
個人の生き方、パートナーとの関わり方、そして家族の在り方において、段々と選択肢が広がってきている現代。一方で、多くの人が切実に制度のアップデートを求めていても、なかなか変化は見られない。また恋愛や結婚、子を持ち育てること、あるいはジェンダーにまつわる「こうすべき」といった世間の風潮に対しても、違和感を抱く人は少なくないだろう。
そんななかで、自分と、誰かと、どう生きていくか。どんなパートナーシップや家族を築くか。それぞれがより自分に合った生き方を目指せる社会のために、さまざまな声を取り上げる連載。
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今回話を聞いたのは、臨床心理士/公認心理師でYouTubeやSNSでの発信やメディア出演もおこなう、みたらし加奈さん。YouTubeチャンネル・かなたいむ。の奏太さんと2025年の6月頃に共同アカウント・KANAKANAを開設し、現在は親友/パートナー/同志として一緒に暮らしている。2人の関係性において、大切にしていることを中心に伺った。
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友達として過ごすうちに見えた共通点
2人が初めて出会ったのは、LGBT当事者が「自分らしいキャリア」を実現するための一歩を応援するPRIDE SCHOOLで、同じ講師として顔を合わせたとき。奏太さんの最初の印象について、加奈さんは思い返しながら言葉を選んだ。
「YouTubeチャンネルの存在は知っていたのですが、顔を合わせて『柔らかい雰囲気で、いい方だな』と思いました。気が合うな、話しやすいな、という印象です。
でも当時、私にはパートナーがいたので、何かが動く感じではありませんでした。その後、パートナーとお別れした後に引き取った猫たちのお世話を、友達として助けてくれたのが奏太くんでした。それがきっかけで、友人として深い話をするようになっていったと思います」

奏太さんも、加奈さんの話に続く。
「僕も、彼女が当時のパートナーと運営していたYouTubeを知っていました。2人がつくりあげる世界観が印象的だったので、僕がその世界に入るみたいなイメージはありませんでした。でも、どんな形であれ、何かしら一緒にできたらいいなという感覚でしたね」
2人で過ごす時間が増えるにつれて、多くの共通点が見つかったという。
「もとの名前が二人とも『かな』だったり、まあまあ珍しいコンタクトの度数まで偶然同じだったり。身長も一緒で、顔つきも似ていると言われます。そうした共通点による親しみがあって、愛着が湧きやすかったんだと思います」

「幸せを壊したくなる」自分に初めてブレーキをかけられた相手
話している奏太さんをまっすぐ見つめながら、耳を傾ける加奈さん。他者の感情の揺れに寄り添う彼女が、自身の恋愛について語るときには少しむずかしい表情をする。
「実は私、関係性が上手くいって幸せで落ち着いているとすごく不安になるタイプで。思春期くらいから、破壊衝動のようなものがあって、恋人がいないときには不特定多数の人と関係性を持つような行動を取ることもありました。
また、これまでのパートナーとはお互いに、そうした破壊衝動をぶつけ合ってしまうこともありました。でも、奏太くんの前ではブレーキがかかったんですよね。そのときに申し訳なさとは違う気持ちが湧いてきた自分自身に驚き、モヤモヤしました。
そうした気持ちをどう表現したらよいかわからないまま過ごしていたら、奏太くんに気づかれて。初めて彼に『2人で一緒に幸せを築くということがわからない』と伝えました。
奏太くんとの関係を壊してしまいたいとは思わないけど、そうしてしまう可能性があることが苦しい。それならもう関係性を終わらせてしまいたい、と」

そのとき奏太さんが返した言葉が、加奈さんの世界を変えた。
「奏太くんから『もし今後その感情が生まれたら、どう別の形で表現できるかな』みたいなことを言われたんです。そんなこと考えたこともなかったので、言い淀んでいたら『新しい刺激を探すのはどうだろう』と。『毎月どこか行こうよ。2人で変化をつくろうよ』と言ってもらいました」
加奈さんの違和感に気づいた奏太さんは、言葉に隠された本音にも気づいたそうだ。
「僕は多分、相手の感情の変化に気づきやすいタイプ。出会って間もない頃、いろいろな話をするなかでポロッと、加奈ちゃんが『本当は穏やかでいたい』と言っていたんです。それを覚えていて。
今まで過ごしてきた人生や恋愛経験における刺激はとても多かったけれど、本当は穏やかに過ごしたい、と。それなら、僕が一緒にいることで何かできることがあるかもしれないと思いました。友達であったとしても、どういう関係性であったとしても。
一緒に関係性を築いていくうえで、それを一緒に実現できたらいいなと考えていました」

会話を重ねるたびに、「素の自分」を出せるようになった
日常的に、2人はよく喋るという。
「私たち、本当にずっと喋っているんですよ。たとえば、お風呂に入ろうと思って、給湯器のボタンを押すじゃないですか。それで、お湯が溜まるまでちょっと待つかと思ったら『そういえばさ』と始まって、気づいたらずっと立ち話しているんです。時計を見ると、朝の4時とかになっていたりして。
別に喧嘩しているわけでもなく、ただ真剣に話しているだけ。今日こういうこと思ったんだよね、この価値観ってさ、というように、話が尽きないんです。
私は、プライベートの人間関係でモヤモヤしたことがあってもバランスをとってしまうタイプ。友達に対しても、その場で疑問をぶつけるのではなく、どっちかというと持ち帰っちゃうほうで。
でも帰宅して、シャワーを浴びているときに突然『めっちゃムカついてきた!』みたいなときがあるじゃないですか。そういうときは奏太くんを呼ぶと、シャワーの前に椅子を持ってきてくれて、ずっと話を聞いてくれます」

奏太さんも笑いながら続ける。
「たとえば数時間でも、お互いに仕事で別の場所に行っていると、帰り道ですぐ電話するんです。今日こういうことがあってさ、みたいな。帰ったらすぐに会えるのにですよ」
加奈さんも大きく頷きながら、会話している光景について教えてくれた。
「最近気づいたんですけど、私たちが話し込んでいるとうちの猫たちが察知するんです。それで、『あ、今日もやってるな』という顔で集まってきて、気づいたらみんなで輪になっていることがあって。笑っちゃいました。
とにかく、単なる会話じゃなくて、その日に感じたちょっとした違和感や嬉しかったこと、人間関係のモヤモヤなど全部を共有しています。気づけばずっと話しているんですよ。びっくりするくらい」

「もう、なりふり構ってられない」と思った社会情勢
会話を重ねるなかで、2人で発信する形が自分たちらしさを最もよく表せると感じた加奈さん。Instagaramの共同アカウントの投稿には「昨今の社会情勢を見て、なりふり構ってられないと思った」と綴られている。
とりわけ近年は、トランスヘイトをはじめとする分断的言説がSNS上で増え、当事者に過度な負担や緊張を強いている現実がある。そんな状況が続くなかで加奈さんは、SNSの空気が世論を一気に揺らしやすい現在地に危機感を抱えながら、だからこそ当事者が自分の言葉で届ける必要性を強く感じてきたという。
「クィアコミュニティのなかでSNSで発信できる人は増えてきたと思うのですが、正直、今の政治やヘイトに対しての発信はそこまで多くないように感じます。そもそもカミングアウトしなきゃいけない場面があったり、『この情報、どう受け取られるんだろう』って不安があったりして、発信すること自体がすごくハードルになる。
1つの投稿が選挙や社会の空気にまで影響を与える現代、SNSにはポピュリズムに利用されやすい面もあります。この状況がずっと続くとは思わないけど、今は確実にそういう時代だという認識が強くあって。
だからこそ、私たちみたいにマイノリティ性を語りながらも、正確な情報を伝える当事者の発信者がどんどん前に出ることに意味があるんじゃないかと思ったんです。私と奏太くんはこれまでずっとマスに向けて伝える発信をやってきたから、その経験は大きかったと思います」

ともに著作を持ち、メディア出演の実績も豊富な加奈さんと奏太さん。多くの視聴者や読者に向けて言葉を届ける経験を重ねてきた2人には、複雑なテーマも誤解なく伝えるための距離感や表現方法が蓄積されている。当事者なだけでなく、発信者としての強みがあるのだ。
「私たちの世界観をちゃんと外に押し出すほうが受け取る側にも届きやすいし、誤解されにくい。それに、今までもお互いずっと2人組で活動してきたんですよね。私も前のパートナーと2人で動いてきたし、奏太くんも2人組でやっていた過去がある。その経験から、2人のほうが相手の良さを引き出せるという感覚がありました。
実際、私が一人でメディアに出るときはけっこう固めに見えるらしくて。でも誰かと組むことで自然体になれたり、伝わり方が全然変わったりするんです。そういう意味でも、2人で発信する形が自分たちにとっていちばん自然だし、いちばん強いかもしれないと思いました」
互いの得意分野で支え合いながら、語り手としての負荷を分散できること。2人組だから描ける温度感がフォロワーとの距離を縮めてきた。奏太さんと2人でよく行くというシーシャ屋さんでの会話からも、共同アカウントでできることのビジョンが見えたという。
「シーシャには、私たちが普段いるクィアコミュニティとかリベラルコミュニティとは全く違う層の人たちがたくさんいるんです。そこで話していると、差別的な発言になっていることに気づかないままつい口に出してしまう人もいます。
でも、そこから少しずつ仲良くなるんです。店員さんや常連の人たちが『あ、カナカナさん(注:加奈さん・奏太さんのお2人を指す)来た!』と声をかけてくれて、色々な場所で知り合いが増えていって。そのなかで奏太くんがトランスだと話す機会もあって、そこで仲良くなった人たちが、私たちがやっている(トランスジェンダー当事者の居場所づくりや、マイノリティ性を持つ人々が安心して集える場所の提供を目的とした)クィアフリマを応援してくれたり、手伝ってくれたこともありました。
そんな様子を見ていると、いろんな人たちの社会の見え方はこうして少しずつ変わっていくんだなって感じるんです。友達になることはすごく大事なんだと思います」
マイノリティの当事者側が周囲に理解を促す役割を担わされやすい状況自体、構造的な差別の表れでもある。そうした状況を踏まえて、加奈さんはこう語る。
「私たちのアカウントでも、当事者とそうでない人が交わることで生まれる変化を発信できるなと気づきました。専門家としての視点や当事者の語りだけじゃなく、関わることで変わる世界もきっとあると思っていて。そういう輪の広がりも、ちゃんと見せていきたいなと考えています」

「どっちつかず」と言われてきた自分を受け入れられた
奏太さんとパートナーシップを築き、2人での発信も続けるなかで改めて自身のセクシュアリティを見つめ直して、捉え方は大きく変化したと感じるという。
「パンセクシュアルやバイセクシュアルって、レズビアンコミュニティのなかでも嫌悪されやすい側面があると感じていて。私も、同性パートナーがいるときもずっと『どうせ男とくっつくんでしょ』と言われてきました。
だからこそ、前のパートナーと別れてから奏太くんと付き合うことに、すごく抵抗があったんです。もちろん奏太くんのことが好きだし、こんなに親友みたいな人は初めてで、一緒に関係を築きたい気持ちがありました。でも同時に『周りからどう見られるんだろう』という不安もすごく大きかったです。
男性と付き合うことに、私自身とても複雑な気持ちがありました。自分の特権性なのでは、という思いが抜けなかったんです。極端な話、私たちって法律上、結婚ができるから。
なので奏太くんと話し合って、2人の関係性の中で現実的に「結婚」という未来が見えてきたとしても、婚姻の平等に関する法整備が整わない限りは籍を入れないと決めました。
パンセクシュアル自体、マイノリティコミュニティのなかでも理解されにくく排除される側にもなりやすい。同時に、特権を持っている側と見られることもある。そうしたどっちつかずみたいな位置への強い拒否感もあって、ずっと生きづらさを抱えていました。
奏太くんともよく話しますが、トランスの人たちは自身のジェンダーアイデンティティが、ゲイやレズビアンの人たちは好きになる性別が、一定程度は固定されています。でもパンセクシュアルは流動性が高くなり、その感覚がわからないと言われることも多い。説明するたび、自分がパンセクシュアルであることが足かせみたいに感じていた時期もありました。
でも、2人で話し合い続けるなかで、そういう感情が少しずつ落ち着いてきて。『これが私のあり方なんだ』と、ちゃんと受け入れられるようになりました」

最後に、自分の人生や奏太さんとの暮らしにおいて、大切にしたいことを聞いた。
「自分が生きてきた背景をお互いに同じ熱量でヒアリングし合う力って、すごく大事だと思うんです。人って、見える部分だけで勝手に連想したりジャッジしたりするじゃないですか。決めつけようと思えばいくらでもできてしまう。
でも大事なのは、本人が言語化できている部分だけを理解することじゃなくて、本人がまだ言語化できていない傷や感覚まで、どれだけ想像しながら共有しようとできるかだと思うんですよね。
それを積み重ねられるのが信頼関係だと思うし、奏太くんも私に対して同じことをしてくれていると感じています」

取材・文:花輪えみ
編集:日比楽那
写真:新家菜々子
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