前回までは街中の銭湯を多く紹介してきました。
下町、山の手、都会、地方によって実に様々な銭湯が存在します。
ところで日本は火山の多い細長い島国ですが、それゆえに温泉も数多く存在し、それに伴う温泉場、温泉街も数多く存在します。
そんな街々には銭湯は存在しないかというと、そんなことはありません。
色々な形でその温泉を活かして温浴施設が存在します。
今回は志向を変えて、そんな湯の街で人々が集う温泉共同浴場をご紹介したいと思います。

ところで私、自己紹介欄には「座右の銘は遠くの温泉より近くの銭湯、かな」なんて書いていますが、実は温泉巡りも大好きなんです、ハイ。

温泉街には地元の人々が利用する「温泉共同浴場」なるものがある場合があります。
これは元々は地元の人の浴用施設、また湯治を含む温泉を訪れた客の利用する外湯として存在しています。
成立ちも地区で財産として管理している共同浴場、市町村などの自治体で運営する公共の共同浴場、そして民営の共同浴場(これはほとんど銭湯に近い物ですね)、天然温泉を供する浴場で銭湯として営業している浴場など様々です。
これらの施設の多くは区民や地元組合員専用の、いわゆるジモ専(地元専用)と呼ばれる物が多いのですが、一般の外来客に公開している場合、銭湯料金に近い低額、御志、寄付金などの形態も多く、または無料で利用できる施設も多く存在しています。
この温泉場の銭湯、いわゆる温泉共同浴場の楽しみを今回はご紹介したいと思います。

上の写真は信州・別所温泉の共同浴場・大師湯。
川沿いに建つ木造の伝統的湯屋建築の施設は観光客にも開放しています。
別所温泉にはこの他に3軒の温泉共同浴場があります。
このように温泉場観光地の場合は地図などに公開されていて、番台や券売機で入浴料金を支払って利用する施設が多いのです。
それに対してあまり観光素材として温泉共同浴場を紹介していない地域の場合は簡素な施設で多くは路地裏に存在していて看板も無い(これは地元民使用が主体で宣伝する必要が無いため)発見が困難な「秘湯的温泉共同浴場」も数多く存在します。
この場合、発見までの街中観察を含めたプロセスも訪問の楽しみとなりえるでしょう。


同じ信州の鹿教湯温泉にある「町 高梨共同浴場」。
共同浴場には上のような立派な湯屋建築がある一方で、このような簡素な温浴施設が実は大半を占めています。
この施設の立地は入口の道路から見るとこんな感じ。


もう車で通過しちゃったら絶対わかりませんよね(笑)
それでもここはまだわかりやすい方かもしれません。

このような温泉共同浴場の多くは簡素な施設ゆえに建物直下源泉や混合の少ない源泉純度の高い湯がかけ流されている、優良な温泉温浴施設が大半を占めています。
中は質素で蛇口は水の供給のみで湯は浴槽から汲む施設も多いのです。

浴室の一例・上諏訪温泉「衣温泉」



天井は古い形式のいわゆる唐傘形状に湯抜きの付いた構造。
低めの男女境壁はなんとすりガラス張り。
浴槽は2分割、湯の温度調節は自分で蛇口を開いて供給調整する仕組みになっています。
微硫黄臭のする湯が供給されています。
脱衣場には大正7年の成分分析表の書かれた木の額が掛かっています。



こちらは伊豆・湯ヶ島温泉の「瀬古の大湯」。
道路から渓谷沿いに階段を下ったところにあります。
無人の施設で時間外は施錠されており、利用時間内はポスト形状の箱に100円以上の寸志を入れて利用するようになっていました。
プレハブの湯小屋にコンクリート・タイル貼りの簡素な浴室ですが湯はとてもいい。

温泉共同浴場では良質の温泉が最大の楽しみともいえますが、歴史ある温泉場では伝統的な湯屋建築の浴場も多く存在し、この建物を観賞するのもひとつの楽しみです。

こちらは信州北部の野沢温泉にある「大湯」。



堂々とした和風の伝統的湯屋建築は見事です。
扉を開けて入るといきなり浴室で、壁側に簡易的な脱衣棚があるのも昔風の造りとなっています。
野沢温泉は湯仲間という組織で運営されていて、一般の観光客でも傍らに祀られた十二神将にお賽銭を寸志として入れることで入浴できるようになっています。
また、施設内に洗濯室や高温の源泉を利用した野菜等を茹でる施設も併設されている事が多いようです。
また、晩秋になると各共同浴場では野沢菜を茹でる日が設けられているのも地方の特色があって良いですね。

信州北部にはこのような伝統的湯屋建築が多く見られます。

やはり信州北部の角間温泉の共同浴場「大湯」。


昔ながらの温泉共同浴場といった趣きが素晴らしい。
建物の右手には温泉を利用した洗濯室が併設されています。
基本的には地元民と宿泊者専用で施錠されており、鍵を借りて入浴する仕組みになっています。
中は石張りの浴槽で周りはすりガラスの窓になっているので採光がよく、昼間は明るい浴室が楽しめます。

採光という点ではこちらの共同浴場も素晴らしい。
信州・上諏訪温泉の「平温泉」(同名の一般開放された共同浴場もありますがここはジモ専です)。


写真は建物の裏手なのですが古い湯屋の壁にかなり大胆にガラスを取り入れています。
おそらく昼間はかなり明るい中で入浴が楽しめる事でしょう。
中に入れないのが残念。

この建物のある湯小路付近はかなりの密度で温泉共同浴場が建っていてそれぞれ違う地区の持ち物となっています。
因みにこの写真を撮った場所も隣の地区の温泉共同浴場の敷地です。
まさに隣り合って建っています。

最後は静岡県・伊豆長岡温泉の「あやめ湯」。


ここは伊豆長岡温泉の路地裏に建つ温泉共同浴場。
行灯看板には屋号の上に共同湯と書かれています。
銭湯風の造りで気軽に利用できます。
中もレトロな作りを残しつつキレイに保たれていてオススメの浴場です。

今回は長野県と静岡県の共同浴場ばかりのご紹介になってしまいましたが、日本全国の温泉地には様々な温泉共同浴場が存在します。
たとえば有名な四国松山の道後温泉本館も温泉共同浴場になります。
また、九州の別府温泉にはジモ専も含めると数百の温泉共同浴場があるということです。
これらを巡る温泉場での「銭湯巡り」もまたなかなか楽しいものであります。


最後にひとつ、共同浴場を利用するにあたって注意というかお願いです。
温泉共同浴場は地元の人々の所有する財産です。
ここを地元のご厚意で利用させてもらうのですから「利用させてもらっている」という気持ちを忘れずに入浴を楽しみましょう。

地元民専用の浴場には入らない、また地元民専用時間指定がある場合は気をつけて利用しましょう。
他の人と相客になった場合は一言挨拶などで声掛けして入りましょう。
地元の方にしてみれば裸で利用する施設に見ず知らずの人が入って来るのですから、ここはやはり礼は忘れないでくださいね。
最近一般利用者がゴミを捨てていったり騒いだりとマナーの悪化で一般利用を制限しようかと考えているなどという話をよく耳にします。
そのようなことにならないためにもマナーやルールは守って気持ちよく利用しましょう。






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  • 1960年、東京生まれ埼玉育ち。現在は神奈川県藤沢市に在住。小さい頃は風呂屋のペンキ絵が描きかえられるのを心待ちにしていた子供でした。

  • 現在は路地裏散歩と居酒屋徘徊を趣味としており、産業遺産ならぬ生活遺産に興味を抱き銭湯や古建物などを見て巡っております。

  • 座右の銘は遠い温泉より近くの銭湯、かな。