レビュー
ラックスマンの小さな真空管アンプは大きな巨人だった Re:デスクトップで始めるオーディオ生活
2026年2月6日 08:00
平成ではSOHO、令和ではリモートワークと名こそ違うものの、自室の机で長い時間を過ごす人が珍しくなくなりました。そんな方に音楽という潤いを与えるのがデスクトップオーディオです。今回はラックスマンの真空管式プリメインアンプをお借りして、デスクトップオーディオと真空管アンプの相性の良さをお伝えしたいと思います!
【前回までのあらすじ】デスクトップオーディオはホントにオススメ
気軽に使えるスピーカーが欲しいとヤフオクで50年以上前に誕生したアルテックのブックシェルフスピーカー「DIG」を手に入れた筆者。ですが思いのほか大きく、設置する場所がありません。
強いて挙げるなら机の上くらいしかないので、だったらデスクトップオーディオ用スピーカーとして使うことを思い立つも、机の上に載せたら振動が机に伝わる、高さ調整ができないなど問題が発生。ならばとオーディオ専用机なるものを設計、作ってしまいました。
そんな前回までの記事を公開するや、各所から「なんじゃこりゃ!」「スピーカーでかくないか?」とのご意見を賜りました。そう思いますよね。自分も最初はそう思いましたもの。
ですが、時が経てば見慣れますし、箱は大きいものの20cmフルレンジドライバー1発ということもあってか、音は“マトモ”でスピーカーの間にキチンと音像が定位します。これは事前に何度もシミュレーションしたので予定通りです。
予定と違ったのは、音楽と自分の距離が近づいたように思うこと。それはスピーカーと聴き手の距離が近いためか音量を上げる必要が少なく、結果的に時間をあまり気にせずに音楽が愉しめるから。あまりの愉しさに仕事を忘れて音楽に没頭することもしばしば。
さらに筆者の場合、画面を縦にしていることから、YouTubeなどのショート動画が実にイイ感じ! 普通の動画ですと何分も観ることになるので、仕事中の視聴は避けていたのですが、ショート動画は短いので罪悪感が薄め。タチが悪いことに、次々に出てくることから、気づけば何十分も手が止まったまま……。
結果、仕事のアウトプットスピードは低下。各社の担当編集から「いつ原稿できますか?」と催促が来るようになってしまいました。それくらい愉しいので、自分の机をお持ちの方は、ぜひデスクトップオーディオに取り組まれては如何でしょうか。
ワンピースコンポーネントも、セパレートコンポーネントも大好きなんです
お気に入りのスピーカーを手に入れると、今度はそれを活かすアンプが欲しくなるもの。究極のクオリティを得るべく大規模のセパレートシステムを構築してみたい、コンパクトでキュートなプリメインを手元に置くのも楽しそう……と、思い巡らして想像の翼を拡げるのは、とても楽しいですよね。
そんな筆者が現在使っているのは、LINNの「MAJIK DSM」。ネットワークプレーヤー機能を内蔵したプリメインアンプです。PCやBDプレーヤー、ゲーム機の接続に便利なUSBやHDMI入力も用意しているので、何でもできる黒い玉手箱といってもよいでしょう。
人によっては「こういう機械って便利だけど音は……」と眉をひそめる方もいらっしゃることでしょう。昔はそうだったかもしれません。ですが技術の進歩は素晴らしいもので、現在では満足度の高いプロダクトが増えてきました。
今後オーディオは、MAJIK DSMのようなワンピースコンポーネントがメインストリームになるのでは、と思っています。
そんなMAJIK DSMですが、機能や音質に一切不満はないものの、見た目がLINNらしいとはいえ、ただの黒い箱なのが……。それはそれで気に入っているのですが、物欲とは恐ろしいもので「オーディオ機器らしい見た目」が欲しいなとも。人生は常にないものねだりで、気づけばお金はない人生。そんなものです。
そんなオーディオ機器らしい外観のひとつに真空管アンプを挙げる人は多いのではないでしょうか。一般生活で目にする範囲で、真空管を使う電気機器はオーディオや楽器のアンプくらいでしょう。真空管の音は……というステレオタイプの話は一旦おいて、ヒーターの灯が今の時代にとても新鮮に映ります。
そこで昨年、創業100周年を迎えたラックスマンのA4サイズモデル「SQ-N150」(275,000円)をお借りして1週間ほど愉しんでみました。
SQ-N150は、ラックスマンの現行ラインアップで最も長寿なプリメインです
100年とひとことでいっても、大正~昭和~平成~令和という時代の移り変わりは、人類有史の上でも前例がないほどの変革で激動の時代でした。
その大きな時代の流れの中、紆余曲折があったとはいえ、ラックスマンはオーディオひと筋で生き残りました。これは常に最良の選択と集中をし続けてきた経営判断と、従業員ひとりひとりがオーディオと音楽に対し真摯な姿勢で向き合い、良質なコンポーネントを生み出して、ユーザーの信頼と支持を得てきたからに他ならないと思います。
そんな同社のSQ-N150は、2018年10月下旬に「ネオクラシコ」シリーズとして登場したプリメインアンプ。現行のラックスマン製品群の中で、もっともロングランのプリメインアンプになります。
出力段はJJ製「EL84(6BQ5)」をチャンネルあたり2本用いたプッシュプル構成で10W+10W(6Ω)が公称値。トランジスターアンプに比べると桁を間違えているのでは?と思うほどの小出力ですが、近接視聴で不満を覚えることは少ないでしょう。
この出力段をEL84のプッシュプルで構成するという方式は、1961年にリリースした同社初のプリメインアンプ「SQ-5A」でも用いられていました。
もちろん部品も回路も全く異なりますが、長い歴史を有するラックスマンの遺伝子が、A4サイズのアンプにも息づいているように思いませんか?こうした浪漫もオーディオにとって重要なことだと思います。
パーツレイアウトはトラディショナルな真空管式パワーアンプそのもの。ですが現代的なサンドブラスト仕上げのシルバーボディが現代的なイメージを与えてくれます。フロントパネルにはアナログ出力メーターも用意。レベルメーターは観ているだけでも楽しいですよね。ヘッドフォン出力端子も用意されているのも好印象。ヘッドフォンで聴きたい夜もありますからね。
入力はラインレベル3系統のほか、MM/MC切替式のフォノ入力1系統を用意し、アナログレコード再生にも対応しています。
入力セレクターが電車のスロットルレバー(マスター・コントローラー)のような形がとてもユニーク。セレクターの感触もよく、ボリュームも適度な重さで操作する度に指が歓びます。触感はオーディオにとって、とても大切な部分。ラックスマンはそこも熟知されているように思います。
バス/トレブル及び左右バランスといった音質調整機構を設けている点も見逃せないポイント。小音量時に低域をちょっと上げたい、とかありますからね。しかもセンタークリック付きで、適度なトルクを必要とする手触りも好印象。セレクターと音量調整のみというプリメインアンプやプリアンプが多いですが、このようなコントロール機能はとても貴重です。
A4サイズだからと机の上に置いてみると、意外と高さがあり存在感たっぷり。当初、音量調整しやすいことから手元に置いていたのですが、机近くのキャビネットの上に置いてみたら、これがシックリとくるではありませんか。
デザイナーさんから「オーディオラック以外の場所に置かれて使うことも考えてデザインした」というお話を伺ったことがあるのですが、実際に置いて納得した次第。
置いてみると距離が遠かったなど、音量調整がちょっと面倒なことになってしまった場合に備え、別売でリモコンも用意されています。
ヘッドフォン愛好家に人気の「ZEN DAC3」と組み合わせてみました
SQ-N150にはUSB入力がないので、PCと接続する際は別途何かを用意しなければなりません。発売当初は対となるCDプレーヤーとして「D-N150」がラインナップされており、そこにUSB入力があったのですのが、気づけば販売終了。
また同社からは過去にUSB入力とヘッドフォン出力を設けたコンパクトな単体D/Aコンバーターが幾つもあったのですが、今はすべてディスコン……。
そこで、PCとの接続は私物であるiFi audioのDAC「ZEN DAC3」を用いることにしました。ZEN DAC3は、PCM 768kHz/32bit、DSD 22.5MHzのサンプリングレートに対応し、MQAデコーディング機能も有したモデルです。
入力はUSB-Cのみとシンプルであるいっぽう、出力はアンバランスとバランス(4.4mm)を各1系統用意し、しかも固定出力とフロントパネルのボリュームノブで調整可能な可変出力にも対応しているという多機能ぶり。4.4mmバランスと6.3mmシングルエンドのヘッドフォン出力も有していることから、ヘッドフォン愛好家の方からとても人気を集めているようです。
ZEN DAC3はUSBバスパワーでも動作しますが、外部電源入力端子も用意し、別売りの電源アダプター類を使えばクオリティアップが図れます。
順当に買おうかと思いましたが、それはそれで面白くないので、電気部品の通販サイト「マルツ」でトランス式のACアダプターであるパトスの「DK-050-R」(2,715円)でポチっとお買い上げ。試してみると心なしかS/Nが上がり音に力が漲ったようにも……。
美味しい岩清水を飲んだような、滋味深い味わいにニッコリ
接続を終えSQ-N150の電源を入れると、真空管が想像よりも煌々と光る印象。ボリュームを上げてスピーカーに耳を近づけてもノイズっぽい音は聴こえません。真空管保護カバーを外すには小さな六角レンチが必要で、安易に取ってほしくないという意思を感じました。こういう部分はメーカー製らしい細かな配慮といえるでしょう。
「真空管アンプの音って、少しナローで温かみを覚える温度感の……」というステレオタイプのイメージとは異なる、僅かに冷涼でワイドレンジという現代サウンド。美味しい岩清水を飲んだ時のような清涼感と甘みを覚える音触と、適度な質量をもたせて地に足の着いた表現。スピーカーが消えたかのような深い奥行きと、オーディオ的な解像感を際立たせることなく、音楽の良さを丁寧に表現するあたりにラックスマンらしさを覚えます。
ラックストーンとは音色云々ではなく、真摯な音楽表現だと勝手に思っています。
AV WatchがQobuzに公開しているプレイリスト「AV Watchスタッフセレクト-製品試聴で使う25曲-」から、ボーカル曲として宇多田ヒカル「One Last Kiss」。囁くような宇多田の声を綺麗に表出。演奏とコーラスを分離しすぎず綺麗に溶け込むサウンドデザインが、楽曲に一層の寂しさと切なさを与え、楽曲のテーマである「喪失」を切々と聴き手に伝えます。
人気YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」の2026年1発目は、まさかのAdoでした。檻から解き放たれた獣のようなパフォーマンスで熱唱した「うっせぇわ」は、強烈なメッセージを「こんな歌い方をして喉をつぶさないのか?」と心配になる歌声に乗せてリスナーに届ける彼女の代表曲。元日公開は、新年の厄払いの意味でもあるのかな、などと思ったり。
灯った真空管のような熱い歌声と、その対極ともいえる甘い蜜を、このシステムはストレートに再現。スピーカーとの距離が近いこともあってか、よりAdoの若者の主張が心に刺さります。
この若者の主張を聞きながら、「自分も昔はそう思っていた時もありました。でも年を経て、色々諦めて丸くなったなぁ」などと少し反省をしてみたり。もう一度、ナイフみたいに尖ってもいいのかなと、新年早々想ったのでした。
聴いているうちに、あっという間に陽が暮れて。試しに部屋を暗くすると、真空管の灯が部屋を照らすと、色気のない部屋が一気にムーディに。改めて真空管アンプは耳だけでなく目でも愉しめます。
クラシック界にピアソラブームを巻き起こしたギドン・クレーメル(vn)のアルバム「Hommage a Piazzolla」に納められた「Buenos Aires hora cero」(ブエノスアイレス午前零時)は、ピアソラのナンバーの中でも広く知られている1曲。
コントラバスとヴァイオリン、チェンバロ、ピアノ、バンドネオンが織りなす、凛と張り詰めた空気感が部屋を包み込み、暗闇の中で起こる様々な情景が目に浮かぶかのようです。少しクールな音色が、この楽曲にはピッタリとマッチするようです。
ギドン・クレーメルの「Hommage a Piazzolla」
夜になるとジャズが聴きたくなる時間。ブルーノートを代表するピアノ・トリオ、ホレス・パーランの傑作「US THREE」に納められたタイトル曲は、グルーヴィーでアーシーな1曲。
ジョージ・タッカーのベースが静かに躍動するのは、SQ-N150の電源部がしっかりとしているから。アル・ヘアウッドのドラムが小刻みに刻むリズムも心地よく、これはお酒が進むというものです。
真空管アンプの楽しみは、出力管が交換できること。EL84は比較的低価格で出回っていますので、差し替えて好みの音を捜すのも愉しいと思います。
ちなみに真空管そのものの寿命は意外と長く、人によっては毎日12時間使って5年経っても平気だったという声を聞いたことがあります。真空管壁面にあるクロームの部分(ゲッター)が薄くなってきたら交換の目安と思って頂ければと思います。
真空管の灯が心に灯されたようで、共に過ごすうちに生活に少し潤いが出たような。音楽とより親密になれるデスクトップオーディオ環境に真空管アンプを選ぶのは、実にアリな気がしたのでした。

































