「戸部くんおはよう」
「おーおはよー、八木」
「気の抜けた声だねえ。寝ぼけてるんじゃないの? わたしがせっかくビデオ通話の相手になってあげてるのに」
「少しだけ眠い」
「だらしない。あなたのパートナーの羽田さんに叱られちゃうよ!?」
「もう叱られてる。朝飯食ってる時にほっぺたをつねられた」
「……可愛いコトするんだね、彼女も。流石は羽田さん」
「それでなんでわざわざビデオ通話する気になったんだよ。おれなんかと何が話したいってゆーの」
「互いの近況報告」
「お仕事のコトか? おまえは就職したばかりだが、『6月病』にでもなったんか?」
「『6月病』? 戸部くんの造語?」
「あのな。お仕事の鬱憤でも溜まっちまってるんじゃないか……と。そう思っとるんだわ」
「仕事の愚痴は少ししか言わないよ」
「や、結局愚痴るんかいな」
「ほんの少しだけ。……あのね、そんなコトよりも。わたし新しく始めた『活動』があって」
「『活動』ってなんぞ。具体的には、なに活動なんだよ」
「執筆活動」
「エエエエエーッ」
「ちょっとっ!! 気持ち悪いリアクションやめて」
× × ×
「まさかおまえがそんなに『文学乙女(ぶんがくオトメ)』だったとは」
「ますます気持ち悪いね。『文学乙女』?? 戸部くんの造語だよね」
「小説が完成したら見せてくれ」
「簡単には見せてあげないよ」
「なんで」
「例えば、葉山むつみには、よろこんで見せてあげるけど。戸部くんには、気が進まないかもな」
「なぜ葉山にそんな特権を与えるのか?」
「戸部くんより文学に100倍理解があるからに決まってるでしょ」
「ヒドいな、おい」
「葉山は葉山でさぁ……」
「んん?」
「『ポエマー』なわけよ」
「『ポエマー』?? 八木の造語かなんかか??」
「違うよ」
「ポエマーってコトはポエム書く人ってコトだよな」
「そーだよ。葉山ってね、ポエムを書きつけたノートを十何冊も所持してるの」
「あ〜〜っ」
「なっ、なに、戸部くん……。間の抜けた表情で気の抜けた声を出して……」
「間も気も抜けてねーよ。あのだな。記憶がよみがえって来たワケよ」
「え、記憶?」
「葉山のヤツ自分から『晒して』きやがったの。前にな、あいつの口から、『あんまり大きな声では言えないんだけど、わたしポエム書いてるの。わたしによるわたしのための自己満足なんだけどね』と」
「はやま……ウソでしょ」
「なんでショック受けるか」
「あの子って……戸部くんへの評価高いんだね。だから秘密を晒せるんだ」
「かもな」
「異性(オトコ)としては全く見てないみたいだけどね」
「わかる」