
- 原題:La Pointe de la Hève at Low Tide
- 作者:クロード・モネ
- 制作:1865年
- 寸法:90.2 x 150.5 cm
- 技法:油彩、カンヴァス
- 所蔵:キンベル美術館(アメリカ)
画家として成功するために、25歳のモネはサロン(官展)への入選を目指していた。そのために、審査員の好みに合いそうな海景画を何枚も描いた。こうして生まれた《エーヴ岬の干潮》は、モネが初めてサロンに入選した作品である。さらに、この絵は画商によって300フランで購入された。当時の大工の月給がおよそ90フランだったことを考えると、かなりの高額であった。

《エーヴ岬の干潮》は、エドゥアール・マネの伝説的名画《オランピア》と並んで展示された。その結果、名前が似ている「Manet(マネ)」と「Monet(モネ)」が混同された。これをきっかけに、モネは以後「クロード・モネ」とフルネームで署名するようになった。
絵画レビュー:モネは天下を取りに行く

《エーヴ岬の干潮》は、25歳の青年モネが“天下を取りに行くために描いた一枚”だ。
まだ「印象派のモネ」ではない。サロン(官展)に入選して、画家として食っていくための勝負作。その必死さが、逆にすごく良い。
まず空がドラマチックすぎる。雲は黒く渦巻き、海は荒れ気味で、波はむしゃむしゃと岸を噛んでいる。この天気、絶対に散歩日和じゃない。でもモネはこういう“ドラマ”が大好物。
空の隙間から差す一筋の光が、画面の中心にブワッと落ちてくる。その効果だけで、絵全体が映画のクライマックスみたいな雰囲気になる。
海岸には馬に荷物を積んだ人たちがいる。この立ち位置がまた絶妙で、観る側が「この浜辺に立っている」気分になる。波の音が聞こえ、風の冷たさを感じ、靴の中に砂が入ってきそう。天気が悪いのに、見ていると気持ちは晴れてくる。なぜなら、波も雲も、全部“生きて動いている”からだ。
そして、何よりもこの作品最大のポイントはモネがサロンに入選するために、めちゃくちゃ本気で“写実”しているところ。
後のキラキラ光る睡蓮のモネとは違い、ここでは泥臭く、重く、陰影も強い。
「はい、審査員が好きなやつ、こうでしょ?」と言わんばかりの真面目さで描かれている。その“真面目なモネ”が、逆に新鮮でグッとくる。
ちなみにこの作品、《オランピア》のマネの隣に展示されたせいで、Manet と Monet の名前がややこしいと評判になった。この絵がきっかけで、モネはフルネームで「Claude Monet」と書くようになる。半分迷惑、でも半分ラッキーな事件だ。
《エーヴ岬の干潮》は、若いモネが、世界に「俺はここから登っていくぞ」と宣言した一枚。荒れる海、泣き出しそうな空、その隙間から射す希望の光。モネの未来もまさにこの“天気”だった。荒れ模様。でも、力強く、なんとなく明るい。
この絵を見ていると、人生もこんな波打ち際を歩いてるんだな、と思えてくるではないか。
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