クラウドソリューション部の木本です。 2026年3月24日に開催された Microsoft AI Tour Tokyoに参加しました。 本記事は参加レポートですが、発表内容の網羅ではなく、Keynoteやセッションを通して私が感じたこと・考えたことを中心にまとめます。

- Microsoft AI Tour とは
- Keynoteで語られていた大きな方向性
- 生成AI活用とデータ基盤について考えたこと
- デモで感じた高揚感と距離感
- 大企業の事例
- 中小企業や小規模事業者の生成AI活用課題
- 人間の仕事とは何か
- 「安心」と「信頼」
- おわりに
Microsoft AI Tour とは
Microsoft AI Tourは、生成AIをはじめとするAI技術と、その活用をテーマにしたマイクロソフト主催のグローバルイベントで、世界各地で順次開催されています。 Keynote(基調講演)や事例紹介、技術セッションを通じて、開発者からビジネス担当者まで幅広い層に向け、AIを実務にどう活かすかの具体的な知見が提供されます。 技術の紹介にとどまらず、「生成AIをどう使い、どう価値につなげるか」という視点が前面に出ていたのが印象的でした。
Keynoteで語られていた大きな方向性
Keynoteを通して特に印象に残ったのは、生成AI活用の前提となる「データ」と、その先にある「信頼」でした。 2022年に生成AIが一般社会に登場して以来、さまざまな意見が飛び交い、中には不安を煽る言説も目立ちますが、Keynote全体としては「人間の可能性を引き出すことを加速する」「日々の煩雑な繰り返し作業をなくしていく」といった、前向きな方向性が強調されていました。 これは昨年行われたIgniteや、それ以前のイベントでも繰り返し強調されてきたMicrosoftの基本姿勢です。
Keynoteの中では、すでに生成AIの導入によって大きな成果を上げている企業・組織があり、それらの企業に共通しているのは「生成AIで何ができるか」よりも、「ビジネスの課題解決のために生成AIをどう使うのか」を軸に展開していること、という話もありました。
また、「重要なのはビジネスのアウトプットとして役に立つかどうかであり、プロンプトを入力してこんなことができたという『一発芸』のようなものではいけない。」という話もあり、これは日々生成AIを使って実感している点でもあるため、強く共感を覚えました。 試してみること自体を否定するのではなく、継続的に価値につなげる視点が必要なのだと思います。
生成AI活用とデータ基盤について考えたこと
この数年、Microsoftは生成AIを活用するためのデータプラットフォーム整備を強調しています。 Keynoteからセッションやワークショップに目を移してみると、やはり「生成AIを有効活用するためのデータの扱い方が重要である」という内容のものが多かったように思います。
データが重要なのは生成AIだけに限らない
ただ、それらの話を聞きながら考えていたのは、「データが重要なのは生成AIだけに限らない」ということです。
ITエンジニアとして長く仕事をしてきた中で、データ設計に関わる機会も多くありましたが、常に「データとはシステムやアプリの副産物ではなく、システムやアプリはデータを効率よくかつ適切に扱うための道具である」という意識を持ってきました。 基幹系システムも、業務アプリも、帳票も、本質は同じで、データが重要でなかった時代などないと思っています。
生成AI時代になって突然データが重要になったというわけではなく、データの使い方が変わり、それにともなってデータの保存や整理のやり方を変えていく必要が出てきているのだと思います。
人間に分かりやすいものが、生成AIに分かりやすいとは限らない
データの重要性が増すほど、「生成AIに渡しやすい形とは何か」という別の難しさも見えてきます。 人間にとって見やすいものが、生成AIに分かりやすいとは限らないからです。 自然言語の指示(プロンプト)は、人に丁寧に伝えるのと同じ感覚である程度通じる場面があります。一方で、データはそう単純ではない、と感じることがあります。
生成AIが扱うデータはデータベースに格納されているものだけではありません。 人間が扱うためにさまざまな情報をいろいろな形に加工したものも含まれます。
Excelの表を例に挙げると、人間が見やすいように工夫されている反面、前提や意味がセル配置や色、結合など“暗黙の表現”に寄っていることが多いです。 この暗黙の表現をCopilotがうまくくみ取ってくれる場合と、そうでない場合のバラつきは、まだ大きいと個人的には感じています。
生成AIにデータを渡すという観点では、「データに意味を持たせる」「前提を明文化する」作業の重要性が、これまで以上に増すのだと思います。 そのため、実装・運用できる形に落とすには、データの扱い方を見直す必要がある、と改めて思いました。
データはあれば良い、というものでもない
さらに、データは貯めておけばよいというものではありません。 ここは意外と見落としがちですが、古くて価値の薄くなったデータは、削除するか、少なくともアーカイブして参照対象から外す必要があります。 ひとつの事柄に対して複数の版が混在したり、鮮度が落ちて参照することにあまり意味のないデータが大量に存在したりすると、それらがノイズとなって生成AIのアウトプットがぶれやすくなるからです。 生成AIがタイムスタンプを見て取捨選択することもできると思いますが、「存在しなければ参照することもない」という前提に立つのが、運用としてはシンプルだと感じます。
デモで感じた高揚感と距離感
Keynoteで行われたデモは率直に言って圧倒されました。 昨年のIgniteから登場した「ZAVA」という架空の企業を舞台にしたストーリー仕立てのデモだったのですが、「生成AIが組織に溶け込むとこんな風になるのか!」というのを見せつけられたように思います。
が、あまりにもそのスケールが大きすぎて、「すごいのは分かるけれど、自分の組織に入ってきた場合のイメージがつかみづらい」という印象も受けました。
大企業の事例
また、こうしたカンファレンスで紹介される事例の多くは大企業によるものです。 規模の大きい企業はこれまでもIT投資を重ねており、業務データや顧客データ、ログなどを、完全ではないにせよ一定程度整理された形で保有していることが多いと思われます。 さらに、業務手順をまとめた資料などもたくさんあるでしょうし、職務権限やそれに応じた情報へのアクセス権限などもすでに整理されていることが想像できます。 これは生成AI導入の観点では大きな強みです。
すでにデータが存在し、意味づけもある程度なされている。 さらに、誰がどのデータにアクセスできるかも整理されている。 つまり、生成AI導入に先立つ地ならしが、すでに終わっている状態だと言えます。 そのため、生成AIを導入した際に、短期間で成果が見えやすいのだと思います。 (もちろん、誰もが知ってる大企業の事例を紹介する方がインパクトがある、という事情もあると思います)
中小企業や小規模事業者の生成AI活用課題
一方で、企業数で見れば中小企業やリソースの限られた組織のほうが圧倒的に多いと思います。 人手の少なさを補うために生成AIを導入したいと考えている経営者の方も多いのではないでしょうか。 しかし、その多くはIT投資の規模も限られ、データの量や質が十分ではないケースも少なくないと思います。
- データがシステムごとに分断されている
- 情報の管理方法や保管場所が人に依存している
- そもそもデータが残っていない
こうした状況は特別なものではなく、むしろ一般的です。 そして、このような状況が生成AI導入にむけて乗り越えるべき壁となったり、あるいは「導入してみたけど効果が期待外れだった」という結論に繋がったりするのではないでしょうか。
だからこそ、「データが十分に整っていない組織が、どこから手を付けるべきなのか」にもっと焦点が当たる必要があると感じました。
地味で時間のかかる「データと向き合う作業」をどう支えるのか。 社会全体で生成AI活用が進むためには、ここが避けて通れない論点だと思います。
人間の仕事とは何か
Keynoteを通じて、何度も頭に浮かんだのは「では、人間の仕事とは何なのか」という問いです。 生成AIが作業を代替していくほど、私たちは自分自身の役割を見失ってしまいやすくなるかもしれません。
Keynoteを見ながら取ったメモには「人間がやる大切なことは、物語を語って紡ぎ、自分が物語の一部になれるような共感を得ること」と残っています。 これは、Keynoteに登壇された明治安田生命保険 取締役代表執行役社長 グループCEOの永島英器氏の言葉だったと記憶していますが、「たしかにその通りだ」と思いつつも、「すべての人が物語を語れるわけではない」とも思いました。 ただ、生成AIが正しさや効率を加速するほど、人間が担うべきものとして「意味づけ」や「納得」「共感」が重くなる、という印象は持っています。
このようなカンファレンスでは、「生成AIによって人間が退屈な作業から解放され幸せになるのだ」という文脈が語られますが、ふと自分の生活を取り巻く環境を見渡してみると、すべての人が生成AIを活用できる環境にいるとは言えないように思います。 以前のブログでも書きましたが、ITエンジニアでさえ職場での生成AI利用に大きな制限がかかっていることがあります。 また、世の中にはまだまだ生成AIには代替できない仕事もたくさんあります。
生成AIそのものがセンセーショナルであるが故に「どのモデルが優れていて、どんなプロンプトを書くのが良い」というような話に執着しがちですが、これまでのITと同様に「お客様や自分たちの課題をどうやって解消し、どうビジネス価値を生み出していくか」という視点を忘れずに向き合うことが大切であると改めて思いました。
「安心」と「信頼」
もうひとつ、Keynoteで印象に残ったのが、明治安田生命保険 永島英器氏の「安心」と「信頼」に関する話です。
「安心」はテクノロジーで作ることができる。しかし「信頼」は、身を委ねるような身体感覚を伴う人間的なものである。
また、その例えとして「家庭内でGPSを使えば安心にはなるかもしれないが、家族からの信頼を失いかねない」ともおっしゃっていました。 生成AIは「できること」を増やしますが、それがそのまま「信頼されること」にはつながりません。 ここは、技術の話だけでは完結しない領域だと改めて思いました。
おわりに
今回のAI Tourは、デモの派手さ以上に、「判断」と「信頼」の扱い方を考えさせられる場でした。 生成AIによって仕事が速くなる場面もあります。しかし、速くなることと、うまくいくことは別です。 特に、判断の責任や、データの整備、信頼の作り方は、簡単に自動化できるものではありません。
私自身、生成AIを使うことで自分の業務を効率よく進めようとしながらも立ち往生していることがたくさんあります。 自分の判断がボトルネックになるとわかっていながらも、既存の業務フローにとらわれて、生成AIから受け取れるはずの恩恵を受けられていなかったりします。 だからこそ、まずは小さく試し、手を動かしながら理解を深め、同時にデータの前提を整える。地味ですが、その積み重ねが生成AI活用の現実解に近いのではないかと感じています。
このようなカンファレンスに参加し、実際の仕事の中で生成AIを使えば使うほど、人間ってなんだろうな?という意識も大きくなります。 大げさかもしれませんが、生成AIがより社会に浸透していく流れの中で、人間としてどう生きるかも問われているのではないかと感じました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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