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新宿のデパートや商業ビルが建ち並ぶエリアの地下に、広大な老舗喫茶店があるのをご存知だろうか。その広さは都内最大級。
個人的な話からスタートしてしまうと、私は人ごみが好きでない。私のように好きでない人は多いかもしれないが、だから極力週末に副都心と呼ばれる新宿・渋谷・池袋などといった街へは出かけたくない。出かけていっても、終始落ち着けないからだ。
道草するにしても、私は中くらいのサイズの町や小さい町を選ぶことのほうが多い。
けれど、こういう街にはこういう街にしかない魅力もあるし、人と会ったり食事をしたり打ち合わせをしたり、誰かと会うにはたいてい中間となる街は大きな街だから、行かずに済ますというわけにもいかない。
それにそんな私でも、たまには大きな街を目的もなく歩いて、今の東京がどんなふうなのかも知りたい。
そんなとき、いつ行ってもゆっくりできるとわかっている店があるのは、本当に心強い。いい店を知っていても小さい店だと入れなかったとき残念な思いをすることになるけれど、ここならいつだって安心、そんな店だ。
新宿三丁目辺りでゆっくり落ち着きたいときはここ、そう私は決めている。

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新宿らんぶるは昭和25年創業。名曲喫茶としてスタートした。昭和30年代初頭に、新宿の区画整理で現在の場所へ移転。
当時名曲喫茶は大流行で、皆コーヒーを飲みながら、クラシック音楽に耳を傾けた。まだレコードプレーヤーが家庭に普及する前の話だ。LPとレコードプレーヤーの普及によって、名曲喫茶も激減。らんぶるも、名曲喫茶としてではなく、クラシックをBGMで流す喫茶店へと時代に合わせて変化していく。

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昭和30年代に現在の場所へ移ってから、およそ55年。席数200以上という喫茶店は、私はここの他に、北千住の喫茶室サンローゼしか知らない。
地下にもかかわらず、高い天井。赤い椅子で揃えられた店内。入口は普通だ、けれど地下に降りると驚くほど広い。ワクワクするほど、だ。
ここは巨大さを楽しむ喫茶店なのではないかと思う。
新宿の街の移り変わりを見ていると、ここがこのまま残っていることが、もはや奇跡のようなことだと思えて仕方がない。

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●新宿 らんぶる
新宿区新宿3-31-3
03-3352-3361
新宿駅より徒歩3分/新宿三丁目駅より徒歩1分
9:00~23:00
年中無休
ブレンドコーヒー550円
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  • 塩沢 槙(しおざわ まき)

  • http://www.makishiozawaphotography.com

  • 塩沢槙 写真執筆事務所ブログ

  • 撮影業・執筆業。1975年生まれ、東京都出身。1999年~2000年ロンドンへ留学。帰国後、大学在学中より仕事を始める。近年は東京の街や文化、日々の生活・暮らしに特に興味を持ち、書籍の制作を中心に活動中。2007年『』、2009年『』、2010年
    『』を河出書房新社より上梓。2011年7月、撮影・執
    筆共に手がけた著書4冊目となる『』が河出書房新社より発売になり、好評発売中。