ハタチの誕生日を迎えたり、ハタチになったので初飲酒したりと、愛にとって大きなイベントがあった週であった。
× × ×
土曜日の午前10時過ぎ。
ハタチになりたてホヤホヤの愛が、鼻歌を歌いながらキッチンを磨いている。
シカゴの「サタデイ・イン・ザ・パーク」の鼻歌だ。
エプロンまで装着して、ずいぶんと張り切ってやがる。
張り切りすぎも気がかりなので、
「――おれもいっしょに磨いてやろうか?」
と背中に声を。
愛の鼻歌がピタリと止(や)み、
「自分で…やり遂げたいから」
というコトバが。
「ひとりでできるんだもん!! ってか」
「そうよ。ひとりでキッチン磨けるぐらいには、元気になったから」
「そういう自覚があるってことか」
「ある。自覚」
愛の背中に向けて、
「ま、無理だけはすんなよな」
と、おれ。
「わかってる。ありがとう」
と愛。
「優しいね、アツマくんは」
とも。
「優しくもなるさ…」
「照れながら言わなくても、いいじゃないの」
いや。
おまえ、おれに背中を向けっぱなしで喋ってるだろが。
……少し照れてるのは、事実だけども。
× × ×
「ねえ」
コップに注(そそ)いだ無糖ボトルコーヒーを飲みながら、愛が言う。
「そろそろわたし、食事当番に復帰したいんだけど」
「…できるんか?」
「できる。できるって感触、ある」
「そろそろって、具体的に、いつから」
「んー。今度の祝日明け、とか」
「24日とか?」
「そう。24日とか。」
フム。
「……楽しみだな」
「楽しみにしていてね。あなたのココロもカラダもぽっかぽかになるようなお料理、作ってあげるから」
「おいおい、おれ限定かよ」
「わかってるからあ。あなただけじゃなくて、お邸(やしき)のみんなをぽっかぽかにさせてあげる」
「フゥ……。しょうがねえやっちゃ」
「わかってるわよお。わたしがしょうがないオンナだってことぐらい」
「……余計なことまで」
「えー。余計じゃないから」
ニコニコと余裕な愛。
明るい笑顔でもって、
「アツマくん。あなたはわたしを気づかってくれてるけど、わたしのほうも、あなたを気づかってあげたいのよ?」
「……具体的には?」
「――卒業できるのよね、あなた」
「そ、そこかよっ。
……大丈夫だよ。できるよ。単位はとっくに足りてるし、卒論もほとんど仕上がってる」
「そういえば――」
「なんだよ」
「あなたの卒論の題目、知らずにいたわ」
あー。
「仕方ないんじゃね? おれの卒論なんかに気を向ける余裕なんて、おまえは無かったんだしさ」
「たしかに」
「だろ?」
コクンコクン、と2度うなずく愛。
「――わかった。今、教えてやる」
…なんだか、愛の眼にトキメキが芽生えているというか、なんというか…。
× × ×
「――じゃあ、大学生として残されたイベント、卒業旅行ぐらいね」
!
「ど、どしたのアツマくん、急に背筋がぴーん、と伸びて……」
「……伸びるさ、背筋」
「ど、ど、どうしてよ」
「おまえ今、卒業旅行、って言ったよな」
「う、うん……。」
「秘密裏(ひみつり)に、おれは計画を立ててたんだ」
「……?」
「愛。
卒業旅行に、おまえも連れて行く」
「……!!」
「――連れて行かないわけがない」