
(写真)比楽邸。
2025年(令和7年)11月8日(土)、文化財建造物の特別公開イベント「あいたて博」で愛知県岡崎市大平町の比楽邸を訪れました。
1. あいたて博「比楽邸」
西大平藩陣屋跡には小公園が整備されており、その南側に比楽邸の敷地があります。数か月前に西大平藩陣屋跡を訪れたばかりでしたが、すぐ脇にこのような近代和風建築があるとは知りませんでした。なお、あいたて博において比楽邸が公開されるのは今年が初めてです。

(写真)配布資料。
建物解説を務めるのは建築士の小林洸至さんです。昨年のあいたて博では珈琲館杉浦邸の建物解説をされており、自由見学時に別の方と話されているのを勝手に聞いていました。比楽邸の解説は建物のディテールにこだわった解説で、テキスト化してどこかに出してほしい素晴らしい解説でした。あいたて博では様々な方が建物解説を務めていますが、一般向けの公開イベントということもあって、建築の専門家が解説する際にも違った話し方になる事が多い印象があります。

(写真)ガイドの小林洸至さんと説明を聞く参加者。
1.1 比楽紡績の歴史
比楽邸の当主は比楽紡績株式会社の経営者とのことであり、すぐ近くには株式会社比楽岡崎・比楽商事株式会社の事務所がありますが、比楽紡績株式会社の本社は大阪府堺市にあります。比楽邸は戦時中の1944年(昭和19年)頃に建てられたとのことですが、1970年(昭和45年)頃からは空き家になっているとのこと。『新編岡崎市史 5 現代』などで比楽紡績について確認できました。
乙川沿いの岡崎市大平町は綿紡毛生産の中心地だった。1939年(昭和14年)、大平町にガラ紡を扱う神谷紡績工場が創業した。戦時中には軍需工場となり、戦後には1947年(昭和22年)に再興された。1959年(昭和34年)9月には比楽紡績株式会社が設立され、1962年(昭和37年)には本社が大阪府堺市に移転した。出典:『新編岡崎市史 5 現代』新編岡崎市史編さん委員会、1985年、p.407
比楽太郎吉社長の比楽紡績株式会社。本社は大阪府堺市原山台。
比楽太郎吉は1901年(明治34年)11月21日に岡崎町に生まれ、岡崎市立商業学校を卒業した。1917年(大正6年)には糸商として神谷商店が創業し、比楽太郎吉は義兄が経営する神谷商店に入社した。神谷商店は1929年(昭和4年)に比楽商店に改称している。1940年(昭和15年)4月には美木多織布株式会社を設立し、岡崎工場を設置した。戦後の1950年(昭和25年)には神谷紡績株式会社に改称し、1959年(昭和34年)に比楽紡績株式会社に改称するとともに、比楽商店の事業を継承した。出典:『日本繊維商社銘鑑 1975』東京信用交換所、1975年

(写真)前頭に比楽太郎吉が掲載されている「関東関西高額所得者番付」実業之世界社、1961年。

(写真)株式会社比楽岡崎・比楽商事株式会社。
寛延元年(1748年)には大岡越前守忠相が藩主を務める西大平藩が成立し、藩庁として陣屋が置かれました。比楽邸があるのは西大平藩陣屋跡のすぐ南側であり、明治時代の地形図を見ても後の比楽邸付近に独立した建物が描かれています。

(地図)明治時代の大平集落。今昔マップ
太平洋戦争末期の1945年(昭和20年)7月19日に行われた岡崎空襲で岡崎市街地の大部分が焼失したことはよく知られていますが、大平地域では男川小学校も焼夷弾で焼失しているとのことです。岡崎市における罹災地域図をよく見てみると、確かに男川小学校が網掛けになっています。完成したばかりの比楽邸が焼失を免れてよかった。

(写真)建設省『戦災復興誌 第5巻 都市編 第2』都市計画協会、1957年。
1969年(昭和44年)の住宅地図には比楽紡績が描かれていますが、比楽邸がある場所は空白となっています。1962年(昭和37年)には本社が大阪府堺市に移転しているため、既に空き家のような状態だったのかもしれません。小林さんの解説によると1970年(昭和45年)頃から空き家になっているという話であり、比楽邸に居住者がいたのはわずか20数年間のようです。
余談ですが、比楽邸の近くには真宗大谷派の専光寺があります。かつて岡崎市中心部には服部太郎吉を筆頭として、岡崎鋳物工芸、藤島貞造、深田藤吉、河内能正と多くの梵鐘鋳造者がいましたが、大平地域の寺院にはなぜか市内の鋳造者による梵鐘が少なく、専光寺梵鐘や阿弥陀寺梵鐘や紫雲寺梵鐘は滋賀県東近江市の黄地佐平、縁盛寺梵鐘は富山県高岡市の老子次右衛門、長徳寺梵鐘は三重県桑名市の伊藤軍市郎です。大平地域と岡崎城下は東海道でわずか3kmの距離ですが、城下とは異なる文化圏だったのかもしれません。

(地図)比楽紡績が描かれている1969年の住宅地図。※比楽邸は描かれていない
2. 比楽邸
2.1 建物の外観

(写真)主屋の南面。

(写真)庭園。

(写真)玄関アプローチ。


(写真)押縁のない下見板張と押縁下見板張。
2.2 座敷

(写真)座敷。

(写真)座敷。


(写真)座敷。
2.3 洋室

(写真)洋室。


(左)寄木張りの床面。(右)金属製の孔雀。
2.4 廊下

(写真)1階座敷の縁側。

(写真)2階の廊下。

(写真)1階の廊下。

(写真)廊下。
2.5 浴室・御手洗

(写真)浴室。

(写真)御手洗。

(写真)御手洗。

(写真)御手洗。
2.6 蔵・門

(写真)蔵。

(写真)門。