おたく男が紀の有常のところにぶらりと訪れた。わざわざ手紙を出すまでもないと思ったのか、通りがかかりに寄っただけなのか前もって約束しておいた訳ではなかった。たまたま有常は留守にしていた。下男が「じきに戻るでしょう」などと言っていたのでそのまま待っていたがなかなか戻ってこない。
じれてきて帰ろうかと思った頃に、待っていることを知らない有常があちこち周りを見回したりしながらゆっくり歩いて帰ってきた。そこでおたく男が詠んだ歌。
君により思ひならひぬ世の中の人はこれをや戀といふらむ
あなたによって思い習うことができました。この待ち焦がれる気持を世の中の人は恋というのでしょうか。
返歌は
ならはねば世の人ごとに何をかも戀とはいふと問いし我しも
恋の経験がないので、何を恋というのか私も世の中の人に聞きたいものです。
これがBLというものです。そのようにおたく男が有常に語ると、そんなものがあるのかと有常は面白がった。