
(写真)出石永楽館の客席と舞台。
2025年(令和7年)6月、兵庫県豊岡市出石町にある出石永楽館を訪れました。
1901年(明治34年)に建てられた芝居小屋であり、近畿地方に現存する最古の芝居小屋とされています。現在は一般公開がなされており、歌舞伎などの公演も行われています。
1. 出石町を訪れる
豊岡市出石町は出石そばなどで知られる観光地であり、城下町の風情が残る重伝建の街並みから「但馬の小京都」とも呼ばれています。街並みの中心部には町のシンボルである辰鼓楼(しんころう)がありますが、楼閣は1871年(明治4年)に竣工、1881年(明治14年)には時計台となった建物であり、札幌時計台に次いで日本国内で二番目に古い時計台とのことです。

(写真)辰鼓楼。
戦前の出石町には劇場として永楽館と東館がありました。昭和初期の出石町を描いた地図として『大日本職業別明細図』がありますが、東館は高福寺のはす向かいに描かれているものの、なぜか町の象徴的存在の辰鼓楼や永楽館は描かれていません。1931年(昭和6年)に建てられた出石郵便局の建物は現存しています。

(写真)東館が描かれている『大日本職業別明細図』東京交通社、1933年。右が北。

(写真)旧出石郵便局。
2. 出石永楽館
2.1 建物
永楽館の竣工は1901年(明治34年)であり、1910年(明治43年)竣工の康楽館や八千代座、1916年(大正5年)竣工の内子座といった重要文化財の芝居小屋建築よりも早いのですが、土壁や洋風窓といった異質ともいえる要素が永楽館の特徴です。
これらは2008年(平成20年)の復元改修工事の際に復元されたものです。土壁は江戸時代竣工の出石酒造の酒蔵に、洋風窓は1892年(明治25年)竣工の出石郡役所(現・出石明治館)にも見られるもので、これらの要素が永楽館にも取り込まれていることで街並みとしての一体感を感じます。

(写真)永楽館の建物。

(写真)永楽館ののぼり。
2.2 ロビー
この2025年(令和7年)6月に公開された、吉田修一原作の映画『国宝』では、舞台となる劇場の主要なロケ地として東京の歌舞伎座や京都の南座が使用されています。主人公が有力者に見初められて飛躍する地方巡業のロケ地は永楽館であり、永楽館では『国宝』公開を記念した特別展示が行われていました。

(写真)ロビー。


(左)ロビーの神棚。(右)グッズ売り場。

(写真)復元工事前の永楽館の写真。
2.3 舞台・客席

(写真)廻り舞台のある舞台。

(写真)舞台。

(写真)舞台と客席。

(写真)客席。

(写真)花道とすっぽん。

(写真)2階桟敷席。

(写真)「永」字が入った提灯。
2.4 広告看板
2階桟敷席の上部には鮮やかな広告看板が並んでいます。同じく芝居小屋の八千代座では、2階上部には横長の看板が、さらに天井には丸枠の看板が描かれていますが、永楽館の看板は縦長なのが特徴です。
描かれているのは、高橋食堂、金道タンス店、永沢兄弟製陶所、吉川茶菓舗/きっかわ謄写堂、衣料品の山崎屋、料理屋の桐吉、パチンコ店のスポーツマンクラブ、ムール美容室、守本時計店、浅田モータース、ひのべや桝屋、西垣表具店、日の出牧場、古田ポンプ、山内写真館、奥村農機具店、大井製瓦所、衣料品のふくだ、志保屋呉服店、化粧品と文具のマルミヤ、垣谷家具店、雨具のねずみや、文具と書籍の坂本屋、今崎電気店です。
現在も営業を続けている商店としては、出石焼の永澤兄弟製陶所、衣料品の志保屋、靴や傘のねずみや、日用品店のマルミヤ、書店の坂本屋などがあります。割烹桐吉や高橋食堂は閉店したものの建物が残っているようです。高橋食堂は永楽館に来館した芸人のために「高橋そば」(中華そば)を提供しており、高田浩吉や三波春夫らも来店したとのことですが、2010年代になって閉店してしまったようです。

(写真)広告看板。

(写真)広告看板。

(写真)広告看板。

(写真)広告看板。
2.5 奈落

(写真)奈落。

(写真)奈落の通路。
2.6 廊下
西側廊下には映画ポスターが展示されていました。これらのポスターが永楽館で上映されたものかどうかは不明ですが、廊下の奥には「永楽館 本日の映画」と書かれたポスター掲示板があり、戦後の永楽館で実際に用いられていたもののようです。

(写真)映画ポスターの展示。

(写真)『愛染かつら』のポスター。

(写真)映画ポスターの展示。