少女達のオムニバスストーリー第二巻。
前巻と同じく、読めば読むほど読者が何かに追い詰められる気のする
ポジティブ成分二割、ネガティブ成分八割強の物語構成。
こういう作品は一昔前にはビーム、アフタヌーン、
もう少し昔ならガロに連載されるような話だったはずだが、
チャンピオンの読者層に受け入れられているのか。
世の中も変わったなぁ。

読みごたえはある、毒もある、しかしこの喉の奥に感じる
気持ち悪い飲み残しのような、苦い読後感はなんなのか。
精神的に追い詰められた人間が描く絵を見つめ続けて思考することで
描いていた人間の精神を追体験してしまうような踏み込んではいけないと
自分の心の奥からあれやこれやと昔のことから未来の事から
あふれ出してどうにも止まらなくなって頭を壁に叩きつけるとか
枕に顔を埋めて叫びだしたくなるような根源的な恐怖を

↑とまあ、危険な想念が呼び起こされそうになるので、
向こう側に近いところの精神を持つ人の作品は、健全な精神の時に
読まなきゃならんと思うのです。
こういう作品をばら撒くのは、作者も出版社も覚悟を決めてかからないといかんと思うんだが、
大丈夫なのかチャンピオン。作品を読むことによる追体験で、
同類の精神構造の人間を生む原因になるという覚悟はあるのかな。
SAN値が下がるーとか言っている間は平和でいいが、
情報媒体に全てにある、狂気を写しとる効果についてはもう少し考えたほうがいいと思う。
一巻の段階では、作者が狂気を演じているのかもとは思ったが、
これは本物だろうな多分。いや、「狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり。」か。

作品内については折込で。
ポジティブな物語に関しては語る部分もなく。

視覚的に、直接に恐怖を描いた、19話「黒」。
いつのまにかどこかに閉じ込められているという理不尽さと、
暗闇に閉じ込められる、人間の根源的な恐怖を黒ベタ一色で表現した。
救いはなく、解決の見えない、本当の原因もわからないというオチは良。

24話「世界の中心」は、身の回り全てが自分の真似をしていると思い込む話。
ただその想念にはまり込む姿を、第三者から見るだけなら普通の物語だったが、
患者おっと彼女から周囲がどう見えるのかを視覚的に描いたのは凄い。
だがやっぱりこの絵、読んでいる読者のこちら側も、
いろいろと削れるものが多すぎる。
表現できるのは凄い、だがこれ以上この表現は見たくない。というのが正直な感想。

以上二つの話は視覚的にわかりやすいダメージを与えてくれるが、
ストーリー部分で同じくらいの毒を与えてくれた作品が二つ。
16話「金魚」と18話「信じていた」。
「金魚」の方は、顔に感情を乗せることについて正解を見つけることが出来ず、
自分に対して表情を作らないウサギや金魚を愛でる少女の話。
自分に作り笑いを向けてくる他人は、自分がいないとき、どんな顔をしているのだろう。
このテーマは考え出すと深い。「ムーたち」のセカンド自分を出したくなるほどに。

「信じていた」の方は、良かれと思って叱咤激励していた言葉が、
最もダメージを与える言葉として深く深く心を抉っていた、という話。
この話の強烈に痛い所は、その言葉を受けた少年が、
立ち直って復活しなければ、心を抉っていたことさえも気がつかずに終わっていたところ。
その言葉で、再起不能の立ち上がれないダメージを与えていたかもしれない、
自分の手でとどめをさす事になっていたかもしれないという事実に、泣き崩れる主人公。
計算高い内心を隠した腹黒キャラに少年を持っていかれる、というオチも相まって、
嗚呼これはどうしようもない、もうこの主人公の未来には暗黒しか待っていないと
想像だけで暗澹たる気分にさせられる。
…痛いわ。現実にも普通にありそうな状況なだけに、一段と痛い。

総評。ダメージを与えてくれる作品というものは人生にとって貴重である。
だが限度もあるし、狂気方面では控えめにしておきたいところ。
この作品はそちらに傾きすぎている。
ぶっちゃけ感想を書かずにはいられない作品ばかりではあるのだが、
感想を書くのに必要な量読み込めば、私の中の大事な物が削れ過ぎる。
…きっとパラパラ適当に読めば、「おもしろい」か「うわっ、なにこれ」ぐらいの感想で
お茶を濁せるんだろうなぁ。
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