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■2022/06/22(水) 名作ショートショートをAA化しよう 「august heat」

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383 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:33:34 ID:f3MaQNgK0 (PC)
1/18


 一九〇‐年八月二十日
 クラップハム、ペニストン・ロードにて
 自分は今、自分の生涯のうちでもっとも特筆しべき日だと思うことを経験したばかりのところだ

     ノノ(ヽヽゝ +
   +  ( ´一`)
     (φ   )             
    ̄ ̄\三三\ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\    
                      \  
 そこで、ことのいきさつがまだ頭の中になまなましているうちに、
 なんとかしてできるだけ明細にそれを書きつづっておきたいと思う
 まず冒頭に言っておくが、自分の姓はジェイムズ・クレアレンス・ウイゼンクロフトというのである



384 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:34:13 ID:f3MaQNgK0 (PC)
2/18


今朝、自分は九時に朝飯をたべて、一服やりながら、鉛筆でなにか描きたいものだが、
  なにかうまい材料はないかなあと思って、ぼんやりそのほうへ心を向けていた


                ,-─-、               
               ∥ノノ(ヽヽゝ             
               || ( ´一`)            
             _|| (    VY─┛~    
             \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄_\       
             .||.i\   ̄ ̄   、__ノフ \     
             .||ヽ .i\ _ __ ____ __ _.\    
             .|| ゙ヽ i    ハ i ハ i ハ i ハ |    
             .||   ゙|i~^~^~^~^~^~^~^゙||    


 とびらも、窓もあけっぱなしにしてあるくせに、部屋の中は息が苦しくなるくらいムンムン暑い
       この近くで涼しくって気持ちのいいところといったら、
  さしづめ公衆水浴場の奥なんかが一番いいだろうなあと考えたとたん、
       ふっと画想が浮かび、それから描きだした



385 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:34:52 ID:f3MaQNgK0 (PC)
3/18


 絵づらは、裁判長が判決を下したその直後の、被告席にいる犯人を描いたものである
   顔の表情から受ける感情は、完全な放心状態にひとしい愕然のそれである

                 ∧w∧
                 (゚Д゚i|!;)
                 |  ∪
               [ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄]
                   |        |
                   |        |

   そのからだをささえるだけの力は、いま、この男のどこにもないように見える




386 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:35:34 ID:f3MaQNgK0 (PC)
4/18


 自分はこのスケッチ画をグルグルと筒に巻くと、どうしてそんなことをしたのか
   自分でもわからないが、そのままポケットにそれをしまった
 それからいい仕事をしたあとの、めったにない幸福感にひたりながら、家を出かけた


           ノノ(ヽヽゝ
            ( ´一`)
             (     )
     ∬      人  Y         ∬
.            (__ ヽ_)     ∬       ∫



 家を出かけたのは、トレントンのところをたずねてやろうという下心があったのだと思う
 でこぼこに波を打ってるのがはっきり目に見える、ほこりっぽいアスファルトの舗道から、
  むんむんあがってくる猛烈な暑さであった



387 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:36:21 ID:f3MaQNgK0 (PC)
5/18


空き地からのんきな口笛の声にまじって、槌の音、たがねで石を打つ音がきこえてくる
  自分はなんの気もなしに、ズカズカ中へ入っていった



          ∧w∧
       .-‐‐(    )
       | ⊂    ヽ
       |   ( _ @ 
                     ノノ(ヽヽゝ
                      (一`  )

  一人の男がこちらへ背を向けて、美しい縞目の大理石の薄板を前にして、
    余念無く仕事をしていた



388 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:37:03 ID:f3MaQNgK0 (PC)
6/18


 その男が自分の足音をききつけて、クルリとこちらへ向きをなおしたとたんに
   自分はアッといってそこに立ちすくんでしまった


                        从
                   ノノ(ヽヽゝ
       ∧w∧ 彡     (´一` ;)
    .-‐‐(  ゚Д)       (    )
    | ⊂    ヽ        | |  |
    |   ( _ @       (_(__)


   その男は。さっき自分が絵にかいた男であった
  もっとも顔は同じだが、表情は絵とまるっきりちがう




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389 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:37:43 ID:f3MaQNgK0 (PC)
7/18


            | 表はどこを見ても暑くて、ギラギラしててね
            | ちょうどここは砂漠のオアシスみたいだったもんだから
            \_______  _____
                        \|

   | オアシスなんて知らないがね
   | とにかく、まったく暑いや
   | まるで焦熱地獄だね。まあ、そこへおかけなさいな
   \_______  ______
               |/

                          ノノ(ヽヽゝ
              ∧w∧        (´一` )
           .-‐‐(  ゚Д)       (    )
           | ⊂    ヽ        | |  |
           |   ( _ @       (_(__)



390 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:38:25 ID:f3MaQNgK0 (PC)
8/18


      「あんたのいま彫ってる石、そりゃあ美しい石ですねえ」


  「こいつは展覧会へ出すんでさ といったって本気にゃなさるまいが、ほんとうなんです
    絵描きさんは展覧会をひらく 八百屋や肉屋だって、品評会ってもんがある
       石屋だってありまさあね。どうです、これ、なんとおぼし召すね?」



                          ノノ(ヽヽゝ
              ∧w∧        (´一` )
           .-‐‐(Д゚  )       (    )
           | ⊂    ヽ       (^⌒_ノ_ 
           |   ( _ @       しし   ((@)
                          ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



     石屋はどうだと言わんばかりのようすをして言った



391 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:39:05 ID:f3MaQNgK0 (PC)
9/18




    ジェイムズ・クレアレンス・ウイゼンクロフト

         一八六〇年一月十八日生

         一九〇‐年八月二十日頓死

        生のただなかに死はつねにあり





392 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:39:51 ID:f3MaQNgK0 (PC)
10/18


  自分がそのときはじめて読んだ墓碑銘、上のようなものであった
 自分は腰をおろしたまま、しばらく黙っていた。ゾッとする冷たい戦慄が背すじを走った
    自分は石屋に、あんた、この名まえをどこで見たかといってたずねた

                          ノノ(ヽヽゝ
              ∧w∧        (´一`i|!)
           .-‐‐(Д゚  )       (    )
           | ⊂    ヽ       (^⌒_ノ_ 
           |   ( _ @       しし   ((@)
                          ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

  「なーに、どこでも見てやしませんよ
   なにか名まえがほしいと思ってね、いちばん最初に頭に浮かんだ名まえを彫ったんでさ
   どうしてまたそんなことをおたずねです?」

  「ふしぎな暗合だな。ぼくの名まえがそれなんだ」

  「で、日付は?」



393 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:40:31 ID:f3MaQNgK0 (PC)
11/18

            | 日付たって、片っぽしか────
            | つまり生まれたほうしか答えられないが、ちゃんと合ってる
            \_______  _____
                        \|

   | みょうなことがあるもんだね
   \_______  ______
               |/

                          ノノ(ヽヽゝ
              ∧w∧        (´一` ;)
           .-‐‐(  ゚Д)       (    )
           | ⊂    ヽ       (^⌒_ノ_ 
           |   ( _ @       しし   ((@)
                          ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

  みょうどころの話ではない。自分のほうがまだもっと知っていることがある
     自分はけさ自分の描いた絵のことを話した



394 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:41:25 ID:f3MaQNgK0 (PC)
12/18


 そしてポケットからその絵を出して、石屋に見せた
 するとその絵を見てるうちに、石屋の相好がだんだん変わってきて、しまいに自分の描いた男の顔にますます似てきた




       ∧w∧ 
      (゚Д゚i|!;)
       |口とヽ 
       (____)

 「つい一昨日のことだったが、わたしゃ家内に幽霊なんてものはねえって話したばかりなんだがね」



395 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:42:06 ID:f3MaQNgK0 (PC)
13/18


            | あんたね、たぶん前にぼくの名まえを聞いたことがあるんだよ
            \_______  _____
                        \|

   | いや、そういうあんたも、どこかできっとわたしのことを見かけたことがあるんだね
   | そいつをつまり忘れていたんだよ、きっと。あんた、この七月にクラクトンの浜にいましたかい?
   \_______  ______
               |/

                          ノノ(ヽヽゝ
              ∧w∧        (´一` )
           .-‐‐(  ゚Д)       (    )
           | ⊂    ヽ       (^⌒_ノ_ 
           |   ( _ @       しし   ((@)
                          ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


    自分はクラクトンへは生まれてからまだいちども行ったことがない
     二人はしばらく黙っていた

    「どうですい、中へあがって夜食でもやりましょうゃ」



396 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:42:49 ID:f3MaQNgK0 (PC)
14/18


 妻君というのは明るい小作りな女で、田舎育ちらしいカサカサした赤いほっぺをしていた
  石屋は自分のことを友達の絵描きさんだといって妻君にひきあわせた



        ノノ(ヽヽゝ                  ∧w∧
        ( ´一`) / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ (゚ー゚* )
        (    )/旦               \|旦とヽ


 しばらくして庭へ出てみると、石屋はさっきの墓石に腰をかけて一服やっていた

        ∧w∧
        (  ゚Д゚)
        と   つ─┛~
       .-(_/~), 
       | _し'J
       | ─ |



 「こんなこと言うのは失礼だけど
  あんた、なにかの裁判にかけられるようなことをしたおぼえがありますかい?」



397 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:43:32 ID:f3MaQNgK0 (PC)
15/18


   | わたしゃ見代かぎりをした人間じゃありませんぜ
   | 商売のほうは、けっこう繁盛してます
   | そう、三年前だったな、クリスマスに貧民保護の委員に七面鳥をあげたが、
   | まあそんなことぐらいだね、思いあたるのは。あんた、おすまいはどこだね?
   \_______  ______
               |/

        ∧w∧
        (  ゚Д゚)
        と   つ─┛~
       .-(_/~), 
       | _し'J
       | ─ |

  自分は宿をおしえた
  ここからだと急いで歩いても、家まで帰るのに一時間はかかる



398 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:44:13 ID:f3MaQNgK0 (PC)
16/18


   | そーらね、そういうわけだ。まあ、おたがいに物事はまともに見ることにして、あんた、
   | 今夜もし家へ帰んなさると、思わぬ怪我をしなさるよ
   | 馬車にひかれるとか梯子が倒れるなんてことはまあないにしても、バナナの皮、ミカンの皮
   | こりゃどこにでもあるからね
   \_______  ______
               |/

        ∧w∧
        (  ゚Д゚)
        と   つ─┛~
       .-(_/~), 
       | _し'J
       | ─ |

  六時間前の自分なら一笑に付したであろう、そんなばかげたことを石屋は大まじめで話した
    でも、いまの自分は笑わなかった

  「いちばんいいことはね
   今夜十二時まで、あんた、ここにいることだよ
   どうです、上へあがって一服やりましょうや
   家ン中なら、ちっとは涼しいでしょうから」

  意外なことに、自分は石屋の言うなりに従ったのである



399 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:45:00 ID:f3MaQNgK0 (PC)
17/18


   自分と石屋はいま、軒の下屋の細長い天井の低い部屋にすわりこんでいる
 いましがた石屋は妻君を先に寝かし、自身は小さな砥石でせっせと鑿を研いでいる




    ∧w∧   
   (    )     +
 @ /   ⊃━─  
  ( __ )  [ ̄]


 自分はあけ放した窓の前のガタガタなテーブルにむかって、いまこれを書いている
  テーブルの足が一本ぐらぐらしている。石屋は道具を持たせたら名人だろうから、
 いま研いでいる鑿が研ぎあがったら、それでテーブルの足をなおすつもりなのだろう



     ノノ(ヽヽゝ
      ( ´一`)
     (φ   )             
    ̄ ̄\三三\ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\    
                      \ 



400 名前:B級シネマ ◆qrSUVPbtek  [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:45:59 ID:f3MaQNgK0 (PC)
18/18


 もう十一時過ぎである。あと一時間たらずで自分はこの家を出る
 とにかく、息がつまるような暑さだ
 この暑さじゃ、人間の頭だってたいがい変になる




          ノノ(ヽヽゝ
           (    )  \
        \三と.iニニi    \      
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|\|__| ̄ ̄ ̄||                 
            |    |      ||   

    ∧w∧   
   (;;;::::.... )
   /;;;::::....|



401 名前:B級シネマ ◆qrSUVPbtek  [sage] 投稿日:2009/01/10(土) 23:46:50 ID:f3MaQNgK0 (PC)

「怪奇小説傑作集1」


W・F・ハーヴィー作      「august heat」



402 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/11(日) 02:01:57 ID:rtGHgXP40 (PC)

乙!
最後の後ろ姿がいいねえ。



403 名前:( ´∀)・∀),,゚Д)さん [sage] 投稿日:2009/01/11(日) 18:45:58 ID:iZWsg8GW0 (PC)

新年オツカレー




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