やらない夫は弱虫のようです 第三十一話
803
┏
―――倒れていた。
┛
┏
こんな、山のように魔物の出る森の中の、
┛
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
l (__人 ___ ) }
「 ―――マーサ…、さん? 」 | `ー――‐ ' |
| ⌒ j
丶 /、
ヽ ノ.│
/√ヽ──-´ / ノ \
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┏
湿度の高い、じめじめとした―――とても人が長いことはいられるようなところではない、
┛
┏
小さな、洞窟の中で。
┛
.
275 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:38:01 ID:e4LFvmMs [4/38]
804
┏
たった一人で、一人きりで―――こんなにも、淋しい、ところで―――
┛
丿::::::::::.l゙::::::::,! | ゙i、゙l、::::ヽ|
|:::::::::::::/:::::::::l゙ | i 'ドl:::::::::ヽ
,l゙:::::::::::,l゙:::::::::,! .| .| l、:l、:::::::\
/:::::::::::::l゙::::::::::l゙ | l゙ l、:l、:::::::::::\
┴'''''''''>|:::::::::::| .|.| ゙l:ヽ::::::::::::::ヽ
l゙::′::::::l゙ .∥ ゙l.:゙l、:::::::::::::\ ┏
`''ー、:::l゙ .| .゙l::゙l、:::::::::::::::゙i、 こんな、誰も、通り過ぎることなど
ヽ,,,! | ゙i、:゙l,:::::::::::::::::::\ ないようなところで。
' | │::ヽ::::::::::::::::::::ヽ、
| │:::ヽ::::::::::r―‐ッ ┛
,,、 | ゙l::::::ヽ::/::::::::/
.| │::::::゙::::::::::::/ ┏
| ゙l:::::::::::_,/ 彼女、マーサは倒れていたのだ。
| _,ル-'"゜ ┛
ヘ-,,,,,___,,,,,,,-'"|、
,/′ `,! .,,,,,,y" ゙l
,-'`'''''ニr〆`/ ,,/.
.
277 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:39:02 ID:e4LFvmMs [5/38]
805
ドクンッ!
┏
心臓の音が、やたら煩い。
┛
ドクンッ!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┏
', i !、 _´" / l 生気のない顔。
ヽ ', ',ヽ、 ` ゙ , イ │ ┛
ンヽ', ', ヽ、 ,/ l l
/_/_', ', `丶、..., '´ | l 「 パパ…ス、さん?」
r‐ ''"´ ', ',、 、 / l l
ヽ ', ',\\. /、 i !
/,. -‐‐- 、 ', ', \ヽ、lヽ. l ! ┏
`ヽ'、 ' 、 \ ! ヽ、 ノ / 弱弱しい声。
┛
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┏
叫びだしたくなるのを、必死でこらえた。
┛
.
278 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:39:50 ID:e4LFvmMs [6/38]
806
/ ̄ ̄\
/ _ノ \
| ( ○)(○) 「 マーサ、さん? 」
. | U (__人__)
| |r┬-|
. | ι `ー'´} 「 どうした? どうしたんだ? 大丈夫なのか?」
. ヽ u }
ヽ ノ
/ く
| \
| |ヽ、二⌒)、
┏
冷静さを保ってみたが、どれだけできたかは自信がない。
┛
「 お願いします… 」
┏
彼女は小さく、俺につぶやいた。
┛
.
279 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:40:20 ID:e4LFvmMs [7/38]
807
┏
俺にあっさりとベホマを使ってみせた彼女が、なぜこんなに弱っているのか?
┛
/ ̄ ̄\
/ u ノ \
| .u ( ●) | 「 なんだ? 何をしてほしいんだ? 」
. | (__人_)
| ` ⌒ノ
. | }
. ヽ u }
ヽ ノ
ノ \
/´ ヽ
ヽ、二⌒)
┏
二日前は、ここまで衰弱はしていなかったはずなのに。
┛
.
280 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:40:54 ID:e4LFvmMs [8/38]
808
', i !、 _´" / l 「 お願いします…パパスさん… 」
ヽ ', ',ヽ、 ` ゙ , イ │
ンヽ', ', ヽ、 ,/ l l
/_/_', ', `丶、..., '´ | l
r‐ ''"´ ', ',、 、 / l l 「 この子を…。この子を、助けて―――… 」
ヽ ', ',\\. /、 i !
/,. -‐‐- 、 ', ', \ヽ、lヽ. l !
`ヽ'、 ' 、 \ ! ヽ、 ノ /
┏
かすれた声で言った、マーサの腕に、
┛
ハ
, ' .丶 「キュー…」
,. '´ ` 、
γ = =; ヽ
..! ゝ_‐----‐_つ .}
. 丶.. ___ _ ,, .. '
┏
スライムの子供(?)が、守られるように抱きしめられていた。
┛
.
281 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:42:01 ID:e4LFvmMs [9/38]
809
┏
そして、彼女は意識を失う。
┛
「――――マーサッ!!!」
┏
俺は知らずに、大声を上げた。
┛
┏
ここ数年は、出した覚えのないくらい―――大きな…声を。
┛
282 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:42:28 ID:e4LFvmMs [10/38]
810
.
283 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:42:49 ID:e4LFvmMs [11/38]
811
『「――――栄養失調ですね。」』
『「最低でもここ数日は、何も食べていないのでは。」』
┏
医者の声が、耳を右から左へ駆け抜けていく。
┛
『「―――あと、この女性はどうやら魔法が使えるようですが…」』
┏
しかし、俺の耳には入っているようで、まともにはいってはいなかった。
┛
『「魔力が枯渇していますね。不思議なほどに。」』
.
284 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:43:35 ID:e4LFvmMs [12/38]
812
『「パパス様もご存じだとは思いますが、魔力は生命力と同等です。」』
「『特に力のない、魔法使いや僧侶などにとっては。」』
┏
どういうことだ。―――二日前には、そこまでひどい状態ではなかったではないか。
┛
『「ひょっとしたら…ではありますが、このスライムの幼生が原因かも。」』
『「生命力がほぼなくなると、回復魔法を受けつけない状態になることがあるのです。」』
┏
彼女と一緒にいたスライムが…?
┛
『「このスライムも、かなり弱っています。」』
『「ひょっとしたらこの女性は―――、この魔物を、救おうとしたのでは?」』
.
285 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:44:31 ID:e4LFvmMs [13/38]
813
/ ̄ ̄\
/ \ \
「魔物を…?」 .(●)(● ) u. |
(__人__) u |
.(`⌒ ´ |
「魔物を、助けようとした、と?」 { |
{ u. /
\ /
ノ \
/´ ヽ
┏
医者の言葉に、ようやく俺は我に返った。
┛
∩_∩ 「 ええ。理解できないことではありますが、」
(´ー`)
( )
| | | 「回復魔法ではなく、「魔力そのもの」をこのスライムに分け与えようとしたのでは。」
(___)__)
┏
魔力そのもの? ―――それはいったい、どういうことだ?
┛
.
286 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:45:13 ID:e4LFvmMs [14/38]
814
∩_∩ 「ええ。今も言いましたが、魔力は生命力そのものなのです。」
(´ー`)
( )
| | | 「高い魔法力を持つ者ならば、―――あるいは、自分の魔力で、
(___)__) 他者の命を作り替えることができるかもしれません。 」
∩_∩ 「はるか昔には、そのような神の御業があったときいたこともあります。」
(´ー`)
( ) 「私も古い魔道書でしか目にしたことはありませんが―――
| | | ザオリクとかいう究極の蘇生呪文は完全に死んだ者すら生き返らせたとか。」
(___)__)
┏
医者の説明に、やはりと俺は確信を持つ。
―――マーサは、やはり。普通の人間ではないと。
┛
.
287 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:46:30 ID:e4LFvmMs [15/38]
815
∩_∩ 「しかし、理解できませんな。」
(´ー`)
( )
| | | 「何故にこの女性は…スライムを、魔物を。助けようとしたのでしょう?」
(___)__)
┏
不思議がる医者だったが、そんなことはどうでもよかった。
┛
┏
何が何だか訳はわからないが、 z
とにかく彼女はこのスライムを俺に z ハ
託したのだ。 z , ' .丶 「キュゥ」
┛ z ,. '´ ` 、
γ = = ヽ
┏ ..! ゝ_‐----‐_つ .}
彼女も、このスライムも。 . 丶.. ___ _ ,, .. '
絶対に死なすわけにいかない。
┛
.
288 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:47:31 ID:e4LFvmMs [16/38]
816
__ ... -―::::::―- .... _
. ...:.::´::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`:.:..、 スー…スー…
/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`:..、
. /::/::::::,::′//////////::::::::::::::::::::::::::
/:::::/::::::/::://////////////::::::::::::::: ┏
. .:::::/::::::/:::/ :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: /:.:.:.: /:.:.:.:.:.::/:: 栄養失調。魔力の枯渇。
|::::;i:::::: !:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::://:::: /::::::::::〃:::: ┛
l:::;i|::::::i|::::::从:::::::::::/::::: //::://::::::::/:::::::::
Ⅵ:!:::::ハ :::i十:::::/ //´/<ミメ/:::::イ:::::::::::::::
ヽ Ⅳ::::∨=彡/ / く ∠ヾ〃::::::::::::::::::
|::::i|::::' _..ノ `ヾ=彡//:::::::::::::::::::::: ┏
|::::i|::i イ/:::::::::::::::::::::::: 一時は医者に「危ないかも」と言われた
|::::i|::: /:::::::::::::::::/::::: 彼女は、医者の与えた薬湯で少しずつ
|::::i|:::. //:::::::::: /;:′:::: 回復していった。
|::::i|: ∠ イ::::イ::: /::::/::::::::::: ┛
|::::i|:l::∧´ ' / /:::::::::::::/:::::::::::::
|::::i|:l/:ハ / /:::::::: /::::::::::::::://
. ! ::!|:l:::::ハ /::::::: イ ::::::::::::::: // ┏
. l:::i:|:l::/::| :≧=ニ二ハ / : //:::::::::::::::// 「もともとのこの人はすごい生命力を
l::l::|:i′:|::::::::|::::::|i::::i|:j/:/ /:::::::::::::::/__ 持っているようだ。」とは医者の言だ。
l:i:::i:l::::::|::::::::|::::::|i::::i|/ /:::::::::::::::/: : : ┛
. li::::li::::::|:::il:!|::::::|i/! i.//:::::::::::::::/‐─
l!::::l::::::|:::||:!|::::::|i::::!|イ: :/:::::::::::::::/
┏
彼女は一週間、意識を失ったままだった。
┛
.
289 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:48:43 ID:e4LFvmMs [17/38]
817
┏
突然姿を消し、マーサを連れ戻った俺に、当然ながらおおいに周りは盛り上がった。
┛
-‐一……ー- 、 ┏
, '´::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ 当たり前だ。自室にいると思っていた人間が、いきなり
/::::, -‐ァ:::, -―ァ:::::, -、::::::', 女性を抱きかかえてきたと知ればだれでも気になる。
/イ/-、∠/-― 、`ヽ:i }::::::| ┛
/イT o} y T o ̄} l」 |::::::|
l r′  ̄ ; 、ー' :::::| 「パパス様!?」
r┴―――一'′ ヽ :::::|
| \|
| } ┏
| /′ 特に俺の侍従であるパパスは、平静を装いながらも
ヽ_____ '´ / 戸惑いを隠せないでいた。
/`ー――――一'´ / ┛
/ /⌒ヽ. /
290 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:49:20 ID:e4LFvmMs [18/38]
818
┏
俺は何と説明したらいいのかもよく判らず、ただ、サンチョに頼んだ。
┛
__
.,/,-、 \
/ ノ:/ ノfヽ.. \ 「頼む! 頼む、サンチョ。
| /:/ /...| | |
l レ ./..ノ .,''´} i 事情はあとで話す、だから―――だから、彼女を助けてくれ!」
l ' ´ .〃 / |
ヽ. . 〈 .ノ
\.,_ ._ノ /
/ / ヽ
./ / |
i ./ . |
┏
俺は一体どんな顔をしていたんだろう。思い出したくもないが、その時は必死だった。
┛
┏
話すほどの事情も、まだ持っていないというのに。
┛
┏
子供のように俺は、サンチョに頼んだのだ。
┛
291 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:50:05 ID:e4LFvmMs [19/38]
819
-‐一……ー- 、
, '´::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ ┏
/::::, -‐ァ:::, -―ァ:::::, -、::::::', 狼狽する俺をサンチョは落ち着かせ、すぐに医者を呼んでくれた。
/イ/-、∠/-― 、`ヽ:i }::::::| ┛
/イT o} y T o ̄} l」 |::::::|
l r′  ̄ 、ー' :::::|
r┴―――一'′ ヽ :::::| ┏
| \| 医者は彼女(と、スライム)を診、薬湯を与え
| } 安静を命じ、帰って行った。
| /′ ┛
ヽ_____ '´ /
/`ー――――一'´ /
/ /⌒ヽ. /
┏
俺のいつも一番そばにいるサンチョがなにも聞かない以上、
周りも、俺に何がどうなったのかを問い正せないでいたらしい。
┛
┏
明るいうちはサンチョに世話を任せ、夜は俺も看護に回った。
とにかく彼女が一日も早く目覚めるのを待った。
┛
┏
そして、一週間後――
┛
.
292 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:51:24 ID:e4LFvmMs [20/38]
820
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ト、;;;l、;; ト、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;', 「 ここは…?」
,';;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ト、!-ヽ!ヽl.ヽ;;;;;;;;;,イ/!;;,ィ;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;l、;;!ィヤ'':::ト、l `i;;;;;/ ナ'l/ノ、/;;;;;;;;;;/ 「……私は、何故こんなところに? 」
.l;;;;;;;;|;;;;;;;;;;ト、ヾ `'''"´ レ' て::jヾ!;;;;/;;;;/
l;;;;;;;;;l;;;;;;;;;| `" ノ//
l,;;;;;;;;;l;;;;;;;;;l i '"/;;|
.l;;;;;;;;;;;i;;;;;;;;;!、 _´" /;;;;l
l,;;;;;;;;;;;;',;;;;;;;',ヽ、 `=゙ , イ;;;;;;|
l;;;;;;;;;;;;;;',;;;;;;;', ヽ、 ,/;;;;l;;;;;;;l ┏
ノ,,;;;;;;;;;;;;;;',;;;;;;;', `丶、..., '´;;;;;;;;;;|;;;;;;l 彼女が、目を覚ましたのだ!
r‐ ''"´ ',;;;;;;',、 、 /;;;;;;;;;;;;;;;;;;;l;;;;;;;l ┛
ヽ ',;;;;;;;',\\. /、;;;;;;;;;;;;;;;;;;i;;;;;;;!
/,. -‐‐- 、 ',;;;;;;;', \ヽ、lヽ;;;;;;;;;;;;;l;;;;;;;!
`ヽ'、;;;;;;';、 \ ! ヽ;;;;;;;ノ;;;;;/
┏
一気に、また心臓がうるさくなる。
┛
/ ̄ ̄\ 「……ここは、俺の家だよ。」
/ _ノ \
| ( ●)(●) 「すまない。……動かないと言っていた君を、
. | (__人__) 勝手に、ここにまで連れてきてしまって。 」
| ` ⌒´ノ
| } 「でも、君が倒れてしまったから、仕方なく…」
_./:l ヽ }
‐''"´:/::::::|_ ヽ_ __ノ::、
::::::::: !::::::::l′ \ ,イ\
::::::::::l::::::::::l /:`:::l:::::\ ┏
::::::::::|:::::::::::\ /:::::::::::l:::::::::\ 何か、言いたかったはずだった。
::::::::::|::::::/\ヽ l::ヘ::::::::l::::::::::::ハ
::::::::::l/:::::::::::o:ト .」::-:::::\::!::::::/::::l もっと違うことを。もっと、別のことを。
:::::::::::::::::::::::::::::: l`ー'l:::::::::::::::::`::/::::::::l ┛
293 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:52:28 ID:e4LFvmMs [21/38]
821
┏
聞きたかったはずだった。
┛
┏
君は何者なのか。スライムを助けようとして、魔力を使いきったのか?
┛
┏
何故、何も食べないでいたのか。―――そう。幾らでも、聞きたいことはあったのだ。
┛
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ ┏
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ 意識を取り戻したばかりで、まだぼんやりしている彼女は、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ト、;;;l、;; ト、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;', 俺をひたすら見つめる。 ┛
,';;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ト、!-ヽ!ヽl.ヽ;;;;;;;;;,イ/!;;,ィ;;;;;;;;;;;;;;;;;
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;l、;;!ィヤ'':::ト、l `i;;;;;/ ナ'l/ノ、/;;;;;;;;;;/
.l;;;;;;;;|;;;;;;;;;;ト、ヾ `'''"´ レ' て::jヾ!;;;;/;;;;/
l;;;;;;;;;l;;;;;;;;;| `" ノ// 「……あの子は、大丈夫ですか?」
l,;;;;;;;;;l;;;;;;;;;l i '"/;;|
.l;;;;;;;;;;;i;;;;;;;;;!、 _´" /;;;;l 「ごめんなさい、パパスさん。
l,;;;;;;;;;;;;',;;;;;;;',ヽ、 `=゙ , イ;;;;;;| ……あの子を、任せることになってしまって……。」
l;;;;;;;;;;;;;;',;;;;;;;', ヽ、 ,/;;;;l;;;;;;;l
ノ,,;;;;;;;;;;;;;;',;;;;;;;', `丶、..., '´;;;;;;;;;;|;;;;;;l
r‐ ''"´ ',;;;;;;',、 、 /;;;;;;;;;;;;;;;;;;;l;;;;;;;l ┏
ヽ ',;;;;;;;',\\. /、;;;;;;;;;;;;;;;;;;i;;;;;;;! まだ、完全に回復していない、青白い肌のまま…。
/,. -‐‐- 、 ',;;;;;;;', \ヽ、lヽ;;;;;;;;;;;;;l;;;;;;;! ┛
`ヽ'、;;;;;;';、 \ ! ヽ;;;;;;;ノ;;;;;/
294 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:53:35 ID:e4LFvmMs [22/38]
822
 ̄ 、
´ \
/ ヽ 「……っ!」
/ ノヾ ┏
' ー ´ ヽ 俺は、言葉を奪われる思いだった。
l / .,.....、ヽ ┛
. l l {::::::} l
. l /// 冫.ー く ┏
l l ノ! 彼女は、自分が倒れる寸前にも、
l `ー‐ f r'
l ノ' そして、自分が目覚めた直後にも。
! / ┛
,' /
 ̄ `ー - / ┏
` 、 / 自分のことを訴えなかったのだ。
:.:.:.:.:.:... 、 / ┛
:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.. .:.:ヽ _ ´
ー- :.:.:.:.:.:.:.:.. ..:.:.:.:.:.:ヽ
` 、:.:.:.:.:.:.:...:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ ┏
、:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.\ 倒れるまでは…苦しかったろう、辛かったろうに…!
..:.`:.:、:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ ┛
..:.:.:.:.:.:.:.`:.:、:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./
295 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:54:54 ID:e4LFvmMs [23/38]
823
┏ グッ…
こんな女性が、いや、こんな人間がいたのか。 l (__人 ___ ) }
┛ | `ー――‐ ' |
| ⌒ j :;
┏ 丶 /、
少なくとも、俺は知らない。身内でもない、しかも魔物に。 ヽ ノ.│
―――ここまで、自分より他者を気に掛けるひとは。 /√ヽ──-´ / ノ \
┛
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「キー」 ハ
, ' .丶 「キュ-」 「…良かったわ、面倒見てもらえたのね。」
,. '´ ` 、
γ ,, ● <,, ヽ 「ごめんね、すぐに気付いてあげられなくて。
..! ゝ_‐----‐_つ .} すぐに、助けてあげられなくて。 」
. 丶.. ___ _ ,, .. '
┏
彼女が目覚めたと気付いて近づいてきたスライムを、彼女はやさしく抱きしめる。
┛
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┏
前に会った時も、苦しかったはずだ。それなのに、俺を気にかけ、ベホマまでかけてくれた。
┛
.
296 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:55:58 ID:e4LFvmMs [24/38]
824
l,;;;;;;;;;l;;;;;;;;;l /;;| 「ご面倒をおかけしてごめんなさい、パパスさん。 」
.l;;;;;;;;;;;i;;;;;;;;;!、 ´ /;;;;l
l,;;;;;;;;;;;;',;;;;;;;',ヽ、 ー , イ;;;;;;|
l;;;;;;;;;;;;;;',;;;;;;;', ヽ、 ,/;;;;l;;;;;;;l 「どこから迷い込んだのか、このスライムが死にそうになっていたの。」
ノ,,;;;;;;;;;;;;;;',;;;;;;;', `丶、..., '´;;;;;;;;;;|;;;;;;l
r‐ ''"´ ',;;;;;;',、 、 /;;;;;;;;;;;;;;;;;;;l;;;;;;;l 「助けたかったのだけれど、もうその時、どうしても力が出なくて。」
ヽ ',;;;;;;;',\\. /、;;;;;;;;;;;;;;;;;;i;;;;;;;!
/,. -‐‐- 、 ',;;;;;;;', \ヽ、lヽ;;;;;;;;;;;;;l;;;;;;;!
`ヽ'、;;;;;;';、 \ ! ヽ;;;;;;;ノ;;;;;/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
―――― 「私のことを頼る人はいても、心配してくれたのは…もう誰も…いないから…。」 ―――
─────────────────
──── 「……そういう立場に生まれたのだ。仕方ないさ。」 ───
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┏
俺は――――…俺は。マーサのことを――――
┛
297 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:56:48 ID:e4LFvmMs [25/38]
825
┏
周りが、気づくと頼ってしまう人間。
┛
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
/ ̄\
| |
\_/
|
「 でもな、俺は思うよ、パパス。 」 / ̄ ̄ ̄ \
/ノ :::: \::::: u \
「 俺にすら頼らないお前が、誰かに、 / <●>::::<●> \
誰かに頼れるようになれば、よいなと。」 | (__人__) u. |
\ u.` ⌒´ /
/ __|
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┏
友の言葉がよみがえる。
┛
┏
友よ、ベルギースよ。―――ここに、そんな人間がいた。
┛
.
298 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:57:53 ID:e4LFvmMs [26/38]
826
┏
しかもその人間は、自分を差し出すことに何の疑問も、不満すらも抱いていない…!
┛
. / ̄ ̄\
/ _ノ\ 「マーサ…さん!」
. | ; (●)
. | /// (___ノ) 「その体はまだ回復しきっていない。」
| ´ノ
. | } 「―――回復するまでは、ここに…いないか?」
. ヽ }
ヽ ノ
┏
自分の小ささを自覚すると同時に、何とも言えない感情が
湧きあがるのを、俺には止められなかった。
┛
.
299 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/14(金) 21:58:49 ID:e4LFvmMs [27/38]
827
┏
最初は渋っていたマーサも、俺の押しに最後には頷いてくれた。
┛
┏
あの時、俺は一体どんな顔をしていたんだろう。
┛
┏
――――そして、彼女はここに滞在することになり……。
┛
┏
その数ヶ月後、…―――俺の妻になってくれたのだった…。
┛
.
管理人※モナーの先祖を見たのって凄い久しぶりだな……
大型化はされてないのだろうか。
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