
1975年 110分 西ドイツ
監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
出演:ブルーノS
野生児の生涯。 ★★★
ヴェルナー・ヘルツォーク監督はかなり多作な方だが、これは第6作目の作品。
あの「アギーレ/神の怒り」の2年後の作品となる。
19世紀実際に起きたカスパー・ハウザー事件を素材にしている。
この事件もヘルツォーク監督が取り上げるほどだから、やはり並のものではない。
カスパー・ハウザーは推定16歳で保護されるまでの長い間、地下牢のようなところへ監禁されて育ったという。
保護された時は言葉も一語しか話せず、感情の表出も乏しかったという。また満足に歩くこともできなかったようだ。
彼は発見後に教育を施され言葉を話せるようになった。そして自らの過去を少しずつ語り出すようになった。
それによると、彼はおもちゃの木馬を与えられ、ただそれだけで遊んで暮らしたとのこと。
周期的に深い眠りに落ち、目が覚めるとパンと水が置かれていたとのこと(眠り薬のようなものを与えられていた?)。
だから彼はこの世に自分以外の人がいるとは思っていなかったようだ(なにしろ、自分以外の誰も見たことがなかったのだ)。
この映画はそんな彼を追っているのだが、普通だったらこういう事態に陥った謎に迫りたくなる。
しかしヘルツォーク監督はその謎に迫るのではなく、あくまでもカスパー・ハウザーという特異なる人物像を描こうとしている。
主人公のカスパーを演じたのは、おなじみのクラウス・キンスキーではない。
映画を見ればすぐに解るが、キンスキーではまったくハウザーにはなれなかっただろう。
代わりにハウざーを演じたのはブルーノSという人。プロの俳優ではなく、ほぼ素人だったよう。
始めて他の人に接してのおどおどとした様子。
怯え、恐れ、不安・・・、そういったものをどこか定まらない視線の表情で演じていた。
この映画は彼によって成り立っていた。
初めてろうそくを見た彼は炎をつかもうとして指を火傷する。そのときの驚きと痛みなど、見事なものだった。
ハウザーは篤志家である牧師、そして教育者によってその後の人生を支援される。
しかしまもなく何者かが彼の命を狙うのである。
そしてその刺傷がもとで彼は亡くなってしまう。謎を秘めたままに。
彼はナポレオンの隠し子だったとか、本来はある貴族の後継者だったとか、様々な憶測が流れたようだ(その秘密にために、また利害関係のために軟禁されていた?)。
そんな憶測がなされるほど、彼の生涯は謎に包まれたまま終わったのである。
ヘルツォーク監督は淡々と彼を描いていた。
妙にドラマチックにしなかったところがこの映画に深みと余韻を残していた。
カンヌ映画祭で審査員特別グランプリを受賞しています。