学園に配されたUGNエージェントが失踪。
この事件を解明するため、一人の女トップエージェントが送り込まれた。
それぞれに秘密を持つ仲間たちとともに、謎を解き明かそうとする彼女。
だが、道半ば彼女は赤い光とともにーー
正式名称は「ダブルクロスThe3rdEdition リプレイ・メビウス」
1巻副題「キミだけが望むすべてだから」
2巻副題「微笑むキミに会いたい」
3巻副題「1秒でも長くキミといよう」
GMは著者、中村やにお。
プレイヤーは、
火蜂 紅:佐藤有世 鳩宮 アンゼリカ:片岡あづさ
墓守 清正:田中天 篠月 秋雨:矢野俊策
ヒロイン/ヒーロー役に、「リプレイ・アカデミア」でその才能を見せた、
佐藤有世と片岡あづさを配し、いわずと知れた鬼才・田中天、
TRPGデザイナーである矢野俊策で脇を固めた豪華プレイヤー陣。
「アカデミア」の読者なら、佐藤有世という人の破壊力はもう既に説明するまでもない。
…などと思ったか。
明らかにパワーアップしておられる。
シナリオはシリアスもシリアス、学園に巻き起こる謎、漂う死の匂いの中、
仲間の内に「裏切り者」がいるという事実をGMから突きつけられるハードなもの。
その上プレイヤーごとに、他プレイヤーに公開するかどうかはプレイヤー次第という
「秘密」を持っているというガチガチに固い、雰囲気暗めになること必至なギミック。
…なのに、なのに。この佐藤有世というお方ひとりの存在で、
そんな空気がどこへ行った!?と実感すること、一度や二度ではない。
読書開始からたった20ページ、そして50ページまでで何回笑ったか。
いやほんとにすげぇぜ、この方。
設定・他プレイヤーキャラの設定も充分重たいというのに。
このキャラがいるだけで皆が笑顔になる、すごいプレイヤーである。
もちろん面白いだけでなく、感情の入り方も素晴らしい。
TRPGを感情が入るあまり、涙を流しながらプレイするという物凄いものを見せてもらった。
…ここまでTRPGに真摯に向かった人を見る機会はそうそうないぞ。
謎の野球押しは何なのかさっぱりわからなかったけど!大爆笑ですわ!
しかしもう一人のヒロイン/ヒーロー役の片岡あづさも、
「アカデミア」で見せた才能をまたパワーアップさせて望んでいるのが良くわかる。
上記した大暴走する佐藤有世のツッコミ役に回ることもあり、
キャラと同化したような彼女とは違い、一歩引いた客観的な視点を持つところあり。
シナリオの展開を読んで、次の行動を考えているクールさを見せるところもあり。
一転熱のこもった演技を見せる部分もあり。
いやぁ、実に素晴らしい。
田中天・矢野俊策のプレイングはいつもどおり。
いや、否定しているんじゃないです。抜群の安定感。
ヒロイン/ヒーローの二人を映えさせるプレイング。もはや語るところのない完成度でした。
田中天演じる墓守の相棒役に、通称ネズミと呼ばれる情報収集役の女の子が出てくるが、
田中天が彼女の扱いについて、本心から狼狽するシーンは実に見所。
GMに別の仕事で会った時やら、twitter上などで、
彼女の扱いについて相談もしていたぐらいだとか。
なんて繊細な人なんだ田中天!あんな見た目なのに!
この「メビウス」シリーズが完結後、彼は原稿50ページ分にもわたる
彼のキャラ:墓守清正主人公のスピンオフ小説を書いておりましたが、
…一読。これそのネズミちゃんが大好きパウワァが溢れた作品じゃねぇか!
というのがよくわかるものでありました。
(このネズミちゃんの設定の重さは好き。
「食事に毒を仕込まれた経験から、仕込めない角砂糖を好む」…これだけで泣ける)
矢野俊策は…うん。すごいよ。今回はまた。
二巻ラストもすごいが三巻もすごい。ここはネタバレになるので書けません。
そんな濃いメンバー達だというのに、
そんな彼らを唸らせ、困らせ、どう動くべきか苦悩させるGM、
中村やにおの手腕もまた一流でありました。
プレイヤー間で公開されない「秘密」の扱いは本当に見事。
ループ物(ネタバレとしては薄いが反転)をTRPGに取り上げるだけでなく、
時間が経過するごとに徐々に進行していく事件の描き方も良い。
この真綿で首を絞められる状況の追い詰められ方は好みであります。
第二巻の「秘密」のギミックは本当に脱帽。
あの田中天を「置き去りにされたぬいぐるみみたいな顔」にし、
あの矢野俊策に、GMからの情報がウソではないかと思うほど驚かせ、
あの片岡あづさに大笑いさせ、後に苦悩させるという。
隙のない完成度。
おまけに他プレイヤーに公開するための「公開条件」の設定がこれまた素晴らしく嫌らしく、(ほめてます)
二巻のギミックは読んでいて本当に楽しめるものでありました。
総評。
ううむ、素晴らしい出来のリプレイでありました。
「アカデミア」でその鬼才を発していた二人を起用しての作品でありましたが、
予想を飛び越える演技を見せて頂きました。
GMのシナリオ構築もステキ。
全体として文句の付けどころなく、このまま行けば早くも私の
「今年の名リプレイ」にノミネートする出来栄え。
掛け値なしに笑いあり涙ありのリプレイ、これは読むべき作品です。