◆長髪の女性も次々に丸刈りに

　大学生たちの髪の毛がバリカンで、バサバサと刈り落とされる。長い髪の女性も多かったが、次々に丸刈りになっていった。
　韓国の革新系学生団体が４月下旬、ソウルの日本大使館前の路上で展開した「剃髪ていはつパフォーマンス」。日本政府が東京電力福島第一原発の放射能処理水の海洋放出を決定したことに抗議する目的だ。大使館は抗議活動が在外公館の威厳の侵害防止などを定めたウィーン条約に抵触するとして、韓国政府に措置を求めていた。
　私は彼らの怒りや不安に耳を傾けたいと現場に足を運んだが、すぐに、残念な気分になった。自分たちと意見の合わない保守系テレビなどを名指しし、「出ていけ」と怒鳴る声が聞こえた。公共の道路を舞台にデモをしながら、メディアを選別するような姿勢に疑問を感じた。

◆一方的なやり方で市民の心は動くのか

　直後、主催者側の関係者を名乗る若い女性が私にも近づき、「どこのメディアですか？」「名刺を出さないなら帰ってください」などと迫ってきた。日本で原発やデモ報道に力を入れる新聞社に所属する記者であると自己紹介し、対話を呼び掛けたが、メンバーらの反応は鈍いものだった。
　学生らが、海洋汚染を懸念し、問題提起すること自体は尊重されるべきだ。しかし、今のやり方は一方的すぎて、日本の政府はもちろん市民の心も動かしにくいのではないか。
　「汚染水は、日本帝国主義の核テロだ。今すぐ撤回しろ」。学生らのそんな言葉遣いも、気になった。
　戦時中の元徴用工や慰安婦問題で日韓が対立し、日本政府が輸出規制を強化したのを受け、韓国で広がった日本製品の不買運動は今も続く。韓国国民の対日感情は穏やかではない。とはいえ、歴史認識を巡る葛藤を、処理水に対する抗議に持ち込めば、問題をさらに複雑化させてしまうと思う。憎悪をあおるのではなく、共感を広げてほしい。