
(写真)「見る場所を見る5」。
2025年(令和7年)9月12日(金)、東京都新宿区の新宿眼科画廊で開催中の展覧会「見る場所を見る5 イラストで見る、鳥取の映画館&レンタルビデオショップ史」を訪れました。「映画『ファントムライダーズ2』を観る」に続きます。
1 プロジェクト「見る場所を見る」とは
2021年(令和3年)に開始された「見る場所を見る」は鳥取県の映画文化に関する調査研究プロジェクトであり、鳥取大学地域学部の佐々木友輔さん、佐々木研究室に所属していた杵島和泉さんによって行われています。映画館やレンタルビデオ店を「見る場所」と捉え、イラスト、映像作品、年表や文章など様々な手法でこれらの施設に関する記憶の復元を試みています。
2024年(令和6年)1月26日には国立映画アーカイブが主催する「全国映画資料アーカイブサミット2024」が開催されました。映画資料を扱う様々な研究者や学芸員が視聴する企画でしたが、プログラムの一つとしてセミナー「映画資料最前線 映画館文化発掘の試み」があり、私は「かつてそこに映画館があった 『消えた映画館の記憶』について」というタイトル、佐々木さんと杵島さんは「鳥取県の映画文化研究 映画資料が語る地方の映画文化史」というタイトルで発表しています。
鳥取県における5年間のプロジェクトの集大成が「見る場所を見る5」です。これまでと同様にClaraさんが描いたイラストの展示を軸としながら、国立映画アーカイブの岡田秀則さんを招いたトークイベント、プロジェクトで実施した数々の展覧会やトークイベントの内容を採録した書籍『「見る場所」のメディア考古学』の刊行などが行われました。


(写真)書籍『「見る場所」のメディア考古学』。
2. 「見る場所を見る5」
1.1 映画館のイラスト展示
新宿眼科画廊は新宿ゴールデン街や花園神社に近い場所にあるギャラリーです。1階は4つの展示スペース、地下は演劇スペースとなっており、Claraさんが製作した60点以上の作品が都市ごとに分けられて展示されています。
Claraさんは郷土資料に掲載されたモノクロの古写真などを元にしながら、映画館を大胆にデフォルメ&カラー化しています。私は「見る場所を見る3」で初めてイラスト展を鑑賞したのですが、古写真という手堅い文献から二次創作を行うという点に強い感銘を受けました。佐々木さん・杵島さんは、古写真をイラスト化して鑑賞者の感想なども参考にしながら記憶の復元を試みる手法をイラストレーション・ドキュメンタリーと名付けており、鳥取大学地域学部の研究紀要でもこの手法について発表されています。
参考:佐々木友輔、杵島和泉「イラストレーション・ドキュメンタリー:地方映画史を記述するための方法論」『地域学論集』鳥取大学地域学部、2023年

(写真)「見る場所を見る5」。

(写真)新宿眼科画廊のフロアマップ。
新宿眼科画廊は作品をワイヤーで吊るのではなく釘を壁に打ち付けて展示するタイプのギャラリーで、作品を縦に数枚並べても見栄え良く展示できることから、作品を横一列に並べる壁面と作品を密に並べる壁面が使い分けられていました。現在の鳥取県にはどの都市にも1施設しか映画館が存在しませんが、縦横3列で計9枚が並べられた壁面を見ると、鳥取市や米子市には同時期に多数の映画館があったことが強く印象に残ります。

(写真)「見る場所を見る5」。鳥取市の映画館群。
2.2 レンタルビデオ店のイラスト展示
プロジェクトで題材としている「見る場所」にはレンタルビデオ店も含まれます。レンタルビデオ店は映画館に比べると軽視されがちな施設ですが、特に2010年代以降に急激に数を減らしている施設であり、いま取り上げる価値の大きい施設であると感じます。
岡田秀則さんのトークイベントの中では、「あなたが通っていたレンタルビデオ店の外観を覚えているだろうか」というコメントがありました。私が京都市に住んでいた頃には毎日のようにビデオインアメリカやビデオ1に通い、洋画や海外ドラマのDVDを借りていましたが、建物内の構造は覚えていても外観はほとんど記憶に残っていません。
1971年(昭和46年)には日活が成人映画主体の映画製作に切り替えたことに象徴されるように、1960年代後半から1970年代前半には日本における映画製作本数の半分が成人映画だった時代がありました。とはいえ、プロジェクトで作成された年表を見ると、1980年代後半には鳥取県内にもレンタルビデオ店が相次いで開店しており、成人映画館はアダルトビデオのレンタルに押されて数を減らしていきます。その後はアダルトビデオ鑑賞の主流がVHSからDVDに、さらに2020年代現在は動画配信と移行する中で、現在の成人映画館は「成人映画を観る場所」ではなく「居場所を求めた高齢者の(※健全な)社交場」という機能を主とした施設に変化していると感じますが、成人映画館に関する学術的な研究はほとんど行われていないように見えます。
地元のレンタルビデオ店もひとつ、またひとつと閉店していき、私自身もあれだけ通ったはずのレンタルビデオ店を利用することもなくなりました。『「見る場所」のメディア考古学』には「レンタルビデオ店の利用はアダルトビデオが主で、利用者層は高齢者が主」という記述があります。かつて成人映画館を閉館に追いやったレンタルビデオ店が成人映画館と同じ状況に陥っていることに思いがけず驚かされました。
現在も利用されているのはほとんどがアダルトビデオで、顧客は高齢者層が主であるという。インターネットに接続して、U-NEXTなどのSVODやアダルトサイトを閲覧するのが難しい世代にとっては、DVDデッキにディスクを挿入して、再生ボタンを押すだけで視聴できることに価値がある(中略)高齢化社会における福祉の役割をも担うレンタルビデオ店の存続を支えているのだ。
佐々木友輔「レンタルビデオ店の地域学 地域社会と私的生活への関わり」『「見る場所」のメディア考古学』小取舎、2025年

2.3 その他のイラスト展示
Claraさんのイラストの中には、映画館やレンタルビデオ店と直接的には関係しない作品が何点か含まれています。
『「見る場所」のメディア考古学』における杵島さんの文章を読むと、これらは米子の歴史と映画館の関わりを伝えるイラストであり、2023年(令和5年)に米子市で開催された展覧会で発表された作品群のようです。私は町の発展と映画館の関わりに強い関心があり、本ブログ「振り返ればロバがいる」でも地方都市における映画館を町との関わりに主眼を置いて紹介することが多いので、町の歴史を特定のテーマを軸に論じる手法は参考になります。
参考:杵島和泉「賑わう街の記憶 鉄道の開通とノンフィルム資料から見る米子の映画館」『「見る場所」のメディア考古学』小取舎、2025年。初出は展覧会『見る場所を見る2+』。

(写真)「見る場所を見る5」。まちと映画館の関わり。

(写真)「見る場所を見る5」。1960年代と2000年代の映画おたく少女。
2.4 鳥取県の映画館史
展覧会「見る場所を見る」は華やかなイラストの展示を主としていますが、その土台には各映画館に関する丹念な文献調査があります。
最も小さな展示スペースでは、鳥取市・米子市・倉吉市・境港市・町村部の各自治体にあった映画館の年表が展示されていました。鳥取県立図書館などで『日本海新聞』縮刷版を一枚づつめくって開館日や閉館日などを突き止めたようです。展示物の中では地味で評価されにくい部分ですが、この文献調査があるからプロジェクト全体に説得力があるのだと思います。私が作成している映画館データベース「消えた映画館の記憶」の存在もいつも言及してくださっています。


(写真)鳥取県の映画館年表。

(写真)新宿東宝ビルが見える新宿歌舞伎町。