レビュー
TOPPING「DX9 Discrete」、ディスクリートにこだわったDAC & NFCAヘッドフォンアンプで悩みあっさり解決
2026年2月16日 09:06
ヘッドフォンアンプだけでいいのか問題
ポータブルオーディオ界隈においてはリスニングがヘッドフォン中心、それどころかスピーカーリスニングが皆無というユーザも少なくないが、購入を検討するアンプの機能が、ヘッドフォンアンプオンリーだと、物足りなさを感じてしまわないだろうか? 筆者は少なからず感じてしまうタチだ。
具体的にはDACも欲しいところ。いまどき音源としてストリーマーが必須だとして、ノイズ対策等の観点から入力するのはアナログ信号よりデジタル信号のほうが好ましいし、DACがヘッドフォンアンプ側にあればCDトランスポートをつなぐという拡張性も見えてくる。
そうなると、出力先のバリエーションが多ければ多いほどいいわけではないが、ヘッドフォンアンプとしてだけでなく、単体DACとしても使えるようにラインアウト、さらに言えばXLR出力も欲しい。
などと考えていたところに現れたTOPPINGの「DX9 Discrete」(オープン/実売228,690円前後)。
ヘッドフォンアンプ部には完全ディスクリート設計の6チャンネル「ディスクリートNFCAヘッドフォンアンプ」を、DAC部には1bitディスクリートDACアーキテクチャのPSRMモジュールを左右チャンネルに搭載というスペックもさることながら、XLR出力対応しかもプリアウト可、入力系統はUSBはもちろんCOAXとS/PDIFもカバーするからCDトランスポートも接続できる。冒頭で述べた「ヘッドフォンアンプだけでいいのか問題」をあっさり解決してくれそうなデスクトップDAC/アンプということで、実力のほどを検証すべく借り出した次第。
DX9 Discreteのここに注目
かつてのTOPPINGといえば、2000年代後半に発売された「TP10 Mark2」のようにシンプルで安価な小型アンプを得意としていたが、近年は高機能路線に舵を切っている。独自の低歪アンプ回路「X-Hybrid AMP」とデュアル構成のESS ES9039Q2Mを弁当箱ほどのボディに詰め込んだ「DX5II」は、その延長線上にあるといえるだろう。
新製品の「DX9 Discrete」は、2024年夏に発売された創業15周年記念限定のヘッドフォンアンプ「DX9」を拡大発展させたモデルといえる。両端が丸いアルミボディに透明な天板のプリアンプとしても使えるヘッドフォンアンプという基本コンセプトは踏襲しつつ、格段に"濃さ"を増しているのだ。
たとえば、DAC部。汎用的なDACチップではなく、TOPPINGが開発した1bitディスクリートDACアーキテクチャ「PSRM(Pure Signal Reference Module)」を採用、LRチャンネルに配置した。このPSRMは、いわばR-2Rラダー型D/A変換回路の独自改良版で、2025年秋発売のセパレートDAC「D900」で初お目見えとなったもの。高速スイッチングロジックICや高精度電圧リファレンス回路など20種を超える部品で構成されたフラッグシップDACの中核技術が、わずかな期間で他ジャンルの製品に搭載されたことは注目に値する。
電源設計もリファインされた。DAC部とヘッドフォンアンプ部の電源供給が独立したデジタル/アナログ電源分離設計は同じだが、DX9 Discreteには純抵抗出力電源が搭載されている。ナノ秒レベルで電気信号をON/OFFする超高速なデジタルスイッチングロジックから生じるノイズがアナログ信号に与える悪影響を避けるための配慮なのだという。
一方、ヘッドフォンアンプ部に大きな仕様変更は見られない。すべてディスクリート部品で設計された「ディスクリートNFCA(Nested Feedback Composite Amplifier)ヘッドフォンアンプ」はバランス回路4chにシングルエンド回路2chの6chという構成で、最大出力は10,000mW×2@16Ω。リレー制御と抵抗ネットワークのハイブリッド構成、そのうえデジタルボリュームとも組み合わされるボリュームコントロールも継続採用だ。
さて、ディスクリートNFCAの実力は、ディスクリートDAC・PSRMとの組み合わせによるサウンドはいかほどのものか。入力はUSBのほかCOAX、S/PDIF、Bluetooth(LDACとaptX-Adaptiveに対応)、AES、さらにI2Sに対応と至れり尽くせりだが、USBとS/PDIFに絞り試してみることにした。
PSRMとNFCAのコンビネーション
DX9 Discreteの試聴には、ヘッドフォンに軽量ボイスコイルプラナードライバー搭載の「DUNU ARASHI」(4.4mm端子で接続)、音源にiPhone 17 ProとShanling EC Zeroをチョイス。iPhone 17 ProはUSB接続でファイル再生とストリーミング用に、EC ZeroはS/PDIF接続でCDトランスポートとして利用した。
まずはiPhone 17 Proに入れておいたDSD音源の再生から。DSD 128のOpenings/Mathias Landaeus Trioは、広々と澄んだサウンドステージにしばし放心。ピアノはハンマーが弦を叩く細やかなニュアンスまで伝わるようで、シンバルワークも音切れよく繊細だ。
FLAC 96kHzのエイリアンズ/キリンジも、いい感じ。アコースティックギターのアルペジオの一音一音が明瞭で艶やか、尖り過ぎていない。LRの分離感は明確で音像もはっきりしているが、音の際が目立ち過ぎず、スムースな印象だ。そしてドラムとベースのパートが始まると、低域成分も丁寧に再生していることに気付く。DUNU ARASHIは開放型なのに低域がしっかりしたタイプのヘッドフォンだが、その特長が塩梅に生かされた格好だ。
その後ストリーミングを聴き進めるうち、ひとつ見えてきたことがある。ふだんDAPなどで接しているDACチップの音と比べると、ディスクリートDAC・PSRMがデコードする音は幾分まろやかなのだ。しかし、ディスクリートNFCAヘッドフォンアンプとのコンビネーションが成せる技なのか、尖り過ぎずエッジが立ちすぎず、ほどよく感じられる。
音源をCDに変更すると、DSD試聴時の分析が正しいことを実感した。Liquid Spies/Seawindの金管楽器の音をEC Zero内蔵のヘッドフォンアンプで聴くと、音のエッジが際立ってピーキーさすら感じてしまうが、DX9 Discreteで聴くとそれがない。「まろやか」とか「角が取れた」と表現すると、音が訛ったような印象を与えてしまいそうだが、そうではなく、「旨味たっぷりのスープからアクをとったら雑味がなくなった」という表現が近い。
独自のクロスフィード技術「Convolutionモード」も試してみた。クロスフィードとは、LRチャンネルの信号を少しだけ混合することで、スピーカーで音楽を聴くような効果を実現できる。DSP設定メニューから「Crossfeed」を選び、Typeに「Convolution」を選択することで効果を発揮するというものだ。
2つの関数や信号を組み合わせる「畳み込み」という意味を持つConvolutionモードは、頭部伝達関数と室内音響特性を精密にシミュレートしたというだけあって体験としては面白いが、ピュアなHi-Fiリスニングとは別物と考えたほうがいい。もちろんサラウンドや立体音響を模した機能でもない。音響効果として「Small Room」と「Studio Room」の2種類が用意されているから、ライブ音源などで試すとよさそうだ。
DACプリだけでなく、ヘッドフォンアンプだけで使ってもいい
TOPPINGといえば、手のひらサイズのコンポを組み合わせて楽しむ「箱庭オーディオ」の選択肢を供給してくれるメーカーという認識だったが、それももはや過去の話かもしれない。近年ではヘッドフォンアンプの「DX9」やDACの「D900」といったフルコンポに近いサイズの製品も続々発表している。さらに「TOPPING Professional」というDTMやプロ向けを意識したシリーズも立ち上げるなど、勢いには目を見張るものがある。
DX9 Discreteを2週間ほど試用して感じたのは、TOPPINGというメーカーの底力だ。いわゆる"箱庭"ジャンルはともかく、他の土俵ではどうなのか? と考えていたが、杞憂に終わった形だ。前述したDX9とD900という製品のコア機能を融合させたという見方もできるが、時間をかけて聴くと単純な足し算ではないことに気付く。この練度の高い音、丁寧に雑味を取り除いた音は、一朝一夕には出せないものだ。
冒頭で取り上げた「ヘッドフォンアンプだけでいいのか問題」だが、「DACプリとしてスピーカーリスニングにも使えるだけでなく、ヘッドフォンアンプだけで使っても満足」という予想外の結論に達してしまった。DX9 Discreteというデバイスには、そう感じさせてくれる実力と包容力がある。














