看板建築を見る目が肥えてくると、長屋風に連なった看板建築に気づき始めます。長屋といえば江戸時代の住まいの印象ですが、洋風を目指した看板建築が長屋風とはこれいかに。

■長屋風に連なる看板建築


看板建築が並んで建っているのはとてもうれしいものです。しかし、並び立つ形には、戸建ての看板建築が連続している場合と、長屋風に建物自体がつながっている場合があることに気がつきます。

戸建ての看板建築が並んでいる、というのは、建物と建物のあいだに細い通路があったり、建物ごとに看板部分(ファサード)が独立しているのですぐそれと分かります。普通に家が並べば当然そうなります。

ところが、長屋風看板建築は、同じ様式の看板建築が2~6軒ほど連続しており、建物と建物が完全につながっています。間に通路がないため、強い印象を与えます。看板建築マニアになってくると、「長屋風看板建築」を見て大喜びするようになります。
今回は長屋風看板建築を楽しんでみましょう。

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<写真B>


■長屋風看板建築もいろいろ


長屋風看板建築をいくつかの写真を用いながら見てみましょう。
まず、様式や素材について同一のものを使用するのが長屋風看板建築の基本です。ファサードの意匠、庇(ひさし)の高さなどが統一されるだけで、街並みに統一した印象をもたらします。昔の個人商店の間口はもともと似たような幅だったので、ますますリズミカルな印象になります。

最初の写真は、神保町の丸眼鏡風窓が印象的な長屋風看板建築です。実は上写真の右から左まで全部、同一のデザインで、かつては「十一軒長屋」と呼ばれていたほどの街並みでした(写真下に「荷風!NO.7(日本文芸社)」より当時の写真を引用していますが、インパクトは絶大です)。

今では左右に離れた3軒のみ、同じデザインが残っています。何軒か離れた建物が同一のデザインをしていて不思議に思っていた人もいるでしょうが、実はこれ、建て替えなどが進む中、残っていた姿だったのです。

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<写真C>


清澄庭園の東に並ぶ、長屋風看板建築(作りは木造でなくコンクリート)もおおむね6軒ずつくらいの並びが続きます。道を通ると「おっ!」というインパクトがあります。リフォームもかなり行われていますが、同様の意匠で建て並んでいることは誰の目にもすぐ分かります。

湯島駅6番出口すぐにある5軒+2軒の長屋風看板建築も素敵で、洋風の紋章を作りつけてあったり、軒の歯飾りが美しく揃っており、車で通り過ぎる人の記憶にも残る美しい物件です。窓の高さや店の看板の高さを揃えていたことが、統一した印象を与えてくれていることが分かります。

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<写真D>


3軒長屋、4軒長屋にも風情があります。このくらいの物件だとそれぞれの戸主が個性を主張することも多く、違う色合いや素材が並んでいたりします。それなのに、隣の建物とのつなぎ目部分はていねいに工作されており、戸主同士の仲の良さが感じられます。

2軒長屋も同様で、あえて戸建てにせず仲良くくっつけて建物を建てただけに、2軒の中央部分に凝った装飾が施してあったり見所がいっぱいです。


■一軒ずつ歯が抜けていく寂しさも刻みつけたい


ところで、看板建築といえば再開発の流れで消えゆく存在ですが、長屋風看板建築も再開発とは無縁ではありません。先ほどの神保町などは11軒並んでいたとされる長屋風看板建築が今では3軒しか残っていません。

丸ごと今でも残っていればと思いますが、商業地域(靖国通り沿いの古書店街)にいつまでも2階建てのままではいられないことも事実です。
個人的にはこうした「長屋の残った姿」も風情があるように思います。みちくさの折り、こうした物件を目にしたら見逃さず、せめてカメラに納めて将来に向けた「記憶」としてとどめておきたいものです。

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<写真E>


(撮影地)
千代田区神田神保町1丁目、中央区日本橋小網町、江東区清澄3丁目、港区麻布十番2丁目・白金5丁目・白金6丁目、品川区北品川2丁目、台東区上野1丁目・東上野3丁目 あたり




  • 山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)

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  • 1972年生まれ。本業はファイナンシャルプランナー。資産運用とか年金のことを分かりやすく書いたりしゃべるのが仕事。副業はオタク。ゲーム・マンガ・街歩きを同時並行的に好む。所属学会は日本年金学会と東京スリバチ学会。Twitterアカウントは@yam_syun