くんの顔を再び見てしまう。
もちろん、木内くんを男子として意識しているから脈拍が加速したワケでは無い。脈絡の無い『おごってやる』発言にビックリしただけ。
わたしは軽く息を吸い、
「木内くん。わたしから1メートルぐらい離れてくれない?」
「なんだそれー。1メートルって結構長いぞ。おれと接近してるのがそこまでイヤなんか?」
「社会的距離」
「ウワッ、マジかよ」
彼の反応に辟易(へきえき)しつつ、
「お互いもう高校3年生なんだから、社会的距離のとり方もわきまえるべきで」
「めんどくさいなー」
「そのコトバ、そっくりそのまま木内くんにお返しするよっ」
睨むような眼になるわたしに、
「ほんとーにクレープ欲しくないのかー?? 今ならタダでおごってやるってゆーのに」
と軽過ぎる口調で木内くんは。
「わたしが木内くんのそばでクレープ食べてたら……変な噂が立つかもしれないじゃん。そこが怖いんだよ」
そう言うんだけど、わたしのコトバが耳に入っていないかのように、木内くんは、人でごった返している文化祭会場を眺め回している。
また、彼に対しムカムカの感情が芽生えてきてしまう。
「あっ!!!」
いきなり彼の大声が耳に響いた。ビックリマークが3つ付くのが妥当な大声だった。
「なに。どうしたの」
思わず訊くわたしに、
「本宮んとこの部活の2年の貝沢(かいざわ)さんと、春園保(はるぞの たもつ)が、一緒に歩いてる」
わたしはとんでもなく驚愕して、
「うそ!? ホントに!?」
と、木内くんに匹敵する大声を出してしまう。
貝沢温子(あつこ)ちゃん。ニックネームはオンちゃん。わたしの可愛い後輩。
春園保くん。わたしや木内くんと同じく3年生。木内くんと仲良し。
オンちゃんと春園くんには、図書委員としての結び付きがある。
でも。だからって。
「2人だけで歩いてるの!? ホントに!? どこらへんで!?」
「なんで本宮がそんなに落ち着き無くしてんだよ。……ホラ、あそこだよ。あれはデート説が濃厚だな。春園も、やるようになったもんだ」
× × ×
体育座りになって、フリーダンスの輪を観ている。上空はすっかり葡萄色(ぶどういろ)。
右斜め後ろには、スポーツ新聞部1年生ボーイのノジマくんとタダカワくん。わたし同様に踊る相手が居ないらしく、体育座りでダンス風景を眺めている。
ノジマくんから、
「貝沢センパイどうしたんですか。本宮部長も連絡がとれない状態なんですよね。ダンスの輪の中にも見当たらないし……」
「た、体育館裏で、お、オトコノコに、コクハク……でもされてるんじゃないのかなあ!?」
うわずった声で答えるわたし。
過去最大級の、不甲斐無い返答のやり方……。
「まさか。そんなコトがあり得るんですか。漫画やアニメじゃあるまいし」
「……ノジマくん。現実って、漫画やアニメより、奇妙なモノなんだよ」
「部長にも、体育館裏で告白された過去があるとか?」
「ばばばばバカじゃないの!? あるワケ無いじゃん」
瞬時にノジマくんの方に向き、絶叫するわたし。
「わたしはそんな青春とは社会的距離を置き続けてきたんだからね!? 3年間、スポーツ新聞部ひとすじで!! 恋だとか愛だとか、そーゆーモノとも社会的距離を……!!」
「部長部長、落ち着いてください」
『これだから、1年ボーイは……。デリカシーなんて持ち合わせてないんだね』という感情を込めて、ノジマくんに冷え冷えの視線を送る。
その次の瞬間。
「あれっ!?!?」
と、感嘆符と疑問符が2つずつ付きそうな大声を、ノジマくんではなく、タダカワくんが、発した。
タダカワくんに眼を転じ、
「び……ビックリするでしょ、タダカワくん。急にそんなに絶叫しないでよ。キミらしくも無いよ? いつもはもっと、落ち着いていて……」
「いや、これは、落ち着ける事態ではありませんよ」
「ハイ!? それ、いったいどんな意味??」
「だって」
声変わりの終わり切った太めの声でタダカワくんが、
「フリーダンスしてるとこ、よーく見てください。貝沢センパイが踊ってます。一緒に踊ってる男子(ヒト)って、確か、3年の図書委員の……」