レビュー
「オーディオは電源が大事」、リニア電源搭載のSFORZATO「DST-Draco」を聴く
2025年11月28日 08:00
「オーディオは●●」だ、とよくいう。今回は「オーディオは電源だ」をストレートに体現した、国産ネットワークトランスポート「DST-Draco」を取り上げる。
筆者は、昨年「DST-Lacerta」というSFORZATOが開発するネットワークトランスポートを導入。AV Watchにもその導入記を書いた。その後継機になるのが、今年8月8日に発売されたDST-Dracoであり、この製品こそ“電源”が注目なのだ。
SFORZATOは、2009年に設立されたネットワークオーディオ製品を専門に開発している国内のメーカーだ。これまでネットワークプレーヤーのほか、トランスポートやDAC、マスタークロック製品などを発表してきた。SOULNOTEと共同開発した「ZERO LINK」や「USS(Ultimate Sound Stream)」など新しい技術への探求も盛んであり、ネットワークオーディオを深く愛する代表の小俣氏が次に何を生み出すのか注目が寄せられている。
DST-Dracoは、DST-Lacertaと機能を同じくしつつも、電源をACアダプターから内蔵リニア電源に変更し、筐体もリニューアルしたモデル。取材で得られたWeb初公開情報も交えて、その魅力を掘り下げてみたい。
リニア電源搭載で、筐体は大きく
DST-Dracoは、RJ-45のネットワーク入力を備えたUSBデジタル出力対応のネットワークトランスポートだ。昨今のトランスポートは、光LAN入力を備えたり、I2SやS/PDIFの出力を備える製品も存在するが、DST-DracoはシンプルにUSB出力に絞った最もスタンダードなトランスポートとなる。トランスポートなので、DA変換機能は備えておらず、USBで接続したお好みのDACでデジタル⇒アナログ変換を行なうシステムだ。ここ数年、ネットワークトランスポートが注目されているのは、ネットワークオーディオの役割分担による音質改善が確かなものであるというコンセンサスが整ってきたためだと筆者は受けとめている。
超小型トランスポートDST-Lacertaは、惜しまれながらも昨年5月の発表をもって在庫限りの終売となった。去年の1月からDST-Lacertaを導入している筆者にとって、待望の新モデルであるDST-Dracoの進化は気になる所だった。Lacerta(とかげ)がDraco(りゅう)に進化したとは、はてさて、言い得て妙であるのか。
主な仕様をみていこう。RJ-45のLAN入力を1系統、USB Aの出力を1系統備え、UPnP(OpenHome/DLNA)に対応し、Diretta入力も可能とする。専用のコントロールアプリTaktinaを利用すれば、QobuzやTIDAL(日本未サービス)、Amazon Music Unlimitedのストリーミング再生に対応する。NASの音源を再生するといった用途であれば、一般的なコントロールアプリ、fidataやLINNなども使用可能だ。
Roonについては現在のDST-Lacertaと同様、Windows PCに専用のDirettaドライバー(ASIO)をインストールすることで、Diretta経由での利用ができるようになる。対応フォーマットは、PCM 768kHz/32bit、DSD 512(22.5MHz)まで。AC電源ケーブルが付属する。サイズは189×240×101mm (幅×奥行き×高さ)、質量は3.9kg。価格は300,000円(税別)。
前モデルであるDST-Lacertaとは機能的は同一であるDST-Draco。最も大きな変更点は、電源のリニューアルだ。5V/4AのACアダプター駆動から、大型トロイダルトランスと大容量電解コンデンサによるディスクリート構成のリニア電源にグレードアップ。
内部の基板は前機種と同様の3枚構成とのこと。マザーボードとその上に載っているマイコンモジュール、そしてディスクリートリニア電源の3種類。
前機種では電源基板といっても、ACアダプターから入ってくる5V DCをマザーボードに供給するための中継基板だった。そちらが大型トロイダルトランスを使ったリニア電源に変わったことで、筐体サイズが2周り以上大型化、重量も6.5倍となった。
脚部は、ソフトスパイクから、アルミ削り出しの安定脚へと変更。前機種では、重量のあるケーブルを接続すると、スパイクが滑ってしまうこともあったそうだが、脚部の変更と重量の増加で安定した設置ができるようになった。自重の増加とフットの変更は、当然音質にも貢献している。
DST-Lacertaから共通の仕様として、ITF-NET AUDIOの採用は、各種ストリーミングサービスのクオリティを大きく底上げしている。本稿では詳しく触れないが、Qobuzはもちろん、Amazon Music Unlimitedが驚くほど高音質だ。ビットパーフェクト再生にこだわったITF-NET AUDIOを引き続き採用しているのもポイントだろう。
実物の存在感は予想以上だった。DST-Lacertaをそのまま大きくしたような、大きな弁当箱という雰囲気。天板がヒートシンクを兼ねるのも同じだ。フロントプレートが大幅に分厚くなっていて高級感がある。ボディの鋼板も厚くなっていて、堅牢さを伺わせる。ずっしりとした本体は、電源部の物量を感じてワクワクした。
背面は、LAN入力とUSB出力のほかはアップデート用のUSB-Aポートのみで、スイッチやmicro USBポートは廃止された(DST-Lacertaの後期仕様と同一)。電源スイッチが新たに搭載。個人的に嬉しいところ。DST-LacertaもUSB-DACの電源を入れなければ、ネットワークに検出されない仕様だったが、さらに一歩、省エネ仕様になった訳だ。
DST-LacertaとDST-Dracoを聴き比べる
DST-Lacertaユーザーの筆者としてできることは何か。そう、DST-Dracoとの音質対決だ。あらかじめ、DST-LacertaのACアダプターと組み合わせているノイズ除去とバルクキャパシターのアクセサリーを外し、素の状態で試聴曲を聴いた。ひとしきり楽曲を聴いた後、DST-Dracoに交換。同じ曲で比較した。
ラックの最上段は、USB-DACのNEO iDSDが乗っている以外は空きスペースにしてある。ちょうどNEO iDSDの隣にDST-Dracoが収まった。横幅が抑えられているのは地味にありがたい。
新たにAC電源ケーブルが必要になったため、サブウーファーに使用していたケーブルを流用した。実売30万円弱のオーディオ機器を扱うユーザーは、電源ケーブルも好みの品を揃えるだろうという想定だ。当該ケーブルは、POWER STANDARD-TripleC8800を線材に、プラグはフルテックの無メッキを使用して自作した。
筆者のシステムは、スピーカーにRUBIKORE2、アンプはL-505uXII、USB-DACはNEO iDSD、ソースはSoundgenicのSSD 1TBとQobuz、ネットワークスイッチにはN8を使用している。
最初はフュージョンから。Beagle Kickの「Anyway」。最初の数秒でSN比が上昇していることが分かって顔がほころんだ。高域のザラつきが解消され、楽器のディテールはさらに克明に。ドラムの金物の微細な余韻の描き分けにはゾクッとした。ドラマーの山内氏があちこち細かくハイハットを叩き分けていたレコーディングの時間を思い出す。
MANHATTANZの最新アルバムNo Turn on Redより「Full Bloom」。バスドラとベースにコシが入って、音量感は変わらないが、力感が上昇している。比べるとやや浮ついたような音だったDST-Lacertaに対して重心の安定感が改善している。ソファーに深く腰掛けてリラックスして聴きたくなった。
ギターやサックスのような前にグッと出てくる楽器、ベースとドラムはその背後にいる、奥行きの位置関係がより正確に現れた。サックスを空気で吹いてる感じも生々しい。
次にオケ系の楽曲。ガールズ&パンツァー交響曲より「第五楽章/それぞれの想い」。
SN比の改善がとんでもないことになっている。一発録りのソースほど分かりやすそうだ。静寂から穏やかに立ち上がってくるイントロは、本当に会場で鑑賞しているような気分にさせられる。歪み感も少なく、とてもピュアだ。中低域のエネルギーは余裕が感じられ、生オーケストラの盛り上がりにも腰砕けしていない。
飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート 2019より「伝承: めでた(アンコール)(採譜: 小坂法幸 編曲: 酒井格)」。これはすごい。客席のかすかなざわめきが知覚できるではないか。電源以外は同じなのに、会場の空気もそのまま持ってくるし、空間の記憶も運んでくれる。そういっても、差し支えない変化だ。コントラバスの重低音は深みを増し、音に強かな芯が入る。響きの余韻が質感豊かで、ホールの壁や天井の存在を想像させてくれた。リニア電源特有の有機的な質感が心地いい。
吹奏楽も掛けてみた。響け!ユーフォニアム 10周年吹奏楽アルバム「espressivo」より「一年の詩 ~吹奏楽のための (全国大会金賞 Ver.)」。こんなに“吹奏楽感”あったの!? 最初の数秒を聴いただけで、圧倒されてしまう。楽器を息で吹いている(鳴らしている)のがより伝わってくる。低域のエネルギーや密度感は格段にアップ。やっぱり比べるとDST-Lacertaは腰が抜けたようなサウンドに思えしまう。ローからミッドにかけての瞬発力もあるから、演奏のダイナミクスがより生演奏に近付いて心が躍る。ハープの高域はクリーンで、純度も高い。
いやはや、想像以上だ。何一つDST-Lacertaと比べて劣っている点は見当たらない。リニア電源は、コンデンサの選定によって音の傾向が変わるといわれるが、DST-Dracoの設計は実に絶妙だと思う。適度にオーガニックな質感を加え、生命感を備えながら、音楽のバランスまでは崩さない。小俣氏の開発へのこだわりが透けて見える。
続いて、ボーカルもチェックだ。幾田りらの「Actor」。ベースは肉厚な音で一段とリッチに、シンセの音は透明感を増した。ボーカルは、気持ち優しさを感じる。ディテールは鮮明に描かれて、空気感もアップしているのだが、リニア電源による質感が心地よさをキープしており、分析的な音に寄りすぎていない。
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』オリジナルサウンドトラックより照井順政の「Far Beyond the Stars (GQuuuuuuX ver.)」。音場がクリーンになって、前後感が出てくる。ボーカルリバーブの階調の豊かさと、浮かび上がるようなセンター定位の精密さに息を呑む。
ストリングスは滑らかな質感をまとっているが、それは決してあざとくはない。演出的ではなく、至って音楽的だ。トランジェントを鈍らせるほどではなく、艶っぽさも絶妙に加えている。
ラウドなミックスのJ-POPでも意外と改善効果は高いようだ。フラチナリズムのグレイテストライフより「アカイイト」を聞くと、アコギの立ち上がりが繊細で生らしさがアップしていることに気付く。キーボードやウインドシンセのような打ち込みトラックも、バンドセクションとの分離が大幅に改善し、「あ、こんな音あったんだ!」ってアレンジャーの田村氏のテクにグッときてしまった。別にDST-Lacertaでも鳴ってないわけではない。ただ、集中して聴かなくても、自然と耳に入ってくる。「聞こえなかった音が聞こえる」系は、この自然さが大事だと感じる次第だ。
バスドラの質量、ベースのたっぷりとした音もたまらない。これぞバンドサウンドの説得力である。ボーカルは、ディテールの彫りが深く、声帯から発せられる声のコアの部分がより感じられた。
最後にサウンドトラック系から1曲。Beagle Kickと同じ和田貴史が劇伴を担当したサラリーマンが異世界に行ったら四天王になった話より「約束の鼓動」。ピアノの実音とリバーブ、それぞれが明確に聴き分けられることにハッとした。ストリングスの音の広がりや奥行きもアップして生演奏の躍動は向上しつつ、アコギの音は明瞭にそこにある。録音された生の音場はもちろん、ミックスで作り込まれた音場の設計を正確に伝える実力は、電源の改善に伴うクロック周りのパフォーマンスアップが効いているのだろうか。この曲だけでなく、時間解像度も上がっているように思えてならない。
試しにDST-Lacertaに戻すと、ピアノの輪郭がボヤーっとしてしまった。ピアノの実音とリバーブ同士が混濁して、悪い意味での“ミックス”だ。ストリングスは平面的になって繊細さとダイナミックな味わいが削がれて興醒めした。ううむ、自分が使ってる製品だから、この言葉を使いたくないが、“ションボリ感”といったらない。あとアコギとかに高域の雑味が混ざって一度気になったら居ても立っても居られない。
慌てて、元々使っていたノイズ除去の「iPurifier DC2」とバルクキャパシターである「Petit Tank Solid State」を加える。ノイズを減衰しつつ、電源全体の余裕もプラスする作戦だ。これで雑味はだいぶ除去できたし、実音とリバーブの描き分けもいくぶん良くなった。ストリングスの立体感もある程度まで改善。やらないよりはやった方がよい。
しかし、しかしだ。DST-Dracoとは根本的な格の違いを感じる。地に足のついた揺るぎない音の安定感。低域の力感にコシの入り具合。音の大きさが瞬時に変わったときの追従性能。これらの要素が大きく異なる。特に、クラシックやジャズ、ライブ音源などを好んで聴く人なら、よりグレードアップの恩恵を強く感じることだろう。
















