
★アラ還原付日記(仮)その5「カブの上にも五年目」の一部をご紹介しています★
2023年11月21日(火)
七沢温泉は想像以上に近かった。もっと早く来てみればよかった。
日帰り温泉に行きたい
9月に12ヵ月点検を終えたあと、11月の文学フリマ東京37に向けてひたすら原付日記(その3)制作に励むのみの日々だったので、ミドリとの旅に関しては特段おもしろいこともなかった。
そもそも、あまり乗れなかった。日記の元ネタである日々のメモにも、買い物や歯科通院に乗ったことしか書いておらず、あとは原付日記の進捗状況ばっかりである。
原付日記を書くために原付に乗れないなんて本末転倒な気もするが、まあ、そこは好き好きだ。
しかし、文学フリマが終わったらどこかへ行きたいということはずっと考えていた。
今まで乗って行ったことのないどこか。
たとえば、日帰り温泉だ。
いや、逆に、何で今まで行かなかったんですかね?
介護も子育ても終了し、先々のことを考えて引越もして、数年来のドタバタがやーっと落ち着いたのが今年だったのに。
日帰り温泉、大好きだった。
旧居の近くに湯快爽快という日帰り温泉があった。市内で初めて湧き出たという天然温泉が売りだった。夫と、小さかった息子と一緒によく行った。男たちは男湯、私だけ女湯なので、事実上、一人でくつろぎに行くようなものだった。実際、息子がお泊まり行事で帰ってこない時など、昼っぱらから一人でくつろぎに行くこともあった。当時は自転車で、あるいは駅前から出ている温泉の送迎バスで。
ミドリという強力な移動手段を手に入れた今、送迎バスをあてにする必要はない。自転車よりずっと楽に遠くまで行かれる。しかも、引越によって、厚木、秦野のような温泉の名所が近くなった。新居からアクセスできる日帰り温泉の数は旧居の比ではない。さっそく周辺日帰り温泉マップを作成し、一つ一つ塗りつぶし、お気に入りベスト3を選定して行きつけにする――くらいの積極性があってもよかったのでは。
ということで、まず行ってみることにしたのが七沢温泉(厚木市)。
居並ぶ温泉旅館の中でも、つい最近リニューアルしたばかり、真新しい施設にわかりやすいシステムで日帰り利用も歓迎してくれている七沢荘がターゲットだ。
秘湯、七沢温泉
七沢温泉は近かった。片道10キロあるかないか。道もほぼ直進で迷いようがない。旅館に近づく直前の道だけちょっと複雑そうだったけど、毎度お世話になっているGoogleストリートビューで予習しておいたので無事クリア。二輪置き場までしっかり映っていたため、とまどうことなくミドリを駐められた。
旅館というよりペンションに近いようなモダンな内装。古くからの温泉街にもかかわらず、比較的若いお客さんが多いように見受けられた。天然温泉は美肌の湯だそうである。そりゃ若い人ほど浸かるべきだ。おばさんになってからの巻き返しには限界があるのでね。けどおばさんも簡単に人生を投げ出してはならない。料金を支払い、利用方法の説明を受け、ロッカーにリュックを預けて脱衣場へと進む。
初めての日帰り温泉で、近視の私が最も困るのは、衣服と同時に眼鏡を取るともはやどこに何があるかわからず、完全無防備のまま手探りの歩行になってしまうことだ。七沢荘の施設は広すぎず狭すぎずそして明るく、裸眼でも何とか状況を把握してかけ湯代わりのシャワーにまでたどり着くことができた。
平日午後の温泉は、寂しくない程度ににぎわい、内湯に一瞬無人の時間が生じる程度にはすいていた。
当然、泳ぐ。実際には泳ぐほどの深さがなかったので、うつ伏せに浮かんだ状態で両手をつき腕で水中ウォーキング。湯の効能はさておき、まずこういうことじゃないですか、一人日帰り温泉の楽しみ。
それから露天風呂へ。
お湯はやや熱めで、冬と呼ぶにはまだ早い秋の名残の日射しのもと、時々岩に腰かけて涼むくらいがちょうどいい。寝湯もあり、出たり入ったり寝たりしながらいつまででもいられそう。
帰りが心配になってきた。
もともと心配していたのは湯冷めだった。温泉で体の芯まで温まっても、そのあとミドリで帰るのは初めてのこと。自転車のように自力で漕ぐ必要もなく、送迎バスのように屋根や窓で守られてもおらず、ただ風を切って走るだけの原付じゃ、家に着くまでにすっかり冷えて風邪ひいちゃうんじゃ?
だがそれ以前の問題として、気持ち良すぎて運転するのやんなっちゃうんじゃ……己を鼓舞して乗ったとしても、走りながら寝ちゃうんじゃ!? というのがリアルな恐怖として浮上したのである。
帰り道の天国
いや、まさかまさか。車ならともかく寄りかかるところもない二輪で居眠りなんて聞いたこともないぞ。
でも、私が聞いたことないだけで、現実にはあるかもしれない。50ccの原付では移動範囲もたかが知れてるけど、大きいバイクで一日に何百キロも乗っちゃう人とか、夜通し走り続けちゃう人、キャンプしながら長旅してる人とかだとすごく眠くなりそうじゃない?
だとしても、温泉が極楽すぎて10キロそこそこの帰り道に寝落ちしちゃった原付おばさんなんて洒落にならないにもほどがある。
帰り支度を整え、ミドリを引き出す。
家に着くまでが日帰り温泉だ。がんばろうな、ミドリ。
いざ走り出してみると、意外にもきりっと覚醒した。
温泉の余熱が残る頬に、夕闇迫る晩秋のひんやりした風がびゅんびゅん当たってそれはそれは爽快なのだ。いかに制限時速30キロとはいえ、ママチャリでこのスピードは出ないので。
味わったことのない至福のひととき。帰り道にも極楽があったとは。ありがとうミドリ、君は最高だ。日帰り温泉も最高。
むしろ湯冷めのほうが懸念どおりだった。手から冷えてくるかなと思っていたら、足からだった。信号待ちのたび、早く通して冷えちゃう冷えちゃうとじりじりした。体幹まで冷え切ることはなかったが、足先までほかほかで帰投することもできなかった。
下半身の防寒強化、および、日のあるうちに帰れる時間配分。次回以降の課題。