「うわあ~、猪熊さん、奇遇だね!!」
羽田くんがわたしに向かって言ってきた。
「ど、どうも……」
曖昧な挨拶をしながらも、わたしは、羽田くんの隣に立っている人に眼を向けてしまう。
女子。
いくぶん小柄で、ショートボブの髪型。
高校生なのか、大学生なのか……。
「あの、羽田くん……」
訊こうとするわたし。
でも、訊くコトバを出す前に、
「はじめまして。わたし、川又っていいます。川又ほのか」
あちら側から、名乗られてしまった。
「……猪熊亜弥と申します。はじめまして」
「利比古くんの同級生ですか?」
「はっハイ、桐原高校で……。クラスは違うんですけど」
「そうですかぁ」
「えーと……川又さんは……高校生、ですか??」
「違います、大学生です」
即答されちゃった。
川又さんの大学は、私立大学最高峰の、あの大学だった。
わたしが受けようとも思っていないような……。
かしこい女子(ひと)なんだ。
……川又さんと羽田くんの2人、どうやって知り合ったんだろう。
そして、どういったご関係なんだろう。
もしかして。
もしかしなくても。
彼女は……羽田くんの、カノジョ??
交際相手??
……訊きにくい。
「――この自販機目当てで来たんだけど。ここでしか手に入らないドリンクがあるらしいから。猪熊さんも、自販機目当て?」
「は、はい……。目当て……ですし、家が、この近所でして……」
「へぇ~~っ! そうなんだ!!」
「…テンション高いですね、羽田くん」
「自販機が楽しみだったからね」
羽田くんの隣の川又さんが、クスリ、と笑った。
笑ってから、
「猪熊さんって、利比古くんに敬語使うんですね。同学年なのに。」
と川又さん。
うぅっ……。
× × ×
『デートなんですか?』なんて、直球のコトバで訊けるわけもなく。
川又さんが羽田くんにとってどんな存在であるのか分からずじまいのまま、2人と別れてしまった。
× × ×
だけれども。
やっぱり、あの女子(ひと)は。
やっぱり……やっぱり……。
『――考えごと? 猪熊さん』
ハッ! として、顔を上げた。
視線の先には、羽田くんがいる。
月曜日の放課後。
ヨーコといっしょに、放送室兼放送部室に来ていて。
不都合なことに、ヨーコが事前に、羽田くんをこの部屋に呼んでいて。
ヨーコのせいで……昨日の自販機での偶然の出会いに引き続き、羽田くんと顔を合わせることになってしまった。
昨日のことは、もちろんヨーコには話していない。
さて……、羽田くんがわたしを見ている。
この場で、川又さんに関することなんて、訊けるわけがない。
嘘をつくしかなかった。
「……志望校のことについて、考えてたんですよ」
真っ赤な嘘。
「あっという間に……2月は、来ちゃいますし」
言い足して、取り繕う。
「2月か。入試本番、ってことだね」
羽田くんは言う。
「猪熊さんの第1志望って、どこだっけ」
川又さんより偏差値がワンランク落ちる大学ですよ。
東京六大学であることは、同じですけど。
「……今教えたって、面白くないでしょう?」
「エーーッ」
わたしの『はぐらかし』に対し、大仰なリアクションで、
「お互いの志望校について語り合う流れになるって、思ってたのにー」
と羽田くんが言う。
「ぼくは、第3志望まで言ってもいいんだけど」
…なんですか、それ。
だれに訊かれてもいないのに、第3志望の大学まで、羽田くんは情報を開示した。
「どうかなあ?」
「…『どうかなあ?』だけじゃ、なにを言わんとしてるのか分かりづらいですよ、羽田くんっ」
「――そうかなあ?」
『どうかなあ』とか『そうかなあ』とか。
いい加減なっ。
「ちょっとー、ピリピリしないでよー、亜弥ー」
軽いノリでヨーコが言ってくる。
「……してないわよ」
口調が変わってしまうのを抑えきれないわたし。
「余裕、なさそう。タメ口に変化するってことは」
「ヨーコ!!」
「うわぁ」
「わたしの身にも、なりなさいよっ」
「――なるって?」
「……」
「あれっ、謎の沈黙」
「抱えてるものは……ひとつじゃないのよ」
「え、なにそれ」
「あなたも少しは抱えなさいよっ」
「…目的語が、ほしいな」