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- 1 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/07/01(金) 19:13:30 ID:1bfcR2jI0
- うにゅほと過ごす毎日を日記形式で綴っていきます
- ヤシロヤ──「うにゅほとの生活」保管庫
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- 715 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:24:01 ID:HFZ3SaYg0
- 2025年12月16日(火)
- 「運動しないとな……」
- 「からだ、うごかさないとね」
- 「ああ。でも、ちょうどいい運動がなかなかないんだよな」
- 「どんなの、ちょうどいいの?」
- 「散歩」
- 「さんぽ……」
- 外を見る。
- 吹雪とは言わずとも、雪が降っていた。
- 十二月半ばともなれば、当然積もってもいる。
- 「さんぽは、だめかも」
- 「そうなんだよ。寒いし、道が悪くてそもそも危ないし」
- 「いえのなかで、できるうんどう」
- 「その場足踏みとかかな」
- 「あ、むかしやったきーする」
- 「やったやった。これは候補に入れてよさそうだな」
- 「ほかにはー」
- 「何かある?」
- 「えあろばいく」
- 「エアロバイクか……」
- 「やだ?」
- 「嫌ではないんだけど」
- 「だけど?」
- 「嫌」
- 「どっち!」
- 「まあ、気が向いたらってことで」
- 「じゃあ、◯◯が、ゆーちゅーぶみながらやってたうんどうは?」
- 「背中のやつな」
- 「うん。まいにちやってた」
- 「あれ、軽くやってみたんだけど、前屈したときに腹部に違和感が」
- 「まだはやいね……」
- 「まだ早い」
- 「あしぶみ、やろ」
- 「ああ。まずは五分間から始めようか」
- 「うん」
- 使わなければ、体はどんどん衰えていく。
- この体をすこしでも長持ちさせたいのであれば、運動はすべきだろう。
-
- 716 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:24:20 ID:HFZ3SaYg0
- 2025年12月17日(水)
- ふと、温湿度計に視線を向けた。
- 「おわ」
- 「おわ?」
- 「湿度、22パーじゃん……」
- 「わ、ほんとだ」
- 「カラッカラだぞ。さすがに加湿器つけよう」
- 「そだね!」
- 部屋の隅に放置されていたスチーム式の加湿器をクエン酸で洗い清めたあと、電源を入れる。
- 「──あれ?」
- 「つかないね」
- 「おかしいな……」
- 幾度か試すが、つかない。
- 「……壊れた?」
- 「あ!」
- うにゅほが加湿器の上部に触れる。
- 「かぜでてる」
- 「てことは、表示盤だけ狂ってるのかな」
- 「わかんないけど……」
- 「このまましばらく様子を見てみるか」
- 「うん」
- 自室の書斎側へ移動し、しばし普通に過ごしてみる。
- ──ピピッ、ピピピピッ、ピピッ
- 「なってる……」
- 「鳴ってるな……」
- 「ちょっと、うるさいね」
- 「ちょっとな」
- 五分ほど我慢したあと、加湿器の元へと戻る。
- 「あ、かぜとまってる……」
- 「ピーピーは鳴るのに」
- 「◯◯、これ」
- 「……壊れたな」
- 「うん……」
- 完全にぶっ壊れていた。
- 「新しいの買うか……」
- 「しかたないね」
- 「まあ、長年お疲れさまってことで」
- 「かって、とどくまで、どうするの?」
- 「あ」
- 仕方がないので、濡らしたタオルを部屋に掛けることにした。
- それでも5%ほどは湿度が上がったので、なかなか馬鹿にならないものだ。
- 717 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:24:41 ID:HFZ3SaYg0
- 2025年12月18日(木)
- コスパの良いスチーム式加湿器を見つけ、注文した。
- 「届くまで一週間か……」
- 「ながい」
- 「Amazonになかったのがな」
- 注文したのは、ビックカメラ.comだ。
- 使ったことがないサイトだから、アカウントから作成した。
- 「──でも、考えてみたらさ」
- 「?」
- 「ビックカメラでも、ヨドバシでも、ヤマダでも、まずは店舗に行けばよかったんだよな」
- 「あ」
- 「脳が完全にネット通販になってたわ」
- 「おもいつかなかった……」
- 「電器店なんて、昔は、用がなくても冷やかしに行ったもんだけどな」
- 「なつかしいね」
- 「コロナ禍以降かな。ここまで家から出なくなったのって」
- 「そうかも。そのまえまでは、よく、あそびにでかけてたもんね」
- 「ゲーセン行ったなあ……」
- 「なつかしい!」
- 「チョコボールとか取りまくってさ」
- 「◯◯、すーごいうまかった」
- 「取れるまで金注ぎ込んでただけだけどな……」
- そんな、懐かしい話題で盛り上がる。
- 「今は、なんかな。あんまり行く気しないや」
- 「うん……」
- 俺たちを取り巻く環境が激変してしまった。
- 環境が変われば、俺たち自身も変わらざるを得ない。
- 「……そのうち、また、気楽に遊びに行きたいな」
- 「うん、いこう。わたし、たのしみにしてるね」
- 「少なくとも、お花見は欠かせないしな」
- 「さくら、たのしみ!」
- 変わったこともあれば、変わらない習慣もある。
- 来年の春もまた、新川沿いの桜をふたりで見よう。
- これは、絶対の約束だ。
- 718 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:25:00 ID:HFZ3SaYg0
- 2025年12月19日(金)
- 「──…………」
- 「──……」
- 「××」
- 「──…………」
- 「××」
- 「ん」
- 「……大丈夫か?」
- 「わたし……?」
- 「ああ」
- 「わたしは、だいじょうぶだよ」
- 俺は、うにゅほを掻き抱いた。
- 「無理すんな」
- 「──…………」
- 「泣いていいんだよ」
- 「…………」
- うにゅほが、俺の胸元に顔を押し付ける。
- ひ、ひ、と。
- 小さな嗚咽が響き始める。
- 俺は、うにゅほを抱き締め続けた。
- 落ち着くまで。
- 719 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:25:22 ID:HFZ3SaYg0
- 2025年12月20日(土)
- 弟が、無理を言って退院した。
- 二週間ぶりに帰宅した弟を、うにゅほは、出迎えられなかった。
- 「××」
- 「ん」
- 「いいのか?」
- 「──…………」
- うにゅほが目を伏せる。
- 「……こわい」
- 俺は、うにゅほを抱き締めた。
- 「そうだよな」
- 「◯◯は、こわくないの……?」
- 「怖いさ」
- 「──…………」
- 「でも、後悔はしたくないから」
- 「そ、か……」
- 「怖いなら、俺と一緒に行こうか。そのほうが──」
- うにゅほが、そっと首を横に振った。
- 「はなして、くる。おかえりって、いって、くる……」
- 「……わかった」
- うにゅほの体を離し、ぽんと背中を叩いてやる。
- 「頑張れ」
- 「ん」
- うにゅほが、自室を出て行く。
- 戻ってきたのは、ほんの数分後のことだった。
- 「おかえりって、言えたか?」
- 「いえた」
- 「頑張ったな」
- 「……うん」
- 「膝の上、座るか?」
- 「◯◯、きず……」
- 「だいぶ治ったから」
- 「……うん」
- おずおずと、うにゅほが、俺の膝に腰を下ろす。
- 定位置だ。
- 「いたくない?」
- 「平気平気」
- 「そか」
- 言葉少なに、イヤホンを分けてふたりで着ける。
- 形だけでも日常が戻ってきた気がした。
- 720 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:25:58 ID:HFZ3SaYg0
- 2025年12月21日(日)
- 「……◯◯」
- 「ん?」
- 膝の上のうにゅほが、こちらを振り返る。
- その表情は、固かった。
- 「すこしずつ、ね。かくご、できてきた」
- 「……そっか」
- 「もともと、ながくないの、しってたし……」
- 「そうだな」
- 弟のがんが再発した。
- 放射線治療も、手術も、もうできない。
- そして、弟は、抗がん剤治療を拒絶した。
- 待つのは緩やかな死だ。
- 「──でもな、××。覚悟ができても、涙は出るから。悲しくなったら泣いていいんだ」
- 「うん……」
- うにゅほが、俺の頬に手を添えた。
- 「わたし、しってるよ」
- 「知ってる?」
- 「◯◯、ひとりで、ないてたこと」
- 「ああ……」
- 「なきたくなったら、ね。わたしのむねでないてね。ねてたら、おこしていいから」
- 「──…………」
- ああ、好きだな。
- 俺は、うにゅほのことが好きだ。
- 「××も、泣きたくなったら俺のこと起こすんだぞ」
- 「うへー……」
- 約束された悲しみが、すこしずつ近付いてくる。
- 幾度も打ちのめされるだろう。
- だが、乗り越えるしかない。
- 弟の生が尽きても、俺たちの人生は続くのだから。
- 721 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:26:16 ID:HFZ3SaYg0
- 2025年12月22日(月)
- 「ね、◯◯」
- 「ん?」
- 「きょう、とうじだって」
- 「冬至……?」
- ふと、今日の日付を確認する。
- 「12月22日!」
- 「そだよ」
- 「マジか」
- 最近、いろいろなことがありすぎて、日付の感覚が完全に麻痺していた。
- 「クリスマスイヴは明後日だし、今年も残り十日だし。タイムスリップでもした気分だ……」
- 「そんなに」
- 「××は麻痺してなかったのか?」
- 「わたしは、してないかも」
- 「珍しいな」
- 俺とうにゅほの感覚がずれることは、あまりない。
- 「いちにち、いちにち、すーごいながくて……」
- 「あー……」
- そっち系か。
- 「──クリスマスイヴ、何しようか」
- 「ぱーてぃ、できないもんね……」
- 「ああ」
- 弟は、放射線治療で味覚を失っている。
- 嚥下能力も落ちているため、飲み物しか口にできない。
- 「遊ぶだけならいいかもしれないけど、あいつ、今体調悪いからな」
- 「うん……」
- 「ふたりで映画でも観ようか」
- 「ぎんがてつどうのよる?」
- 「あれも、十回くらい見てるしな。たまには別のにしよう」
- 「そだね」
- 「トイ・ストーリーとか」
- 「あ、みたことある」
- 「懐かしいよな」
- 「ないたきーする……」
- 「絶対泣いた。間違いない」
- 「みたいかも」
- 「なら、クリスマスイヴはふたりでトイ・ストーリーだな」
- 「たのしみ!」
- 久し振りに、うにゅほの笑顔を見た。
- 大切なことだ。
- 722 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:26:41 ID:HFZ3SaYg0
- 2025年12月23日(火)
- 「疲れた……」
- 「ねー……」
- 今日は、術後の経過を検査するために、大学病院を訪れていた。
- ただただ無為な待ち時間に、腰がバキバキだ。
- それでも、うにゅほという話し相手がいるぶん、ひとりで来るよりは随分ましだろう。
- 帰宅すると、置き配で荷物が届いていた。
- 「なんだこれ」
- 「あ!」
- うにゅほが、一抱えほどもあるダンボール箱の側面を指差す。
- 「びっくかめら!」
- 「てことは──」
- 「かしつき!」
- 「ようやく部屋の空気を潤せるな」
- 「うん」
- ダンボール箱を自室に運び入れ、開封していく。
- 円筒形のスチーム式加湿器を箱から出そうと、底に触れたときだった。
- 「……?」
- 「どしたの?」
- 「なんか、ベタベタしてる……」
- 「べたべた」
- うにゅほが加湿器に触れる。
- 「わ、べたべた……!」
- 「なんのベタベタだよ、これ……」
- ビックカメラに文句を言いたくて仕方がないが、どうやら拭えば取れる様子だ。
- 消毒用エタノールとティッシュでベタつきを綺麗に除去し、ようやく使える状態にまで持って行った。
- 「これ、タンクないんだな」
- 「みず、ちょくせつ、そそぐんだね。すごい」
- 父親が飲み干した焼酎の4リットルボトルを使い、加湿器にギリギリまで水を注ぐ。
- そして、電源を入れてしばらく待っていると、
- 「わ、ゆげでてきた」
- 「前の加湿器より構造がシンプルなぶん、お湯沸かしてんなーって感じするな」
- 「するする」
- 現在湿度は44%。
- 設定をいじればもっと上げることもできるが、この程度で十分だろう。
- うにゅほのお肌も潤うはずだ。
- 723 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:27:02 ID:HFZ3SaYg0
- 2025年12月24日(水)
- 「いぶだよー」
- 「今年も残り一週間か……」
- 「いぶだよ!」
- 「イヴだな」
- 「うへー……」
- うにゅほのテンションが、静かに高い。
- 手術からまだ二週間ほどしか経っていないため、ケーキやごちそうを食べることはできないが、それでもクリスマスイヴは特別である。
- 「えいがみよ」
- 「約束通り、トイ・ストーリーでいいか?」
- 「うん!」
- うにゅほが、俺の膝に腰を下ろす。
- 定位置だ。
- 「いたくない?」
- 「痛くないよ。大丈夫だ」
- 「いたくなったら、いってね。わたし、まるいすすわるからね」
- 「大丈夫大丈夫」
- Amazon Prime Videoで吹き替え版のトイ・ストーリーを400円でレンタルし、再生する。
- 「あー……」
- 「おー」
- 「めっちゃ懐かしいかも」
- 「みたきーする」
- 「一緒に見たはず」
- 「ねー」
- うにゅほを抱き締めたまま、一時間半の上映を終える。
- 「面白かったな」
- 「うん、おもしかった!」
- 「初期ウッディって、あんなに性格悪かったのか……」
- 「みんなも、けっこうひどい」
- 「わかる」
- 「つーと、すりーは、どうなんだっけ」
- 「無印より面白かった気はするけど、あんまり覚えてないな……」
- 「つづき、またみようね」
- 「そうだな。3までは見たい」
- 「ふぉーは?」
- 「賛否両論だからな……」
- 「そなんだ」
- ともあれ、無印トイ・ストーリーも面白かった。
- クリスマスイヴに、うにゅほと一緒に観ることができて、よかった。
- 724 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:27:24 ID:HFZ3SaYg0
- 2025年12月25日(木)
- 「◯◯、めりーす!」
- 「めりーっす」
- メリークリスマスの省略形で朝の挨拶を交わし、パソコンチェアに腰を下ろす。
- 「今日は忙しいぞ」
- 「うと、(弟)のびょういんのつきそいと、ぎんこう?」
- 「その通り」
- 「ねむくない?」
- 「眠くないと言えば嘘になる……」
- 「うんてん、きーつけてね……」
- 「気を付けます」
- 概ね用事を済ませ、解放されたのは午後五時過ぎのことだった。
- 「疲れた……」
- 「おつかれさま」
- 「××だって疲れただろ」
- 「……すこし」
- 「お疲れさま」
- 「うん」
- 眠い。
- 眠いが、脳が興奮している。
- いまいち眠れそうになかった。
- 「んー……」
- 姿見の前に立ち、シャツをまくり上げる。
- そこにあったのは六ヶ所の傷跡だ。
- 手術の際に腹腔鏡を突っ込むための穴を開けるのだが、どうしても傷は残る。
- 手術をしたのが俺でよかった。
- うにゅほの玉の肌に傷跡が残るのは忍びない。
- 「ここと、ここ、なおりわるいねー……」
- 「そうなんだよ」
- 「ほか、かさびたとれかけてるのに」
- 「……思ったんだけどさ」
- 「?」
- 「シャワーを浴びることで、かさぶたが水を含んで取れてってのを繰り返してる気がする」
- 「あー……」
- 「ほら。二ヶ所とも、ちゃんと固まってるだろ」
- 「まいにち、ちゃんとしゃわーあびてたのが、よくなかったんだね」
- 「ある程度治るまで、風呂キャンセルするしかないな……」
- 「しかたない、しかたない」
- 傷跡が残るのはどうだっていいが、いつまでも治らないのは問題だ。
- さっさと治癒してほしいものだが。
- 725 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:27:48 ID:HFZ3SaYg0
- 2025年12月26日(金)
- 「んー……」
- 姿見に上半身を映しながら、すこし悩む。
- 「どしたの?」
- 「治りの悪い二ヶ所、どうしたもんかなって」
- 「おふろ、はいんないんじゃ?」
- 「それはそうなんだけどさ」
- 脱いだ肌着を手に取る。
- 「ほら、これ見てくれ」
- 「?」
- 「ここ、汚れてるだろ」
- 「……これ、かさびた?」
- 「そう。肌着に触れて、取れたらしいんだよ」
- 「こまった……」
- そう、困った。
- 肌着であれ、傷口に何かを触れさせてはならない。
- 「上半身裸のままでいるのがいいのかな」
- 「かぜひいちゃう」
- 「なら、半纏だけ着よう」
- 「いいかも」
- うにゅほが、パソコンチェアに掛けてあった半纏を持ってきてくれる。
- 「はい」
- 「ありがとうな」
- 上裸のまま半纏を羽織る。
- 紐さえ縛らなければ傷口には抵触しない。
- 思いのほか寒くもないし、悪くないように思えた。
- 「しばらくこれで──」
- 行こう。
- そう告げようと、背後のうにゅほを振り返る。
- 「わ」
- 「……わ?」
- 「えっちっちー……」
- 「どこが」
- 「わいるど……」
- 何かがうにゅほのツボに入ったらしい。
- 「まあ、いいけど……」
- 「しゃしんとっていい?」
- 「ダメ」
- 「だめかー……」
- 相変わらず、うにゅほの好みはよくわからないのだった。
- 726 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:28:05 ID:HFZ3SaYg0
- 2025年12月27日(土)
- 「どうなんだ、これ……」
- 姿見に映した胸の傷をあらためる。
- シャワーを浴びて数時間、ようやくかさぶたとして固まり始めたところだった。
- 「だいじょぶ?」
- ひょこ。
- 俺の背中から顔を出したうにゅほが、俺の傷を確認する。
- 「大丈夫と言えば大丈夫。痛みはないし、ただ治りが遅いだけ」
- 「そなんだ……」
- 「それより──」
- 傷を指差す。
- 「この傷、前より小さくなってると思う?」
- 「んー」
- じ。
- 「んー……」
- じー。
- 「ちいさくなってる、きーする」
- 「それならいいんだけど……」
- 「まえ、もっと、えぐれてたきーするし……」
- 「たしかに」
- 手術のために腹腔鏡を挿入した場所だから、傷と言うより穴と表現したほうが近いのかもしれない。
- 「ただ、手術してから、もう三週間近く経つんだよな。他の傷は順当に良くなってるし、ここだけ治らないのが気になる」
- 「びょういん、いく?」
- 「手術したの大学病院だから、予約がな。緊急事態ってわけでもないし」
- 「なら、ほかのびょういん……」
- 「近場の形成外科を調べてみたんだけどさ」
- 「うん」
- 「年末年始で休みだった……」
- 「あー……」
- 「だから、病院に行くとしても、年明けになるかな」
- 「よくなったらいいんだけど……」
- 「そう願うよ」
- 小さな不安は解消しておきたい。
- 俺たちは、大きな不安の只中にいるのだから。
- 727 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:28:23 ID:HFZ3SaYg0
- 2025年12月28日(日)
- 2025年も、もうすぐ終わる。
- さすがに髪が伸びすぎていたので、スーパー内のカットハウスで散髪することにした。
- 「──お、あんまり待たずに済みそうだな」
- 「よかったー」
- 「××、買い物あるんだろ」
- 「うん。ちゃわんむしのざいりょう、たのまれた」
- 「散髪してるあいだに頼むわ。それでも時間余ると思うけど……」
- 「きにしないでね」
- 「わかった」
- ブースの入り口でうにゅほと別れ、千五百円に値上がりしたチケットを購入する。
- 二十分後、さっぱりした頭を撫でながらブースを出ると、既にうにゅほが俺を待っていた。
- 「わ、みじかくなってる」
- 「なってなかったら問題だろ」
- 「そうじゃなくてー……」
- 「わかってるよ。ごめん、ごめん」
- 「もー」
- 軽くうにゅほをからかったあと、荷物を受け取る。
- すこしだけ重かった。
- 「けっこう買ったな……」
- 「ゆりねとか、ぎんなんとか、くりのかんろにとか」
- 「ザ・茶碗蒸しって感じだな」
- 「◯◯、たべれる?」
- 「食べれるとは思うけど……」
- 「けど?」
- 「具材はないほうがいいかもしれない」
- 「ぐざい、ない……」
- 「和風だしプリンみたいな」
- 「ぐざいないの、かなしい。ひとつくらいなら」
- 「許されるなら、栗の甘露煮かな。あれがあるのとないのとじゃ、茶碗蒸しのクオリティが違うから」
- 「わかる」
- 「百合根は欲しいけど、ぎんなんは普通かな。あればあったでいいけど、影は薄い」
- 「みつばは?」
- 「いちばんいらない気がする……」
- 「なるほど」
- 茶碗蒸し、楽しみである。
- たとえ具材がひとつだけであっても。
- 728 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:28:45 ID:HFZ3SaYg0
- 2025年12月29日(月)
- 「2025年も、残すところあと三日か……」
- 「ことし、ながかったきーする……」
- 「長かったのは、先月と今月だけじゃないか?」
- 「……そうかも」
- 俺は二度も入院し、手術まで行っている。
- それだけでも、うにゅほは、ずっと不安の只中にいたはずだ。
- そして、弟の件がある。
- 来年の今日まで命を繋いでいるか、正直言って怪しいところだ。
- ふたりで会話を楽しんでいても、心のどこかで常に弟のことを考えている。
- それは、うにゅほも同じだろう。
- 「意外と泣かないよな、××」
- 「うん」
- 「平気なわけないのはわかるけどさ」
- 「へいきじゃないよ。へいきじゃ、ない」
- 「……うん」
- 「でも、(弟)はまだ、いきてるから。しんでないから」
- 「そうだな」
- 「できること、あるから」
- 「……ああ」
- 前を向いている。
- 強い子だ。
- 「あいつが納得して逝けるように、頑張らないとな」
- 「うん」
- 「誰だって、いつかは死ぬ。俺も死ぬし、××も死ぬ。明日脳梗塞で突然死するかもしれない」
- 「──…………」
- 「あいつの人生は、平均寿命よりだいぶ短くなってしまったけど」
- 「……うん」
- 「最期の瞬間まで、この目に焼き付けてやりたいと思う。それがなんの慰めにもならないとしてもだ」
- 「わかるよ」
- うにゅほが優しく微笑み、頷く。
- 「わかる」
- 別れは、そう遠くない。
- 俺たちもまた、後悔のないように生きるべきだ。
- 729 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:29:03 ID:HFZ3SaYg0
- 2025年12月30日(火)
- 「運動しないとな……」
- 腹腔鏡手術から三週間が経過した。
- 経過は順調だと思うし、よほど高負荷な運動以外は問題なさそうな気がしている。
- 「うんどう、いいけど、むりしたらだめだよ」
- 「体調はいいんだけど」
- 「しじつしてるんだから……」
- 「そうなんだけどさ」
- 体内のことだから、手術を行ったという感覚が薄い。
- 目に見える証拠と言えば、腹腔鏡手術の際の傷跡くらいだ。
- 「腹筋とかダメなのかな」
- 「だめだよ!」
- 「ダメか」
- 「だめだよ……」
- 行けそうなんだけど。
- 「ちゃっぴーに、きいてみよ」
- 「そうだな」
- ChatGPTに、どの程度の運動なら問題なく可能か尋ねてみた。
- 「──有酸素運動は軽めに再開しつつ、腹圧がかかること、重い物を持ったり腹筋系の筋トレはまだ避ける時期、だって」
- 「やっぱし……」
- 「俺、思いのほか、まだ病人なんだな」
- 「そうだよ」
- 「認識を改めないと……」
- 「うーと」
- うにゅほがディスプレイを覗き込む。
- 「おもいもの、もつのは、ろくしゅうかんだめ」
- 「まだ半分しか経ってない」
- 「つよいふっきんうんどうは、はっしゅうかんから、じゅうにしゅうかんだめ」
- 「二ヶ月から三ヶ月……」
- 「さんしゅうかんは、まだまだだめ。わかった?」
- 「はい……」
- 「さんぽ、できないから、あしぶみしようね」
- 「わかりました」
- 運動はすべきだ。
- だが、できる運動は限られている。
- 今はただ、ひたすらに、足踏みを続ける以外にないだろう。
- 730 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:29:22 ID:HFZ3SaYg0
- 2025年12月31日(水)
- 「大晦日だー……」
- 「おおみそかだねー……」
- 早めに風呂に入り、自室でのんびりする。
- 夜には家族でドンジャラをする予定があるが、それまでは特にすることがない。
- 「あ」
- 「?」
- 「大掃除してねえ」
- 「あっ」
- 「すっかり忘れてたな」
- 「わすれてた」
- 「まあ、いいだろ。××が普段から綺麗にしてくれてるし」
- 「きれいにはしてるけど……」
- 「ならよし」
- 「はあい」
- すこし不満げだったが、さすがに今から大掃除を始める気力はないらしい。
- 「どんじゃら、ひさしぶりだね」
- 「ルール覚えてるか?」
- 「たぶん……」
- 「今日は父さんも入るみたいだから、ひとり余るな」
- 「いっしょにやろ!」
- なんとなく、そうなる気がしていた。
- 午後九時を迎え、家族ドンジャラが始まった。
- 最初は父親が優勢だったが、最終的には俺とうにゅほが大差をつけて勝利した。
- なお、弟と母親は、借金まみれの結末だった。
- 「たのしかったー……!」
- 「勝った勝った。賭けなかったのがもったいないな」
- 「かけごと、だめだよ。はんざい」
- 「厳しい」
- 「またやろうね!」
- 「ああ、またやろう」
- 恐らく、正月のどこかで再び卓を囲むことになるだろう。
- また大差で勝ってやる。
- 731 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2026/01/01(木) 18:30:52 ID:HFZ3SaYg0
- 以上、十四年一ヶ月め 後半でした
- 引き続き、うにゅほとの生活をお楽しみください
-
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