
1960年 98分 フランス
監督:アンリ・コルピ
出演:アリダ・バリ、 ジョルジュ・ウィルソン
戦争が残した心の傷跡。 ★★★☆
暗く沈んだようなモノクロの作品である。
脚本は、あのアラン・レネ監督作「二十四時間の情事」の脚本も書いたマルグリット・デュラスである。
彼女はあの映画ではヒロシマを描き、この映画ではナチスによる迫害の傷跡を描いている。
パリ郊外でカフェを営むテレーズ(アリダ・バリ)。
彼女はある時から毎朝決まったように店の前を通る一人の浮浪者(ジョルジュ・ウィルソン)に目を止める。
その男は、16年前にゲシュタポに強制連行されたまま行方不明になっている夫アルベールに似ていたのだ。
夫かもしれないと思い始めたテレーズは、その男をカフェに招き入れる。
しかし彼は記憶を喪失していたのだ。
テレーズは男を尾行し、男と言葉も交わし、もしかすればという彼女の気持ちは確信に変わっていく。
ある夜、テレーズは夕食に男を招く。
男の記憶が戻るのではないかと彼女は微かな希望を抱いていたのだろう。
二人はぎごちなくダンスをし、かつての幸福だった日々をテレーズは思い出す。
しかし男はただ途惑っているだけなのだ。
やがて男は背を向けて立ち去ろうとする。
男に向かって、テレーズも、心配そうに様子をうかがっていた近所の人たちも、「アルベール!」と彼女の夫の名を呼ぶ。
男はその声に立ち止まり、おずおずと背を向けたまま両手を挙げるのだ。
収容所または留置所での苛酷な経験の記憶が彼に両手を挙げさせたのだろう。
戦争はなんと惨いものを彼の心に刻みつけたことだろう。
ここは言葉にならない衝撃的な映像であった。
男が行方不明の夫だったのか、それともテレーズの思い違いだったのか、最後まで明らかにはならない。
映画はただ記憶をなくした男の哀しげな眼差しと、テレーズの微かな希望、期待を描く。
そこに戦争がもたらした人々の喪失感を象徴させているようだった。
しみじみとした余韻を残す映画でした。
カンヌ映画祭でグランプリを受賞しています。