はじめに。
2026年3月6日〜7日の2日間、福岡の GROWTH 1 を会場に Scrum Fest Fukuoka 2026 が開催されました。自分にとっては初めてのScrum Festへの参加で、2日間ともオンラインでの視聴でしたが、画面越しでもたくさんの刺激をもらいました。昨年の夏に認定スクラムマスター(CSM)を取得し、スクラムへの理解を深めたいと思っていたタイミングだったこともあり、セッションの一つひとつが自分ごととして響きました。
今回、特に印象に残ったのは AI 時代におけるスクラムやチーム開発の在り方に関する議論でした。様々なセッションが複数の会場で同時に繰り広げられているなか、このAI時代だからこそ考えるスクラムとは?と言ったテーマも多く、登壇者も参加者も共通した問題意識を持っているのだなということを強く感じました。
ここでは、自分が聞いたセッションのうち特に心に残った4つのトピックを振り返りたいと思います。
1. 柴山校長のキーノート「挑戦を、楽しめ。」
Day1 のキーノートは、福岡女子商業高校の柴山校長による「挑戦を、楽しめ。 定員割れ高校を変えた『挑戦する文化』のつくり方」でした。とにかく人を引き付けるような話術が印象的な方で、開始早々にこのイベントは楽しくなりそうだなというのを強く感じました。
柴山校長は 2021 年に 30 歳で日本一若い校長に就任された方です。赴任時に定員割れが続いていた高校を、「挑戦を、楽しめ。」というスローガンのもと生徒主体のプロジェクトや地域連携を通じて立て直してきました。 話の中で特に印象的だったのは、「ダメって言われてないならやっちゃえばいい」「道がないなら自分で作ればいい」といったニュアンスの言葉(正確な表現は違うかもしれませんが、そういった趣旨だったと思います)と、「挑戦」というビジョンが単なるスローガンに留まらず、成績の評価基準や校内の運用ルールに至るまで一貫して組み込まれているという点です。ビジョンを掲げるだけでなく、組織の仕組みごと接続していく。その本気さが伝わってくるセッションでした。
聞きながら感じたのは、これは学校の話というよりも、組織変革の話だということです。「組織を変えるのは制度ではなく文化」であり、挑戦してもいいという空気があるかどうかで、人の行動はまるで変わるように思います。ソフトウェア開発や、その他の現場でもこれは全く同じことが言えるかなと思います。
ビジョンを掲げるだけなら簡単ですが、それを制度や仕組みとして組織全体に浸透させるところまでやり切っている柴山校長の姿勢はとても学びが多かったと感じます。 まずは自分のチームで、挑戦しても大丈夫だという空気をどう育てていくか。そのヒントをもらえたキーノートだったと思います。
2. 「スクラムのセオリーがスピードを殺していないか?」
こちらは、弊社メンバーの記事でも詳しく考察されていて、私自身も考えさせられる部分が非常に多かったテーマです。とても参考になりましたので、ご興味のある方はぜひ一読されてください。
この2日間を通して最も興味深かった、蜂須賀さん(Newbee 株式会社)と天野さんによる Day2 最後の「AI×スクラムの『新・セオリー』を探す旅 — AI推進派の二人が直面した、予想外のジレンマ」のパネルディスカッション。「これまでの正解だったスクラムのセオリーが、逆にスピードを殺していないか?」という問いかけには、思い当たることがある人も多いのではないでしょうか。
またこれまでスクラムを経験されてきた方にとっても、何かは分からないがいつの頃からか違和感を感じるようになったという方もいらっしゃるかもしれません。私自身スクラムの経験自体は浅いものの、AI 時代に入って、スクラムの前提条件が大きく変わりつつある中で、スクラムのセオリーをどうアップデートしていくべきかということを深く考えさせられるセッションでした。
セッションの進め方は、会場全体で45分間悩み抜く"公開探索"というスタイルで進められました。 議論は3つの焦点に絞り、固定長スプリントは足枷になり得るのか。バックログ爆発とリファインメントの皮肉。 そして職能横断の完成と役割の消失というテーマのもと、Discordでは参加者からもたくさんの意見が飛び交っていました。
生成 AI によってスクラムの前提そのものが揺らぎ始めているのではないか、という問題意識は、スクラムに関わる多くの人が少しずつ感じ始めていることなのだろうと思います。 だからこそ、これだけ多くの人が同じテーマについて考え、議論しているのだろうと思います。
考えてみれば、スクラムは人間の認知速度を前提に設計されたフレームワークであり、生成 AI によって「作る」速度だけが突出して速くなった結果、スプリントが担ってきた複数の役割や成果物を生み出す作業単位、検査と適応のタイミング、チームの集中と回復のリズム、ステークホルダーとの対話の区切りと言った一連のサイクルが同じテンポでは回らなくなりつつあります。
だからといって、スプリントを短くすれば解決するわけでもありません。スプリントが短くなるほどプランニングやレビューも高頻度になり、人間側のリズム・検査・合意形成の負荷が増えていきます。大事なのはスプリントが固定長かどうかではなく、目標設定とふりかえりをどう設計するかではないでしょうか。
結局、明確な答えは出ませんでした。ですが、スクラムの原則そのものが変わったわけではなく前提条件が変わったのであれば、まさに検査と適応を回して自分たちのチームに合った形を探す。それこそがスクラム的なアプローチなのだろうと自分なりの納得を得ることができました。
3. 結局、詰まるのは「人と人の間」。だからこそモブプロが効く
AI の登場で開発サイクル全体が劇的に速くなるかというと、実はそうでもないという話も印象に残っています。あるセッションで「これまでソフトウェアエンジニアリングにおいてコーディング自体がボトルネックになったことは一度もない」という言葉が引用されていましたが、この言葉そのものが、AI 時代に入っても本質的なボトルネックは人間の認知や対話、共通認識の形成にあるということを端的に表していたように感じました。
コードを書く作業がどれだけ速くなっても、「何を作るか」「なぜそう設計するか」を擦り合わせる工程は人間にしかできません。 要件の認識を揃えたり、設計の方向性を議論したり、試行錯誤のたびに立ち戻って確認したりする部分は、AI では代替しにくい。 むしろ実装が速くなった分だけ、その手前の「認識合わせ」が詰まりやすくなっている感覚があります。これは新しい問題ではなく、ずっとそこにあった課題が見えやすくなっただけなのだろうと思いました。
AI が個人の生産性を引き上げるほど、チームとしての認知を揃える活動。つまり対話やモブプログラミングの重要度は増していきます。 こうなると、最近よく聞く「やっぱりオフィスで顔を合わせた方がいいのでは」という議論にも、一定の説得力を感じてしまいます。 リモートワークのメリットは自分自身よく分かっている一方で、ちょっとした雑談や廊下での立ち話から生まれる認識合わせの密度は、オンラインだとどうしても薄くなりがちです。 リモートワークとオフィスワークのどちらが良いかという二者択一の議論ではありませんが、AIの導入がますます進む中であるからこそ、対話の密度を高めるための工夫はこれまで以上に必要になってくるのだろうと思います。
4. AIで空いた時間を何に使うか
このイベントに参加するまでは、スクラムに関する話題が大半を占めるのだろうと思っていましたが、実際に取り上げられた話題には、AIがもたらす変化とそれに対する組織やチームの在り方にを考えるテーマも多かったように感じました。
そして、AI によって開発生産性が上がった分の余剰時間をどう使うべきなのか。これが今回のScrum Festを通して、個人的には最も身近なテーマだったように思います。
印象的だったのは、セッションごとにテーマや切り口は異なるのに、「AIで浮いた時間をどう使うか」という問いに対しては、顧客理解や顧客との接点を増やすことに充てるべきだという方向に自然と話が向かっていたことです。 考えてみれば当然で、実装が速くなっても、作るものの方向性がズレていれば何の意味もなく、速く作れるようになった今だからこそ、何を作るべきかを見極めるために顧客と向き合う時間がより重要になるということです。
また別の視点として、浮いた時間をコードベースの健全性を保つための作業や、チーム全体の開発力を底上げする取り組みに充てるべきだという話もありました。 たとえば技術的負債の返済に加えて、AI がより正確に動けるようにプロジェクト固有のルールやドキュメントを整えておくことで、将来的な開発効率をさらに高めていくという発想です。 作る速度が上がったからといってどんどん機能を足していけばいいかというと、そうではありません。 選択肢や画面が増えるほど、使う側にとっては分かりにくくなるリスクもあります。速さの恩恵をどこに振り向けるかという判断が、これまで以上に問われていると感じます。
自身を振り返ってみても、手が空くとつい目の前のバックログから着手できそうなものを拾いに行ってしまうことがあります。 けれど本当に大事なのは、一度手を止めて「そもそも今チームとして取り組むべきことは何だろう?」と問い直すことではないかと思います。 言われてみれば当たり前なのですが、こう何人もの登壇者が異なる文脈から同じ結論に辿り着いているということは、それだけ多くの現場で「速く作れるようになったけど、これで良いんだっけ?」という違和感が共有されているのだろうと思います。
AI時代で空いた時間を何に使うべきかという問いについては、単に品質向上やドキュメント整備と言った、今まで手が回らなかったことに充てるという話ももちろん重要ですが、他にも考える余地は多くあるなと感じた2日間になりました。
おわりに。
今回参加したScum Fest Fukuoka 2026では、スクラムのお話はもちろん、AI時代だからこそ考えるべきスクラムやチーム開発の在り方について、非常に多くの示唆を得ることができるイベントでした。スクラムのセオリーがAI時代にどう変わるべきかというテーマは、これからも引き続き考えていきたいテーマだと感じました。
本当に学びが多いイベントになりましたので、来年こそは現地で参加できるようにしたいと思います。
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