http://mukankei151.blog47.fc2.com/blog-entry-7754.html

短編まとめ
 やる夫ショートストーリーセレクション
推奨スレ
中編　短編投下所１３５　　　　　　　　　　　　　　　　 http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12973/1313420444/
【実験作】やる夫スレ短編投下所Ｎｏ．56 【練習用】　http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1284259845/
やらない夫短編投下所２５　　　　　　　　　　　　　　　　http://yy701.60.kg/test/read.cgi/yaranaio/1283273433/
やる夫系R18ストーリースレその３０　　　　　　　 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1271794106/
ヒロイン短編投下スレッド１４　　　　　　　　　　　　 http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12766/1280923208/
試作やる夫作品専用スレ in 2nd板　　　　　　　　　　　http://yy702.60.kg/test/read.cgi/yaruo2nd/1282825654/
【一発ネタ】やる夫のネタスレ【短編】　その３　　　　http://yy69.60.kg/test/read.cgi/index/1258195912/
【歴史ネタ】短編・コピペAAスレ【古今東西】　　　　　 http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12368/1269959376/
翠星夫短編スレ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13257/1259493753/
やる夫でコピペスレ　　　　　　　　　　　　　　　　　 http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12368/1364895481/
【初心者】やる夫自作絵投下所【歓迎】　　　　　　　　 http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12766/1276815988/
【安価で】安価短編スレ【やるお！】　　　　　　　　　　　http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14504/1298996698/
やる夫で学ぶご当地知識＆方言　　　　　　　　　 http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12368/1328104512/

566 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:08:41 ID:RxRasCyk [2/15]

　　　　　　　　　　　　　　＿＿
　　　　　　　　　　　　／⌒ ⌒＼
　　　　　　　　　　　／（●　●）＼
　　　　　　　　　　（　　　(_人_)　　）
　　　　　　　　　　 /｀'ー----‐一'＼　　　　　　　　　　　　　　　　うちの爺さんは若い頃、当時では珍しいバイク乗りで、
　　　　　　　　　　/　　　　　　　::::i　ヽ
　　　　　　　　　（=m/ ＼＿／ヽ､m=）　　　　　　　　　　　　　　　金持ちだった爺さん両親からの、何不自由ない援助のおかげで、
　　　　　　　　　　/ ヽ、　　　　ﾉヽ,
　　　　　　　　　　ヽ､＼２　○/　/　　　　　　　　　　　　　　　　燃費の悪い輸入物のバイクを、暇さえあれば乗り回していたそうな。
―――＝＝＝　（　） i｀――´i （' ）　＝＝＝――――
　　　　　　　　ヽ,| | |γ⌒ヽ| | |/
　　　　　　　　　　（_| | | |　|　| | | |_）
　　　　　　　　　　ヽ|_| |　|　| |_|ﾉ
　　　　　　／　　｀'ｰ |　|　| ｰ´　　　　　＼
　　　　　／　　　　　　　ヽ_i_ノ　　　　　　　　　＼

　　　　　　　　　　.. .. . ...　.::::..　.　.　.::　:　:..
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　.　...　:::　:::..　... .. .. . ...
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　...　..::. .. .　..　.　..　.:::
　　　　　　　　　　　　　　　　::　::　:.　...　.:::::　:...　.
　　　　　　　　　　　　　　.::::
　　　　　　　　　　..　. .
　　　　　　　　　　　　　　　　　　,,-‐''"´'':､,,　　　　　　　　　　　　　 ,,_,__　　　　　　　　　　ある時、爺さんはいつものように愛車を駆って、
_,,.--ｰ''''''"ﾞﾞ￣ﾞﾞ"'''''―--.,,,,,,-‐'゛.:'"ﾞ:.:ﾞ,:;、,"'.:.:　　_,,.;:-－''"´｀ﾞ''ｰ､／ヽヾ＼
::;.:".:;.:'"ﾞ:.:ﾞ,:;、,"';,_,,.-ｰ'''"ﾞﾞ:,:;.,:;.:::;.:".:;.:'"ﾞ:.:ﾞ,:;、,:ﾞ',`:;,':,:;.,:;.:::;.:".:;.:'"ﾞ:.:ﾞ,~ﾞ"'ｰ-:;、,"'.:　　　　　　　山へキャンプへ出かけたのだそうな。
":;;;:　: ;: ;: ;:　　; ::;　: ;:; :; :　 :: :; ":;;;:　:;: ;: ;:　　; ::;　: ;:; :; :　 :: :; ":;;;:　: ;: ;: ;:　　; ::;　: ;:; :
'' ;~　; ::;　: ;:; '',;''ﾟ　; ::;　: ;:; ;~'',;'' ;~'',;'' 　; ::;　: ;:; ;~　; ::;　: ;:; '',;'' ;　; ::;　: ;:; '',;''ﾟ ;~'',;
":;;;:　: ;: ;: ;:　　; ::;　: ;:; :; :　 :: :; : ;:; ;~'',;'' ;~'',;'' 　; ::;　: ;:; ;~　; ::;　: ;:; ': ;:; ;~'',;'' ;~'',;''ﾟ　; ::
:::....::::::........　.　.::::::... .... ..::::::::::::::::....::::::........　.　.::::::... .... ..::::::::::::::::....::::::........　.　.::::::... ....::::::::::
.. .. . ...　.::::..　.　.　.::　:　:..　.　...　:::　:::..　... .. .. . ...　...　..::. .. .　..　.　..　.:::::　::　:.　...　.:::::　:...

567 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:09:02 ID:RxRasCyk [3/15]

　　　　　　　　　　.　　　　　　　　, .个､
　　　　　　　　　　　　　　　　　 ./　 .｀i.i＼
　　　　　　　　　　　　　　.　　／　　　.|.|　.＼
　　　　　　　　　　　　　 .　／　　　　 |.|　　 .＼
　　　　　　　　　　　　　　/　　　　　　|.|　　　　.＼
　　　　　　　　　　　　　 /　　　　　　..|.| 　.　　　　＼
　　　　　　　　　　　　,ｲ　　　　　　 .|.|　　　　　　　.＼
　　 .　　　　　　　　　/　　　　　　　　|.|　　..　　　　　　＼　　　　　　ようやく電気の灯りが普及し始めた当時、
　　　　　　　　　　　/　　　　　　　　　.|.|　　　　　　　　　　＼
　　　　　　　　　　／ ,ィ'´ ￣ 'ヽ.　　.　.|.|　　.　　　　　　　　　＼　　　　夜の山ともなれば、それこそ漆黒の闇に包まれる。
　　　　　　　　／　./.＿＿＿_　',　　.　|.|　　.　　　　　　　　　　＼
　　　　　　　 /　　ﾚ'⌒　　⌒.＼|　.　　|.|　　　　　　　　　　　　　　＼　　そんな中で爺さんはテントを張り、火をおこしキャンプを始めた。
　　　　　　　/　／（ ●）　（●）..|　　.　|.|　　　　　　　　　..　　　　／
　　　　　／　.／::::::⌒（__人__）⌒|　　　.|.|　　　　　　　　. .　　.　／
　　　　/　　.|　　　　　 |r┬-| 　 |　　.　|.|　　　　　　　. 　. 　.／
　　　 /　　　＼　　　 `ー'´　　|　　　|.|　　　　　.　　.　／
　　 ./　　⊂ヽ γ　　　　　　　　 |　　. 　|.|　　　.　. 　　.／
　　　｀'ー. i !ｌノ　ノ＼　　　　　 | 　　　|.|　　　.　.　／
　　　　　 .⊂ｃノ´ 　　＼＿＿＿|　　 ..　|.| 　 .　 .／
　　　　　　　　　　　　　　　｀ー--ﾄ､　　.　|.|　 ...／
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　｀ヽ., _|.|_／

　　　　　　, －､
　　　　.　Ｙ　Ｙ´　＼
　　　　　ｌ　　＼　　＼
　　　　　＼　　＼　　.>､
　　　　　　　＼　　｀'´ 　＼
　　　　　　　　　＼　　　　/｀ヽ￣￣￣＼
　　　　　　　　　　｀ー´ヾ__.人─　 ─　ヽ　　　　　　持ってきた酒を飲み、ほどよく酔いが回ってきた頃に、
　　　　　　　　　　　　　ｌ　ｌヽﾊｰ）（ー）　＼
　　　　　　　　　　　ｌ　　! ヾ､ヾ人__）　　　|　　　何者かが近づいてくる気配を感じた爺さん。
　　　　　　　　　｡　　　ｌ　　ｌ　ヾ　i　　　／
　　　　　　　　　　　　　　',　　ヽ　`⌒ 　 _／　　　　　　ツーリングキャンプなんて言葉もなかった時代。
　　　　　　　　　　　　　　　ｌ　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　!　　　　　　　, 　ヽ
　　　　　　　　　　о　　;　　　　　　　 l　　│
　　　　　　　　　　　　　ｌ　　　　　　　 l　　│
　　　　　　　　　　　　　　ｌ　　　　　　　l　　│

　　　　　＿＿＿_
　　　／＼,　　 /＼
　　／　（● ）　（● ）、　　　　　　　　　　　　　　　夜遅くの山で出くわす者と言えば、獣か猟師か物の怪か。
　／　　　　（__人__）　 y｀ｰ、
　|　　　　　｀ ⌒´　 /　　ｙ气　　　　|　　　　　　　爺さんは腰に差した鉈を抜いて、やってくる者に備えたそうだ。
　＼　　　　　　　　／　　 /＼｀ヽ,　- + -
　/　　￣￣￣￣´　　入　　ヽｲ　　 |
　|　　　＿＿＿＿＿／　　＼
　＼　　　　　　　　　　　　ヽ　＼
　　＼　　　　　　　　　　　　ヽ　＼
　　　　＼　　　　　　　　ｊ(ミノ

568 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:09:13 ID:RxRasCyk [4/15]

　　　　　　 _-―――- ､._
　　　　 ,-"´ 　　　　　　＼
　　　　/ 　　　　　　　　　ヽ　　　　やがて藪を掻き分ける音と共に、『なにか』が目の前に現れたのだそうな。
　　 ./ 　　　　　　::::::::::::::::::::::::ヽ
　　　|　　　　　　:::::::::::::::::::::::::::::::ヽ　　　この『なにか』というのが、他のなににも例えることが出来ないものだったので、
　　 l　　　　　 :::::::::::::::::::::::::::::::::;l
　　　` ､　　　　　　　（__人_）　.;/　　　『なにか』と言うしかない、とは爺さんの談である。
　　　　　`ｰ,､_　　　　　　　　／
　　　　　／　　`''ｰ─‐─''"´＼

::::::::::::::::::::: : : : : : : : : : : : : : ）::::;::::::::::::::::_　_　_::::;::::（ : : : : : : : : : : : : : :::::::::::::::::::::
::::::::::::::::::::: : : : : : : : : : : : : ::）:::;::::::::::／: : : : : : ｀i::;:::（:: : : : : : : : : : : : : :::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::::: : : : : : : : : : : : : ）:::::):::::::i: : : : : : : : : :!:::::（ : : : : : : : : : : : : ::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::: : : : : : : : : : : : : :）::::::)::::::::､: : : : : : : : : !:::::（: : : : : : : : : : : : : ::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::::::::: : : : : : : : : : : ）:::::):::::::::::i: : : : : : : : : i(:::::（ : : : : : : : : : : ::::::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::: : : : : : : : : : : : : :/:::::):::::::::::::::l: : :,, --_ｯ: :',(:::::丶: : : : : : : : : : : : : ::::::::::::::::　　それはとても奇妙な外見をしていたそうだ。
: : : : : : : : : : : : : : : : : :: :）:::::::::::::::;:;::;:丶｀‐'´: : : :ﾉヾ::::（: :: : : : : : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : : : : : :: : : :）:::::::::::;:;:;:;:;:;:/ ´: : : : : : : : ｀ヽヾ:::): : : :: : : : : : : : : : : : : : :　　　縦は周囲の木よりも高く、逆に横幅はさほどでもなく、
⌒|:ゝ､: : : : : : : : : : : : :)::::::::::;:;:;:;::;:;/: : : : : : : : : : : : : ヽ(: : : : : : : : : : : : :::::､ゝ::::|
:::::|:　iヾ: : : : : : : : : :〃／:::::::::, -‐': : ,: : : : : : : : : : : : : :ヽ＼〃: : : : : : : : ::ヾi : ::|　　　爺さんの体の半分ほどしかない。
:::::|:!　 i　　　 |: : : ///::::::::::／: : : ,-ｲ: : : : : : : : /｀丶: : : :､丶ヽ丶 : :| 　　　i 　!:|
:::::|:!　i　　　　|⌒:|//:::::::::::ｒ⌒ ,／:;:;/: : : : : : : : i:;:;:;:;i: : : : i::丶ゞ|:⌒|　　　　i 　!|
:::::|:!　i　　　　|::::::／::::::::::::` ‐ ':;:;:;:;/: : : : : : : : : |:;:;:;:;! : : : |::::::::＼::::::|　　　　i　!:|
:::::|:i　i　　　　|::::::|:::::::::::::::::;:;:;:;:;:;:;;:;i: : : : , _ -‐ ´,) ;:;:;｀ヽ _| : :::::::|::::::|　　　　i　:i:|
:::::|::|:|　　　::: |::::::|:::::::::::::;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:(_ _i￣(_　-‐'´i;:;:;:;:;:;:;:;::::::::::::::::|::::::| :::　　 |::|::|

569 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:09:30 ID:RxRasCyk [5/15]

　　　　　　　　 _　_
　　　　　　　 ,/ :: ::::`‐-､
　　　　　 {:::::::::::::::=::/
　　　　　　　 ',::::::::::::::::.!
　　　　　　　　!_:::::::::::ｿ
　　　　　　｀>:::::｀ヽ　　　　　　　なんだか解らないが、「ユラユラと揺れる太く長い棒」みたいのが現れたそうだ。
　　　　　　　　　 !:l_::::ﾍ:::＼
　　　　　　　　　l::| ::::::lﾄ::::_〉　　　　爺さんはその異様に圧倒され、声もなくそいつを凝視しつづけた。
　　　　　　　 /:::ir-iitr`::丶＿_ _
　　　　　　　　 `‐´r::::| !!丶::::::::::::::}
　　　　　　　 ,:::::::!ｰ´　｀￣￣
　　　　　　　　　 l;;;;;;;;!

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 _ _____＿
　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ´.: : : : : : : : : : :｀
　　　　　　　　　　　　　　　　　 l: : : : : : : : : : : : :i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　i: : : : : : : : : : : :|
　　　　　　　　　　　　　　　　　 |: : : : : : : : : : : |　　　　そいつはしばらく目の前でユラユラ揺れていたと思うと、
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 j: : : -=＝=- : :.i
　　　　　　　　 r―--┐　　　 i: : : : : : : : : : : :l　　　　唐突に口をきいたのだそうな。
　　　　　　　　　 i: : : : : ',　　　ゝ : : : : : : : : :t´
　　　　　　　　 ',: : : : : i　 , f: : : : : : : : : : : : : :ヽ　　　　「すりゃあぬしんんまけ？」
　　　　　　　　　＼: : : :y: : : :Υ: : : : : : : : : : :y: : '..,
　　　　　　　　　　　　 ',_: :: :／　 i: : : : : : : : : : : :l丶 : : :ヽ
　　　　　　　　　　　￣　　　l: : : : : : : : : : : .i　　＼ : : :丶

　　　　　　＿＿＿_
　　　　　／　　　　＼
　　　　／　　 _ノ　ヽへ＼　　　　　　一瞬なにを言われたのかわからなかったそうな。
　　／　　　（ ―）　（―）ヽ
　　 .l　 .u 　 ⌒（__人__）⌒　|　　　　　酷い訛りと発音のお陰で、
　　＼　　　　　｀ ⌒r'.二ヽ<
　　／　　　　　　ｉ＾Yﾞ r─ ゝ、　　辛うじて語尾から疑問系だと知れた程度だったという。
　　/　　　,　　　　　ヽ._Ｈﾞｆﾞﾆ、|
　　{　　　{　　　　　＼｀7ｰ┘!

570 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:09:47 ID:RxRasCyk [6/15]

　　　　　　　　　　　 _ _ ___ __ _
　　　　　　　　　/ :::::::::::::::::: :i
　　　　　　　　　　 i:::::::::::::::::::::: i　　　　　　　　　爺さんが何も答えないでいると、
　　　　　　　　　　i ::::::::::::::::::::::i
　　　　　　　　　/ :::::::::,,- -_ｯi　　　　　　　　　そいつは長い体をぐ～っと曲げて、
　　　　　　　　　 /::::::::::｀ー‐'´ヽ
　　　　　　　 /|::::|::::::::::::::::::|:::|　　　　　　　　　頭と思われる部分を爺さんのバイクに近づけると、再び尋ねてきた。
　　　　　　　　/::::＼ヽ :::::::::::::i:::|
　　　　　　 /::::::::::::＼＼::／|:::|　　　　　.-
　　　 .　　　（_ _.)￣i __.＼＼ |:::|　　　../ _ ／/_⊃
　　　　　　/::::::/|￣|ヽ:::::　し（メ　　 .iIXノ , へ. 入／⌒.ﾉ.|
　　　　 /::::::/ﾉ_ _ﾉ　>:::::）　　　　　 .ｏ)三ヽｏv Ｖ＼／ _ノｏ
　　　　／:::／　　　/:::／　　　　　 . -┐//＼／へ＼￣ヽヽ
　　　/:::::/ 　　　（＿つ　　　　 .（ ( ( ＊) ）|σ∩ヽ>三コ)）
　　　し'　　　　　　　　　　　　　　　 .入　-- ノ￣￣￣入｀ノ
　　　　　　　　　　　　　　　￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣

　　　　　　　　　　　　　　　　_＿___
　　　　　　　　　　　　　ｲ´　　　　`ー┐
.　　　　　　　　　　　　　　∨　　　　　　,'
　　　　　　　　　　　　　　 i　　　　　　〈
　　　　　　　　　　　　　　　l 　　　　　　',
.　　　　　　　　　　　　　　　|　--==--　ﾍ　　　　　　「くりゃあぬしんんまけ？」そこでようやく爺さんは、
　　　　　　　　　　　　　　　 i　　　　　　ﾉ
　　　　　　　　　　　　　　　　ゝ　　　　　 "｀ヽ　　　「これはオマエの馬か？」と聞かれてると理解できた。
　　　　　　　　　　　　　　　 i　　　　　　　　 .|
　　　　　　　　　　　　　　　丿 .i　　　　　∧.　',
　　　　　　　　　　　 _..-‐''′ ノ　　　　 /　i 　ヽ
　　　　　　　　　　 <　　＿,ｲ　　　　　/　　l　　ヽ
　　　　　　　　　　　｀Y´ /.〈　　　　 < 　　|　　　i

　　　　　　　　　　　　　　　＿＿___
　　　　　　　　　　　　　　　　／ _ノ　　ヽ_＼　　　　　黙っているとなにをされるか、そう思った爺さんは勇気を出して、
　　　　　　　　　　　　　　／　（○）　（○）
　　　　　　　　　　 /　　　　（__人__）　ヽ　　　「そうだ」とおびえを押し殺して答えたそうだ。
　　　　　　　　　　 |　　U　　｀ ⌒´　　　|
　　　　　　　　　　　　　　＼　　　　　　　　　／
　　　　　　　　　　　　　　／　　　　　　　　　＼
　　　　　　　　　　　　　/　　,　　　　　　　　l　 |

571 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:10:04 ID:RxRasCyk [7/15]

　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ,,,_,｡r･｡,_ 　,__
　　　　　　　　　　　　　　　　　　 =ヨ>n｡ミ＼Fﾞ
　　　　　_.,｡rf ",ﾞi｡　　　,イ￣｀≡=->::ﾉ　　｀i-｡、
　　　　.〈、_:...　ﾄ,ヒｰ-｡l/ ヽ_,,｡ゝヽﾞﾟ"　 .ｎ｡,、＼ﾒ｡　　　　そいつはしばらくバイクを眺めて（顔が無いのでよくわからないが）いたが、
　　 /＼i＼_.ヽ.,._｀＼.ﾞ":_,..i"::::...__,,　　, ﾞﾟ-ｰ"　.ヽl
　　 .＼...＼::i/|ﾄ｡,.._Vi´..,ノﾞ::::::::. ∥:..　　／￣,~´,　　　　　しばらくするとまた口を聞いた。
　　　　 >、＼||ミli>::,illi/ﾞ:.....::＿∥　　.／i:｡::.....　　ﾞi｡
　　　　 {{=〔C∠ ＜｛li{:::::...　ﾞli "..:::ン":::λ　,r=＝ニﾞ
　　　　.V:,ﾞ二" /:::ｼ_＿　　_|l::::... ﾞｌ::::{{:H《ﾞY"｝).l::::}l
　　　　 .`＜＿彡'"　　￣ﾞгｰー-ﾞｰ巛;,ﾌヒﾋ;ソ:::ﾉ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　｀＜主ｷレ"

　　　　　　　　　＿＿＿＿＿,＿＿＿
　　　　　　　　／......　　　　　ヽ　　　　＼
　　　　　　　/ :::::::::::::　　'　　　::ゝ　　　丶
　　　　　　 |　::::::::::::::　/::　　　　　...:..;　:　|
.　　　　　　 |　　　::::::　　　　　　::::::....,,,::　|
. 　　　　 |　　　::::::::　　　::;;_;;;;::.,-‐‐、　|　　　　./ヽ /ヽ
　　　　　　|　　::::::::::;;;;:_;;;::.‐''"´　_,., 　i::: 　|　　　 l~ﾉ,/ /／ﾉ
　　　　　 |　　 :::::/,,____,,...-''i"　 l_,-! l:::: 　| 　　 /　　　　 /ｿ
　　　　　　|　　::://｀i　　l　　ﾞ!,..-'ﾞ　ﾞi l:::.　.:|　　／ヽヽノ .　/　　　「ぺかぺかしちゅうのぉ。ほすぅのう」（ピカピカしてる。欲しいなぁ）
　　　.∩ ,ヽ| 　 :::| i､_ﾉｰ‐'^`''"　　　　l i:::,: :|,／　　　｀､　　　｀)
　iヽ､/ V //i 　::::l l　　　　　　　　　　 | i,::. :|　　　　　　'／￣
　ヽ、　　　　ｿ､ ::::| i　　　　　　　　,..ｨ' l`'l::: |　　　　　./
　　l　　人　ノ　:::ヽiﾞi'"ﾞi‐┬‐┬'''i"_,ﾉ"/: ::|　　 .ヽ／
..　人‐,,__,,,,ノ|　　:::::｀ヽヽ～-^ｰ'^ ._,,,,;:;": ::::|　　／
../　　　　　/.|　　　:::::::`ﾞ''ｰ-‐':::::::~::::::　:::　:|　 /
/　　　　　/./,,　　　::::::　　　　　　　　:　　.　ヽ

　　　　　　　　　　　＿＿＿_
　　　　　　　　　／　　　　＼　　　　　　　　　その時、爺さんはようやく、
　　　　　　　　／　　 ―　　―＼
　　　　　　／　　　（ ○）　（○）＼　　　　　　ソイツが口をきく度に猛烈な血の臭いがすることに気が付いた。
　　　　　　 |　∪　　　（__人__）　　　|
　　　　　　＼　　　　　｀⌒ ´　　／　　　　　　　　　　　　　　　　　　）
　　　　　　　　/´⌒｀￣￣　｀丶'　　　　　　　　　　　　　　ノ_, イ
　　　　　　　 |　　　　＿ﾞ＿､　　＼　　　　　　　　　／::::::::::::し!
　　　　　　　　ヽ　イ´￣ /　　ヽて　〉　　　　　　　　　　　 /::::::::::::::::::::（
　　　　　　　　 l 　　　 /　　ｒ　ヽ彡'　　　　　　　　　　　　 i::::::::::::::;ﾍ､::::ヽ
　　　　　　　　　ヽ　　/　　 ,ヽ　　ヽ　　　　　　 _-‐､　　　ﾄ、::::ト' 　｀i::ﾚ
　　　　　　　　 ,ィヽ　　　　 /　Ｙ　ゝ‐-､ ──´　 │　　　ヽ:;;ヽ＿ _リ
　　　　　　r_-ィ__ﾉ_ヽ､＿＿ﾉ＿_「＿＿＿ﾉ__＿_＿＿」　　　　／ /》||ヾミ＼

572 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:10:19 ID:RxRasCyk [8/15]

　　　　　　　　　＿＿＿_
　　　　　　　　／　　　　＼　　　　　　　　　　人か獣か知らんが、とにかくコイツは肉を喰う。
　　　　　　／　ヽ、　　_ノ　＼
　　　　　／　（●）　（●）　＼　ｎ　　　　　下手に答えると命が無いと直感した爺さんは、バイクと引き替えに助かるならと、
　　　　　|　 U 　（__人__）　　　　l^l.| | /）
　　　　　＼　　　　|i||||||i|　　　／| U ﾚ'/／)　　「欲しければ持って行け」と答えた。
　　　　γ⌒　　　｀ー'´　　　　ﾉ　　　／
　　　　 i　　j　　　　　　　　ｒニ　　　　ﾉ
　　　　ヽ､ l 　　　　　　　　　 !ヽ､_,__／

　　　　　　　　　　　　　　　　_................._
　　　　　　　　　　　　　 ,..:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:..､
.　　　　　　　　　　 γ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.!
.　　　　　　　　　　 l :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: |
　　　　　　　　r━-,,,,､ !:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: |
　　　　　　　　l:.ヽ ;;;;;;;;;ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: !
　　　　　　 l:.:.:.:.｀ー--}:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.::.:.{　　　　　　それを聞いソイツは、しばし考え込んでる風だったという。
.　　　　　 :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: !:..:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: ',
　　　　　 l:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ﾊ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:＿_.:.:.:.:.:,..-=＝:.､　　　　　（顔がないのでよくわからないが）
　　　　　　　 l:.:.:.:.:.:.:.:.:.; . }:.:.:.:.:.:.:.ム-- ゝ:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:丶
.　　　　　　 ';.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ l:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.i :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. '.,
.　　　　　　　 '.,:.:.:.:.:.:.:.:. ＼:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: L;,_:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: ',
　　　　　　　　　ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.｀ｰ-　 ;,;,;,;,　　-_ゝ:.:.:.:.:.:.:.:.:.: i
　　　　　　　　　｀　:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.｀:.:.:.:.:.:.:.:.;
　　　　　　　　　　　　｀　 ┐:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.┌─ ---- ’
　　　　　　　　　　　 i:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: ::
　　　　　　　　　　　　　　 l:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.',

　　　　　　　　　　　　　　　　　　. . .-─‐-. ミ
　　　　　　　　　　　　　　　 |: : : : : : : : : : ｀: ..
　　　　　　　　　　　　　　　 |: : : : : : : : : : : : /
　　　　　　　　　　　　　　　　 } : : : : : : : : : : :,′
　　　　　　　　　　　　　　　　　 : : : : : : : : : : : :i
　　　　　　　　　　　　　　 { -===- ､: : :. :.|
　　　　　　　　　　　　　　　　〉: : : : : : : : : :ノ　　　　　ソイツがまた口をきいた。
　　　　　　　　　　　　　　　　　 i: :｀ﾆﾆﾆ´: : : : ‘,
　　　　　　　　　　　　　　　__/ : : : : : : : : : : : : i　　　　「こいはなんくうが？」（これはなにを喰うんだ？）
　　　　　　＿__　　　　／.: : : : : : : : : : :‘,.:.三|
　　　　　/ :::: ヽ: : : :‐--∧_: : : : : : : : : : :./:|: : : |
　　　　.′ :::::::‘: : : : : : }/∧ア´二二ヽ:/　| : : ‘,
.　　　　‘::::::::::::::ﾉ: : : : : :ﾊ＼{／: : : :／⌒ﾞヽ : : :‘
. 　　　ゝ-=彡-──＜¨¨ﾟ‘; .: : :./:::::::::::::::} : :. :.|
　　　　　　　　　　　　　　　　　＼: :′:::::::::::/______」
　　　　　　　　　　　　　　　　　弋:::::: ／
　　　　　　　　　　　　　　　　　　｀¨´

573 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:10:35 ID:RxRasCyk [9/15]

　　　　　　　　＿＿＿_
　　　　　　　／　　　　　＼
　　　　　／　　u　　ノ　　＼
　　　　／　　　　 u （●）　　＼　　　　「ガソリンをたらふく喰らう」
　　　　|　　　　　　　　（__人__）|
　　　＼　　　　u　　　.｀ ⌒／　　　　爺さんは正直に答えた。
　　　　ノ　　　　　　　　　　　＼
　／´　　　　　　　　　　　　　　ヽ

　　　　　　,　-‐ 　 ‐- ､
　　　　／: : : : : : : : : : ::',
　　 , ': : : : : : : : : : : : : : :',
　　/: : : : : : : : : : : : : : : : ::',
　　ヽ : : : : : : : : : : : : : : : : :',
　.　｀ﾄ : : : : : : : : : : : _,-‐'｀iヽ _　　　　　「かいばでゃあいかんが？」（飼い葉ではだめか？）
　　　 i: 丶: : : : : :,-‐'´__,-‐'´: : : ｀ヽ
　　　 | : : :ﾄ: : : : `-‐´ : : : : : : ､: : : 丶
　　　 | : : :'､j｀-‐ : : : : : : : : : : : ＼: : : ヽ
　　　丶,,:_:_:_: : : : : : : : : : : : : : : : | : : : i
　　　　　　　　｀ヽ: : : : : : : : : : : : `ー‐'
　　　　　　　　　ヽ: : : : : : : : : : : : : ヽ

　　　　＿＿＿
　　／ー　ー＼
　／（●）　（●）ヽ、
　/.　　　（__人__）　　ヽ　　　　　「飼い葉は食わん。その馬には口がない」
　|　　　　｀i 　i´　　ｉｊ |
　＼＿. 　 `⌒　　　／　　　　　バイクを指し示す爺さん。
　　／　　　 ⌒　　　 `ヽ、
　/　　.　　　　,９ｍー　）
　|　　|　　　　　`ーー‐'ﾞ
　ヽ、＼　　　　　　 |
　　 |＼　ヽ　　　　 .ﾉ

　　　　　　　 ,- ‐‐ -　､
　　　　　ｒ‐ｲ: : : : : : : : :｀,
　　　　　　i / : : : : : : : : : /　　　/｀､
　　　　　　i_ _ _ : : : : : : :{　　 / : : /
　　　　　　｀,_　_｀=-: : : :| 　ノ : : /　　　　　「あ～くちんねぇ　くちんねぇ　たしかにたしかに」
　　　　　　　i: : : : :_: : : : :'y´ : : : /
　　　　　　　｀-‐､´: : : : : : : : : ／　　　　　　納得するソイツ。
　　　　　　　ﾉ : : : : : : : : i´
　　　　　　　 / : : : : : : : : : :|
　　　　　　i: : : : : : : : : : : !
.　　　　　（｀ー‐-　　-‐　_}

574 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:10:51 ID:RxRasCyk [10/15]

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
　　　　　　　／　―　　― ＼　　　　　　　　　　　　　　　そこまで会話を続けた時点で、爺さんはいつの間にか、
＿＿＿∧,､／　（○）　（○）　＼＿＿＿＿
￣￣￣`'`　|　U　　（__人__）　　　　|￣￣￣￣　　　　　ソイツに対する恐怖が無くなっていることに気が付いたという。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

　　　　　　　　　＿＿＿＿＿,＿＿＿
　　　　　　　　／......　　　　　ヽ　　　　＼
　　　　　　　/ :::::::::::::　　'　　　::ゝ　　　丶
　　　　　　 |　::::::::::::::　/::　　　　　...:..;　:　|
.　　　　　　 |　　　::::::　　　　　　::::::....,,,::　|
. 　　　　 |　　　::::::::　　　::;;_;;;;::.,-‐‐、　|　　　　　ソイツはしばらく、バイクの上でユラユラと体を揺らしていたが、
　　　　　　|　　::::::::::;;;;:_;;;::.‐''"´　_,., 　i::: 　|
　　　　　 |　　 :::::/,,____,,...-''i"　 l_,-! l:::: 　|　　　　　その内に溜息のような呻き声を漏らすと、
　　　　　　|　　::://｀i　　l　　ﾞ!,..-'ﾞ　ﾞi l:::.　.:|
. 　　　　 | 　 :::| i､_ﾉｰ‐'^`''"　　　　l i:::,: :|　　　　　「ほすぅがのう　ものかねんでゃなぁ」（欲しいけど、ものを食べないのでは・・・）
　　　　　 | 　::::l l　　　　　　　　　　 | i,::. :|
　　　　　　 | 　 :::| i　　　　　　　　,..ｨ' l`'l::: |　　　　　そう呟くように語ると、不機嫌そうに体を揺らしたという。
　　　　　　　| 　 :::ヽiﾞi'"ﾞi‐┬‐┬'''i"_,ﾉ"/: ::|
.　　　　　　 |　　:::::｀ヽヽ～-^ｰ'^ ._,,,,;:;": ::::|
　　　　　 |　　　:::::::`ﾞ''ｰ-‐':::::::~::::::　:::　:|
　　　　　　 ./,,　　　::::::　　　　　　　　:　　.　ヽ

575 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:11:07 ID:RxRasCyk [11/15]

　　　　　　 ,, -──- ､._
　　　　　／　　　　u　　　＼
　　　　／　ヽ､　　ノ　　　　ヽ　＿＿＿＿
　　　　|　　（●）　（●）　　　 |´　　＿＿＿）
　　　　`ｘ　　（__人__）　　　／／´（⌒ ヽ
　　　　 |　　　｀⌒´　　　　'　-――'‐　ヽ　　　　　怒らせては不味いと思った爺さんは、
　　　　　'､　　ー――ｖ-っ　　　　　　　　_ﾉ
　　　　　　＼＿＿＿_,､＿）´￣￣￣￣　　　　　　　「代わりにコレを持って行け」と、
　　　　　／　　／
　　　　/､　ｨ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　持ってきた菓子類を袋に詰めて投げてやったという。
　　　　 |　　ｌ
　　　　 |　　|
　　　　〉　　）
　　　 .（__／

　　　　　　　　　　　　　　　　 . -‐――- . 、
　　　　　　　　　　　　,. : :´ : : /. : : : : : : |: : 丶、
　　　　　　　　　 /.:::::.　: :/　　　　 |: 　　: i
　　　　　　　　　　　i::::::::::　　　　　　　 ... 　 : |
　　　　　　　　　　 |::::::::::....　　　.......::::.....::::::　 : |
　　　　　　　　　 |　 ;::::::::::::::::::::::::::::::::::::::..　　 |
　　　　　　　　　 |　 :::::　.イ￣｢￣｢｀ヽ::::::::::::::|　　　　　　　袋はソイツの体に吸い込まれるように見えなくなった。
　　　　　　　　　　 |　 ::: / , ‐ｖｰｖ ‐ｖ-､,ﾊ:::::　 |
　　　　　　　(⌒ヽ人　::::i^{＿|＿|＿|＿}^i:::::. .::|　　　　　　　するとソイツは一言「ありがでぇ」と呟いて、
　　　　　　　　ヽ彡/⌒) :〔 ::::::'⌒ー'⌒:::::〕::::::::人
　　　　　　 (⌒ヽ〃　/=､:｢｀Y⌒Y⌒Y⌒ｿ.::,∠..　L.. __　　　　山の闇へ消えていったという。
　　　　　　　＞ﾉ　ﾉ　八,人_,人_,人ｨ.::::::{＿_,）｀て⌒)
　　　　　　 (__ .ｲ　ﾉ＿,_,ﾊヾ=====彡　　{　　(　　厂
　　　　　　　とｿ´　　ﾄ､＼l＿＿＿j_／jヽ. /　(⌒)
　　　　　　　　　　　　　　!　` ‐---,---=イ　　､_ (⌒)
　　　　　　　　　　　＼　　　/　　　　＼　　ヽ__)
　　　　　　　　　　　　　　　 {`ｰ'7′　　　　ヽ　 }
　　　　　　　　　　　　　ー'′　　　　　　　しﾉ

576 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:11:20 ID:RxRasCyk [12/15]

::::::::::::::::::::: : : : : : : : : : : : : : ）::::;::::::::::::::::_　_　_::::;::::（ : : : : : : : : : : : : : :::::::::::::::::::::
::::::::::::::::::::: : : : : : : : : : : : : ::）:::;::::::::::／: : : : : : ｀:::;:::（:: : : : : : : : : : : : : :::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::::: : : : : : : : : : : : : ）:::::):::::::i: : : : : : : : : :(:::::（ : : : : : : : : : : : : ::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::: : : : : : : : : : : : : :）::::::)::::::::､: : : : : : : : :(::::::（: : : : : : : : : : : : : ::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::::::::: : : : : : : : : : : ）:::::):::::::::::i: : : : : : : : :::(:::::（ : : : : : : : : : : ::::::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::: : : : : : : : : : : : : :/:::::):::::::::::::::l: : : : : :　::::::(:::::丶: : : : : : : : : : : : : ::::::::::::::::　　その姿が完全に見えなくなるまで、
: : : : : : : : : : : : : : : : : :: :）:::::::::::::::;:;::;:丶: : : : : : ::::::ヾ::::（: :: : : : : : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : : : : : :: : : :）:::::::::::;:;:;:;:;:;:/ ´: : : : : : ;;:;::::::ヾ:::): : : :: : : : : : : : : : : : : : : 　　残念そうな「む～　む～」という呻きが響いていたという。
⌒|:ゝ､: : : : : : : : : : : : :)::::::::::;:;:;:;::;:;/: : : : : : : : ::;:;:;::::::::::(: : : : : : : : : : : : :::::､ゝ::::|
:::::|:　iヾ: : : : : : : : : :〃／:::::::::, -‐': : ,: : : : : : : :;;;;;;;;;;::;:::::＼〃: : : : : : : : ::ヾi　::::|
:::::|:!　 i　　　 |: : : ///::::::::::／: : : ,-ｲ: : : : : : : : ;;:;;;;:;:;::;:;;;::::丶ヽ丶 : :| 　　　i 　!:|
:::::|:!　i　　　　|⌒:|//:::::::::::ｒ⌒ ,／　/: : : : : : : : ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;::::丶ゞ|:⌒|　　　　i　!:|
:::::|:!　i　　　　|::::::／::::::::::::` ‐ '　　/: : : : : : : : : ;:;:;;:;;;:;:;:;;;;::::::::::::＼::::::|　　　　i　!:|
:::::|:i　i　　　　|::::::|:::::::::::::::::;:;:;:;:;:;:;;:;i: : : : , _ -‐ ´:;:;;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::::|::::::|　　　　i　:i:|
:::::|::|:|　　　::: |::::::|:::::::::::::;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:(_ _i￣(_　-‐';:;:;:;:;:;:;:;:;:;::::::::::::::::|::::::| :::　　　|::|::|

　　　::::::::::::::::::::::::::::::::::::::／　　　　　　　＼::::::::::::::::::::::::::::
　　　:::::::::::::::::::::::::::::::::::/　　　　　　　　　:::::::::::::::::::::::::::::::::
　　　:::::::::::::::::...... ....::::::|　　　　　　　　　　　 |::::::::::::.. ...: ::::::::
　　　:. .::::::::........　.　.:::::::::::::::::::　　　　　　　 |　........... ..:::::
　　　:: :::::::::... . .... ..　.　ヽ　　　　　　　　　 / . . . ... ..::::: . .. .　　　　　　　　　　　　爺さんは、気が付くといつの間にか失禁していたという。
　　　　　　　　　　　　　　＼　　　　　　／
　　　　　　　　　　　　　　　　　－ー　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　その夜はテントの中で震えながら過ごし、

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　朝日が昇ると一目散に山を下りたそうだ。
　　.^''ｰ-､...,_ ._,,,､,_　　　　_‐'¨'''''''^¨⌒¨^'‐.......,　　　 ._.､,／¨^'ｰ-'ｰv.,_
　　　　　　　.￣　　¨^'ｰ=ﾆ　　　　　　　　　　　¨''ｰﾆﾆ_　　　　　　　　 ¨^

　　､.....,_　　　　　　　　　　　　　　　.,.,,､v-､　_,.,､､､,_
　　　　ﾞ'---ｰ'ｰv　　　　　　　 .,,-'″　　 .ﾞ'″　　 .¨''ｰv,_　　,,,v‐￢v.,
　　　　　　　　　　＼　　　._,,v‐″　　　　　　　　　　　　　.¨^″　　　　 ¨''ｰ､,
　　　　　　　　　　　.＼'''''″　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .¨''ｰ､
　　　　　　　　　　　　 .ﾞ'ｰv

577 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:11:35 ID:RxRasCyk [13/15]

　　　　　／￣￣＼
　　　／_ノ　　　　＼
　　　　（● ）（● ）　　ヽ
　　　　| （__人__）　u　　}
　　　　|　｀ ⌒´　　　　ﾉ　　　　　　　　　＿＿＿_ 　　　　 (⌒)
　　 .　 |　　　　　　　 }　　　　　　 r､／＼　／ ) し　　 / |
　　 .　ヽ　　　　　　 }　　　　　　 |:l1）○ ）::（○ ）⌒＼/　|　　　　家に帰ってこの話をしても、当然誰も信じてはくれなかったが、
　　　　　ヽ　　　　　ノ　　　　　　　 |｀｝）_人＿）:::::::: 　/　 |
　　　　 /　　　　　　　` ｰ───´ `'ｿﾉ　）ゝ）　　　　| 　 |
　　　　 | |　　　　　　ト-───--''〉　　`ｰ´　　　　　　ﾉ
　　　　　| |　　　　　　|　　　　(⌒)　 / 　　　．　　　　．　　＼

　　　　　　　　　　　　　＿＿＿　　 ,　＝＝三ミﾐ、
　　　　　　　　 , - ' ´　　　　　　 `´　　　　 - 、- 、ヽ
　　　　　 ,　'　／,　,　／　　　　　　　　／≡三ヽヽヽヽ
　　　／　／／／／　／／￣￣`ヽ'´　ヽ、ヽヽ　ヽ
　　 /　　///　//// ／/ /　　　　　 ―‐＿　　ヽヽヽヽ
　 /　　/ /　////// / //　　　　二―　,-,― 、　ヽヽヽ
　/　　/ ./ ////// / ./|　　／　-　ヽ　　/⌒`ヽヽ |ヽヽ
./　　/ .//////// / .|| |　　　-‐´/　　　　　　　　ヽ |ヽ.　　　　　　ただ一人、爺さんの爺さん（曾々爺さん）が、
.| 　 / ///// //|| |　 || | ／-　￣_　　　　　／´ヽ　 || .|.
| 　 || |.| .|| | .||| .||.| 　.||／／ヽ　　`ヽ　　 | ,‐- 、　 |.| |　　　　　「山の物の怪っちゅうのは珍しいもんが好きでな、
|　　　|.| .||　)| | .||.| ／.l|/ヽ　　 _　　/　　　 |ヽソ ,`　|　|
.|　　　 |　　 |.| | .| | 　 /l　．ヽ　　　　　　ヽ`、,　　| /　　　　　　おまえのバイクは、山に入った時から目を付けられていたんだろう。
. | /￣ヽヽ |ヽヽ |.||　／` - '_ノ　　　　　ヽ　　　 |
　|.| /´ヽヽ |　　ヽヽ　￣￣　　　　　　　　　　　〉　　 |　　　　　　諦めさせたのは良かったな。
　.|,| |ヽ、ｌ　ヽ　　ヽ　　　　　　　　　　　　　/　./　　 .|
　 .|,l 　( .|　ヽヽ　　ヽ　　　　　　　　　　　　　　　.〉〉|　　　　　　　意固地になって断っておったら、おまえは喰われていただろう」
　　|ヽ　ヽヽ　ヽ＼　　　　　　／　　＿_ - ＝/ //.|
　　 | | lヽ、　　ヽ　　`ヽ　　l.| `＝＝ﾆ- ´￣　　 .|　＼　　　　　　と語ってくれたのだそうな。
　　 |l |.|　|| ヽ＿| 、　　ヽ　ヽヽ　　　、＿＿, 　　 |　　　ヽ ⌒'ヽ
　　 || |.|　| .| | |　|ヽ、　　ヽ　　　　　　　　　　　　　|　　　　(　　ノ
　　| |.| |　| | || ||　|　　ヽ、ヽ　　　　　　　　　　　　|　　　　　`‐'
　　| || .| .| | | || |　|　　　＼` ヽ、　　　　　　　　 /
　 .| ||| | /.| | || /:::ヽ　　　　＼＼　ヽ＿- ―　 |ヽ、＿＿＿_,--------
　 | ||| | | | .| ||/::::::::::::::::::::::ヽ　、ヽヽ　　　　　　　|:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
　| .|||| || .| | |::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ`　　　　　　 |::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
　|　|| | | .| | ||::|:|::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`.....、　.|:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

　　　　　　　　　　　＿＿__
　　　　　　　　　／　　　＼
　　　　　　　　／　　　　　　＼　　　　　　　以来、爺さんは二度とバイクで山に行くことはなかったそうだ。
　　　　　　　／　　　　　　　　　＼
　　　　　　|　　　　　　　　　　 l　　　　　　ちなみに、件のバイクは今なお実家の倉に眠っている。
　　　　　　　＼　　　　　　　／
　　　　　　／￣　　　　　　　⌒＼
　　　　 / 　,、　　　　　　　　　　|

578 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:11:52 ID:RxRasCyk [14/15]
元ネタ　1/2
539：名無し職人：2005/11/18(金) 10:47:51
うちの爺さんは若い頃、当時では珍しいバイク乗りで、
金持ちだった爺さん両親からの、何不自由ない援助のおかげで、
燃費の悪い輸入物のバイクを、暇さえあれば乗り回していたそうな。

ある時、爺さんはいつものように愛車を駆って、山へキャンプへ出かけたのだそうな。
ようやく電気の灯りが普及し始めた当時、夜の山ともなれば、それこそ漆黒の闇に包まれる。
そんな中で爺さんはテントを張り、火をおこしキャンプを始めた。
持ってきた酒を飲み、ほどよく酔いが回ってきた頃に、何者かが近づいてくる気配を感じた爺さん。
ツーリングキャンプなんて言葉もなかった時代。
夜遅くの山で出くわす者と言えば、獣か猟師か物の怪か。
爺さんは腰に差した鉈を抜いて、やってくる者に備えたそうだ。

540：名無し職人：2005/11/18(金) 10:48:33
やがて藪を掻き分ける音と共に、『なにか』が目の前に現れたのだそうな。
この『なにか』というのが、他のなににも例えることが出来ないものだったので、
『なにか』と言うしかない、とは爺さんの談である。

それはとても奇妙な外見をしていたそうだ。
縦は周囲の木よりも高く、逆に横幅はさほどでもなく、爺さんの体の半分ほどしかない。
なんだか解らないが、「ユラユラと揺れる太く長い棒」みたいのが現れたそうだ。
爺さんはその異様に圧倒され、声もなくそいつを凝視しつづけた。

そいつはしばらく目の前でユラユラ揺れていたと思うと、唐突に口をきいたのだそうな。
「すりゃあぬしんんまけ？」
一瞬なにを言われたのかわからなかったそうな。
酷い訛りと発音のお陰で、辛うじて語尾から疑問系だと知れた程度だったという。
爺さんが何も答えないでいると、
そいつは長い体をぐ～っと曲げて、頭と思われる部分を爺さんのバイクに近づけると、再び尋ねてきた。
「くりゃあぬしんんまけ？」
そこでようやく爺さんは、「これはオマエの馬か？」と聞かれてると理解できた。
黙っているとなにをされるか、そう思った爺さんは勇気を出して、
「そうだ」とおびえを押し殺して答えたそうだ。

579 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:12:06 ID:RxRasCyk [15/15]
元ネタ　2/2
541：名無し職人：2005/11/18(金) 10:49:25
そいつはしばらくバイクを眺めて（顔が無いのでよくわからないが）いたが、
しばらくするとまた口を聞いた。
「ぺかぺかしちゅうのぉ。ほすぅのう」（ピカピカしてる。欲しいなぁ）
その時、爺さんはようやく、ソイツが口をきく度に猛烈な血の臭いがすることに気が付いた。
人か獣か知らんが、とにかくコイツは肉を喰う。
下手に答えると命が無いと直感した爺さんは、バイクと引き替えに助かるならと、
「欲しければ持って行け」と答えた。
それを聞いソイツは、しばし考え込んでる風だったという。（顔がないのでよくわからないが）
ソイツがまた口をきいた。
「こいはなんくうが？」（これはなにを喰うんだ？）
「ガソリンをたらふく喰らう」
爺さんは正直に答えた。
「かいばでゃあいかんが？」（飼い葉ではだめか？）
「飼い葉は食わん。その馬には口がない」
バイクを指し示す爺さん。
「あ～くちんねぇ　くちんねぇ　たしかにたしかに」
納得するソイツ。
そこまで会話を続けた時点で、爺さんはいつの間にか、
ソイツに対する恐怖が無くなっていることに気が付いたという。

542：名無し職人：2005/11/18(金) 10:52:41
ソイツはしばらく、バイクの上でユラユラと体を揺らしていたが、
その内に溜息のような呻き声を漏らすと、
「ほすぅがのう　ものかねんでゃなぁ」（欲しいけど、ものを食べないのでは・・・）
そう呟くように語ると、不機嫌そうに体を揺らしたという。
怒らせては不味いと思った爺さんは、
「代わりにコレを持って行け」と、持ってきた菓子類を袋に詰めて投げてやったという。
袋はソイツの体に吸い込まれるように見えなくなった。
するとソイツは一言「ありがでぇ」と呟いて、山の闇へ消えていったという。
その姿が完全に見えなくなるまで、残念そうな「む～　む～」という呻きが響いていたという。
爺さんは、気が付くといつの間にか失禁していたという。
その夜はテントの中で震えながら過ごし、朝日が昇ると一目散に山を下りたそうだ。

家に帰ってこの話をしても、当然誰も信じてはくれなかったが、
ただ一人、爺さんの爺さん（曾々爺さん）が、
「山の物の怪っちゅうのは珍しいもんが好きでな、
　おまえのバイクは、山に入った時から目を付けられていたんだろう。
　諦めさせたのは良かったな。意固地になって断っておったら、おまえは喰われていただろう」
と語ってくれたのだそうな。

以来、爺さんは二度とバイクで山に行くことはなかったそうだ。
ちなみに、件のバイクは今なお実家の倉に眠っている。

580 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:13:25 ID:/u/yfUiw

乙でした
ガソリンをたらふく喰らうでちょっとワロタ

581 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:19:28 ID:Dy43d8m. [1/2]

おつ
山の怪異系はガチこわだなぁ……

>>562
背後に立つ度に殴るので失明する
そんで兄が祖先から受け継ぐ鉄球の流儀ィ！　で果たし合って殺す

582 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:20:01 ID:OYoHMOvA

これ、交渉に成功してたら
「コンゴトモヨロシク」
ってなってたんだろうか？乙

583 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:20:18 ID:YGUXmNnA

乙、こういう山の怪談は普通の怪談と違う異質さがあって好きだ

584 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:25:15 ID:/7tAyT0A

>>582
祖父がデビルサマナーなんてすてき

585 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 00:32:20 ID:Dy43d8m. [2/2]

祖先から受け継いだのは管だったか……

586 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 01:14:54 ID:1kJYYDMY

乙でした
ちゃんと餌のこととか気にしてるのは良いな
本気で飼うつもりなのが如実に伝わってくるｗ

587 名前：普通の名無しさん[sage] 投稿日：2013/05/31(金) 01:59:49 ID:2Inap33c [1/11]

乙
乗り物手に入れた怪異はやっぱり悪魔合体になるのかな

関連記事

自由人の兄と紫色の水晶 (2013/05/12)

細面のオヤジ霊 (2013/05/14)

更年期の人 (2013/05/17)

田舎道の妖狐 (2013/05/20)

隙間の腕 (2013/05/20)

ラストオーダーとローマ帝国 (2013/05/26)

いのちのせんたく (2013/05/26)

山の怪異 (2013/06/01)

空想科学やる夫スレシリーズ　ヤラトラマン (2013/06/05)

ヒカリノサスホウヘ (2013/06/11)

やる夫はフィギュアに魂を注ぎ込むようです (2013/07/01)

全てを手に入れた者のお話 (2013/07/05)

いつかの世界　　どこかの時間 (2013/07/10)

Vibration　Elf (2013/07/14)

ブレイカー守護神 (2013/07/16)