第二次世界大戦、終戦。戦場から復員してきた熊のような大男、
黒田門松は復員列車で荷を盗まれ、身一つで帰ってきた。
しかし辛抱たまらず無銭飲食を行い、咎められ騒ぎになったところで
以前の班長、川島との再開を果たす。

山田参助という作者には聞き覚えがあった。
確か西原理恵子がその人を、とある出版社に紹介する話で、
「画力は確かなのだが、ゲイであるその性癖と濃厚で写実的な絵を描くので
出版社からお呼びがかからない」と言われていた漫画家、もしくは絵師。
なるほどこの本が出ているということは、拾ってくれる出版社があったんだなぁと
思って奥付けを見てみたら、コミックビームであった。
ビームかよ!なら納得ですわ。懐広いもんな。
ちなみにこの作品はプラトニックです。多分まだ。

作品は第二次大戦の終了直後、戦場で死に損ない帰ってきた男達二人の物語。
はだしのゲン第二部で語られていたような、すべてが焼け野原になった都市で
「何でもして生きていかなければならない」という追い詰められた勢いで生きる人々と、
死ぬべきところで死ねなかったと酒に走る男とを描く。
舞台である戦後のドヤ街のドロドロ、パンパンは進駐軍に引っ付き、
アメリカ軍の残飯を粥にして出している店もあり、肉を求めて野犬を狩る店主、
支配域を確保しようとするヤクザにポン引き、進駐軍相手の女郎屋や女衒と
煮込んで煮詰めた戦後をこれでもかと見せ付けてくれる。
Occupied Japanをナマで感じさせる、エネルギー溢れる筆致だ。

戦争に負けたことへの惨めさよりも、帰ってきて何もかも、
これまでの価値観が崩れ去ったことの方が堪えるこのカオスの中。
死に損なって日々を空虚に、酒に逃げる川島と、
生命力に溢れ、ポン引きまでになっても川島の傍に居たがる門松。
…多分先に帰ってきた川島班長には、どうしようもない現実と相対することが多すぎて、
そうなってしまうのも無理からぬことなのだろうなぁ。
女郎に身を落とした幼馴染を救うために、金を手に入れるために復員後にヤクザに戻る話しとか、
進駐軍の投げ捨てたタバコを拾い集める少年の話とか、
この「必死で戦ってきた自分のやってきたことも無為、今自分に出来ることも皆無」という
深い深い絶望感に沈む日々よ。酒に逃げるよりないかもしれぬ。
英語にも堪能、正義感も強いと、思いつめるタイプであるのも。

この非常に危うい男達の、泥臭い焼け跡での物語。
続き…というよりはどういう着地点を迎えるのか、気になる作品でありました。





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