2年生になった。
大学のサークルに、きっと新入生がやって来るはず。
「先輩」として、カッコよく振る舞わなきゃね。
どんな子が、後輩になるのか……楽しみ。
× × ×
わたくし羽田愛が所属しているのは、『漫研ときどきソフトボールの会』という珍妙な名前のサークル。
その名の通り、漫画を読み、なおかつ、ソフトボールをするのだ。
漫画も読めるしソフトボールもできる…一粒で二度おいしい。
――さて、学生会館のエレベーターで5階に上がっていって、サークル部屋の前までやって来た。
『もしかしたら、新入生の子が来てるのかも』
そう思いつつ、ドアを開ける。
いたいた。いた。
見慣れぬ顔、すなわち新顔――新入生!
男の子だった。
新入生の彼を、久保山幹事長(4年)と新田くん(2年)が接待しているところだった。
「おはよう羽田さん」と久保山幹事長。
新田くんも、「あ、おはよう」と挨拶してくれる。
「おはようございます。…さっそく、新入生の子が、部屋まで来てくれたんですね」
「そうだよ」と幹事長。
「羽田さんも、もてなしてあげなよ」と新田くん。
よ~し。
新入生の彼のとなりに座って、
「あなた、お名前は、なんていうの?」
と尋ねる。
いきなりわたしがとなりに座ったからか、若干うろたえる彼。
積極的すぎたか。
てへ。
ややあって、彼は名乗ってくれた。
× × ×
『幸 拳矢』と書いて、『みゆき けんや』と読むという。
『幸』で『みゆき』か。
(たしか、競馬ファンな葉山先輩が、そういう苗字の読みの騎手がいる、って話していた記憶があるけれど…これは余談だな。)
「彼は漫画もアニメも大好きらしい。とくに、アニメの声優について、並々ならぬこだわりがあるそうだ」
幹事長が、そう紹介する。
声優。
わたしの未知の世界。
『好きな声優さんは、だれなの?』と、訊こうかと思った。
…その瞬間、サークル部屋のドアが、ぎ~っ、と開いて、小柄な4年生の女子会員が入室してきた。
日暮真備(ひぐらし まきび)さんだ。
「おおっ、クボ!! 新入生、確保できたんじゃん。えらい!!」
いつものように久保山幹事長を「クボ」と呼んで、日暮さんが大声を出す。
「真備、声がでかすぎるぞ。部屋の外まで声を響かせるな」
たしなめる久保山幹事長。
そのたしなめを冷酷にもスルーして、ずんずんずんと新入生・幸拳矢くんのもとに向かい、
「きみ、名前は?? わたしは真備。日暮真備」
と問いかける。
「み……幸拳矢、です」
「どんな字で書くの?」
迫る日暮さんに、幹事長が、横から、
「真備。この新歓用紙を読め。名前も書かれてるし、自己紹介もしてくれてる」
と言って新歓用紙を渡す。
日暮さんは目を通して、
「ふ~~~ん。この一文字で『みゆき』って読むんだね。…そっかあ。声優ファンなんだあ」
若干恥ずかしがりながら、「ハイ、声優、好きで…」と言う幸拳矢くんに対し、
「よし。
――いまからきみのこと、『みゆきち』って呼ぶよ」
「!?!?」
衝撃を受ける幸拳矢くん…。
出た、出てしまった。
ニックネームの天才・日暮真備さん。
出会った瞬間に、ニックネームをひねり出す。
魔術師のように…彼女の口からは、ニックネームが生まれてくるのだ…。
『みゆきち』と名付けられた新入生の彼は、慌て気味に、
「や、やめてくださいっ!! 日本を代表する超一流女性声優の愛称を、ぼくのニックネームにするなんて!!!」
「――『日本を代表する超一流女性声優』?」
わたしは思わず、となりの席の新入生くんに言う。
日暮さんは、把握しているらしい表情。
幹事長も、新田くんも、同様に把握しているみたいだ。
× × ×
わたしも……聞いたことあるかも、沢城みゆきさんの名前。
「沢城みゆきさんはどんなアニメに出ているの?」と訊いたわたし。
「数え切れないぐらい出ています……」と、新入生の彼は答えた。
フム。
わたしは……どーしよっかなあ。
『拳矢くん』って、下の名前で呼んでみようか?