この原稿は15日に開かれる日本代表発表記者会見を前に書いているのだが、24日のウルグアイ戦(国立競技場)と28日のコロンビア戦(ヨドコウ桜スタジアム)は、地味に戦ってほしいと筆者は考えている。次回2026年W杯まで3年3ヶ月。そのアジア枠が4.5から8.5に増えるため、予選落ちの心配はない。代表強化はこれまでとは全く異なる方法で行われる必要がある。この時期は泰然自若に構えることが一番。畑を掘り起こすことに全力を傾けるべき。筆者はそう確信している。もし発表されたメンバーが、カタールW杯に出場した顔ぶれと大差ないなら、第2期森保ジャパンに幸はないと考えたくなる。

 とはいえ、いわゆるベストメンバーが順当に選ばれる可能性は高い。森保監督及びサッカー協会にそこまでの勇気はないと考えるのが自然だ。三笘薫、久保建英などお馴染みの人気選手が国立競技場のピッチ上を、大歓声を浴びながら駆け巡る姿が想像される。残念ながら、ウルグアイ戦は興行色の強い親善試合になるものと予想される。

 それはともかく第2期森保ジャパンで、筆者がサッカー的に一番注目しているのは、サイドバック(SB)のあり方だ。日本では川崎フロンターレの鬼木監督や、横浜F・マリノスのケヴィン・マスカット監督がそうであるように、SBの役割にプラスアルファの魅力を与えることができるか。サッカーは戦力が互角ならSBが活躍した方が勝つ。紋切り型で恐縮だが、そう信じていい競技だ。SBが魅力的か否かはそうして意味でとても重要になる。

 思い切って言えば、旧来のSBを象徴する長友にお任せ的なサッカーでは可能性はない、となる。縦長のピッチを正面及びバックスタンドから観戦すれば「サイドも中盤に含まれる」という表現は、理解いただけると思う。堀池巧や都並敏史が日本代表のSBを務めていた時代と比較すれば一目瞭然。SBの基本ポジションはかつてよりずいぶん高くなっている。5m、10m近いかもしれない。その位置取りを高さで示すならば、中盤的なのだ。

 先日のヨーロッパリーグ(EL)決勝トーナメント1回戦、スポルティング対アーセナルの第1戦で、後半の途中から左SBとして交代出場した冨安健洋は、いきなり高い位置に進出。187?の身長を折るようなウイング然とした身のこなしから、フェイントを噛まし、左足で決定的なセンタリングを決めた。ファビィオ・ヴィエイラが放ったヘディングシュートは、GKの攻守にあいゴールこそならなかったが、それは左SBのみならず左のウイング級のサイドアタッカーとしても行けそうなポジションの適性の広さ、その多機能性が改めて証明された瞬間だった。

 その一方で左SBでありながら、文字通り中盤的なプレーも見せた。逆サイドにボールがあるときは、アンカー(守備的MF)に近い位置まで絞り、中盤選手然と構えた。

 冨安が自分の意思で勝手に動いている様子ではなかった。ミケル・アルテタ監督の指示に基づいていることは明白で、それはSBの可能性やポジション的な魅力を広げるような先進的なプレーにも映った。

 長友佑都はもちろん酒井宏樹にも存在しない魅力だ。山根視来(川崎)、松原健(横浜MF)的と言えるが、彼らの活躍の場は右に限られる。

 スポルティングで守備的MFとしてスタメンフル出場した守田英正も、川崎時代には右SBとして何試合か出場している。川崎の鬼木監督はさらに旗手怜央を左SBとして起用し、成功させている。森保監督はそのアイディアをU-24の五輪チームでちゃっかり拝借している。旗手がセルティックに引き抜かれれば、今度は橘田健人を兼左SBとして起用。使い回しの巧さを見せている。

 森保監督も中山雄太を左SB兼守備的MFとして使った。しかしメッセージ性の低さも手伝いインパクトは弱く、また実際に機能したとも言えなかった。中山は本番直前、怪我でリタイア。カタールW杯では古典的な長友がスタメンを張ることになった。

 もっと言えば、途中からSBというポジションが存在しないサッカーを実践した。最初の2試合(ドイツ戦、コスタリカ戦)は後半からだったが、スペイン戦、クロアチア戦では頭から5バック同然の3バックで戦った。

 SBではなくタッチライン際をほぼ1人でカバーするウイングバックに多機能性は不要だ。むしろ発揮されては困る。兼MFとして真ん中付近に入ってこられては、全体のバランスは大きく崩れる。

 SBの上げ下げで3バックか4バックかを調整する可変式には賛成だ。同様に守備的MFの上げ下げで3か4かを調整するアギーレ式もオッケーだ。SBが存在するサッカーの方が、バリエーションが広がり、見ていて楽しいのだ。W杯のような限られた人数(前回は26人)で戦う短期集中トーナメントではなおさらである。SBをどのようにしたら有効活用できるか。これは今日の代表監督に課せられたテーマだといっても言い過ぎではない。SBは依然として工夫の余地が残されているポジションなのである。

 その象徴が冨安になる。この選手をいかに有効活用するか。第2期森保ジャパンの重要なテーマだと筆者は考える。だからといって今回、冨安を半ば強引に招集する必要はない。いくら代表戦ウィークとはいえ、プレミアで優勝争いを展開中のチームを離れ、極東の日本を往復することは様々な意味でリスキーだ。慢性化が心配される筋肉系のトラブルを抱える身であることも忘れてはならない。

 いまこちらが確認したいのは森保監督のSBに対する概念だ。それは冨安以外でも表現することが可能である。冨安がアーセナルで1分でも多く出場することが、ひいては日本代表の財産になることを忘れるべきではない。