「脚を開きなさい」

テキサス州サンアントニオの薄暗い脇道で、ナタリー・シムズは警官によるボディーチェックを受けていた。シムズがドラッグを隠し持っていると思った警官は、彼女のポケットをすべて調べたが何も見つからなかった。

しかし、調べはそこで終わらなかった。警官は言った。

「脚を開きなさい」

2016年8月8日、シムズは公道で警官からタンポンを引き抜かれた。その場には男性の警官らもいたし、近くを歩いている人たちもいたという。

シムズはこの一件で人権を著しく侵害され、心に大きな傷を負ったとして、サンアントニオ市と市警のマーラ・ウィルソン元警察官（現在は引退）を2018年に訴えた。そして先週、市がシムズに20万5000ドル（約2200万円）を支払うことで和解した。

ボディーチェックはあらぬ方向へ

シムズの訴状によれば、2016年8月のその夜、彼女は歩道の縁石に座り、ボーイフレンドを待っていたところ、警官らが近づいてきたという。警官たちは、その周辺でドラッグの売買が行われているとの通報を受けて、捜査をしていたと地元紙は伝えている。

警察はまず、シムズの了承を得て、彼女の車を調べた。同時に、彼女のボディーチェックをするために、女性の警官が現場に呼ばれたという。間もなく到着したのが、ベテランのウィルソン巡査だった。

ウィルソンはシムズの服のポケットなどを調べたが何も見つからなかった。そこで、パンツを脱ぐことはできるかと、軽い感じでシムズに聞いてきたという。

訴状にはこう書いてある。

「ウィルソン巡査は最初、まるで私たちがカフェでコーヒーを飲みながら雑談をしているかのように聞いてきました。残念ながら、それはカフェでのおしゃべりではなく、ウィルソン巡査の捜査の仕方は、そこから悪い方向へと向かっていったのです」

裁判所に提出されたドライブレコーダーの映像には、ウィルソンがシムズに向かって、「脚を開きなさい」と命じた場面が映っていた。「私がそこを調べる前に聞いておく。そこに何か隠し持っているか？」

シムズは何も隠していないと答えると同時に、下半身を調べようとしているウィルソンに対し、自分は生理中であると伝えた。すると、懐中電灯を手にしたウィルソンは、見るだけで触りはしないと言い、シムズのズボンと下着を下ろした。近くには男性の警官が5人もいたという。

そして、タンポンのひもに気づいたウィルソンは、それを下に引っ張った。

違法な薬物は何も持っていないと何度も訴えたシムズを無視して、ウィルソンは「捜索」を続け、こんなことも言ったという。

「あなた、とても毛深いのね」

ウィルソンはさらに、シムズに後ろを向けと命じ、再び彼女の脚を開いて、今度は肛門を調べようとしたと、訴状には書かれている。

「ウィルソン巡査はヴァギナの後、今度は肛門を侵害しようとしました。彼女は捜査令状もなく、医療従事者もいないなか、人通りのある公道でそのようなことをしたのです」

シムズは繰り返し警察署での捜査を求めたが、彼女の要求は無視された。

ウィルソンの証言によれば、過去にマリファナやコカインなどのドラッグが入った小袋を容疑者の股から取り出したことがあるため、シムズの下半身を調べたのだという。

結局、シムズの体からは何も見つからず、警官たちから解放されたが、訴状にはこう書かれている。

「彼女の尊厳と自尊心の一部が奪われた」