
- 原題:La Rue de la Bavolle à Honfleur
- 別題:《オンフルールのバヴォール通り》
- 作者:クロード・モネ
- 制作:1864年
- 寸法:58 × 63 cm
- 技法:油彩、カンヴァス
- 所蔵:マンハイム美術館(ドイツ)
23歳のモネは1864年5月、絵の修行していたパリを離れ、ノルマンディー海岸にある港町・オンフルールに住む。そこで友人のバジールや師匠のブータンとともに半年間、サン・シメオン農場や海岸など数多くの風景画を描く。11月まで滞在するが、資金が尽き、バジールに資金援助を頼んでパリに戻る。

《オンフルールのバヴォール街》は、歌川広重や川瀬巴水の浮世絵に似た構図を持ち、ドイツのマンハイム美術館が所蔵する一枚の他に、アメリカのボストン美術館のバージョンもある。どちらも甲乙つけがたいほど味わい深い。
絵画レビュー:“光の映画監督”が街を撮ったら

「あれ? モネって、こんな“街の監督”みたいな絵を描くんだっけ?」
印象派のモネといえば、睡蓮、庭園、空、海、光、霧。大自然の光と風を追いかけ続けた画家、という印象が強い。このオンフルールの路地絵は、モネが“映画監督に変身した瞬間”みたいな作品だ。
街は、観光パンフレットのように美しくはない。石畳はでこぼこで、建物は寄り添うように傾き、窓から住人が顔を出して様子をうかがっている。画面奥へ向かって街がすうっと吸い込まれ、光が少しずつ濃度を変えて奥へ奥へと流れていく。
「この街、ちゃんと呼吸してるよ」とモネが言っているみたいだ。道の真ん中に落ちる光が、舞台のスポットライトのように強い。手前は影、奥も影なのに、真ん中だけが“今日の主役ですよ”と輝いている。映画でいうところの、「カメラが勝手に主人公を決める」。そんな瞬間を絵でやってのけている。
この作品の魅力は、一言でいうと 空気の気持ちよさ にある。建物のざらつき、木陰の涼しさ、石畳の熱、白い雲が生む、ゆるい影。全部を一枚の中で“換気”している。
普通の画家なら街の汚れや雑多さに気を取られてしまうが、モネはそこを光の舞台として撮影する。
この絵を前にすると、ふと街の音が聞こえてくる。子どもの笑い声、遠くの馬車、パン屋の呼び声、石畳に落ちる足音。
印象派というジャンルが、「世界の温度を録音する技術」だとわかる。
モネは自然の画家である前に、“光という主演俳優を扱う天才監督” だった。
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モネの傑作絵画