レビュー

“Wi-Fiヘッドフォン”って何?ワイヤレスと思えない高音質、HIFIMAN「Arya WiFi/HE1000 WiFi」

左から「Arya WiFi」と「HE1000 WiFi」

昨年末の「ポタフェス」で発表され、話題となったHIFIMANの“Wi-Fiヘッドフォン”「Arya WiFi」と「HE1000 WiFi」が、1月23日に発売される事になった。さっそく実機を使ってみたので、音質と共に、Wi-Fiヘッドフォンとは何か?もレポートする。

価格はArya WiFiが236,500円、HE1000 WiFiが456,500円というハイエンドヘッドフォンでもあり、それぞれ有線ヘッドフォンの「Arya Unveiled」と「HE1000 Unveiled」をベースにしている。

なお、今回の試聴は開発中のファームウェアのデモ機を用いているので、製品版と違いがあるかもしれないことを注記しておく。

Wi-Fiヘッドフォンとは何か

さて、「ワイヤレスヘッドフォン=Bluetooth」という現在において、あえてWi-Fiによるオーディオ伝送を選んだこの2機種は、ヘッドフォンというジャンルにどのような可能性をもたらしてくれるのだろうか。

まず、そもそもWi-Fiヘッドフォンとは何か、というところから見ていこう。

「Wi-Fiヘッドフォン」というのは普通のワイヤレスヘッドフォンがBluetooth接続なのに対し、Wi-Fiで接続できるワイヤレスヘッドフォンのことである。

ワイヤレスヘッドフォンといえばBluetoothが当たり前になった現在、「Wi-Fiでヘッドフォンを使う」という発想は、まだ多くのユーザーにとって馴染みが薄いだろう。しかし近年、この“Wi-Fiヘッドフォン”というジャンルは、確実に水面下で動き始めている。

まず記憶に新しいのはSONOSが出すと言われていた「Wi-Fiヘッドフォンの噂」だ。この噂が盛り上がっていたのは本格的にホームオーディオのシステムの中で機能するヘッドフォンが登場するのではないかという期待感が高かったからだ。SONOSならばそれができるだろうと考えられていたが、実際に登場したものはSONOSのエコシステムのみで使用できる限定的なものだった。

一方で、昨年のOTOTENに参考出展されていたStreamUnlimitedの「魔改造品」Wi-Fiヘッドフォンの試作機「Stream to Go」は、ヘッドフォンからSpotifyに直接接続をして、ストリーミングを直接ヘッドフォンで受けるというWi-Fiヘッドフォンの可能性を示した。

昨年のOTOTENに参考出展されていたStreamUnlimitedの「魔改造品」Wi-Fiヘッドフォンの試作機「Stream to Go」

さらに昨年のAV Watchで何度か書いたように、Qualcommは「XPAN」というBluetoothとWi-Fiのハイブリッドともいうべきオーディオ規格を打ち出すなど、Wi-Fiヘッドフォンの周辺から地慣らしはされていた。

これはヘッドフォンがWi-Fiにつながることによって、オーディオ機器の一員としての価値が高くなるという期待感が高いからだ。しかし、肝心の「Wi-Fiヘッドフォン」は未だ製品としては出てきていなかった。その障壁はいくつか考えられる。

Wi-FiはBluetoothに比べて消費電力が大きく、ネットワークに参加するための初期設定も複雑になりがちである。また価格も高価になってしまう。ただしヘッドフォンは、イヤフォンに比べて大容量バッテリーを搭載しやすく、物理ボタンなどの操作系も確保しやすい。また比較的高価格の製品クラスの余地がある。

HIFIMANはこの点を冷静に見極め、Arya WiFi、HE1000 WiFiというWi-Fiヘッドフォンという選択肢に踏み込んできた。

同社はBluetooth接続の「Ananda BT」をはじめ、ワイヤレス平面駆動ヘッドフォンに早くから取り組んできたメーカーである。その経験の延長線上に、Arya WiFiとHE1000 WiFiは位置付けられていると言える。

Wi-Fiヘッドフォンで何ができるのか

Wi-Fiヘッドフォンの価値は、前の章で述べた期待感の高さがそれを裏付けている。

まず音質面では、Bluetoothのコーデック制約から解放され、高ビットレート、あるいはロスレスに近い伝送が可能となる。機能面では、AirPlayに対応することでiPhoneやMacから直接音声を送出できる。さらに重要なのが、Wi-Fiヘッドフォンがホームネットワークの一員として機能する点である。例えばRoonでの使用も可能であり、ヘッドフォンが本格的にホームオーディオの一員となるわけだ。

この思想は、従来の「ポータブル機器としてのヘッドフォン」とは一線を画している。それゆえArya WiFiとHE1000 WiFiは比較的高価格の高性能モデルが選ばれているのだろう。

もっとも、Arya WiFiとHE1000 WiFiはいずれも開放型ヘッドフォンであり、遮音性はほとんどない。屋外利用には向かず、用途は明確に家庭内リスニングに限定される。これは弱点というより、設計思想の明確さと捉えるべきだろう。

つまりWi-Fiヘッドフォンとはホームオーディオの一員として、ハイレゾ・ロスレス音源を再生可能なヘッドフォンのことである。

それでは、2モデルを詳しく見ていこう。

共通の特徴、Unveiled、そしてHIFIMANの中核技術

Arya WiFiとHE1000 WiFiに共通する最大の特徴は、有線モデルと同様に「Unveiled」技術を採用している点にある。

Unveiledとは、従来のグリルやメッシュを極力排し、ドライバー背面をほぼ完全に開放するHIFIMAN独自の設計思想だ。これにより、背面反射や共振の影響を低減し音質を改善することができる。端的に音の透明感が上がる技術と言っても良い。

Arya WiFi
HE1000 WiFi。どちらもドライバー背面をほぼ完全に開放するHIFIMAN独自の設計“Unveiled”仕様だ

両者ともドライバーには、同社独自の「NEO スーパーナノ振動板」を採用する。これはナノメートル単位の極薄振動板で、質量を極限まで抑えることで、高速な応答性と歪みの低減を狙ったものだ。

Arya WiFiのドライバー構成
HE1000 WiFiのドライバー構成

さらに磁気回路には「ステルスマグネット」を採用、音波の回折や乱れを抑制することで、平面駆動型特有のクリアな音像定位を実現している。また両者ともステルスマグネットと強化マグネットを半分ずつ採用することで、エアフロー制御とマグネットの強さのバランスを両立させている点も大きなポイントだ。

加えて本機は、HIFIMAN独自開発の「HYMALAYA Mini DAC」を左右それぞれに1基、計2基搭載している点も特筆すべきだろう。そしてヘッドフォンアンプ回路が別に搭載されている。ワイヤレスとしては肝心のオーディオ回路部分も凝ったものとなっているわけだ。

HIFIMAN独自開発の「HYMALAYA Mini DAC」を左右それぞれに1基、計2基搭載

注意点としては、アナログ入力はない。USBを使用してPCなどからUSB DACとして接続することはできる。

USB DACとしてDAPやPCなどとUSB接続して使うことは可能だ

Arya WiFiとHE1000 WiFiの違いは、主にドライバーグレードとチューニングにある。HE1000は同社のフラッグシップ系譜に位置付けられ、より高い解像度と高音質を追求したモデルであり、Aryaは高性能だが、より低価格で求めやすくしたモデルだ。いずれにせよどちらもかなりハイエンド機種と言える。

左から「Arya WiFi」と「HE1000 WiFi」

外観と使用感

両モデルともに外観は基本的に有線モデルのデザインを踏襲しつつ、ハウジング内にアンプ、DAC、ネットワークモジュール、バッテリーを内蔵している。有線モデルと直接見比べているわけではないが、ほとんど変わらないようだ。

重量は増加しているが、ヘッドバンド構造やイヤーパッドの完成度が高く、長時間のリスニングでも負担は感じにくい。側圧は適度で強い締め付け感はない。ヘッドバンドは長さに余裕があり、頭の大きいユーザーでも問題ないだろう。この点に関しては両方とも共通している。

Arya WiFiは黒のシックでシンプルなデザインであり、対してHE1000 WiFiはゴールドカラーでより金属感が際立って見える。

Arya WiFi
HE1000 WiFi

ボタン類は音量調整ボタン、機能切り替えボタン、電源ボタンの3つがある。状態は機能ボタンのLEDの色で確認する。電源投入時はBluetoothモードがデフォルトで、機能ボタンを押すことでWi-FiモードとUSB接続モードに切り替えられる。

Arya WiFiのボタン類。配置はHE1000 WiFiも同じだ

初期設定

Wi-Fiネットワークに入るためには初期設定が必要だ。電源を投入して機能ボタンを押すと一旦LEDが緑点灯した後に一度消え、また点灯する。これはシステムのリスタートを意味していると思われる。はじめはヘッドフォンにアクセスポイントとして接続し、そこから設定をする。

まずスマホやPCのWi-Fi設定を開け、"AP-HIFIMAN-STREAMER-XXXXXXXX" (XXXXXXXXはデバイスの識別子)と表示されたネットワークに入り、マニュアルに記載されたパスワードを入力、その後にスマホのブラウザを立ち上げ、URLの項に192.168.2.1と入力する。するとヘッドフォンに内蔵された設定アプリが立ち上がる。

その画面の自宅のWi-FiのIDを選んで、パスワードを入力する。そして今立ち上げたブラウザを閉じることで設定終了だ。

初期設定画面

専用アプリはないので、設定は少し複雑である。ラズパイや初期のPCオーディオを思わせる。

もしスマホがiPhoneならば出力先を確認するとAirPlayの接続先として「HiFiMAN-STREAMER-...」という名前が表示されるので、それを選択すればすぐにAirPlayで再生することができる。Macからも同様だ。

それではこのAirPlayを使用して音質を確かめてみよう。

ストリーミング再生中の画面。下にデバイスとして「HiFiMAN-STREAMER-...」と書かれている

ワイヤレスとは信じられないサウンド

Arya WiFi

まずArya WiFiから聴いてみた。 端的に言って、透明感がきわめて高くハイエンドらしい高い音質を有している。

低域も誇張感は少なく、平面型らしい正確なベースサウンドで、ウッドベースのピチカートも端切れよく解像感がかなり高い、低音も出過ぎた感じはない。

特にジャズヴォーカルではヴォーカルの声の微妙な震えや細かいニュアンスも伝わり、有線のハイエンドヘッドフォンと遜色はない。中高域の伸びも良く、刺激感もよく抑えられていて音に高級感がある。ハイハットやシンバルの音もとても澄み切っていて歪み感は少ない。

ジャズヴォーカル曲の村上ゆき「Bang Bang」ではヴォーカル表現が肉質感高く魅力的であり、ギターとウッドベースの解像感が高いことで生演奏っぽく感じられる。そして演奏の躍動感、曲の持つ緊張感がよく伝わってくる。音楽の持つスピード感も平面型らしい。

クラシックのオーケストラものでは迫力とともに広々としたスケール感が楽しめる。低音の無理な誇張に頼らない、平面型による本物の迫力という感じだ。

総じてワイヤレスで感じる残念な曇り感のようなものはほとんど感じられない。音調は自然で着色感もほとんどない。これはヒマラヤDACらしい音再現でもある。そして音の抜けの良い透明感の高さがUnveiledモデルであるという独特の個性まで伝わってくる感じがする。かなりハイレベルの再生音だ。

HE1000 WiFi

HE1000 WiFiはAryaよりもさらに解像感が高い。ウッドベースの演奏がさらに生っぽく響きが細かく感じられる。ヴォーカルもさらに艶かしく、細かな声のニュアンスがわかる。特に中高域の伸びは感覚が震えるくらい素晴らしい。音の密度、余韻のなめらかさ、微細なニュアンスの描写力において、Aryaよりも一段上の完成度を感じさせる。そしてUnveiled独特の透明感をさらに堪能ができる。

村上ゆきの「Bang Bang」をこちらで聴いてみると、声がより透明感高く、ギターとウッドベースの解像感はさらに高く、スピード感はさらに上である。

比較すると解像感の違いの他にはAryaは少し重心が低めで、HE1000はもっとフラットで少し腰高に聞こえる。これは単に性能の上下だけではなく、ユーザーの音の好みが介在するところだろう。Hi-Fiという点ではHE1000に軍配が上がるが、音の好みという点ではAryaも魅力的だ。ちなみにWi-FiなのでMacから両方を同時に繋いで比較再生することが容易だった。

両者ともクリアで鮮明なサウンドはワイヤレスとは信じられないだろう。内蔵されているHYMALAYA Mini DACも成熟を重ねたせいか、小型でもかなり音が良いと感じられる。あくまでHIFIMANの平面駆動ヘッドフォンとして成立した音があり、その上でWi-Fiという伝送手段が選ばれている点も見逃せない。

もしかしたら電気抵抗のある有線ではなくワイヤレスだから音が良いのではないだろうか、という言葉が喉元まで出かかっている。今回は有線モデルとの直接比較試聴は行なえていないが、もちろん有線で高性能DACとヘッドフォンアンプを接続したら話は違ってくるだろう。いずれにせよ「ワイヤレスでここまでできるのか」と感じさせる説得力は十分だ。

Wi-Fiヘッドフォンの音質の良さは分かった。それでは次にどのような使い方があるかを探ってみた。

ユースケース、どんな使い方ができるのか

原稿執筆時点ではまだ仕様は不確かな点もあるが、説明書内の図版を見る限り、AirPlay、TIDAL(日本未サービス)、Roon、Spotify、Qobuz、および中国向け音楽配信サービスといったネットワーク対応が想定されていることが分かる。

まずは手持ちのアプリと機材で、いくつか試してみることにした。

MacやiPhoneと組み合わせた場合には、Apple MusicやAmazon MusicのようなストリーミングサービスからAirPlayで再生ができた。また今回はテストできなかったが、MacやWindowsではRoonからRoon Ready機器としての接続も可能だろう。例えば夜間や家族がいる時間帯にスピーカー代わりとして使うこともできる。

また図示されてはいないが、試してみてDLNA(UPnP)が使用できることがわかった。これを利用してAstell & KernのプレーヤーからワイヤレスでAK Connectの出力先として選択し、再生することができた。

ただしChromecastには対応していないようで、Android単体での使い勝手は限定されてしまう。ただしAndroidなら豊富なアプリで使いこなすことができるだろう。例えば「Neutron Music Player」アプリからはDLNAデバイスとして再生できた。またAndroidの「USB Audio Player Pro」アプリからは有線のUSB接続で再生ができた。

なおSpotifyは対応サービスとして表示されており、実際にデバイスアイコンからSpotify Connectの接続先として選択することができる。ただし筆者の環境においてはなぜか再生ができなかった。まだ開発中ということなのだろう。

Spotify Connectのデバイス選択画面

このSpotify Connectは、Wi-Fiヘッドフォンの本質を最も分かりやすく示してくれる機能だ。従来はスマートフォンが主で、ワイヤレスヘッドフォンはそれに従属する存在だった。しかしWi-Fiヘッドフォンではその関係が逆転し、スマートフォンは単なるリモコンとなり、ヘッドフォン自身が「インターネットの住人」として主役を担う。ヘッドフォンはスマートフォンを介さず、直接インターネットにアクセスし、高品質音源をストリーミングサーバーと直接やり取りするのだ。

これは、Bluetoothがインターネットの基盤であるIPプロトコルをサポートしていないのに対し、Wi-Fiはそれをサポートしているから可能なことだ。Spotify Connectは、まさにWi-Fiヘッドフォンならではの機能と言える。

このようにiPhoneとMacはそのままでもかなり使い勝手がよい。WindowsもRoonやDLNA機器として活用できるだろう。ただしAndroidは工夫が必要だ。そしてこれはHIFIMANのヘッドフォンの問題ではなく、一般的なPCオーディオの課題である。つまりヘッドフォンが一般的なPCオーディオとして考えることができるようになったということだ。

ちなみに試聴中にMac、iPhoneとiBasso「DX260」、Astell & Kern「KANN Ultra」を同時に使用し、かつArya WiFi、HE1000 WiFiの両方と同時に接続できた。Bluetoothでは考えられなかった自由さである。実はfoobarでも試してみたが、そうして今回試したことを全て細かく書くと今でも長めの原稿がさらに倍の長さになるだろう。それほど選択肢が多い。

こうして考えると、Wi-Fiヘッドフォンは「外に持ち出すガジェット」よりもむしろ「家で使うオーディオ機器」であるという性格が透けて見えてくるようだ。この点では開放型のハイエンド・ヘッドフォンに狙いを付けたHIFIMANの製品展開は正鵠を射ていると言えるだろう。

誰に向いているのか、どう選ぶべきか

Arya WiFiとHE1000 WiFiは、万人向けのヘッドフォンではない。まず屋外利用や通勤・通学を重視するユーザーには向かないだろう。接続など慣れていないユーザーには少しハードルが高いかもしれない。逆に言えばBluetoothならばそうした面倒な手間はない点が良いわけであり、ペアリングをBluetoothで行ない、伝送をWi-Fiで行なうハイブリッド方式であるXPANの利点にも気がつくだろう。

一方で、家庭内で高音質リスニングを楽しみたいユーザー、ネットワークオーディオやPCオーディオに親しんでいるユーザーにとって、Wi-Fiヘッドフォンは極めて合理的な選択肢となる。

そしていずれにせよ、音が良い。これだけ音が良いヘッドフォンをBluetoothで使うのはもったいない。実際にBluetoothでも音を試聴してみたが、Wi-Fiモードとの音質差はかなり大きいと感じられた。

価格帯を踏まえた買い分けとしては、Arya WiFiは、Wi-Fiヘッドフォンという新しいスタイルを現実的な価格で体験したいユーザーに向く。

一方、HE1000 WiFiは、ワイヤレスであっても妥協のない音質を求めるユーザー、フラッグシップクラスの表現力を求める層に適したモデルだ。

HIFIMANはこの2機種によって、「ワイヤレス=妥協」という固定観念に明確な疑問符を投げかけている。

まだWi-Fiヘッドフォンはニッチな存在に留まるかもしれないが、その方向性は確実に、ヘッドフォンの未来の一端を示していると言えるだろう。

Arya WiFiとルーター
佐々木喜洋

テクニカルライター。オーディオライター。得意ジャンルはポータブルオーディオ、ヘッドフォン、イヤフォン、PCオーディオなど。海外情報や技術的な記事を得意とする。 アメリカ居住経験があり、海外との交流が広い。IT分野ではプログラマでもあり、第一種情報処理技術者の国家資格を有する。 ポータブルオーディオやヘッドフォンオーディオの分野では早くから情報発信をしており、HeadFiのメンバーでもある。個人ブログ「Music To Go」主催。http://vaiopocket.seesaa.net