
- 原題:Le Rêve
- 英題:The Dream
- 作者:アンリ・ルソー
- 制作:1910年
- 寸法:204.5 x 298.5 cm
- 技法:油彩、カンヴァス
- 所蔵: ニューヨーク近代美術館
《夢》はアンリ・ルソーが66歳で亡くなる1910年に描かれた作品で、絶筆。ジャングルの密林に、ソファに横たわる裸婦と笛吹き、猿や鳥、象、蛇、ライオンなどが夢幻的に描かれる。25を超えるルソーのジャングル絵画の中で最大の作品であり、来日したことはない。所蔵するニューヨーク近代美術館(MoMA)に行かなければ観られない。
死の直前、ルソーは貧困で大型のカンヴァスを買う余裕もなかった。この絵画を制作した半年後の1910年9月2日に死去。
ルソーは絵画だけでなく、《夢》に対する詩も作っている。
美しい夢のなかのヤドヴィガは
おだやかに眠り
魔術師の奏でる
縦笛の音を聞いた
花と青々とした木々を
月が照らし
けものや蛇が
縦笛の調べに耳を傾けた
ヤドヴィガが実在の女性なのかはわかっておらず、ルソーの昔の恋人という説や、制作当時に恋をしていた女性とも言われる。
ルソーは生涯フランスを出なかったが、パリの万国博覧会や足繁く通った植物園で「異国」を体験した。エキゾチックな植物、動物、工芸品。それらはルソーの想像力を刺激し、実際に見たことのない風景を「心象風景」として描かせた。

原田マハの『楽園のカンヴァス』で一躍有名になり、ルソー=《眠るジプシー女》だったイメージを、ルソー=《夢》に変えた。
ルソーのジャングルは、現実の熱帯雨林とは異なる。猛獣の牙も毒蛇の影も潜んでいるのに、恐怖の気配は漂わない。獣も花も木々も、ただ存在し、ただ共に呼吸している。花々は風に揺れてはいない。その色は呼吸している。子どもの遊戯場が、そのまま永遠の楽園に変貌したようだ。
ソファに横たわるヤドヴィカは、左手をそっと差し伸べる。その左手は、伸ばされていながらも、どこにも届かない。届かないまま、届かないこと自体が意味を持つ。
夢に触れられないことは、不幸だろうか。触れられないからこそ、夢は導いてくれる。
夢の本質は、“届かない指先”にある。触れてしまえば、音楽も花々も獣たちも、たちまち霧のように消え去ってしまう。
夢を見ること、夢を描くことは、現実からの逃避ではない。現実を見つめ返すための余白であり、勇気を養うための沈黙である。ルソーにとって夢とは、移ろう現実の奥に潜む「変わらないもの」を示す試み。
夢に手を伸ばすとはどういうことか。その手を、あえて届かせないことに、どれほどの意味があるのか。
ルソーは答えを与えない。その沈黙は豊かである。
絵画レビュー:密林で昼寝してたら、世界がファンタジーになっていた

アンリ・ルソーの《夢》は、全力で自由に暴れた絵だ。南国の花、巨大な葉、謎の果物、背後には月光。植物図鑑を全部シャッフルして一気に撒いた世界だ。だけど、なぜか全部が調和している。混沌なのに、完成している。これがルソーの魔力だ。
左の女性。くつろぎすぎである。完全に“家のソファで寝落ちした人”のポーズなのに、周りは狼、ジャングル、満月、謎の笛吹き男というカオス。普通なら悲鳴を上げる。でも彼女は堂々と裸で寝そべり、目もそらさず獣を見ている。
ここまで落ち着いていると、逆に獣が気をつかう。「あの…襲っていいやつですか?」みたいな戸惑いの目をしている。
密林の奥で笛を吹く黒い人物。説明しようがない存在感。背景に溶け込むどころか、むしろ“この世界の召喚主”のような雰囲気がある。気まぐれに笛を一吹きするたびに、「花が開きました」「ライオンが二匹、起動しました」みたいな儀式が進んでいるとしか思えない。この世界のOSを管理している。
ライオンは、見れば見るほど怖い。でも見れば見るほど愛おしい。野生ゼロ。好奇心100。密林の観光客くらい目がキラキラしている。
遠近法はゆるい。影の描写も独特。植物の種類もメチャクチャ。でも、ルソーは全部を組み合わせて、“異世界の現実”をつくった。見るほどに不思議、見るほどに引き込まれる。ジャングルは、現実の延長ではなく、人間の無意識の深いところにある密林。
落ち着きすぎた裸婦も、ライオンのオーバーリアクションも、謎の笛吹き男も、全部が“夢の法則”で動いている。《夢》は、説明しようとすると煙のように逃げるのに、見ると一瞬で心の深部に住み着く。
論理ではなく、感覚で理解させる。ルソーの“夢の国”は、今日もあなたを歓迎している。
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ポーラ美術館(箱根)

色ではなく色彩。満月がイヴを抱擁するアダム。満月はゼロの形をしている。無であり、男。僕の師匠はこの絵を《院毛の森》と名付けた。

夜のジャングル。ルソーは明るいジャングルと、ひんやりした月夜のジャングルを描く。ライオンが静かに物思いに耽っている。哲学的な顔をしている。
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