レビュー
ながら聴きでも“出過ぎるほどの低音”JBLの革命児「Sense Pro」を聴く
2025年11月20日 08:00
耳穴をふさがない、いわゆる“ながら聴きイヤフォン”。圧迫感が無く、外の音がしっかり聞こえて安心なので、通勤通学だけでなく、オフィスやリモートワークでも便利に使っている人もいるだろう。
便利な反面、カナル型イヤフォンと比べると、どうしても音質は劣り、特に密閉しないので低音が抜けてしまってスカスカした音になってしまう……というのが、少し前までの常識だったが、実は各社がこの弱点に技術で挑み、“ながら聴きでも低音が出るイヤフォン”が増えてきている。
そしてその流れの、1つの頂点とも言えそうなイヤフォンが登場した。“パワフルな中低域”と言えばこのブランド、泣く子も黙るJBLの「Sense Pro」がそれだ。
このJBL Sense Pro、結論から先に言うと、「お前本当にながら聴きイヤフォンなの?」と言いたくなるほど、本格的な低音が出る革命的なイヤフォンで、ながら聴きイヤフォンでは生まれてはじめて、低音が出過ぎるので、イコライザーを使ってちょっと抑えるという信じられない体験もした。
「ながら聴きイヤフォンは、音質がちょっと……」と思っている人にこそ、一度聴いて欲しいモデルになっている。
16.2mmの大口径ユニット搭載
このJBL Sense Pro、新製品なのだが、「前にニュースで見たな」という読者も多いだろう。
実は8月末~10月下旬まで、GREEN FUNDINGで日本導入に向けたクラウドファンディングを実施しており、そこで目標達成率7,200%超えという驚異的な結果を残した。そしていよいよ、11月20日から、一般販売がスタートしたわけだ。
直販価格は24,200円で、ながら聴きイヤフォンとしては高級機となる。
だが、細部を見ていくと、ふんだんにコストと技術が投入された、かなり攻めたながら聴きイヤフォンになっているのがわかる。
形状としては、イヤーフックとイヤフォンが一体化した“耳掛け型”だ。フックの部分は、様々な人の耳にフィットするように、チタン合金製ワイヤーと、柔らかいキッドシリコン素材で作られており、不快感無く耳に装着できると共に、柔軟に動いて耳の形状にフィット。フックの先に搭載しているイヤフォン部分が、耳穴方向を向きやすいように確度を最大20度まで調整できるようになっている。
注目は、音が出るドライバーを内蔵したハウジング部分。丸みを帯びた四角形になっており、ながら聴きイヤフォンとしては筐体サイズがかなり大きい。それもそのはず、この中には16.2mmと、イヤフォンとしてはかなり大口径なダイナミック型ユニットが入っている。
このサイズでは、当然耳穴には入らない。大口径ユニットを、耳穴の前に“吊るしている”ような構造だ。
ドライバー自体にも工夫があり、振動板に炭素コーティングを施すDiamond-Like Carbon(DLC)を活用している。剛性を高める効果があり、クリアでパワフルなサウンドになるという。
ここから放出されるサウンドを、前述の調整しやすいフックと本体機構により、ダイレクトに耳穴に届くよう装着できる。これは、低音から高音までバランスよく聴き取るための工夫だが、それだけでなく、しっかりと音を聴き取れるようになるため、必要以上に音量を上げなくて済むという意味でもある。
コーデックも本格的で、高音質コーデックのLDACにも対応。SBCやAACもサポートしている。
また、JBLのオープンイヤー型イヤフォンとして初の「Auracast」にも対応している。Auracast送信機と組み合わせると、複数のSense Proに同時にサウンドを送ることができる。
どう使うの?という話だが、例えば、何人かでダンスを踊る時に、全員でSense Proを装着して、音楽に合わせて踊りつつ、外の音も聞こえるので、声をかけあったり、観客の声援を聞くなんて事も可能だ。
新幹線で移動中に、何人かでSense Proを装着し、まわりの人に配慮しつつ、タブレットに表示した映画を皆で見る……なんて使い方もできる。
Auracastではなく、マルチポイント接続にも対応しているので、スマートフォンとタブレットなど2台同時接続も可能だ。
アプリは「JBL Headphones」が利用できる。10バンドEQを搭載しており、ユーザーが音質調整できるほか、「Personi-Fi 3.0」で左右の聴覚を測定し、ユーザーに最適な再生に調整する事も可能だ。ただし、LDAC接続する場合は、EQやPersoni-Fi 3.0は利用できない。
マイクも備えており、左右合計4基のビームフォーミングマイクと骨伝導音声ピックアップセンサーも搭載する。これを組み合わせて、周囲の音とユーザーの声を判別し、ユーザーの声のみを集音する事で、通話やビデオ会議もクリアな声でできる。マイク周辺エリアの気流の乱れを抑えることで、風切り音も低減できる。
音を聴いてみる
音楽を聴く前に、装着感から。
耳掛け式なので、まずはイヤーフックを耳の裏にスッと通すようにして装着する。形状が特徴的なこともあり、指で触った時にどこがフックなのかすぐわかるため、イヤフォンを見ずに耳に装着するのは簡単だ。個人的には、耳たぶを挟むように装着するイヤーカフ型よりも、Sense Proの方が装着しやすく感じる。
装着安定性を高めるコツは、ドライバーが入ったイヤフォン部分を、少し内側に押し込む事だ。こうすると、耳穴の前の空間に、イヤフォン部分が蓋のように入り込むカタチになり、ズレにくく、落下しにくくなる。
こうしてしっかり装着すると、首をぶんぶん左右に振ったり、駆け足したくらいではビクともしないほど安定感は高い。
耳穴の周囲にイヤフォン部分が触れるので“耳穴の手前に何かがあるな”という異物感はそれなりにある。イヤーカフ型のように、耳穴の前に何も無いイヤフォンと比べると、開放感は少し落ちる。ただ、カナル型のような閉塞感はない。
Pixel 10 XLとLDACで接続。Qobuzアプリから、「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生してみる。
冒頭のピアノから、アコースティックベースが入ってきた瞬間に、Sense Proがただのながら聴きイヤフォンでない事がわかる。
ベースの低音が、しっかりと深く「ズーン」と沈む。同時に、パワフルに張り出してくる。音楽をベースが下支えしつつ、胸にドーンと響くようなパワフルさで、迫力も加えてくれる。今までのながら聴きイヤフォンで聴いたことがないレベルの低音であり、「ホントにながら聴きイヤフォンなの?」と驚いてしまう。
見事なのは、これだけパワフルな低音が出ているのに、ボーカルやピアノの高音は埋もれず、キッチリと耳に入ってくる事。低音から高音までワイドレンジに再生できる、イヤフォンとしての基本的な能力の高さが感じられる。
“カナル型イヤフォンに負けない低音”と言っても良いクオリティだ。というか、部分的にはカナル型を超えていると感じる部分もある。それは、ながら聴きタイプなので、低音がパワフルに響いても、同時に開放感が維持されている事。
カナル型では、低音がパワフルになると、、密閉された空間に低音が充満して、全体がモコモコした不明瞭で圧迫感のある聴こえ方になりがちだ。Sense Proにはそれが無く、地下のライブハウスで低音を浴びるようなパワー感がありつつ、屋外ライブ会場のような開放感もある。これは今までに体験したことがないサウンドだ。
これだけの低音が再生できるならと、「米津玄師/KICK BACK」を再生したが、これがもう最高だ。エレキベースやドラムの低音が、襲いかかるように激しく迫ってくる。ながら聴きイヤフォンでこの曲の醍醐味を味わえたのは、Sense Proが初めてだ。
新曲「IRIS OUT」も聴いてみたが、冒頭のビートが鋭く切り込むだけでなく、「ドンドン」と低音に厚みがあるため、リズムが体に響いて、思わず体が揺れてしまう。ながら聴きなのに、しっかりサウンドに“ノレる”のが、Sense Proだ。
音が良いからこそ、カスタマイズする楽しみも
しばらくパワフルなサウンドを楽しんでいたのだが、音質が良いからこそ、「ここをもう少し変えたいな」という欲求が頭をもたげてくる。
個人的な好みとして、低音の量感を少し抑えたい。ながら聴きイヤフォンに、まさかこんな注文をつける日が来ると思わなかったが、出過ぎなほど低音が出ているのだから仕方がない。
LDAC接続をやめて、イコライザーのカーブをいじって、少しだけ低音を下げると、まさに筆者の好みな、低音の膨らみが抑えられ、タイトさのある“中まで見える低音”になった。自分でカーブをいじりたくない人は、プリセットの「STUDIO」を選んでも似た効果が得られる。
また、低音と高音の主張が強めで、中域が少し弱いなと感じる部分もあったのだが、それは測定をして、個人の耳に最適化してくれるPersoni-Fi 3.0を実行したら、中域もグッと前に出るようになり、全体のバランスが良好になった。前述の通りLDAC接続と排他利用にはなるが、個人的にはLDACにこだわるよりも、Personi-Fi 3.0やEQを活用して、より好みなサウンドに調整すると、満足度が高まると感じた。
“音漏れ”への対策は?
このように、音質的な満足度の高いSense Proだが、ながら聴きイヤフォンであるため、気になるのは“音漏れ”だ。特に電車の中などで、隣の席の人に聞こえていないかな?と心配になる。
この問題にも対策がされており、独自技術「OpenSoundテクノロジー」が搭載あされている。これは、ドライバーユニットが前後に振動することで、再生している音波と、位相が180度異なる逆位相サウンドを生成。それを意図的に当てることで、音が不必要に拡散しないように抑制する機能だという。
実際に、「IRIS OUT」を、普段聴いている音量よりも少し大きめのボリュームにして、他人に装着してもらい、そのすぐ隣に座ってみたが、ほとんど漏れた音が聞こえてこない。思いっきり耳を寄せたら少しは聞こえるが、電車内でそんなシチュエーションは無いし、そもそも電車内は走行音も満ちているので、隣の人にはほとんど音楽は聞こえないだろう。
ただ、だから大音量で再生しても良いというわけではなく、周囲への配慮は忘れないようにしよう。それ以前に、自分の耳の健康を維持するためにも、必要以上に大音量にするのは控えよう。
その意味では、Sense Proは中低音がしっかり再生できるため、必要以上に音量を上げる必要がないイヤフォンでもある。ここも、大きな魅力の1つだ。
1台2役の使い方ができる
24,200円というSense Proの価格は、ながら聴きイヤフォンとしては高価だ。だが、実際に使ってみると、「これはアリだな」と感じる。
というのも、すでにながら聴きイヤフォンを持っているという人は、おそらくカナル型などの他のイヤフォンも所有しており、本格的に音楽を聴く時はカナル型を、何かの作業をしながらBGM的に音楽を流す時はながら聴きイヤフォンを……という、使い分けをしている人が多いだろう。
しかし、Sense Proを使っていると、「本格的な音楽鑑賞も、Sense Proでいいな」という気がしてくる。リモートワークや勉強時など、便利なながら聴きイヤフォンとして使いながら、それが終わって音楽に没頭する時も、そのままSense Proを活用する。1台2役の使い方ができるイヤフォンと考えると、24,200円という価格も、それほど高くはないと思える。
また、そもそもカナル型の装着感や、閉塞感が苦手という人には、Sense Proは福音的な存在になるだろう。閉塞感は無く、開放的な空間で、迫力の音を楽しむ……。今まで、開放型ヘッドフォンでしか味わえなかったようなサウンドを、イヤフォンで実現したSense Proには、今までのイヤフォンとは違う魅力がある。
ただ、前述のように、大型ドライバーを搭載する事にり、イヤフォンの筐体部分がそれなりに大きいので、耳穴の前に、小さな蓋があるような装着感になり、イヤーカフ型ほどの開放感はない。“迫力の低音と開放感”という両立が難しい要素を、限界まで追求したイヤフォンでもあるだろう。
装着感も含め、まずはお店などで、試聴して欲しい。この低音を体験すれば、「ほんとにながら聴きイヤフォンなの!?」と驚くはずだ。














