レビュー

JBL・ソニー・B&Wの音がモニター脳を超えていく。今注目のハイクラスヘッドフォン3機種聴いてみた

家で音楽リスニングする時に、デスクトップ環境に繋いでいるモニタースピーカーやモニターヘッドフォンで分析的に聴いている人……AV Watch読者の中にも、きっと少なくないだろう。我が家もわりとそんな感じだった。

しかし、音楽コンテンツがどんどんリッチ化している近年、ふとした瞬間に「いやもっとリラックスして、音楽的な演出をどっぷり楽しみたいわ」と感じる場面が増えてきた。いわば、“モニター脳”から“リスニング耳”に。自分の好みの変化を実感している昨今だ。

そんな中、「そういう杉浦さんに聴いてほしいヘッドフォンが、3つもあります」とAV Watch編集部からオススメされた機材たちが、今回の主役である。ずばり、JBL「TOUR ONE M3」、ソニー「WH-1000XM6」、Bowers & Wilkins「Px7 S3」の3機種だ。

結構、いろいろなところで比較試聴されてる印象の3機種

いずれも、2025年春期に発売された価格レンジ4〜6万円台の“音の良いBluetoothヘッドフォン”として注目されているモデル。同3機種の比較レビューはすでにさまざまなところで取り上げられているし、さすがに筆者も存在は知っている。

そこで今回は、がっつりスタンダードな比較というよりは、「長年のモニターサウンド脳で聴いたとき、それぞれどんな楽しみ方ができるのか?」という切り口で紹介したい。“音の正しさ”だけでなく“音のときめき”の世界へ、思いっきりダイブしてみようと思う。

“モニターサウンド脳”という性癖に変化のきざし

参考までに紹介しておくと、我が家の基本再生システムは、ソニーのヘッドフォン「MDR-CD900ST」+ヤマハのアクティブスピーカー「MSP3」という、エントリー型のデスクトップモニター環境。

加えて、自分が有線イヤフォンを取材する時は、リファレンスにUltimate Earsのイヤモニ「UE Reference Monitor」を使用するスタイルでやっている(ちなみに、MDR-CD900STとMSP3は元々夫の私物だが、家族の共有財産ということで使わせてもらっている)。

筆者宅のMDR-CD900ST

正確な音を聴くことと、音楽を楽しむ感覚は両立するのか……という話になると沼が深いので、ここではあくまでも筆者個人のパターンとして説明するが、結論を言うと両立していた。

これはもうほぼ性癖なのだが、自分はひとつひとつの音やリズムがどこに置かれているか、どのタイミングでそれが鳴らされるかという、楽曲の“構成そのもの”を感じて萌えるタイプなのだ。

だから、楽曲の骨組みを見通せることがまず大事で、モニター環境はドンピシャだった。例えるなら、“他人の書いたソースコードを見てうっとりする”みたいのと近いかもしれない(そんな音楽の聴き方は邪道だと言われてしまうかもしれないが……)。

しかし近年、どんどん音がリッチ化しているコンテンツやそれを再生する機材側の進化が、いよいよ個人的な癖(へき)を越えてきた感がある。

仕事で音楽リスニング用のヘッドフォン/イヤフォンを聴いて、「ああ、低域が伸びて沈み込むの良いな〜」なんて思うことが多い。簡単に言うと、モニターでは薄味になる“演出感”を存分に楽しみたい欲が増幅している。

個人的な癖の変化には、外出時に使う完全ワイヤレスイヤフォンとして、Technics「EAH-AZ60M2」やJBL「Tour Pro 3」、Bowers & Wilikins「Pi6」を使っているのも大きい。音は全部良い

しかもBluetoothコーデックの進化により、音楽リスニングの世界は“ワイヤレスの手軽さ”と“良い音”を両立している時代だ。今を生きるイチ音楽ファンとして、その恩恵は受けないと損じゃね……? とも思うのだ。

注目のハイクラスヘッドフォン3機種を体験

というわけで、ここからが本番。編集部からオススメされた3機種をお借りして、価格順にレポートしていこう。いずれもAV Watchでは何度も記事化されているので、モデルごとの詳細は文中のリンクから過去記事を参照いただきたい。

ここでは“音質”に加えて、音楽リスニング用Bluetoothヘッドフォンならではの“機能性”や“デザイン性”という観点も含めながらご紹介していく。3機種とも、筆者のAndroidスマートフォン「Google Pixel 8a」とBluetooth接続し、TOUR ONE M3と WH-1000XM6はLDAC、Px7 S3はaptX Adaptive接続で使用した。

JBL「TOUR ONE M3」

TOUR ONE M3は、「モニター系からリスニング系に変えるなら、こういうヤツが欲しい」と思っていたイメージそのまま、今どきのハイクラスなBluetoothヘッドフォンど真ん中の実力が感じられる1台だった。

スペックとしては、内部に新開発の40mmマイカドームドライバーを搭載し、Bluetooth再生機能は高音質コーデックのLDACをサポートするハイレゾ仕様。新たに「リアルタイム補正機能付ハイブリッドノイズキャンセリング2.0」に対応したというノイズキャンセリング(NC)性能も超優秀だ。

空間オーディオの臨場感を高めるヘッドトラッキング機能も搭載しており、とにかく“今どきの良いBluetoothヘッドフォン感”がある。

そして業務用モニターヘッドフォンとは違うのが、見た目。シンプルだが決して無骨ではなく、スマートさがある。JBLロゴがさりげなく刻印された丸いイヤーカップも、サラサラ感のあるシックな手触り。ヘッドバンド部もイヤーパッドもふかふかで装着性が良い。

価格は49,500円。さらに派生品として、ディスプレイ付きのトランスミッターを同梱するモデルも57,200円でラインナップされている。トランスミッター付きセットの方も、ガジェット的な感覚で選びたくなる価値がある。

トランスミッター「Smart Tx」。簡単に言うと、JBLの完全ワイヤレスイヤフォン「Tour Pro 3」のディスプレイ付き充電ケースのディスプレイ部分だけを分離したもの

そのサウンドは、モニター脳の自分には低音の量感と迫力が記憶に残り、王道にエモく感じる。キレのある低域がほど良く広がる方向で、中高域の抜けが良く、広めの音場の中で一体感がある。総じて、「そうそう、こういう聴こえ方を楽しみにしてた」と、“音楽系”に期待する体験をばっちりさせてくれる。

「Mrs. GREEN APPLE/クスシキ」(96kHz/24bit)を再生すると、3機種の中でもっともロックバンドっぽいグルーブで鳴らしてくれた。低音重視でベースがうねり、アップテンポで時に変化するリズムを躍動的に楽しく聴かせる。

本曲はアニメ「薬屋のひとりごと」の主題歌で、おそらくその世界観に合わせ、二胡や琴など中国の伝統楽器の音が使われているが、その中〜高域もなめらかで気持ち良い。

「NEW ROMAN TRIO/主よ、人の望みの喜びよ」(44.1kHz/16bit)はバッハのジャズトリオアレンジ。ベースラインに弾みがあって心地よく、ピアノの中〜高域の抜けが良いのが印象的。ハイハットの音が作り出す繊細な空気感も伝わってくる。

個人的には、過度に抒情的にならず神経質にもなりすぎずで、“良い音でエンタメ性がある”のが好印象だ。オールマイティな音と機能性を備えながら、3機種の中で唯一5万円以下で買えることもあって、幅広い人にオススメしやすいと感じた。初めてハイクラスなヘッドフォンを買う人にも選ばれやすいのではないだろうか。

ソニー「WH-1000XM6」

WH-1000XM6は、世界的にも高い評価を受けてきたソニーのBluetoothヘッドフォン“WH-1000XMシリーズ”の第6世代モデル。筆者は本機のみ、以前に別企画で使わせてもらったことがあるが、低音が豊かで迫力があり、特にサウンドが作り込まれた打ち込み系楽曲と相性が良いのが印象的だった。

内部には専用開発の30mmドライバーユニットを採用し、著名な世界的マスタリングエンジニアと共創したサウンドが大きな特徴。Bluetooth再生はもちろんLDACをサポートする。

そしてもうひとつ見逃せないのが、進化したQN3プロセッサーと、12基のマイクによるNC機能だ。これが実際に使ってみると本当に凄くて、業界トップクラスのNC性能を実現していると言って良い。

デザインはシンプル&ミニマムで、幅広く誰にでも似合いそうな、ちょうど良いオシャレ感がある。イヤーカップとヘッドバンドの付け根にソニーロゴが小さくあしらわれるさりげなさも良いし、全体的に質感が高くて所有欲をくすぐる。

装着性については、最初は側圧の強さが少々気になったが、使っているうちに慣れてきた。この辺の感触は人によって差があるかもしれないので、気になる方は一度試着してみた方が良いかも。

そのほか、「360 Reality Audio」音源の再生や、ステレオ音源も含めて立体的な音響として再生する技術「360 Upmix for Cinema」に新対応したり、AIビームフォーミングやノイズリダクションAIなどで通話性能も進化したりと、ソニーの新たなフラッグシップとして機能性が大きくレベルアップ。59,400円という価格にも納得の、てんこ盛りモデルだ。

サウンドを聴いていくと、こちらもモニター脳の筆者には、豊かな低音の鳴り方が強く印象に残る。引き締まった低域に勢いがある、ドラマチックな音だ。かといって高域が埋もれることはなく、全体の広がりも感じられる。この辺は、売りの機能のひとつである「360 Upmix for Cinema」モード時のバランスも考慮した音作りなのではないかと感じた。

ミセスの「クスシキ」は、Aメロのうねるベースがグイグイ聴こえやすく、手応えのある低音に体を揺らしたくなる。本曲のボーカルは言葉数が多く、広い音域を行き来するが、その主旋律が前に出て、疾走感のある再生で盛り立てていくイメージ。その脇で、二胡や琴など中国楽器の高音が煌びやかに伸びている。

NEW ROMAN TRIO「主よ、人の望みの喜びよ」は、勢いのある低音がジャジーなリズムを引き立てて、楽しく聴ける演出。ベースやドラムなどリズム楽器に量感があって、そこにピアノの中~高域が埋もれず絡んでいて、聴き終わった後に満腹感が残る。

なお、実は3機種の中で最も、再生する楽曲によって聴こえ方が変わる印象で、意外とオタッキーな鳴らし方だなと思った(褒めてる)。例えば歌モノ楽曲だとボーカルの印象が強いといった感じで、楽曲の主役がわかりやすい傾向がある。

個人的には、エレクトロ系など打ち込みのインスト曲を鳴らすと、ひとつひとつの音が印象深く響いて、満足度が高かった。元の音源の狙いが出やすいヘッドフォンなのかもしれない。

Bowers & Wilkins「Px7 S3」

ラストに取り上げるのは、Px7 S3。今回お借りした3機種の中で、本機だけがブランドのフラッグシップ機ではない。B&Wのヘッドフォンとしては、この上に最上位モデル「Px8」がラインナップされており、本機は“ピュアオーディオブランドが音にこだわったヘッドフォンの次位モデル”に位置付けられる。

内部には40mm径のバイオセルロース・ドライブ・ユニットを搭載。BluetoothコーデックはaptX AdaptiveやaptX Losslessに対応していて、この辺は発売時期の関係で上位モデルを超えた仕様となる。もちろんNC機能にも対応しており、今どきのハイクラスなBluetoothヘッドフォンとしての基本機能はしっかり押さえている。

またB&Wのヘッドフォンは、デザインのカッコ良さもよく語られるところだ。本機も、高級感のあるハウジングの加工や、ヘッドバンドのハンガー部分のうねりまで、とにかくスタイリッシュ。ファッションに合わせる感覚で装着できるヘッドフォンとも言えるし、実際に装着性も良くフィット感もある。

価格は、3機種の中で最も高価な68,200円。ただ上述の通り、B&Wのヘッドフォンとしては、この上に10万円超えのPx8が存在するわけで、それに次ぐモデルが約7万円でラインナップされている……という立ち位置。後述するサウンド面からいっても、十分に納得感がある価格設定だ。

そのサウンドは、3機種の中でもっともニュートラルかつ解像感が高い。見通しが良く、爽やかで精細感があり、ピアノの高域なんかはコロコロと転がるような軽やかさがある。

低域は他の2機種と比べると、バリバリ系の重低音好きには物足りないかもしれないが、モニター脳の観点では十分に鳴っている。沈み込みが深く、量よりも芯で鳴らす印象だ。バスドラムのアコースティックなアタック感もある。

ミセスの「クスシキ」は、全体的に解像感が高く、二胡や琴も含む各楽器の響きが自然。出だしで一気に掴んでくる強烈なギターにもインパクトがあり、常に真ん中のベースがタイトにうねっているのが気持ち良い。また、広い音域を行き来するボーカルにナチュラル感があり、声の表情も見える。

NEW ROMAN TRIO「主よ、人の望みの喜びよ」は、シンバルやハイハットの細かい音に精細感があり、ベースの低音がグッと沈み込んでグルーブを生んでいる。ピアノの中~高域には、アコースティックの芯のようなものが感じられ、こういった音数の少ない楽曲こそ、楽器それぞれの音をシンプルに美しく鳴らしてくれる印象だ。

本機は、おそらく世間的には音楽的なモデルと評される気がするが、「楽曲の元々の音をシンプルに高い解像感で聴かせる」という意味では、モニター的な聴き方に通じるところもあったのが発見だった。そう考えると、実はモニターヘッドフォンユーザーがシームレスに入っていきやすいリスニングヘッドフォンな気がする。

より“ときめきく音”を、耳の楽しみ広がる

ちなみに今回お借りした3機種とも、ハイクラスモデルとしてしっかり有線接続にも対応している。TOUR ONE M3とPx7 S3はUSBケーブル接続、WH-1000XM6のみ通常のヘッドフォンケーブル接続となる。

ただ正直、いずれのモデルもここまで良い音で聴けるならワイヤレスでも十分凄い。外出先にこの音を持ち出せるってヤバくね? ってなる。改めて、せっかく今の時代を生きるなら、Bluetooth再生技術の進化は享受しないともったいないと感じた。

そして、我が家のMDR-CD900STやMSP3と併用するなら……と考えた時、3機種とも個性それぞれで魅力的すぎた。“モニターサウンド”から“ときめき”へ、高音質再生の選択肢がたくさん広がっている現代ならではのヘッドフォン選び、楽しい。

杉浦みな子

オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀……と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハーです。 執筆履歴はhttps://sugiuraminako.edire.co/から。