レビュー
ファミコンカセットみたいにDAC交換できるコンバータ。往年の名機が美味しくなって新登場!?
2025年11月7日 08:00
近頃のオーディオ機器は、内部に搭載された部品を積極的にアピールしている。特にDAコンバーターの分野では、バーブラウンの「PCM○×△□」だとか、ESSの「ES□△×○」を採用! というように、デバイスメーカーを含めて、かなり詳細に書かれることが多い。
今日のオーディオはデジタルといっても様々なフォーマットに対応する必要があるし、セールスポイントのひとつとして対応フォーマットの多さが重要視される。最新鋭のチップであれば対応フォーマットがより多くなり、製品としての魅力もアップする。
一方、オーディオはスペックだけでは測りきれない世界だ。旧式でスペック的にはマイナスポイントがあっても、他に替え難い音質を持つもの――いわゆるヴィンテージの世界もあるということに、異論はないと思う。
そんなDACチップ戦国時代とも言える今、あえて“デジタルオーディオ黎明期のDACチップ”を使い、しかもそれらを交換可能にしたDAコンバーターユニット「D-10VN」(259,800円)がConclusionから発売された。
製品の詳細についてはこの後に記すが、本機はDACチップ交換で音の違いを愉しめるのはもちろん、最新のデジタル処理によって往年のDACチップの新たな魅力を引き出すことに成功した、とてもユニークなものだった。
Conclusionとは?
Conclusionというブランドを知っている方は、衛星放送を楽しんでいた方か、雑誌「ステレオ時代」を継続して読まれている方ではないだろうか。
発足当初は港北ネットワークサービス株式会社が販売していたCS音楽放送(ミュージックバード)のチューナーに名付けられたブランドだった。その後、クラウドファンディングを活用し、FMアンテナから受信した電波を直接デジタル変換してから復調する、いわゆるフルデジタルのFMチューナー等を精力的にリリースしている。
チューナー以外の分野では、ステレオ時代とのコラボによって誕生した、NECの伝説的プリメインアンプ「A-10」のエッセンスを引き継いだ「A-10SG」や、A-10シリーズの特徴であった電源部“リザーブ電源”を発展させた、A-10SG用電源ユニット「P-10」といった製品を世に送り出している。
いずれの製品も、クラウドファンディングを活用して製品化されているのが特徴的で、根強いファンがいることが伺える。
今回取り上げる「D-10VN」も当初クラウドファンディングを活用して開発され、今年9月3日からは一般販売が開始された。
まずはスペックと外観をチェック!
音を聴く前に、まずは製品スペックと外観を見ていこう。
本体の外形は、250×250×100mm(幅×奥行き×高さ)で重量は4kg。フルサイズのコンポと比較すると約半分の大きさだ。
フロントパネルには入力セレクターとヘッドフォン出力用のボリューム、そして中心部には現在装着されているDACボード名と、ロックしているサンプリング周波数を表示するディスプレイがある。
ディスプレイのOFF/ON状態で音質が変化するオーディオ機器もあるが、本機は常時点灯でオフにすることはできない。
フロントパネルの厚さは実測5mmのヘアライン仕上げで、定価に相応しい高級感がある。
天板はコの字に折られた一般的なもので、サイド各2点、背面1点の5点でビス留めされている。DACボード交換のため、天板の一部は分離できる構造だ。脚は凸型の真鍮スパイク3点でフロント2点、リア1点。スパイク受けは付属していない。
デジタル入力は合計4系統。USBは1系統で背面にUSB-B、フロントにUSB-Cポートがあり、排他利用で同時接続時はフロント側が優先される。S/PDIFは同軸(コアキシャル)が2系統、光(TOSLINK)は1系統。
USBポートは、筆者の使用しているM1 MacBook Proを接続するとドライバーレスで認識し、24bit/192kHzまで受け入れ可能だった。
出力は2系統で、背面のRCA端子と、フロントパネルに4.4mmバランスのヘッドフォン/イヤフォン端子を備える。
RCA端子は筐体とテフロンで絶縁された丈夫なものが使われ、重量のあるケーブルを挿し込んでも軋まない。間隔も広いため、太いケーブルを繋いでも物理的干渉には悩まされないと思う。
電源は3ピンのIECインレットで、金メッキ品。付属する電源コードはオーソドックスなものだ。
DACボードは4種類の多彩なラインナップ
本機最大の特徴である交換式DACボードは、4種類を用意する。
使われているチップは、バーブラウン社の「PCM53JP-V」、ソニーの「CX20152」、そしてフィリップスの「TDA1540P」と「TDA1541A」で、いずれも既に生産されていない。
往年生産されたCDプレーヤー等から抜き取ったりして手に入れることはできるが、メーカーの量産品としてこれらのチップを採用するには、入手性や品質担保の面でかなりハードルが高かったはずだ。おそらくConclusionには、この手の部品の入手が得意な目利き人がいるのだろう。
D-10VN本体を購入してバンドルされるのはPCM53JP-Vボードのみで、その他はオプションボードを購入する形になる。
また、TDA1541Aは末尾にS1やS2、王冠マークの刻印がなされた特性選別品が存在し、こういったものを自ら用意して使いたいという方のために、デバイスレスのボードも用意する。
標準で付属する「PCM53JP-V」ボード
PCM53JP-Vはバーブラウン社(現テキサスインスツルメンツ)が製造していたもので、主に1980年代中盤のCDプレーヤーに多く採用されたものだ。
変換方式はマルチビット型。普及価格帯のものから高級機まで、幅広い価格帯のオーディオ機器に採用された。高級機の代表的なものとしては、ソニーの「CDP-553ESD」や、国産初のセパレート型CDプレーヤーであるLo-D(日立)の「DAD-001」などがある。
ソニーの積分型DACが現代に復活!「CX20152」ボード
CX20152は、デジタルオーディオの世界を切り開いたソニーが手がけたDACチップだ。
ソニーはCD誕生以前からPCMプロセッサー(ベータマックスを記録メディアにしたデジタルレコーダー)の分野などでAD-DA変換を必要とするオーディオ機器を手がけていたことから、CDプレーヤー向けにも自社でDACチップをこしらえた。
当初は「CX890」という品番だったが、改良が施され「CX20017」に品番が変わり、最終型となるCX20152では、2倍オーバーサンプリング(サンプリング周波数88.2kHz)に対応した。
変換方式は積分型と言われるもの。詳細はここでは省くが、高速化(ハイサンプリングレートのデータを処理する)が難しく、1980年代後半にはソニー自身もバーブラウンやフィリップスのデバイスを使い始めた。
このチップは外販されソニー以外のメーカーでも採用例はあったが、'90年代に突入する頃にはごく一部の業務用機器を除いて姿を消してしまった。
主な採用機種は、パイオニア「PD-9010X」やソニー「CDP-502ES」「CDP-552ESD」。初期型のCX890やCX20017は、ヤマハ「CD-1」、Aurex(東芝)「XR-Z90」など、各社のCDプレーヤー1号機に多数採用されている。
積分型DAコンバーターは、デジタルオーディオの進化の過程で収束してしまったひとつの世界線だが、D-10VNの登場によって新たな可能性が芽生えたと言えよう。
伝統のフィリップス製「TDA1540/1541」ファミリー
TDA1540は、フィリップスがCDプレーヤーを商品化するために開発した、14bitのマルチビット型DACチップだ。同社の業務用CDプレーヤーである「LHH2000」や、今でも根強い人気を誇るマランツ「CD-34」などに搭載されている。
14bitであることがスペック上でも販売上でも不利になるため、相方として開発したデジタルフィルター「SAA7030」と組み合わせることで、4倍オーバーサンプリングと2次のノイズシェイピングを行ない、16bit機と比較してもスペック上の遜色はない、と主張していた。
DACチップを14bitとした理由は様々語られているが、筆者は当初フィリップスはCDの規格を14bitで設計していて、当然デバイスも並行して開発する中で、DACも14bitにした――これが一番の理由だと考えている。
TDA1541は、TDA1540を改良したもので、基本的な仕組みを変えずに16bit化されている。やはりピュアな16bitには及ばない部分があったのだろう。相方のデジタルフィルターも改良されて「SAA7220P/A」となり、ノイズシェイピングは廃止された。
バリエーションとして、改良版である「TDA1541A」が存在し(デジタルフィルターも「SAA7220P/B」となる)、同社のマルチビット型DACの完成形として普及機から超ハイエンド機に至るまで、多数の製品で採用された。
ソニーのセパレート型最高級機「CDP-R1/DAS-R1」や一体型の最高級機「CDP-555ESD」、STUDERの「A730」、フィリップスの「LHH1000」、そしてNECの「CD-10」などなど、名前を聞いただけでドキドキするセットには、TDA1541Aが使われている。
ところでこの2枚のボード、DACチップに限らず、周辺の部品もフィリップス社の流れを汲むVishay(BC Components)社の電解コンデンサを使うなど、とにかく抜かりのない作り込みがなされている。
大手のメーカーでは部品の仕入れルートや安全性試験など、海外製部品を搭載するために高いハードルを越えなければならないと考えられるが、このような小回りの良さは新鋭メーカーならではだろう。
まるで当時のCDプレーヤーが“美味しくなって新登場”
ここからは、お楽しみの試聴である。
今回はハイサンプリングレートなデータも試すため、我が家で最も最新鋭のオーディオ機器「WiiM Pro Plus」のTOSLINK出力を、オーディオクエスト社の「OptiLink-5」で繋ぐ。
操作方法は取り扱い説明書を読まずとも分かる非常にシンプルなもので、電源をオンにしてインプットセレクターをソースに合わせるだけだ。
DACボードの交換は、天板にある2本の手回しネジを緩めてカバーを外し、手で引き抜く。手回しネジを緩めると自動で電源がオフになるので、電源の切り忘れは発生しない。DACボードを挿し込む時は、内部にガイドがあるので、それに沿って挿し込めばよい。
まずどのDACボードでも共通して言えることは、往年のCDプレーヤーで聴いたそれぞれの音の特徴を残しながらも、解像感やSNがアップデートされた音に驚いた。一言で言うならば、当時のCDプレーヤーが“美味しくなって新登場”である。
美味しくなった理由は、そもそもトランスポート(ソース機器)と分離されていること、周辺デバイスの進化、リザーブ電源の効果などなど……考え始めればキリがないが、大局的なこととして「ソース機器との分離」と「周辺デバイスの進化」は、音にかなり影響を与えていると思う。
そしてこれは、「往年のDACチップで単体DAコンバーターを作る」というConclusionの挑戦によって実現できたことで、コンセプトと実際の出音という2つ面で、オーディオの面白いところに上手くフォーカスしていると感じた。
各ボードごとの音の傾向だが、搭載されているデバイスメーカー固有の音色があり、差し替えると明らかに音は変化する。
標準搭載のPCM53JP-Vボードはバーブラウンらしいメリハリのあるややソリッドなもので、Fレンジの凹凸が少ないHi-Fi調の音が楽しめる。バーブラウンは最終的にマルチビット型DACチップの最高峰と言われる「PCM1704」を作り上げるが、その音に通ずる本質的な良さがあると言える。
これをCX20152ボードに交換してみると、一変。ソニーらしい端正で分析的に聴かせてくれる音なるのだが、一方これはソースの良さ、悪さをハッキリと描いていると思われる。
立ち上がり、立ち下がりもよく、強烈なシンバルやトランペット音を聴いてもダルさを感じないのには驚いた。この音は、同じDACチップを使った「CDP-502ES」にはなかったもので、トランスポートと分離したことが上手く効いているようだ。
そして洋モノの代表格であるTDA1540P・TDA1541ボードにすると、音楽の楽しさや面白さといった部分をグッと引き立てる演出の上手さが光る。
面白いのは14bit(TDA1540P)と16bit(TDA1541)の違い。筆者の好みとしては16bitをとるが、癒し系の音が欲しい時にはTDA1540Pボードを選ぶといった使い方もあると思う。
どのボードにも言えることだが、DA変換以前のデジタルフィルターや、DA変換後のアナログ回路でも音質は大きく変わる。
D-10VNではデジタルフィルターに相当する処理をオリジナルのCPLDで行なっていると思われるため、この辺のチューニングが更に深まれば、また音の印象も変わるだろう。ファームウェアのアップデートなど、今後の継続的なサポートに期待したい。
使いこなしで音が変わる
本機はいわゆるハーフサイズのコンポで、スペック上の重量は4kgしかない。
試しに天板に鉛棒(TGメタルのハーフ)を置いてみたところ、音の重心がグッと下がって、上下左右の音場がより広がった、立体的な音に変化した。鉛棒も乗せ過ぎると鮮度の感じられない音になったりするが、筆者の環境では1.25kgの棒を2本置いた時が最も好印象だった。
次に入力する音源だが、仕様上24bit/192kHzまで対応しているものの、16bit/44.1kHzの音源を入力している時が最も良いように感じた。ソースの違いも多分にあるとは思うが、DACチップの作られた時代を考えると、いわゆる“ローレゾ”のデータをダイレクトに入力するのが、無理をしないということなのだろう。
そして、前面のヘッドフォン出力端子について。
出力端子は4.4mmのバランス端子が用意されている。試しに筆者が所有する唯一のバランス接続できるJust ear(XJE-MH/NY333)で聴いてみたが、駆動力不足を感じることもなく、DACボード交換の効果がハッキリ分かる、素直な音を楽しめた。電源が強力なので低音は特に力強く、これはポータブル機では得難いアドバンテージだろう。
最後にこのD-10VN、いったいどこで見たり買えたりするの? というところだが、注文はステレオ時代の公式WebサイトからオプションのDACボード含めてオンラインで行なうことができる。
また編集部を通じて確認したところ、現在、Conclusionのホームページでデモ機の貸し出しが申し込めるように準備を進めているとのこと。さらに今後は、オーディオショップ等での店頭常設デモも予定しているそうだ。
デジタルオーディオの黎明期を経験してきた方はもちろんのこと、平成生まれのオーディオファンの方にも、是非D-10VNを通じて、古くて新しいデジタルの音を体感してみて欲しい。




