以下の内容はhttp://blog.livedoor.jp/crii/archives/cat_707190.htmlより取得しました。


ゴールデンカムイ 1~4 野田サトル

日露戦争、地獄の二〇三高地を生き延び「不死身」と呼ばれた男、杉本佐一。
彼はある日、偶然にもアイヌの隠し財宝の情報を手に入れる。
盗まれ隠された財宝を求める彼は、とあるアイヌの少女と出会う。


[読書開始直後から時間の流れ]

(´・ω・)「…日露戦争、二〇三高地。舞台も北海道だし、『皇国の守護者』な戦記物かな?」
  ↓
(´・ω・)「なんか戦争話は過去のことだった。宝探しがメインなのかな」
  ↓
( ゚д゚) 「『孤独のグルメ』ならぬアイヌのグルメじゃねーか!」

と予想外の感想の移行を見せたこの作品。
「不死身の杉本」という異名を持つ、えらく頑丈な主人公が砂金を求めて、
同じ目的を持つ軍人やら過去の亡霊やらとバトルに次ぐバトルを繰り返す物語がメインなのだけれど。
ヒロインとして登場する、アイヌのアシリパ(リは小文字)がまた破天荒というかヒロイン的でないというか。
可愛くないわけではないのだが、勇ましい戦友という感じの彼女との交流のほうが
中盤からは読んでいて楽しくなってくる。

もちろん物語は、主人公の見ていて痛くなるほどに傷だらけになる戦闘、
話し合いも出来そうにない、妖怪のような人間達とのだましあいも読ませるものがあるのだが。
彼女と主人公が雪山を歩き、日々の糧を得るためマタギのように動物を狩る。
この時の二人の食事風景のほうが、味があるような。
こちらはそこまでメインじゃないはずなんだけどなぁ。

どう見ても主人公が食べなれてない、リスの脳みそやらウサギの目玉やら、
カワウソの頭やらを食べさせられるシーンの主人公の顔ときたら。
「食べたくない食べたくない」ってな顔をしながら仕方なく食べる表情とか、
どうやって食えばいいのかわからない顔でまごつくシーンとかは本当に絶妙。
そしてそんなふうに異文化を前面に押し出した、
「やっぱり異文化の食文化はわからないもんだな」と思わせておいてからの
「なんだ美味い物に国境なんかねーな!」な食事風景が必ず来るのも良構成でよろしい。
味噌も国境を越えるのだ。
一番ニヤリとしたシーンは、雪山の中で彼と彼女が水を取り合うシーン。
ヒロインが水袋に必死になるあまり、ヒロインがしちゃいけない顔をしております。

…というわけで、黄金を求める非情なバトルものという側面よりも、
サバイバルアイヌグルメマンガとしての魅力が心に残ったお話でした。
それが悪いわけではなく、読ませる面白さがあるのでこのまま突き進んで欲しいと思います。
ヒンナヒンナ。(食事に感謝する言葉)





〇四二三事変 それがし屋

副題に「艦隊これくしょん前日譚ファンブック」。

ある日、海から陸へ打ち上げられた、それまで人類が見たこともない生物。
それは生体と機械が奇妙に融合した、海の恐怖を表したようなモノだった。
未来に待つ危機に対峙するため、一人の科学者が研究を始める。

「艦隊これくしょん」の同人誌。
同人誌といえば、公式がやらないカップリングやらヌードやら絡みやら、
R-18まっしぐらなものばかりという偏見があるが。
今回のこの本、ネーちゃんの裸も絡みもさっぱりなく、
画力もそこまで秀でているというわけでなく、
派手なアクションシーンもない。
…絵面としては地味な、まるで「ロボット残党兵」に出演していたような科学者が、
たった一人であれこれする話なのだが。
一匹の打ち上げられた深海棲艦から、全てを揃えていくこの物語は
地味派手といいたくなるダイナミズムがある。

艦これをプレイしていて、公式がわざとぼやけさせている部分。
鎮守府という組織がどのようにして出来たのかとか、
なんかゲーム始まって間もない時から二体の艦娘(明石と大淀)がいるけれど、アレは何なのかとか、
妖精さんとは、羅針盤の謎とは。
ゲームをプレイするには、悩む必要のないどうでもいい部分だけれど、
気になる人には気になる部分を妄想と想像で突き詰め、埋めていく。
これこれ、こういうのがいいんだよこういうのが!
敵の正体と唯一奴等に効く攻撃と、
なぜ敵を倒すと艦娘が手に入るのかとか、
よく物語として落とし込んだなと思うほどの設定考察。
うむ、地味に見える一冊だが、いい仕事をしております。

いやはや、同人誌というものがR18表現が主だなどという、
私の偏見を幾らか取り除いてくれるほどの良作品でありました。






聲の形 1~7 大今良時



主人公の将也は、小学六年生のやんちゃ坊主。
橋から川に飛び込むような無茶をするこの少年のクラスに、一人の少女が転校してくる。
自己紹介を促された彼女は、挨拶を口にせず手に持ったノートをめくり始めた。
ノートには自己紹介文と、
「どうかわたしと話すときはこのノートにお願いします。耳が聞こえません」
というお願いが書かれていた。

全七巻。タイトルに副題のように読みが「こえのかたち」。
このマンガがすごい!2015 オトコ編 第一位 と帯にある。
劇場アニメ化もするらしい…がこれについての情報はまだ無いようだ。

凄まじい。一読した時点で打ちのめされた。
主人公は小学六年生の折、聴覚障害者の彼女に出会い、興味を引かれ、
さも当然のようにその興味を満たすための行動を取ってしまう。
つつき、いじり、そしていじめ。
…このいじめのシーンだけでも相当胸に来るのだが、
これが物語の導入部分にすぎないことにも胸が打たれた。
いじめを率先していた、筆頭格として主人公がどうなっていくのか。
どう考えても幸せな未来など見えそうに無い物語に、
いつのまにかぐいぐいと引きつけられ、一気読みを余儀なくされた。

物語の構成、踏み込んだテーマもさることながら、
この作品の長所はそれだけではない。
あまり画力、絵の美しさや構成などの凄さには目を向けない私だが、
キャラ達のひとつひとつのコマに、鬼気迫るほどの感情を乗せた表情たち。
すごい。すばらしいの一言。
確かにヒロインは聴覚障害のため、言葉も明瞭に話すことが出来ず
感情の表現は表情やジェスチャーによって成されるものだろうが、
彼女の障害とは関係なしに、全てのキャラの表情が豊かで種類が非常に多い。
「憎悪と悲しみを混ぜた目で、絶望と諦めを乗せ怒る」としか言えない表情などは普通のレベル、
決め絵の一枚だけでなく、コマの隅々のモブキャラ達にまで、
表情の作りこみは及んでいる。

物語中盤、主人公に関係ない人々は、顔に大きな×印をかぶせられて描かれる。
(レッテルだろうか。コレを視覚的に描くのも実に面白いアイディア)
この×印のせいで人々は、その豊かな表情の大部分を隠されて描かれることになるのだが、
×印の隙間から覗く表情の端を見てさえわかる、
感情をこめにこめたキャラたちの表情。
ふつうならこんな、キャラの顔に×印なんて手抜きだろうと思われるところ、
表情の端から零れ落ちる感情だけで十二分にわかる。
これは、完成した顔に×を入れてるというだけでもないな。
感情を乗せに乗せた表情を描いて、どこを残せば感情が見えるように×印も描けるのか、
葛藤の末に最小限の表情の見せ方をしている、と感じる。
しかも遊んでいるようなコマ、手を抜いているようなコマも一片もなし。
…ひとコマひとコマに全力投球していると確信する。
こんな作品、一ページ描くのに何時間、何日かかるんだ…。

好きなキャラはヒロインの母親でした。次点で先生。
父親との話し合いのシーンは「これを描くのかー!!」と怖気が走る戦慄を感じた。
先生もキャラとしては凄く好き。好きで嫌い。
自己責任という言葉を、自己も責任も学んでいない小学六年生に言うあたりがもうなんとも。

ものすごい作品でありました。
今年は豊作だな!こちらも間違いなく今年の名作リストに入る一作です。




以下は作品を読んだ後の方々のための感想。
読まずにここから先へは行かないで下さいませ。





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メイドインアビス 1 つくしあきひと


約1900年の昔、ある絶海の孤島に大穴が発見された。
大穴はその底を見通すことが出来ず、調査に降りた人間達を幾人も飲み込んでいた。
やがて大穴の淵には街が出来、探索行を行う人々を支援する組織が完成し、
いつしか大穴は「アビス」と呼ばれるようになっていた。

かわいらしい絵柄の表紙だが、読み進めるうちにその絵柄に似合わぬ
ハードな設定に面食らった。
1900年、誰もその底を見たこともない大穴。
危険な生物達の跳梁跋扈する地下世界。
古代・超古代の遺物と呼ばれる、魔法のようなオーパーツ。
アビスという名にふさわしい、探窟者たちにかかる呪い。
そして、現在わかっているだけでも、深さ20000メートルという
想像を絶する穴の深さ。
…ううむ、この設定だけで妄想の御飯が進む。
一巻一話でこれだけの設定を叩きつけられて、わくわくしない読者はいないだろう。
特に、「世界樹の迷宮」や「Wizardry」な地下迷宮冒険譚に憧れた世代は、
もうハート鷲掴みである。

主人公は「赤笛」と呼ばれる、探窟者たちのひよっ子の一人。
特殊能力などまるでなく、母親が伝説級の探窟者、「白笛」の一人だということぐらい。
母が探窟に向かう間、身寄りのない彼女は孤児院に預けられ、
安全な非常に浅い階層だけを調査していた。
が、彼女はその最中、機械でも人間でもない、人間そっくりのロボットを発見する。

帯のあらすじ要約でこんな感じなのだが、もうこの探窟家たちの階級の「笛」でさえも
その過去を想像するのに血みどろの歴史が広がっているようで、
妄想が捗ること捗ること。
特にこの大穴の外である諸外国は、オーパーツの発見に軍事バランスが左右される様子で、
どうやら地下での諍いどころか殺し合いも日常のよう。
ああ、PKもアリか。敵は大穴と化け物だけじゃないんだよな、やっぱり。

さてそんな実力もまるでないひよっ子が、ロボットの力を借りて母親の道を追う話になるのだが。
…いや。いやいや。いやいやいや。
無理だろ!
どういう幸運に恵まれようと無理だよ!見た感じ二階の雑魚に楽々殺されるレベルなのに!
怖いもの知らずが一番怖い。いやほんとに。

一番恐ろしいと感じた設定が、アビスの呪いと言われている、「減圧症」にも似た病である。
深みに行けば行くほどこの症状はひどくなり、始めは吐き気程度だが
幻覚や体中の穴という穴から流血、最後には確実な死が待っているというもの。
もちろん大穴に潜る時だけではなく、戻ってくるときにもその呪いが待ち受けているらしい。
うむ、ひどい設定にも程があるよ。(褒め言葉)
町に帰還できないダンジョン物。やっと戻ってきても、この呪いのせいで死に至る人もいる。
これまでに知られた情報は、大穴の底から運が良ければ浮かんでくる、通信用の風船と手紙。
こんな過酷に過ぎる大穴を知識として知っているのに、
ここに潜っていこうとするんだからな、小さな女の子が!
もうこれだけで、先が気になって気になって仕方ないよ!

強力にオリジナリティのある設定を叩きつけてきた、
可愛い顔して超ハードダンジョン探索マンガでありました。
つ、続きが!どう考えても悲惨な最後を迎えかねない続きが気になります!




あれよ星屑 1 山田参助


第二次世界大戦、終戦。戦場から復員してきた熊のような大男、
黒田門松は復員列車で荷を盗まれ、身一つで帰ってきた。
しかし辛抱たまらず無銭飲食を行い、咎められ騒ぎになったところで
以前の班長、川島との再開を果たす。

山田参助という作者には聞き覚えがあった。
確か西原理恵子がその人を、とある出版社に紹介する話で、
「画力は確かなのだが、ゲイであるその性癖と濃厚で写実的な絵を描くので
出版社からお呼びがかからない」と言われていた漫画家、もしくは絵師。
なるほどこの本が出ているということは、拾ってくれる出版社があったんだなぁと
思って奥付けを見てみたら、コミックビームであった。
ビームかよ!なら納得ですわ。懐広いもんな。
ちなみにこの作品はプラトニックです。多分まだ。

作品は第二次大戦の終了直後、戦場で死に損ない帰ってきた男達二人の物語。
はだしのゲン第二部で語られていたような、すべてが焼け野原になった都市で
「何でもして生きていかなければならない」という追い詰められた勢いで生きる人々と、
死ぬべきところで死ねなかったと酒に走る男とを描く。
舞台である戦後のドヤ街のドロドロ、パンパンは進駐軍に引っ付き、
アメリカ軍の残飯を粥にして出している店もあり、肉を求めて野犬を狩る店主、
支配域を確保しようとするヤクザにポン引き、進駐軍相手の女郎屋や女衒と
煮込んで煮詰めた戦後をこれでもかと見せ付けてくれる。
Occupied Japanをナマで感じさせる、エネルギー溢れる筆致だ。

戦争に負けたことへの惨めさよりも、帰ってきて何もかも、
これまでの価値観が崩れ去ったことの方が堪えるこのカオスの中。
死に損なって日々を空虚に、酒に逃げる川島と、
生命力に溢れ、ポン引きまでになっても川島の傍に居たがる門松。
…多分先に帰ってきた川島班長には、どうしようもない現実と相対することが多すぎて、
そうなってしまうのも無理からぬことなのだろうなぁ。
女郎に身を落とした幼馴染を救うために、金を手に入れるために復員後にヤクザに戻る話しとか、
進駐軍の投げ捨てたタバコを拾い集める少年の話とか、
この「必死で戦ってきた自分のやってきたことも無為、今自分に出来ることも皆無」という
深い深い絶望感に沈む日々よ。酒に逃げるよりないかもしれぬ。
英語にも堪能、正義感も強いと、思いつめるタイプであるのも。

この非常に危うい男達の、泥臭い焼け跡での物語。
続き…というよりはどういう着地点を迎えるのか、気になる作品でありました。








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