一見よく似た鍾馗さん。今回はこの二人が主役です。

同居


三重県伊賀市郊外。上の二人はのどかな田園風景の中、一軒のお宅に同居しています。
左の鍾馗さんは納屋のような建物、右の鍾馗さんは母屋を建替えた倉庫?の上で、背後にあるお寺に睨みを効かせています。

だいぶ以前の三重県の紹介記事で伊賀市についてふれましたが、個性的な鍾馗さんが非常に多く見られる地域で、このふたりも栄えある伊賀系鍾馗に列します。

見つけたときは同じ家にあることもあって、同一作者の作品かと思いましたが、二人をよく見比べてみるとずいぶん違います。
仮に「納屋くん」と「倉庫くん」と呼ぶことにして、二人を比べてみましょう。

細部をチェック!

まずは肝心の顔から。

左「納屋くん」は細長くデフォルメされた顔ですが均整が取れていて、頬や眉のふくらみも自然に見えるよう、丁寧に作られているのに対し、「倉庫くん」は明らかに左右のバランスが悪く、眼も離れ過ぎ、髭の造形など細部も雑なのがわかりますね。

次に右手のあたり。


「納屋くん」は柄を持つ右手の握りが自然なうえ、人差し指を立てちゃったりして芸が細かい。
「倉庫くん」も真似して人差し指を立てていますが、柄を握れていないので剣が落ちちゃいそう。
鍔(つば)も「納屋くん」はあえて刀身との直角を崩して、鍔がよく見えるように一工夫していますが、「倉庫くん」のほうは子供の粘土細工ですね。翻る裾の造形にも歴然とした差があるのをお分かりいただけると思います。

わからないから想像できる

鍾馗さんは実用品。もともと芸術作品として作られたわけではないので、その製作年代や作者が判るものはほとんどありません。「納屋くん」と「倉庫くん」も例外ではありませんが、こうして見てくると、「納屋くん」の作者は相当な技術を持ったプロであるのに対し、「倉庫くん」は素人に毛の生えた程度の作者が一生懸命「納屋くん」を真似したように思えます。
友人のおとんさんがこの家の隣のお寺の住職に伺った話では、この家の先代(故人)は屋根葺き職人だったそうです。
瓦関係者だった先代さんが、プロの手になる「納屋くん」を見て俺にもできるぞ!と一念発起、仕事を終えた作業場の片隅で背中を丸めて「倉庫くん」の製作に励む姿を想像して微笑んでしまいます。もちろん勝手な想像ですが、

歴然とした差がある「納屋くん」と「倉庫くん」ですが、だからといって「納屋くん」が○で「倉庫くん」は×、とはならないのが鍾馗さん鑑賞のいいところ。
量産品やプロフェッショナルの仕事にはない「倉庫くん」のような手作りの味は、鍾馗探索人にはこたえられないのです。


八幡系での例


(左:東近江市綺田、右:東近江市蒲生堂)

これも一見よく似ています。ズームアップしてみると


これは優劣が明らかです。
左はこれでもかという装飾をへら跡も鮮やかに刻んでいるのに対し、右はデザインこそ同じですが非常に鈍い造作です。左は名匠の手になる八幡系でも一二を争う優品、右はそれを元にした型による量産品のようです。


今回登場した鍾馗さん


三重県伊賀市西湯舟平泉寺
<1304>
三重県伊賀市西湯舟平泉寺
<1305>
滋賀県東近江市綺田
<0931>
滋賀県東近江市蒲生堂
<0900>


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  • 愛知県在住の会社員、1961年生まれ。
    週末のたびに関西方面へ遠征し、民家にひそむ鍾馗さんに望遠レンズを向けてます。
    不審尋問には笑顔とポケット版鍾馗ファイルで対抗するも、追い払われることもしば
    しば。