
19世紀に美術の歴史を塗り替えたエドゥアール・マネ、20世紀に乳白色の肌で一世を風靡した藤田嗣治など、裸婦画を描いた画家は多いが、その中で頭ひとつ抜けた存在感を放つのが、映画『モンパルナスの灯』でも知られるイタリアの画家 アメデオ・モディリアーニ である。
35歳で夭折するまでに描いた裸婦画はわずか約40点。しかし、その短い生涯で残した作品群は、裸婦画史における「傑作の殿堂」を築いた。エコール・ド・パリの華やかな時代を彩ったモディリアーニの裸婦画を紹介する。
横たわる裸婦画
青いクッションの裸婦

- 制作:1917年
- 寸法:65.4 cm × 100.9 cm
- 技法:油彩,リネン
- 所蔵:ワシントン・ナショナル・ギャラリー
美術商に依頼されて描いた一枚。モディリアーニがパリで個展を開いた際、警察が猥褻だと踏み込んだ伝説の一枚。挑発的な笑み、左手、細顔、陰毛、巨乳。まさに、裸婦画のロールモデル。紅一点ならぬ、画面に差し込まれた「青一点」が、神々しさすら漂わせる。
赤い裸婦

- 制作:1917年
- 寸法:92×60cm
- 所蔵:個人蔵
モデルはモディリアーニの友人で、ポーランド出身の詩人であり画商でもあったレオポルド・ズボロフスキーの妻アンナ・ズボロフスカではないかと言われている。
瞳がないモディリアーニの十八番。師匠は、モディリアーニが瞳を描かないのは、気弱で目を合わせられないからだという。
曲線の柔らかいポーズではなく、ピンと張った堂々たるポーズ。陰毛、脇毛、黒髪、黒い眼が、赤と黒の力強さを強調する。
髪をほどいた横たわる裸婦

- 制作:1917年
- 寸法:60×92.2cm
- 技法:油彩,カンヴァス
- 所蔵:大阪中之島美術館
日本が所有する唯一のモディリアーニの裸婦画。大阪中之島美術館が所蔵し、1989年に19億3000万円で購入(当時モディリアーニの最高額は10億円)。大阪市の税金を使ったので市民から猛反発にあったが、現在ではモディリアーニの裸婦画は100億円以上するため、安い買い物。モディリアーニの最高傑作。
後背位の裸婦画
肩越しに見る裸婦

- 制作:1917年
- 所蔵:不明
モディリアーニに珍しいお尻を見せる後背位の裸婦画。ドミニク・アングルの《横たわるオダリスク》を意識している。足の組み方、お尻のサイズが絶妙で、映画『スターリン・グラード』のレイチェル・ワイズを彷彿とさせる。
背中を見せて横たわる裸婦

- 制作:1917年
- 寸法:92×60cm
- 所蔵:バーンズ・コレクション
瞳がないモディリアーニの代名詞。美しい顔立ちではないが、流線型のスレンダーな体が画面を支配する。瞳を描かないことで、身体そのものの存在感が倍増している。
座位の裸婦画
座る裸婦

- 制作:1916年
- 寸法:92×60cm
- 所蔵:コートールド・ギャラリー
モディリアーニの中で早い時期に描かれた裸婦画。暖色ではなく寒色を使っている点も珍しい。
安楽椅子の上の裸婦

- 制作:1916年
- 所蔵:個人蔵
右胸を隠しながら左の乳首だけをチラリと見せる構図。意味のないはずの白布が、かえって官能性を際立たせる。脚線美を強調した姿勢は、『氷の微笑』のシャロン・ストーンの組み替えた足。
座る裸婦(うずくまる裸婦)

- 制作:1917年
- 寸法:114×74cm
- 所蔵:アントワープ王立美術館
背景、目つき、局部を隠す白い布。どこを切り取っても娼館、娼婦の絵画。
座位によって胸と腰が強調され、肉体の豊かさが迫りくる。モディリアーニの真価は、体のパーツよりも「胴体」の描き方にある。
立位の裸婦画
ヴィーナスの誕生

- 制作:1919年
モディリアーニでは珍しい立位の裸婦画。ボッティチェッリ《ヴィーナスの誕生》をイメージして描かれたもの。顔立ちは幼さを残し、それでも漂うエロスは、モディリアーニの才能の極みを示している。
モディリアーニの裸婦画の魔力

- 制作:1917年
- 寸法:92×60cm
- 所蔵:シュトゥットガルト州立絵画館
モディリアーニのヌードは伝統的な裸婦画のポーズを踏襲している。その構図には緻密な仕掛けが潜む。
- 右の乳房が正面を向く
- 左の乳房は一部だけ見せる
- 腰を鑑賞者のほうに捻る
- 足を画面からはみ出す
基本的には横たわる側位の構図。この構図によって、胸と女性器が観る者にぐっと迫ってくる。体をはみ出させることで拡大感と臨場感を生み出し、鑑賞者を作品に引き込む。
これらは、ストリップ劇場で言う「かぶりつき」の効果であり、迫力のあるダイナミックなエロスを体現している。
モディリアーニの裸婦画は、観る者の心臓を直接つかむような、圧倒的な迫力を持っている。甘美でありながら、挑発的。美しいのに、どこか危険。
絵画でありながら現実以上のエロス。それは鑑賞ではなく、誘惑であり、衝撃であり、挑戦状。これこそが、モディリアーニの裸婦画の魔力だ。
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