2024.6.26第3回杉並第一小学校学校改築検討懇談会に対して提出した意見書の全文です。
小学校移転先の軟弱地盤についての意見書 ~ 盛土と宙水による地盤崩壊を考える
阿佐ヶ谷の原風景を守るまちづくり協議会
- 背景と趣旨
当会はこれまで移転先の地質が小学校の用地としては不向きであることを主張してきました。これまでにも区内の小学校が河川近くに建設されたことはありますが、本件の敷地はそれらとは異なる条件(病院跡地のため土壌を入れ替える可能性がある。宙水が存在する可能性がある。)を有していることを指摘して訴えてきましたが、個々の問題に対しての議論を経ないまま現在に至ります。そこで本書をもって具体的に、旧桃園川床の地盤や地形がどのような特性を持っているかを記述し、特別の配慮と措置が必要であることを訴えます。
- 問題点
当該敷地(C街区)は、病院跡地であることから最低でも地下3~5m程度の土壌を入れかえる(撤去する)ことが想定されます。そして、水害危険区域にあることから現在のGLより2~3m程度の盛土(かさ上げ)をすることが想定されます。
すると校庭のGLから最大5~8m程度は盛土になることが考えられます。まず盛土は地震の際に流動化する(過剰間隙水圧が有効上載圧を上回る)危険性が高い(釜井,2023,p-19)ことが挙げられます。盛土に砂質成分が多い場合は液状化も懸念されます。また、盛土と固い地盤の間に宙水が発生することが考えられ、この宙水が原因でさらに流動化を促進してしまう(釜井,2023,p-22)ことが挙げられます。盛土部分が地震の際に流動化(過剰間隙水圧が有効上載圧を上回る)するということは支持杭を打った支持層の上層に建築物を支える力が無くなることを意味するのみならず、支持杭に横方向に想定外の(過剰な)負荷がかかることを意味し、それは支持杭等の地中構造物の浮き上がりや破損を生じる危険性があることを意味しています。
また宙水は地盤沈下の原因にもなります(釜井,2023,p-23)。地震による液状化は一般的に砂状地質において見られ、粘土層には見られません。盛土部分についてはその成分によって液状化が懸念されることは上述のとおりですが、仮に粘土層のままであったとしても、当該敷地(C街区)は、もともと地下数メートルに帯水層があることから、宙水を形成しやすい地質環境にあると言え(中山,川合,p-255)、宙水が支持層の上の層を(時間をかけて)掘削し地中に空洞を形成していく可能性が想定されます。とくに地下ピットのような構造物が原因で生じることがあります。すなわちそれは繰り返しになりますが液状化と同様に地震の際に地下構造物の浮き上がりや破損につながり、平時においては地盤沈下につながることを意味します。
なお参考までに付記すれば、豊洲市場は埋立地でかつ盛土部分に建物を支える力がないことから(建物直下は盛土せず)支持層からいわばピロティ構造で建物を支えるような特殊構造物として設計されている部分があります。また、先般の能登半島地震での輪島市の7階建てビル倒壊の原因は、杭基礎(支持杭)が地震によって破壊されたことであると分かっています。
上記のような宙水の及ぼすメカニズムについては、これまで土木工学・地質工学では副次的に取り扱われてきて正しく認識されておらず、地盤の破壊現象につながる重要な影響を及ぼす原因と考えられるようになったのは昨今のことです。また、支持杭を打った建物が地震で倒壊したのも能登半島地震が初めてであり、支持層の上の軟弱地盤が直下型のような地震の際に支持杭に影響を与えることはこれまで想定されておらず、メカニズムは詳細には解明されていません。
また、C街区は桃園川の谷地にあり(国土地理院傾斜量図参照)、地震発生時に「共鳴」、「反射と屈折」、「波束の収束」等の効果により地震波が増幅される可能性もあります。
こうしたあらゆる危険性を考慮に入れて、建物の安定性、地震時や水害時への対策を講じることが要請されます。とくに従来の小学校立地が高台の比較的安定した関東ローム層の上にあったのに対して、谷地の盛土の上に小学校を建設するわけですから、従来の工法が想定しうる範囲で施工するのみならず、残余の危険性を排除するための特別の配慮と措置が必要であると我々は訴えます。またそうしなければ土地区画整理法89条及び95条の1項に反すると主張します。
- 考えられる対策案
移転先の地盤に対する対策案を提案します。具体的には次のような土木工事を実施することが改善策として効果が高いと考えられます。
1)土壌改良
・敷地全体に土壌を固めるための基礎杭(摩擦杭)を40㎡に1~4本程度(具体的な密度は調査をしてみないと分からない。)打つ。これは直下型のような大地震の際に盛土部分が流動化し支持杭に想定外の負荷がかかることのないようにするためです。
2)強固な支持杭の打設または杭だけで支えられる特殊構造物
・盛土部分には建物を支える力がないので支持杭を打つわけですが、直下型の大地震が起きた際には、従来の基準の支持杭では残余の危険性を排除できないので、強固な支持杭ないし(地下部分が)ピロティ構造のような特殊構造物として設計する。
・例えば㈱技研製作所の地下駐車場(エコパーク)にように、力学的に安定した円筒形状の圧入杭連続壁(鋼管矢板井筒基礎)による大口径の下部構造とするなど、従来の基礎杭よりも耐震性にすぐれた下部構造を持った建築構造とする。(この場合は基礎杭不要。)
- 結論
区はこれまで、A街区に現地建替えを行った場合に、C街区よりも支持層までが長い基礎杭を打たなくてはならないので現地建替えの方が費用が掛かると表明してきましたが、A街区は比較的安定した関東ローム層上にあるので基礎工の考え方は異なり、単純に支持層までの長さで工費が比較できるものではありません。またC街区は産業汚染地であることから土壌の入替え、盛土が行われるべき土地であり、このことが耐震対策における残余の危険性をさらに複雑なものにしています。当該懇談会に対して、当該地質に関する懸念を伝え、適切な対応を求めます。具体的には前述のような対策工事を(金に糸目をつけずに)行うか、C街区を小学校の仮移転用地とし将来的にはA街区の複合施設の中に小学校を戻すことを提案します。なお今回の副題に上げた盛土と宙水による地盤崩壊問題等の残余の危険性について当会は今後専門家を交えて公論の場を設けるとともに、後者の具体案については次回の改築検討懇談会までに意見書として提出する予定です。
【参考文献】
・「3.杉並区地下水情報の整備」2009,中山・川合,東京都土木技術支援・人材育成センター年報,pp-253-258
・「宅地崩壊と地下水」2023,釜井,地下水学会誌第65巻第1号,pp-17-26
・「大地震における杭基礎の残存耐震性能と建物の構造安全性」2024,田村修次,東京工業大学
・豊洲市場
http://blogs.yahoo.co.jp/kensyou_jikenbo/55544195.html
(2021年6月閲覧)
・シティタワーズ豊洲ザ・シンボル
(2024年6月閲覧)
・国土地理院傾斜量図
(2024年6月閲覧)