AIエージェントにGodotのゲームを作らせることが可能になった。となればやることはただ一つ。Godotゲームの自動生成である。
このプロジェクトでは、AI に小さな Godot ゲームを素早く作らせ、人間が遊んで感想を返し、AI がそれを受けて改善する、という制作ループを定義している。できれば全自動でイケてるゲームを作って欲しかったのだが、今のAIにはまだ無理である。しょうがないので人間がAIにこうしろああしろと指示してまともなゲームにする。いつものワークフローである。
8つのフェイズから成る実行手順は、 AGENTS.md にまとめられている。Phase 1〜4 でゲームの仕組み・見た目・音を設計し、Phase 5 で実装、Phase 6 でヘッドレステストによる検証、Phase 7 で改善案の提示を行う。ここまではかなりの部分を AI に任せられる。動くゲームを作ること、入力が通ること、単調な入力が最適になりすぎていないことの確認までは、比較的手順化しやすい。
しかし Phase 8 に入ると、今のAIエージェントではてんでダメだ。Phase 8は、ヘッドレステストでは拾えない質感——手触り、分かりやすさ、音の印象、テンポ——を人間の感想で補う。単なる仕上げではなく、人間の実プレイを通じてゲームの意味を問い直す段階だ。
Phase 8 が AI にとって難しいのは、そこだけ急に「正しく作る」工程ではなく、「何を作るべきだったかを見直す」工程になるからである。ここで問われるのは、難易度やキャラクタの速度などのパラメタではなく、ゲームの重心——プレイヤーがゲームで向き合う中心課題をどこに置くか——である。人間は遊んだあと、「ここが少し見づらい」といった局所的な感想だけでなく、「このコアメカニズムなら、重心をもっと別の場所に置いた方が面白い」と感じることがある。
AI はここで急に弱くなる。問題発見器にはなれても、重心の置き直しを提案するのは苦手だからだ。仮想プレイや評価ループから、「静止していると安全」という問題を検出することはできる。しかしその後の改善が貧しくなりやすい。「静止しているとヒートゲージが溜まってゲームオーバーになる」のような修正はその典型である。これはゲームを面白くしたのではなく、見つかった抜け道を塞いだだけだ。
このプロジェクト、最初はPhase 6とPhase 7をループしてゲームをエージェントに継続的に改善させるフローだった。すぐやめた。AI がそういったKPIをハックする暗黙ルールをどんどん入れてくるから。
AI は観察をそのまま禁止ルールに変換しやすい。「放置が強い」なら放置を罰する。「連打が強い」なら連打を罰する。「端が強い」なら端を危険にする。こうした改善は局所的には合理的だが、ゲーム体験としては弱い。よい改善は、望ましい遊び方が自然に生まれる圧力を設計するが、悪い改善は、望ましくない遊び方を後付けで禁じるだけだ。
実際、アクションパズルが題材になった時、当初AIが出してきたのは「連鎖で崩れるブロックの足場から落とされないようにする」ゲームだった。Phase 8 で遊んでみると、コアメカニズムの面白さが活きる重心はそこではないと判断した。そこで重心を「ブロックが積み上がる前に同色ブロックをつなげてうまく崩す」方向へ置き直して完成させた。これは敵速度や出現頻度の調整ではなく、重心そのものの変更である。AIは今ある仕様の内側で差分最適化しがちだが、Phase 8 で必要なのは、重心を動かすことだ。
せり上がってくるさめがめ的なブロック。消すのはクリックではなく左右キーで操作するプレイヤー。昇り降りできるのは2段まで。なので谷底にはまると絶望的。でもブロックが詰みあがった後も情けの猶予時間がちょっとある。上キーの強制せり上げで無理やり横から同色をつなげて消そう。 pic.twitter.com/nmQkXbvQIw
— ABA (@abagames) 2026年3月8日
しかも、人間が重心のズレに気づくのは、言語化できる説明より先であることが多い。ゲームを遊んでいると、「このコアメカニズムなら重心はここではなくあちらだ」という感覚が先に来る。理由はあとから言語化できるかもしれないが、判断自体はもっと速い。操作感、視線の流れ、失敗の納得感といったものがまとめて処理され、人間はその総体から重心の正しい位置を見分ける。AI は、説明可能な小さな差分へ分解するのは得意でも、先に重心を掴み、あとから説明を付けるという飛躍は苦手だ。だから「壊れてはいないが重心がずれている」ゲームを作りやすい。
ゲーム制作の最後には、手触り、分かりやすさ、音の印象、テンポ、そして何より「このコアメカニズムに対しての重心はどこに置くべきか」を決める人間の役割が残る。今の AI にとって、作品の重心を見抜き、必要なら重心ごと動かすという工程は、まだ苦手な領域だ。この見立ての力をどう言語化し、どう制作フローに組み込むか。これが次の課題だが、おそらくしばらくは難しいまままだね。