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うにゅほとの生活を書き連ねた日記が十四年と一ヶ月分たまった(2025年12月後半)

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1 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/07/01(金) 19:13:30 ID:1bfcR2jI0

うにゅほと過ごす毎日を日記形式で綴っていきます 


ヤシロヤ──「うにゅほとの生活」保管庫
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715 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:24:01 ID:HFZ3SaYg0

2025年12月16日(火)

「運動しないとな……」
「からだ、うごかさないとね」
「ああ。でも、ちょうどいい運動がなかなかないんだよな」
「どんなの、ちょうどいいの?」
「散歩」
「さんぽ……」
外を見る。
吹雪とは言わずとも、雪が降っていた。
十二月半ばともなれば、当然積もってもいる。
「さんぽは、だめかも」
「そうなんだよ。寒いし、道が悪くてそもそも危ないし」
「いえのなかで、できるうんどう」
「その場足踏みとかかな」
「あ、むかしやったきーする」
「やったやった。これは候補に入れてよさそうだな」
「ほかにはー」
「何かある?」
「えあろばいく」
「エアロバイクか……」
「やだ?」
「嫌ではないんだけど」
「だけど?」
「嫌」
「どっち!」
「まあ、気が向いたらってことで」
「じゃあ、◯◯が、ゆーちゅーぶみながらやってたうんどうは?」
「背中のやつな」
「うん。まいにちやってた」
「あれ、軽くやってみたんだけど、前屈したときに腹部に違和感が」
「まだはやいね……」
「まだ早い」
「あしぶみ、やろ」
「ああ。まずは五分間から始めようか」
「うん」
使わなければ、体はどんどん衰えていく。
この体をすこしでも長持ちさせたいのであれば、運動はすべきだろう。
 








716 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:24:20 ID:HFZ3SaYg0

2025年12月17日(水)

ふと、温湿度計に視線を向けた。
「おわ」
「おわ?」
「湿度、22パーじゃん……」
「わ、ほんとだ」
「カラッカラだぞ。さすがに加湿器つけよう」
「そだね!」
部屋の隅に放置されていたスチーム式の加湿器をクエン酸で洗い清めたあと、電源を入れる。
「──あれ?」
「つかないね」
「おかしいな……」
幾度か試すが、つかない。
「……壊れた?」
「あ!」
うにゅほが加湿器の上部に触れる。
「かぜでてる」
「てことは、表示盤だけ狂ってるのかな」
「わかんないけど……」
「このまましばらく様子を見てみるか」
「うん」
自室の書斎側へ移動し、しばし普通に過ごしてみる。
──ピピッ、ピピピピッ、ピピッ
「なってる……」
「鳴ってるな……」
「ちょっと、うるさいね」
「ちょっとな」
五分ほど我慢したあと、加湿器の元へと戻る。
「あ、かぜとまってる……」
「ピーピーは鳴るのに」
「◯◯、これ」
「……壊れたな」
「うん……」
完全にぶっ壊れていた。
「新しいの買うか……」
「しかたないね」
「まあ、長年お疲れさまってことで」
「かって、とどくまで、どうするの?」
「あ」
仕方がないので、濡らしたタオルを部屋に掛けることにした。
それでも5%ほどは湿度が上がったので、なかなか馬鹿にならないものだ。






717 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:24:41 ID:HFZ3SaYg0

2025年12月18日(木)

コスパの良いスチーム式加湿器を見つけ、注文した。
「届くまで一週間か……」
「ながい」
「Amazonになかったのがな」
注文したのは、ビックカメラ.comだ。
使ったことがないサイトだから、アカウントから作成した。
「──でも、考えてみたらさ」
「?」
「ビックカメラでも、ヨドバシでも、ヤマダでも、まずは店舗に行けばよかったんだよな」
「あ」
「脳が完全にネット通販になってたわ」
「おもいつかなかった……」
「電器店なんて、昔は、用がなくても冷やかしに行ったもんだけどな」
「なつかしいね」
「コロナ禍以降かな。ここまで家から出なくなったのって」
「そうかも。そのまえまでは、よく、あそびにでかけてたもんね」
「ゲーセン行ったなあ……」
「なつかしい!」
「チョコボールとか取りまくってさ」
「◯◯、すーごいうまかった」
「取れるまで金注ぎ込んでただけだけどな……」
そんな、懐かしい話題で盛り上がる。
「今は、なんかな。あんまり行く気しないや」
「うん……」
俺たちを取り巻く環境が激変してしまった。
環境が変われば、俺たち自身も変わらざるを得ない。
「……そのうち、また、気楽に遊びに行きたいな」
「うん、いこう。わたし、たのしみにしてるね」
「少なくとも、お花見は欠かせないしな」
「さくら、たのしみ!」
変わったこともあれば、変わらない習慣もある。
来年の春もまた、新川沿いの桜をふたりで見よう。
これは、絶対の約束だ。






718 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:25:00 ID:HFZ3SaYg0

2025年12月19日(金)

「──…………」
「──……」
「××」
「──…………」
「××」
「ん」
「……大丈夫か?」
「わたし……?」
「ああ」
「わたしは、だいじょうぶだよ」
俺は、うにゅほを掻き抱いた。
「無理すんな」
「──…………」
「泣いていいんだよ」
「…………」
うにゅほが、俺の胸元に顔を押し付ける。
ひ、ひ、と。
小さな嗚咽が響き始める。
俺は、うにゅほを抱き締め続けた。
落ち着くまで。






719 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:25:22 ID:HFZ3SaYg0

2025年12月20日(土)

弟が、無理を言って退院した。
二週間ぶりに帰宅した弟を、うにゅほは、出迎えられなかった。
「××」
「ん」
「いいのか?」
「──…………」
うにゅほが目を伏せる。
「……こわい」
俺は、うにゅほを抱き締めた。
「そうだよな」
「◯◯は、こわくないの……?」
「怖いさ」
「──…………」
「でも、後悔はしたくないから」
「そ、か……」
「怖いなら、俺と一緒に行こうか。そのほうが──」
うにゅほが、そっと首を横に振った。
「はなして、くる。おかえりって、いって、くる……」
「……わかった」
うにゅほの体を離し、ぽんと背中を叩いてやる。
「頑張れ」
「ん」
うにゅほが、自室を出て行く。
戻ってきたのは、ほんの数分後のことだった。
「おかえりって、言えたか?」
「いえた」
「頑張ったな」
「……うん」
「膝の上、座るか?」
「◯◯、きず……」
「だいぶ治ったから」
「……うん」
おずおずと、うにゅほが、俺の膝に腰を下ろす。
定位置だ。
「いたくない?」
「平気平気」
「そか」
言葉少なに、イヤホンを分けてふたりで着ける。
形だけでも日常が戻ってきた気がした。





720 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:25:58 ID:HFZ3SaYg0

2025年12月21日(日)

「……◯◯」
「ん?」
膝の上のうにゅほが、こちらを振り返る。
その表情は、固かった。
「すこしずつ、ね。かくご、できてきた」
「……そっか」
「もともと、ながくないの、しってたし……」
「そうだな」
弟のがんが再発した。
放射線治療も、手術も、もうできない。
そして、弟は、抗がん剤治療を拒絶した。
待つのは緩やかな死だ。
「──でもな、××。覚悟ができても、涙は出るから。悲しくなったら泣いていいんだ」
「うん……」
うにゅほが、俺の頬に手を添えた。
「わたし、しってるよ」
「知ってる?」
「◯◯、ひとりで、ないてたこと」
「ああ……」
「なきたくなったら、ね。わたしのむねでないてね。ねてたら、おこしていいから」
「──…………」
ああ、好きだな。
俺は、うにゅほのことが好きだ。
「××も、泣きたくなったら俺のこと起こすんだぞ」
「うへー……」
約束された悲しみが、すこしずつ近付いてくる。
幾度も打ちのめされるだろう。
だが、乗り越えるしかない。
弟の生が尽きても、俺たちの人生は続くのだから。






721 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:26:16 ID:HFZ3SaYg0

2025年12月22日(月)

「ね、◯◯」
「ん?」
「きょう、とうじだって」
「冬至……?」
ふと、今日の日付を確認する。
「12月22日!」
「そだよ」
「マジか」
最近、いろいろなことがありすぎて、日付の感覚が完全に麻痺していた。
「クリスマスイヴは明後日だし、今年も残り十日だし。タイムスリップでもした気分だ……」
「そんなに」
「××は麻痺してなかったのか?」
「わたしは、してないかも」
「珍しいな」
俺とうにゅほの感覚がずれることは、あまりない。
「いちにち、いちにち、すーごいながくて……」
「あー……」
そっち系か。
「──クリスマスイヴ、何しようか」
「ぱーてぃ、できないもんね……」
「ああ」
弟は、放射線治療で味覚を失っている。
嚥下能力も落ちているため、飲み物しか口にできない。
「遊ぶだけならいいかもしれないけど、あいつ、今体調悪いからな」
「うん……」
「ふたりで映画でも観ようか」
「ぎんがてつどうのよる?」
「あれも、十回くらい見てるしな。たまには別のにしよう」
「そだね」
「トイ・ストーリーとか」
「あ、みたことある」
「懐かしいよな」
「ないたきーする……」
「絶対泣いた。間違いない」
「みたいかも」
「なら、クリスマスイヴはふたりでトイ・ストーリーだな」
「たのしみ!」
久し振りに、うにゅほの笑顔を見た。
大切なことだ。






722 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:26:41 ID:HFZ3SaYg0

2025年12月23日(火)

「疲れた……」
「ねー……」
今日は、術後の経過を検査するために、大学病院を訪れていた。
ただただ無為な待ち時間に、腰がバキバキだ。
それでも、うにゅほという話し相手がいるぶん、ひとりで来るよりは随分ましだろう。
帰宅すると、置き配で荷物が届いていた。
「なんだこれ」
「あ!」
うにゅほが、一抱えほどもあるダンボール箱の側面を指差す。
「びっくかめら!」
「てことは──」
「かしつき!」
「ようやく部屋の空気を潤せるな」
「うん」
ダンボール箱を自室に運び入れ、開封していく。
円筒形のスチーム式加湿器を箱から出そうと、底に触れたときだった。
「……?」
「どしたの?」
「なんか、ベタベタしてる……」
「べたべた」
うにゅほが加湿器に触れる。
「わ、べたべた……!」
「なんのベタベタだよ、これ……」
ビックカメラに文句を言いたくて仕方がないが、どうやら拭えば取れる様子だ。
消毒用エタノールとティッシュでベタつきを綺麗に除去し、ようやく使える状態にまで持って行った。
「これ、タンクないんだな」
「みず、ちょくせつ、そそぐんだね。すごい」
父親が飲み干した焼酎の4リットルボトルを使い、加湿器にギリギリまで水を注ぐ。
そして、電源を入れてしばらく待っていると、
「わ、ゆげでてきた」
「前の加湿器より構造がシンプルなぶん、お湯沸かしてんなーって感じするな」
「するする」
現在湿度は44%。
設定をいじればもっと上げることもできるが、この程度で十分だろう。
うにゅほのお肌も潤うはずだ。






723 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:27:02 ID:HFZ3SaYg0

2025年12月24日(水)

「いぶだよー」
「今年も残り一週間か……」
「いぶだよ!」
「イヴだな」
「うへー……」
うにゅほのテンションが、静かに高い。
手術からまだ二週間ほどしか経っていないため、ケーキやごちそうを食べることはできないが、それでもクリスマスイヴは特別である。
「えいがみよ」
「約束通り、トイ・ストーリーでいいか?」
「うん!」
うにゅほが、俺の膝に腰を下ろす。
定位置だ。
「いたくない?」
「痛くないよ。大丈夫だ」
「いたくなったら、いってね。わたし、まるいすすわるからね」
「大丈夫大丈夫」
Amazon Prime Videoで吹き替え版のトイ・ストーリーを400円でレンタルし、再生する。
「あー……」
「おー」
「めっちゃ懐かしいかも」
「みたきーする」
「一緒に見たはず」
「ねー」
うにゅほを抱き締めたまま、一時間半の上映を終える。
「面白かったな」
「うん、おもしかった!」
「初期ウッディって、あんなに性格悪かったのか……」
「みんなも、けっこうひどい」
「わかる」
「つーと、すりーは、どうなんだっけ」
「無印より面白かった気はするけど、あんまり覚えてないな……」
「つづき、またみようね」
「そうだな。3までは見たい」
「ふぉーは?」
「賛否両論だからな……」
「そなんだ」
ともあれ、無印トイ・ストーリーも面白かった。
クリスマスイヴに、うにゅほと一緒に観ることができて、よかった。





724 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:27:24 ID:HFZ3SaYg0

2025年12月25日(木)

「◯◯、めりーす!」
「めりーっす」
メリークリスマスの省略形で朝の挨拶を交わし、パソコンチェアに腰を下ろす。
「今日は忙しいぞ」
「うと、(弟)のびょういんのつきそいと、ぎんこう?」
「その通り」
「ねむくない?」
「眠くないと言えば嘘になる……」
「うんてん、きーつけてね……」
「気を付けます」
概ね用事を済ませ、解放されたのは午後五時過ぎのことだった。
「疲れた……」
「おつかれさま」
「××だって疲れただろ」
「……すこし」
「お疲れさま」
「うん」
眠い。
眠いが、脳が興奮している。
いまいち眠れそうになかった。
「んー……」
姿見の前に立ち、シャツをまくり上げる。
そこにあったのは六ヶ所の傷跡だ。
手術の際に腹腔鏡を突っ込むための穴を開けるのだが、どうしても傷は残る。
手術をしたのが俺でよかった。
うにゅほの玉の肌に傷跡が残るのは忍びない。
「ここと、ここ、なおりわるいねー……」
「そうなんだよ」
「ほか、かさびたとれかけてるのに」
「……思ったんだけどさ」
「?」
「シャワーを浴びることで、かさぶたが水を含んで取れてってのを繰り返してる気がする」
「あー……」
「ほら。二ヶ所とも、ちゃんと固まってるだろ」
「まいにち、ちゃんとしゃわーあびてたのが、よくなかったんだね」
「ある程度治るまで、風呂キャンセルするしかないな……」
「しかたない、しかたない」
傷跡が残るのはどうだっていいが、いつまでも治らないのは問題だ。
さっさと治癒してほしいものだが。






725 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:27:48 ID:HFZ3SaYg0

2025年12月26日(金)

「んー……」
姿見に上半身を映しながら、すこし悩む。
「どしたの?」
「治りの悪い二ヶ所、どうしたもんかなって」
「おふろ、はいんないんじゃ?」
「それはそうなんだけどさ」
脱いだ肌着を手に取る。
「ほら、これ見てくれ」
「?」
「ここ、汚れてるだろ」
「……これ、かさびた?」
「そう。肌着に触れて、取れたらしいんだよ」
「こまった……」
そう、困った。
肌着であれ、傷口に何かを触れさせてはならない。
「上半身裸のままでいるのがいいのかな」
「かぜひいちゃう」
「なら、半纏だけ着よう」
「いいかも」
うにゅほが、パソコンチェアに掛けてあった半纏を持ってきてくれる。
「はい」
「ありがとうな」
上裸のまま半纏を羽織る。
紐さえ縛らなければ傷口には抵触しない。
思いのほか寒くもないし、悪くないように思えた。
「しばらくこれで──」
行こう。
そう告げようと、背後のうにゅほを振り返る。
「わ」
「……わ?」
「えっちっちー……」
「どこが」
「わいるど……」
何かがうにゅほのツボに入ったらしい。
「まあ、いいけど……」
「しゃしんとっていい?」
「ダメ」
「だめかー……」
相変わらず、うにゅほの好みはよくわからないのだった。





726 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:28:05 ID:HFZ3SaYg0

2025年12月27日(土)

「どうなんだ、これ……」
姿見に映した胸の傷をあらためる。
シャワーを浴びて数時間、ようやくかさぶたとして固まり始めたところだった。
「だいじょぶ?」
ひょこ。
俺の背中から顔を出したうにゅほが、俺の傷を確認する。
「大丈夫と言えば大丈夫。痛みはないし、ただ治りが遅いだけ」
「そなんだ……」
「それより──」
傷を指差す。
「この傷、前より小さくなってると思う?」
「んー」
じ。
「んー……」
じー。
「ちいさくなってる、きーする」
「それならいいんだけど……」
「まえ、もっと、えぐれてたきーするし……」
「たしかに」
手術のために腹腔鏡を挿入した場所だから、傷と言うより穴と表現したほうが近いのかもしれない。
「ただ、手術してから、もう三週間近く経つんだよな。他の傷は順当に良くなってるし、ここだけ治らないのが気になる」
「びょういん、いく?」
「手術したの大学病院だから、予約がな。緊急事態ってわけでもないし」
「なら、ほかのびょういん……」
「近場の形成外科を調べてみたんだけどさ」
「うん」
「年末年始で休みだった……」
「あー……」
「だから、病院に行くとしても、年明けになるかな」
「よくなったらいいんだけど……」
「そう願うよ」
小さな不安は解消しておきたい。
俺たちは、大きな不安の只中にいるのだから。





727 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:28:23 ID:HFZ3SaYg0

2025年12月28日(日)

2025年も、もうすぐ終わる。
さすがに髪が伸びすぎていたので、スーパー内のカットハウスで散髪することにした。
「──お、あんまり待たずに済みそうだな」
「よかったー」
「××、買い物あるんだろ」
「うん。ちゃわんむしのざいりょう、たのまれた」
「散髪してるあいだに頼むわ。それでも時間余ると思うけど……」
「きにしないでね」
「わかった」
ブースの入り口でうにゅほと別れ、千五百円に値上がりしたチケットを購入する。
二十分後、さっぱりした頭を撫でながらブースを出ると、既にうにゅほが俺を待っていた。
「わ、みじかくなってる」
「なってなかったら問題だろ」
「そうじゃなくてー……」
「わかってるよ。ごめん、ごめん」
「もー」
軽くうにゅほをからかったあと、荷物を受け取る。
すこしだけ重かった。
「けっこう買ったな……」
「ゆりねとか、ぎんなんとか、くりのかんろにとか」
「ザ・茶碗蒸しって感じだな」
「◯◯、たべれる?」
「食べれるとは思うけど……」
「けど?」
「具材はないほうがいいかもしれない」
「ぐざい、ない……」
「和風だしプリンみたいな」
「ぐざいないの、かなしい。ひとつくらいなら」
「許されるなら、栗の甘露煮かな。あれがあるのとないのとじゃ、茶碗蒸しのクオリティが違うから」
「わかる」
「百合根は欲しいけど、ぎんなんは普通かな。あればあったでいいけど、影は薄い」
「みつばは?」
「いちばんいらない気がする……」
「なるほど」
茶碗蒸し、楽しみである。
たとえ具材がひとつだけであっても。






728 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:28:45 ID:HFZ3SaYg0

2025年12月29日(月)

「2025年も、残すところあと三日か……」
「ことし、ながかったきーする……」
「長かったのは、先月と今月だけじゃないか?」
「……そうかも」
俺は二度も入院し、手術まで行っている。
それだけでも、うにゅほは、ずっと不安の只中にいたはずだ。
そして、弟の件がある。
来年の今日まで命を繋いでいるか、正直言って怪しいところだ。
ふたりで会話を楽しんでいても、心のどこかで常に弟のことを考えている。
それは、うにゅほも同じだろう。
「意外と泣かないよな、××」
「うん」
「平気なわけないのはわかるけどさ」
「へいきじゃないよ。へいきじゃ、ない」
「……うん」
「でも、(弟)はまだ、いきてるから。しんでないから」
「そうだな」
「できること、あるから」
「……ああ」
前を向いている。
強い子だ。
「あいつが納得して逝けるように、頑張らないとな」
「うん」
「誰だって、いつかは死ぬ。俺も死ぬし、××も死ぬ。明日脳梗塞で突然死するかもしれない」
「──…………」
「あいつの人生は、平均寿命よりだいぶ短くなってしまったけど」
「……うん」
「最期の瞬間まで、この目に焼き付けてやりたいと思う。それがなんの慰めにもならないとしてもだ」
「わかるよ」
うにゅほが優しく微笑み、頷く。
「わかる」
別れは、そう遠くない。
俺たちもまた、後悔のないように生きるべきだ。






729 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:29:03 ID:HFZ3SaYg0

2025年12月30日(火)

「運動しないとな……」
腹腔鏡手術から三週間が経過した。
経過は順調だと思うし、よほど高負荷な運動以外は問題なさそうな気がしている。
「うんどう、いいけど、むりしたらだめだよ」
「体調はいいんだけど」
「しじつしてるんだから……」
「そうなんだけどさ」
体内のことだから、手術を行ったという感覚が薄い。
目に見える証拠と言えば、腹腔鏡手術の際の傷跡くらいだ。
「腹筋とかダメなのかな」
「だめだよ!」
「ダメか」
「だめだよ……」
行けそうなんだけど。
「ちゃっぴーに、きいてみよ」
「そうだな」
ChatGPTに、どの程度の運動なら問題なく可能か尋ねてみた。
「──有酸素運動は軽めに再開しつつ、腹圧がかかること、重い物を持ったり腹筋系の筋トレはまだ避ける時期、だって」
「やっぱし……」
「俺、思いのほか、まだ病人なんだな」
「そうだよ」
「認識を改めないと……」
「うーと」
うにゅほがディスプレイを覗き込む。
「おもいもの、もつのは、ろくしゅうかんだめ」
「まだ半分しか経ってない」
「つよいふっきんうんどうは、はっしゅうかんから、じゅうにしゅうかんだめ」
「二ヶ月から三ヶ月……」
「さんしゅうかんは、まだまだだめ。わかった?」
「はい……」
「さんぽ、できないから、あしぶみしようね」
「わかりました」
運動はすべきだ。
だが、できる運動は限られている。
今はただ、ひたすらに、足踏みを続ける以外にないだろう。






730 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:29:22 ID:HFZ3SaYg0

2025年12月31日(水)

「大晦日だー……」
「おおみそかだねー……」
早めに風呂に入り、自室でのんびりする。
夜には家族でドンジャラをする予定があるが、それまでは特にすることがない。
「あ」
「?」
「大掃除してねえ」
「あっ」
「すっかり忘れてたな」
「わすれてた」
「まあ、いいだろ。××が普段から綺麗にしてくれてるし」
「きれいにはしてるけど……」
「ならよし」
「はあい」
すこし不満げだったが、さすがに今から大掃除を始める気力はないらしい。
「どんじゃら、ひさしぶりだね」
「ルール覚えてるか?」
「たぶん……」
「今日は父さんも入るみたいだから、ひとり余るな」
「いっしょにやろ!」
なんとなく、そうなる気がしていた。
午後九時を迎え、家族ドンジャラが始まった。
最初は父親が優勢だったが、最終的には俺とうにゅほが大差をつけて勝利した。
なお、弟と母親は、借金まみれの結末だった。
「たのしかったー……!」
「勝った勝った。賭けなかったのがもったいないな」
「かけごと、だめだよ。はんざい」
「厳しい」
「またやろうね!」
「ああ、またやろう」
恐らく、正月のどこかで再び卓を囲むことになるだろう。
また大差で勝ってやる。






731 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:30:52 ID:HFZ3SaYg0

以上、十四年一ヶ月め 後半でした

引き続き、うにゅほとの生活をお楽しみください
 



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