兄の部屋のドアをノックする。
5秒経過しても反応がないので、ドアを開け、部屋の中に突き進んでいく。
やっぱりだ。
二度寝していた。
朝ごはんのあとで二度寝するという黄金パターン。
何度見たことか。
なんとかしないといけない。
これは早くなんとかしないといけない。
妹のわたしに使命感が芽生える。
快眠中のバカ兄(あに)に掴(つか)みかかる。
バカ兄のカラダを激しく揺り動かす。
覚醒したバカ兄だったが、ボンヤリした眼つきで、
「なんだよー、元気すぎるだろ、あすかー」
と言う。
あいにく元気ですから。
わたしは。
「お兄ちゃん、きょうがどんな日か、わかってるよね?!」
「大みそか」
「大みそかに二度寝しちゃう兄貴を持っちゃった妹の気持ちも考えてよ」
「まーまー、とりあえず椅子なり床なりに座ったらどーだ、妹よ」
「わたしが立ちながらお説教モードなのが、そんなにイヤなの」
「イヤじゃない」
「…」
「でも、クールダウンすることを、推奨する……兄としてな」
…兄のデスクの椅子に腰を下ろすことにする。
腕を組んで、わたしは、
「だらしなさ過ぎだよ、マジで。ダラダラ兄貴って呼んじゃう勢い」
兄はベッドから、
「おまえは、きちんとしてるよな。ダラダラしてるとこ、ほとんど見ない」
と言って、それから、
「9月になってからは、特に」
9月……??
「9月、って。なんでそんな、ピンポイントに……」
「おまえがミヤジくんとつきあい始めたのが、9月だったろ??」
絶句の、わたし。
不意打ちを受け止めきれずに、なにを言っていいかわからなくなってしまう。
兄のニヤつき顔から、眼をそらす。
すると……ちょうどいい具合に、ドアをノックする音が耳に入ってくる。
このノック音は、おねーさんのノック音だ。
× × ×
「アツマくんの様子を見に来たんだけど」
おねーさんは言う。
彼女の美人な顔をまっすぐ見つめながら、わたしは、
「おねーさん……。助けてください」
と乞(こ)う。
「え、アツマくんに乱暴でもされたの」
「乱暴ではないです。でも、暴言は吐かれました……」
『暴言ってなんだよー』という後方からの兄の不平をシカトして、
「兄を、なんにも言えないようにしてほしいです」
とお願いし、
それから、
勢いよく――おねーさんのカラダに、抱きつく。
やわらかな感触を味わいながら、
「いちばん頼りになるのは、おねーさんなので」
と、わたし。
「どうして、そんなに甘えんぼさんなのよ。きょうのあすかちゃん」
と訊かれたので、
「助けを求める気持ちが半分。あとの半分は、純粋に甘えたい気持ち」
と答える。
答えてから、
「こういうスキンシップも――大みそかなら、オッケーでしょ?」
と言い足す。
× × ×
しばらくの間、やわらかさと優しさに包まれていた。
置いてけぼりの兄が哀れで、面白かった。
――さて、現在(いま)は床に腰を下ろして、おねーさん&哀れな兄のカップルと向かい合っている。
「今年もいろいろあったわね」
切り出したのは、おねーさんだった。
「わたし、迷惑のかけ通しだったわ。来年は、立ち直って、ちゃんとするから」
と、申し訳無さそうに言い、
「ほんとうに、ちゃんとする。全部」
と言う。
「支え合い、ですよ。おねーさん」
「支え合い……」
「全部ひとりでちゃんとしようとするのは、NG」
「NG……かしら」
「サポートされちゃってください。わたしたちに」
こう言ってから、ボヤ~ンとした兄の顔に向き、
「愚兄(ぐけい)だって、少しは、サポーターになってくれるはず」
と。
愚兄は不満そうになり、
「『少しは』、ってなんだよ。愛が困ってるときは、全力でサポートするさ」
と言う。
そして、左隣のおねーさんに、視線を送り届ける。
視線を送り届けられたおねーさんが、さりげなく、愚兄の左手に、右手を重ねた。
ドキッとする愚兄。
微笑ましい。
「アツマくん」
「……」
「アツマくんってば」
「……なんぞ」
「『なんぞ』じゃないわよ、『なんぞ』じゃ」
「む…」
「来年もがんばりましょうね。お互い」
「……おぅ」
「いっぱいスキンシップ、しましょ?」
「な、ななっ」
「好きなのよ。
あなたのカラダの……暖かさが」
微笑ましいったら、ありゃしない。
この微笑ましさが、100年続いてほしいって。
ココロから願う――2022年の、大みそか。