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かけだ。
英離脱で27カ国となったEUの中で、英語を公用語と定める国は2つある。アイルランドとマルタだ。両国の人口は合わせて約550万人とEU人口の1%強にすぎないが、れっきとした公用語だ。
だが問題を混乱させかねないルールがある。ある国がEUに加盟する際、EUの公用語として一つの言語を指定できる。
実はこの2カ国は英語を指定していない。アイルランドはもう一つの公用語であるアイルランド語を、マルタはマルタ語を選んだ。
英離脱でEUに英語を公用語として届け出た加盟国はなくなった。英語の格下げ報道が出たのは、こんな背景がある。

ただ英語が公用語から外れることは考えにくい。EUは報道を即座に否定、英語は公用語であり続けるとの見解を示した。
規定上は公用語を変更する場合、EU首脳による全会一致が必要となる。ブリュッセル自由大学（ULB）のギンスバーフ名誉教授は「アイルランドが同意することはあり得ない」とする。

EUには24の公用語がある。公的文書の多くは全ての公用語に翻訳されるが、全ての会議が全公用語で通訳されたり、非公式資料が翻訳されたりするわけではない。
コストや人材面の制約があり、おのずと共通語は絞られる。

EUの執行機関である欧州委員会が平日に開く記者会見で使われるのは英語とフランス語だ。
記者はいずれかで質問し、報道官は英語の問いには英語で答え、仏語には仏語で返す。英仏語間は通訳が入る。他の記者会見ではドイツ語も比較的多く使われる。

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加盟国の国益をかけて多くの議題を話す実務会合では使用言語はさらに絞られ、ほぼ英語のみになる。
ブリュッセル駐在の西欧出身の外交官は「細かなやりとりで通訳を入れると時間がかかる」と説明しており、EUのリンガ・フランカ（共通語）は英語なのが現実だ。

英離脱を機に帯びてきたのがEU機関を覆う「英語支配」を巡る論争だ。
「英離脱後もある種のブロークンな英語に固執するのは理解しがたい」。1月、フランスのボーヌ欧州問題担当相は「もう一度、自分たちの言葉を話してみよう」と呼びかけた。

ほとんどのEU官僚にとって英語は「外国語」で、EUで話される英語は英国出身者からは「（EU本部のある）ブリュッセル英語」とも呼ばれている。
英語だけで交渉や会議が進めば「英語の得意不得意で交渉が決まる」「英語的な考え方になりがち」との批判もつきまとう。

英語支配の打破を唱える急先鋒（せんぽう）はフランスだ。
3月下旬、ルモワンヌ観光担当相は「仏語とEUの言語の多様性のために戦おう」と力説した。EUが重視する多言語主義への回帰を唱える一方、英語に取って代わるとの野心も見え隠れする。

欧州とEUの言語の歴史をさかのぼると、ラテン語の衰退とともに、17世紀以降は支配者・知識階級では仏語が話されていた。
EUの前身時代を含めて発足当初の1950年代の公用語は仏独伊とオランダ語の4つ。第2次大戦後でドイツ（当時は西ドイツ）とイタリアに力はなく、仏語が事実上の共通語だった。