
- 別題:私自身、肖像=風景
- 作者:アンリ・ルソー
- 制作:1890年
- 所蔵:プラハ国立美術館(チェコ)
パントル・ナイーフ(素朴派)の画家アンリ・ルソーが46歳頃に描いた自画像。ルソー自身が《私自身、肖像=風景》というタイトルをつけている。
場所はパリ一区のセーヌ右岸、カルーゼル橋のたもと。ルソーと同じ位置に立つと、ルーヴル美術館が見え、現在でも同じような風景が佇んでいる。
ルソーが手に持つパレットには2年前に亡くなった妻クレマンスの名前、のちの妻となるジョセフィーヌの名前がある。
パリ万博の国旗、エッフェル塔、セーヌ川、バルーン。愛する人の名前。自身が好きなものをできる限り描く。自画像でありながら、ルソーの「好き」が詰まったラブレター。
心がウキウキし、ルソーの身体も宙に浮いている。それは、空に漂う巨大なバルーン。日曜日の始まりのような、ワクワクと幸福感に包まれている。
童話のような幻想性を持ちながらも、現実から目をそらさない。ルソーは知っていたのだろう。子どもの心こそが、この世界に存在する本当の「哲学」であるということを。
もうひとつの絵画レビュー:パレット一枚で世界一周
黒い服の男が、橋や帆船よりも大きく立っている。これは誇張でも間違いでもない。世界のサイズを“自分の確信”で測り直す、ルソー流のスケールだ。税関吏だった彼は旅をしなかったが、絵の中では大旅行者になる。胸を張り、パレットを地球儀みたいに抱え、刷毛をマストのように掲げる。
背景は寄せ集めの夢。旗で着飾った船、気球、硬い輪郭の雲。まるで世界見本市のパレードだ。遠近法は素っ気ないのに、空気はやけに澄んでいる。子どもが地図帳に指を走らせるみたいに、想像だけで大陸を縫い合わせた風景が広がる。
この絵の題は「肖像=風景」。なるほど、男の足元から空の端まで、すべてが“自分”の延長線だ。稚拙さは弱点ではなく、現実よりも自分の物語を信じる勇気。ルソーはそうやって、パレット一枚で世界をポケットにしまった。
ルソーが描いた自画像

ルソーが遠近法を知らなかったという研究者もいるが、浮世絵の影響を受け、重要なものを強調する手法を取っていたと思われる。ルソーは風景を描いてから、自画像を当て込んだと言われる。
山田五郎が解説するアンリ・ルソー
この作品は、ルソーにとっての《モナ・リザ》のような存在。生涯この絵を手放さず、何度も描き直している。
ルソーは、興味を持ったモチーフを大きく描く傾向がある。独学で描いていたため、天然の特徴として画力があまり上達しなかった。
足が地面から浮いているように見えるのは、靴を描くのが苦手だったから。
パレットにはクレマンスとジョセフィーヌという2人の女性の名前に加えて、「マリー」という名も記されている。マリーは、ルソーが思いを寄せていたルーヴル美術館の職員。ジョセフィーヌと結婚するにあたってマリーの名前を消したが、消し方が荒く、名前がハッキリ見える。
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